情報提供資料「9月の米雇用統計を受けた利上げ見通し」

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(投資環境レポート)
2016年10月21日
マニュライフ・アセット・マネジメント株式会社
9月の米雇用統計を受けた利上げ見通し
9月の雇用統計は、予想をわずかに下回るものではありましたが想定内の結果でした。米国の低成長が継続
する見通しは変わりませんが、チーフ・エコノミストであるミーガン・グリーンは、これらデータが他の要因と
合わせて、FRB(米連邦準備制度理事会)が年末までに利上げを実施するに足るものであると考えており、
従来の利上げ予想時期を前倒ししています。
最新の月次雇用統計が発表された10月7日(金)の朝8時半頃、全米のアナリストの口から期待はずれの
ため息がもれました。9月の非農業部門就業者数*1は、市場予測(17万人増)よりも低い15.6万人増にとどまり
ましたが、驚くような悪い結果でもありませんでした。利上げを実施するかどうか決定する12月のFOMC
(米連邦公開市場委員会)までに、あと2回の雇用統計発表と多くの経済指標の発表が控えています(なお、
11月は利上げ時期として考慮していません。)。
もし労働市場がこれまでどおり堅調で、経済指標が成長の著しい鈍化を示すものでなければ、私たちはFRBが
12月に利上げをする可能性が高いと考えています。
これは、「FRBは 2017年第2四半期まで利上げを行わない」という従来の見解を変更するものです。
労働市場の動向
雇用統計の詳細を見てみると、複雑な状況にあることがわかります。労働参加率は、8月の62.8%から
62.9%に上昇しました。その結果、失業率も4.9%から5%へとわずかに上昇しました。 8月は、民間部門の
新規雇用のうちの53%が低賃金・短時間労働分野でしたが、9月は同数値は36%まで低下しました。
平均時給は前月比0.2%増(対前年比2.6%増)にとどまっています。9月の雇用統計における平均時給は、
上方バイアスがかかりやすいにもかかわらず前月比0.2%増にとどまったことには失望感が広がりました。
雇用統計は予想を下回る内容でしたが、このことをFRBが12月に利上げをすることと結び付ける必要は
ありません。
9月のFOMC後の記者会見*2において、ジャネット・イエレンFRB議長は雇用統計がこれまでと同じような
内容であれば年内1回の利上げについては可能であるとの態度を明確にしており、大半のFOMC参加者も
年内1回の利上げは適切であると考えています。私は、労働市場の回復がこのまま続き、新しい大きな
リスクが発生せずに現在の状態が続くのであれば、年内1回の利上げは実現するだろうと予想します。
出所:
1:Bureau of Labor Statistics:Employment Situation Summary, 2016年10月7日
2:Federal Reserve: “Transcript of Chair Yellen’s Press Conference”, 2016年9月21日
当資料に関する留意事項については、最終ページを必ずご覧ください。
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利上げ実施を後押しするその他の要因
もちろん、雇用統計はFRBが精査している唯一のデータではありません。今後2カ月にわたり、10月28日の
第3四半期のGDP成長率速報を含む多くの経済指標が公表されます。第3四半期のGDP成長率は、在庫調整
の動きが落ち着いたこともあり、低調な2016年上半期からの回復が予想されています。8月は多くの経済指標
が軟調でしたが、直近ではデータに改善が見られます。最近公表されたISM景況感指数*3は、製造業は拡大
領域まで回復し、非製造業は堅調に成長していることを示しています。特に先行指標である非製造業の新規
受注件数が著しく伸びており、翌月の良好なデータが期待できます。雇用統計については、FRBは利上げに
対して強気の姿勢であり、よほどの成長鈍化を示すデータが公表されないかぎり、他の経済指標と合わせて
基準はかなり低く設定されていると考えられます。その上、FOMCにおいてタカ派のメンバーは利上げを主張
するために、良く見えるインフレデータを持ち出す可能性があります。原油価格は年率ベースで上昇*4しており、
消費者物価指数は改善する見込みです。これは構造上の理由というよりは統計上の理由によるものですが、
FRBはこのことを全く考慮しないと考えています。
最後に、12月の利上げ反対派は減っていくと思われます。9月に公表されたFRBのドット・プロット(FOMC
参加者の政策金利見通し)*5によれば、3人のFOMCメンバーが年内金利据え置きの考えとなっています。
過去の発言から判断すると、当該見解はラエル・ブレイナード氏、ダニエル・タルーロ氏、チャールズ・エバンズ
氏によるものである可能性が高いです。特にブレイナード氏はFOMC会合前の報道管制期間直前*6に9月の
利上げには反対であると強く論じました。しかしながら、エバンズ氏は最近のインタビュー*7において、もし
これまでのように良いデータが続くのであれば、年内1回の利上げについては異存無いと回答しています。
エバンズ氏は現在FOMCでの投票権は保有していませんが、9月のFOMC以降、自身の予想を変更したものと
思われます。
FRBが利上げを見送る可能性
私たちは、FRBが12月に25bpsの利上げに踏み切ると予想していますが、依然として、FRBが利上げを2017年
の第2四半期まで待たなければならないような重大なリスクが残っています。もし労働市場が弱含んだり、
第3四半期のGDP成長率が予想をはるかに下回るような場合には、FRBは年内の利上げを見送る可能性が
あります。
同様に11月の米国大統領選挙の結果についても、かなりのリスクがあります。トランプ氏が勝利した場合には、
保護主義を優先させるように思われる政権下での成長に懸念があるという観点からFRBが来年まで利上げ
を見送ることを予想します。
しかしながら、たとえクリントン氏が大統領選挙に勝利したとしても(私たちの基本シナリオであり、最近の世論
調査*8とも一致していますが、決して既定路線ではありません)、政策の不確実性がかなりあるでしょう。
上院は接戦が予想される一方で、下院は共和党が過半数を維持すると考えられます*9。したがって、私たちは
クリントン政権下においてかなりの膠着状態になることを予想しており、結果としてクリントン氏が公約に
掲げてきた施策のうち実際に議会で何を通過させることができるのかは予想困難です。新政権の政策に
係る不確実性が多いため、FRBは安全策を取り、利上げを来年まで見送る可能性もあります。
出所:
3:ISM:September 3016 Non-Manufacturing ISM Report on Business, 2016年10月5日
4:マニュライフ・アセット・マネジメント、Bloomberg, 2016年10月7日
5:Federal Reserve:Economic Projection of Federal Reserve Board members & Federal Reserve Bank Presidents, 2016年9月
6:Federal Reserve:Speech by Governor Lael Brainard – the “New Normal” and What It Means for Monetary Policy, 2016年9月12日
7:Bloomberg:Fed’s Evans says Hike Imminent, Wants Clearer Communication, 2016年10月5日
8:RealClear Politics: General Election: Trump vs. Clinton,2016年10月10日時点
9:ABC News: ABC News Race Ratings Show Tight Race for Control of US Senate,2016年10月7日
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