FRBの 12月利上げを受けた今後の見通し

ご参考資料
(投資環境レポート)
2016年12月19日
マニュライフ・アセット・マネジメント株式会社
FRBの12月利上げを受けた今後の見通し
FRB(連邦準備理事会)は、12月のFOMC会合(Federal Open Market Committee)で金利を引き上げ、また
2017年の利上げペースは加速すると予測しています。本件について、マニュライフ・アセット・マネジメントの
チーフ・エコノミストであるミーガン・グリーンの見解をお伝えします。
私は、若干混乱しています。私のメールボックスには「FRBが強気に転じた」という見出しのメールで一杯に
なっていますが、私はその通りには受け止めていません。
おそらくこうした主張は、金利を25bps引き上げ1、かつ、2017年の利上げ回数の予想値を2回から3回に引上
げた2、FOMCの決定に基づいていると思われます。
しかし、私は、ジャネット・イエレンFRB議長の声明と記者会見のすべてにおいて、穏健的であったと考えます。
市場は現在「トランプ氏への熱狂(ドナルド・トランプ氏が大統領就任後に推進するとされる政策に基づく高揚
感)3」を経験しているようですが、市場は先走り過ぎの感があり、今後のインフレ率、経済成長率、金利水準
は、現在投資家が想定している水準よりも低くなる可能性があると考えます。
依然としてニュー・ノーマル
FRBは、今年ついに利上げを行い、また2017年の利上げ回数予想を増加させましたが、その一方で『ニュー・
ノーマル(リーマン・ショック後の新しい経済常態)」はまだ終わっていない』という考えを強調しています。FRB
が発表したGDP成長率の予想値は9月会合時からほとんど変わっておらず、今後3年間のGDP成長率は2%
前後にとどまっています4。
長期のGDP成長率は、9月会合時、12月会合時ともに1.8%で、こちらも変わりありませんでした。FRBが重要
視しているコアPCEインフレ率についても、9月と12月の値に変化はありませんでした1。FRBは、次期大統領
にトランプ氏が選出されたことが、GDP成長率やインフレ率の伸びに大きな影響を与えるとは考えていません。
GDP成長率とインフレ率が、市場が望むように上昇する可能性は低いと考えます。トランプ氏が公約として掲
げてきた財政刺激策のいくつかを議会で押し通せたとしても、それらの多く(特にインフラ支出)は、2018年あ
るいは2019年までは実体経済に波及しません。
いくつかの財政刺激策や貿易関税は、米国のインフレ率を緩やかに上昇させる可能性があります。しかしな
がら、このことは、米ドル高による輸入品デフレ圧力と、弱い賃金上昇率(例えば、雇用コスト指数は過去と比
較して低水準5)によって、相殺される可能性があります。
FOMCドット・プロットで2017年の利上げ回数予想が2回から3回に上方修正されたことについて、色々と言わ
れています2。ある解説者は「ドット・プロットは下がり続けるという点において、インベーダーゲームのようなも
のだ。」と皮肉を込めたコメントをしました。
まずは、ドッド・プロットは絶対的なものではないということに留意するべきです。FOMCは2016年の利上げ回
数を4回と予想していたのに対して、最終的にたった1回の利上げに終わったことを忘れてはいけません6。ま
た、FOMCの議決権者だけのドット・プロットを考慮すると、2017年の利上げ回数予想値は、2.5回から3回に増
加しただけです。さらに、FRBにおける長期の政策金利の予測値は3%4であり、この低水準は「長期にわた
る低金利水準」の主張とも一致しています。
出所:
1:Federal Reserve: FOMC Statement,, 2016年12月14日
2:Federal Reserve: Economic projections of Federal Reserve Board members and Federal Reserve Bank Presidents Under Their Individual
assessments of projected appropriate monetary policy, December 2016,, 2016年12月14日
3:The Economist: Stockmarkets after the American election, 2016年11月26日
4:Federal Reserve: Summary Of Economic Projections,, 2016年12月14日
5: Bureau of Labor Statistics: ECI Summary,2016年10月28日
6: Financial Times: Fed scales back forecasts for rate rises amid global risks,2016年5月16日
当資料に関する留意事項については、最終ページを必ずご覧ください。
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(投資環境レポート)
不確実性の霧の中
数字以外に目を向けてみると、イエレン議長のコメントは非常に穏健的であるといえます。
彼女は、来年の利上げ回数が2回から3回に増えた要因は、数人のFOMCメンバーの考えが変わっただけであ
り、わずかな修正に過ぎない点を強調することに努めました。
また、イエレン議長は、私たちと同様に「FRBは”不確実性の霧の中で行動している”。7」ともコメントしています。
トランプ氏が大統領として、どの政策を推進し、どのように実行し、そしてその政策が実体経済にどう波及する
のか、推測することは非常に困難です。
イエレン議長の経済成長に関するコメント
イエレン議長は、経済について2つの興味深いコメントをしました。
まず一つ目は、「米国経済は完全雇用状態にするために財政刺激策を必要としない」と強調したことです。彼女
は、トランプ氏に政策のアドバイスをしているように見せないために、オブラートに包んだ言い方をしましたが、
彼女の意図は明確であり、それは、すべての財政刺激策が同一に作られているわけではなく、また実際に
すべての財政刺激策がインフレ加速につながるため、無分別な支出には意味がないということです。
第二に、FRBが景気を過熱気味に誘導すれば、職探しをあきらめた失業者が復帰できるかもしれないという考
えは撤回したように考えられる点です。イエレン氏は当初、ボストン連銀の会議で、この点を討論していました。
FOMC後の記者会見において、彼女はすぐに、景気を過熱させることを推奨してきたわけではない点を強調し、
むしろこれは追及する価値のある興味深い研究テーマであることを簡単にコメントしました。
以前に提唱していたことを丁寧に撤回する方法についてとても参考になります。
長期にわたる低金利水準
12月のFOMC会合への最初の市場の反応は、「FRBがより強気になった」というものでしたが、私達は完全に同
意することはできませんでした。
その一方で、FRBは「トランプ氏への熱狂」に浮かれている投資家が期待しているようなGDP成長とインフレの
加速は見込みづらいという私たちの見解には同意するように思われます。
私たちには、市場が元FRB議長のアラン・グリーンスパンがかつて警告していた「根拠なき熱狂」のような状態に
向かっているようにも見えます。
低成長・低インフレ・低金利環境が続くという私たちの考えに変わりはありません。
GDP成長率とインフレ率は財政刺激策から若干の上昇はあるかもしれませんが、寄与度合いはわずかで、潜
在成長率を大幅にシフトさせる可能性は低いと考えています。
出所:
7:Federal Reserve: Press conference with Janet Yellen, 2016年12月14日
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