「平成 28 年度インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」 (10 月 13・14 日開催) Q&A 受信会場での質問と回答 患者ケア・家族支援に関する質問と回答 Q1:認知症のある患者さんの心理や行動についてもう少し詳しく教えてください。例えば、妄想・ 帰宅願望・幻視がある患者さんへの対応や、拒食や満腹感が得られず常に食事を要求する場 合、その他頻回な排尿コールについて具体的な対応方法を教えていただけないでしょうか? 都道府県 北海道・ 札幌 質問内容 ものとられ妄想のある患者の「犯人」が他患者の場合、看護師としてどのように対応すればい いですか。また、認知症患者と他患者でトラブルが起こった時にどのような点に注意していけ ばよいですか。 もともと認知症があり、別の疾患で入院した患者。笑顔での対応を心掛けているが、 「何を笑っ 東京都 てるんだ!」と逆上してしまう。白衣をみると反応するようで対応に苦慮しているが何か改善 策はないか。 しっと妄想についてのケアを教えてください。認知症の妻(パーキンソン病)が、昔仲のよか った友人御夫婦(夫は亡くなっている)の奥様と自分の夫が浮気をしている。一緒に買い物に 徳島県 行き帰ってこないと再々妄想をおこします。時には涙を出して悔しいと話します。その対応を 教えてください。妻は「夫と一緒に私も買い物に行きたいが、歩けないので一緒に車に乗せて いってくれない」と言います。在宅で仲良く生活していますが、時々このしっと妄想が出現し ます。 しっと妄想についてのケアを教えてください。施設入所中の妻のところへ嫁が来るまで訪問す 徳島県 るたびに夫の愛人だと繰り返します。夫は他界してもずっと嫁をみるとそのように話すことが あります。合わない方がよいのでしょうか? 福井県 レビー小体型認知症で幻視がある患者さん、声掛けなど具体的対応について知りたい。 「帰宅願望が強く、興奮・攻撃的な認知症患者の対応について」 患者の気持ちを傾聴することに努め、根気よく笑顔で穏やかな声色で対応し続けるのですが、 攻撃的な反応(特に夕方)の患者に毎日のように対応が必要な状況です。 『帰りたい』という願 宮崎県 望は満たせません(外泊不可:患者の状況的には外泊はできそうですが、家族の協力が得られ ない) 。夜勤帯でスタッフの数も少なく他患者対応も含めて、この患者に長い時間付き添えなく て困ります。家族の付添等の協力も得られない場合があります。転倒や病院から抜け出す心配 もあり、綱渡り状態のこともしばしばです。このような時にどう対応されておられますか? 帰宅願望が強い方への対応について 「本人のいうことを否定せず気持ちを理解して受け止める」 「横に座って見守る」などの対応を 大分県 していますが、傍にいることで逆に症状や行動が強くなることがあり、傍に居ることが良いの か、少し離れたところで見守るのがよいのか分からなくなることがあります。ケースによるか と思いますが、効果的な対応の仕方があれば教えていただきたい。 新潟県 福井県 長崎県 急性期の治療が終わり、食事が開始されたが、拒食されることが多く、どのような対応をすれ ばよいか。 抗うつ剤を使用している認知症の患者さん、食事は全量摂取しているが食欲が亢進し満腹感が 得られず常に食事を求めてこられる。その対応について知りたい。 認知症があり、排尿したことを忘れてしまい10分おきに排尿コールがある患者さんへの対応 について 1 「平成 28 年度インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」 (10 月 13・14 日開催) Q&A 受信会場での質問と回答 認知症では認知症障害(記憶障害、見当識障害、遂行機能障害など)加えて、さまざまな行動・ 心理症状がみられることが多く、認知症の人や介護者の QOL を低下させる大きな要因となって います。認知症の行動・心理症状は、脳の障害部位や認知症脳障害の経過と関係しながら、他の 身体状態や心理状態、周囲の不適切な対応や物理的環境など様々な環境要因の影響も受けて現れ てきます。したがって、認知症の人の表情や行動の変化に気づき、本人に困っていることを聴い たり、予測的に観察・確認することで認知症の行動・心理症状の背景にある苦痛・不快といった 「真意」をアセスメントします。こうして見出した認知症の人の苦痛・不快に対して、速やかに ケアすることで、認知症の行動・心理症状を防ぎ、穏やかな生活の維持につながります。一見し ただけでは、解釈が難しい症状にも多様な要因が関与していることを念頭に、看護職だけではな く幅広いケアをチームで考えていくために、認知症や行動・心理症状の学習会、入所者カンファ レンスを積極的に開催することも必要です。 例えば、妄想では、根拠が薄弱であるのに確信が異常に強く、経験・検証・説得によって訂正不 可能な、誤った内容の、一個人だけに限定された信念のことをいいます。妄想は認知症疾患でみ られる精神症状のなかで最も頻度の高い症状の一つで、アルツハイマー病の人に多く認められま す。妄想の内容としては、アルツハイマー病の人では、被害妄想、特に自分が大切にしているも の(通帳、印鑑、財布など)を盗まれたという、もの盗られ妄想が多くみられます。妄想への対 Q1 応では、まず、「根拠がないにもかかわらず説明によって「覆すことが困難」であることを認識 回答欄 していくことが重要です。根拠のない内容を正そうと事実を説明・提示しても、本人は頑固たる 思いをもって訴えているため、訂正が困難であるあるだけではなく、余計に不信感を助長する結 果となりうります。したがって、①視力や聴力の把握、②疎外感への配慮、③物理的環境の調整 が必要になります。①では見やすい表示の工夫や、会話の際にきちんと伝わる方法をスタッフ間 で共有する必要があります。②では、認知症の人をいつも気にかけていることを伝える必要があ ります。また、認知症の人の訴えをよく聞き、安心感を与える、否定もせず、肯定もしないとい った態度で接することが重要です。もの盗られ妄想で混乱が強い場合には、別の代替品を用意し ておき、渡すことで納得されることもあります。 また、幻視では、実際には存在しない光・音・嗅い・味、あるいは身体の中や外の感じが、感覚 器への刺激なしに知覚されることをいいます。刺激があるにもかかわらず、それが誤って認知さ れる場合は錯覚といい幻覚とは区別されます。幻覚では幻視が最も多く、幻聴、幻嗅の順番でみ られる。認知症疾患のなかでも、レビー小体型認知症で認められる幻視は、人・動物・虫などが 色彩を伴って明瞭にありありと見えることが特徴的で、恐怖を伴いやすいといわれています。幻 視への対応では、認知症の人には実際に見えたり聞こえたりしているので、訴えを受け止め、そ のことを否定しないようにします。認知症の人の話に調子を合せてみる、幻視の場合は照明を工 夫し、部屋を明るくしてみる、壁のシミなどの、幻視(錯覚)を誘発しているものを取り除くこ とが必要です。 参考資料 1.「平成 28 年度 インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」講義資料 ①新美芳樹講師 P.34「認知症の人の全人的理解」~P.35「認知症の人への対応のまとめ」 ②花房由美子講師 P.48 スライド No.14~No.18,P.54 スライド No.38~No.41 ③高梨早苗講師 P.100「BPSD の捉え方」 2. 第Ⅳ部 会 認知症の症状アセスメントとケア 認知症ケアガイドブック 株式会社照林社 2 編集 公益社団法人日本看護協 「平成 28 年度インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」 (10 月 13・14 日開催) Q&A 受信会場での質問と回答 Q2:睡眠リズムを調整するため、サーガディアンリズム等を活用し整える方法を教えてください。 都道府県 岐阜県 静岡県 質問内容 日中、日光浴 5 分いいと言われましたが、今まで学んだ中では、1 時間~2 時間必要だときき ました。そのあたりの、エビデンスをおききしたい。 集中治療室に勤務しているが、日光が入らない。生体リズムを整える方法として日光を浴びる とあったが、それ以外で生体リズムをリセットする方法はあるか。 療養病棟に勤務しております。入院されている患者様で おそらく、認知症(AD)の終末期で覚醒、睡眠リズムの不明確化がおこっている方がおられま 滋賀県 す。病院のスケュールでの消灯時間には覚されているので日中起こし車椅子に乗っていただい たりしていたのですが認知症からくる睡眠リズムの変調は、他の昼夜逆転からくるリズムの変 調の患者さんとの関わりとは別のケアを行なうべきなのでしょうか。どのように対応すればよ いのかご指導お願いします。 睡眠の調整メカニズムには、恒常性維持機能、体内時計機構の 2 種類があることがわかってい ます。恒常性維持機能では、疲れると眠る、というメカニズムです。日中目覚めた状態で活動 している、体内に睡眠促進物質がたまってくると睡眠が誘発されて眠りを引き起こします。た だし、そのときに眠ってもずっと眠り続けることはなく、覚醒が起こるようになっています。 この働きは時刻とは関係せず、どのくらいの時間覚醒していたか、すなわち睡眠が不足してい る程度によって決められています。睡眠不足になったときには、恒常性維持機能によって長く 深いノンレム睡眠を取り戻すように睡眠の質や量を調整しています。体内時計機構では、人に はさまざまな周期の生体リズムが存在していますが、そのうち約25時間の周期をもつものを サーカディアンリズム(概日リズム)といいます。睡眠に関係するサーカディアンリズムは、 睡眠・覚醒リズム、深部体温リズム、内分泌ホルモンなどがあります。深部体温は、午後に最 高値を示し明け方に最低値を示します。松果体から分泌されるメラトニンは、夕方から夜にか けて産出されて脳の睡眠中枢に作用して睡眠を引き起こしますが、朝になるとつくられなくな ります。体内時計は、睡眠に関連するサーカディアンリズムを秩序正しい関係に保ちながら発 Q2 振させ、発振されたリズムを生体機能へ伝達されます。サーカディアンリズムは元来約25時 回答欄 間周期であるため、1日24時間との間にずれが生じます。視交叉上核にある体内時計は、網 膜から神経を介して伝えられる光を使ってこのずれを修正します。サーカディアンリズムを2 4時間周期に修正するものを同調因子といい、光のほかに身体運動や食事、社会的なスケジュ ールがあります。このように、体内時計の働きにより、一定の時刻になると眠気が生じたり、 朝に目覚めたりする働きが体内時計機構です。 サーカディアンリズムを考慮した1日のケアでは、①サーカディアンリズムを考慮した生活習 慣の改善、②睡眠障害によって阻害されている生活行動の支援が重要になります。①では、朝 にすっきり目覚める、日中の活動を高める、昼間に必要な休息をとる、スムーズに入眠する、 夜間の睡眠を持続することが必要です。②では朝のケアとして、すっきり目覚めるようにカー テンを開けて部屋を明るくする、整容ですっきりした気分になる、昼間のケアでは、覚醒や活 動を高めるために、午前中に明るい場所で過ごせるようにする、他者と交流できる機会をつく る、食事はなるべく規則的にすることが必要です。必要な休息をとるでは、昼寝は30程度に とどめることが必要です。入眠前のケアとしては、入眠をスムーズにするために入眠前の気分 を落ち着ける、痛みやかゆみの軽減、下剤や睡眠薬の服用時刻を考慮するなどの対応が必要で 3 「平成 28 年度インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」 (10 月 13・14 日開催) Q&A 受信会場での質問と回答 す。夜間のケアでは、睡眠が深く続くように、痛み、かゆみ、空腹、口渇の軽減、高照度の光、 騒音の回避、頻回の尿意や便秘のコントロールが必要になります。 Q3:認知症への理解を家族にしてもらう時の具体的な進め方のコツを教えてください。 都道府県 質問内容 初回受診について 大分県 認知症の症状がひどく、かかりつけ医からも専門医の受診を勧められているが受診の話をすると 激しく興奮し手が付けられなくなる。何とか受診を勧めるには、どう働きかけたら良いでしょう か。 静岡県 認知症のある患者の家族に家での状況を聞くと、昔からの性格、キャラだといい、認知症と受け 止めていない。家族への理解を求めるためにはどうしたらよいか。 介護家族の心理状態は、 「驚愕」→「否認」→「怒り」→「抑うつ」→「適応」→「再起」の経過 をたどっていることがあります。介護が始まるまでに医療を受診した場合、家族の心の準備がで きていないうちに病名の告知を受けることもあります。最初に介護家族に訪れるのは「驚愕」の 段階です。その後に訪れるのは「否認」の段階です。誰でも大切な家族が認知症疾患の診断を受 けたときに、「まさか自分の家族が認知症だなんて」と認めたくない気持ちが起こります。それ でも認知症の症状はそのような家族の否認とは裏腹に進行していく。認知機能障害や行動・心理 症状の出現に家族の心は疲れ、次に「怒り」の段階に進みます。家族の心に芽生えた怒りを周囲 に表出することができれば、介護家族の心にはカタルシス効果が期待されるかもしれません。し かし、誰か相談相手を見つけて、怒りを表出し、カタルシス効果が生まれる家族は少ない現状に あります。多くの場合、家族はその怒りを自らのうちに秘め、周囲に語ることなく日々の介護に 努めながら怒りを溜め込んでしまいます。怒りの内在化が起こりやすい熱心な介護家族ほど、あ るとき怒りが形を変えて介護家族の「抑うつ」となることが多いです。抑うつ状態にまで介護家 族が追い詰められる前に、相談相手がいれば認知症の人に対して虐待をしたり、その人とともに 命を絶とうとしたりする悲しい結末を迎えることもなくなるかもしれません。介護家族が支援者 Q3 や同じ立場にある介護家族との関係のなかに、自分たちの苦悩を分かち合ってくれる誰かの存在 回答欄 に気づくことができれば、介護を破綻なく続けられるように「適応」し、本人を見送った後、傷 ついた家族の心が時間の経過とともに癒えていくならば、家族は「再起」することができます。 しかし、介護家族は何度か「適応」したようにみえても、再び新たな認知症の人の症状や出来事 に直面するたびに「否認」や「怒り」と適応の間を行き来します。看護職は、その揺れ動く家族 の心理の理解に努めながら支援をしていかなければなりません。 認知症の人が心身の安定を保ち、その人らしく生活するためには、家族をケアチームの一員とし て位置づけ、積極的なかかわりを持ち続ける工夫が必要です。 入院/入所により、生活支援や健康管理など、それまで家族が担っていた役割が医療・介護者に移 りますが、情緒的・経済的支援の役割は離れて暮らす家族が担っています。看護職は、定期的な 健康診断の結果や健康状態の変化、季節ごとの健康管理方法、さらに、認知症の人の暮らしぶり について情報を提供し、イベントの参加協力を求めたり、認知症の人が家族と過ごす時間が増え るようにしたり、意図的に関わることが必要です。また、認知症の人の生活の継続を支援すると いう点からは、自宅での暮らし方に関する家族との情報交換は重要であす。認知症の人自身が身 体的な苦痛や不快感・感情やこれまでの生活史などの自分のことを表現することが困難なため、 家族から情報を得ることも、個々の認知症の人に応じたケア提供のために欠かせません。しかし、 4 「平成 28 年度インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」 (10 月 13・14 日開催) Q&A 受信会場での質問と回答 家族はこれまで認知症の人をケアすることで、家族自身も負担感や疲労感を持っていることが多 いうえ、認知症の人の代わってさまざまな意思決定を担う部分も多くなるため、家族の身体的・ 心理的なサポートも重要となります。 入院/入所した認知症の人の健康状態や暮らしぶりについて、心配や不安、さらには自責の念をも つ家族がいます。また、面会頻度が少なくなり、家族の日常から入院/入所した認知症の人の存在 が薄れてしまう家族もいる。 家族にどんな事情があっても、認知症の人と家族にとって「安心して任せられる場所」として存 在することが求められます。そのためには、施設全体が家族を温かく迎え入れ、認知症の人とゆ っくりと過ごすことのできる空間、雰囲気をつくり、施設職員の認知症人・家族へのかかわり方 や提供されているケアへの満足度を高めることが基盤となります。家族の施設に対する評価に関 心を持ち、提案や指摘などをケア向上の機会にします。 参考資料 1.「平成 28 年度 インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」講義資料 高梨早苗講師 P.104「家族の支援」~P.105「家族支援」 2.中島紀惠子(2016) .1 認知症者の家族の特徴 第Ⅶ部 認知症者と家族への支援, 認知症ケアガイド ブック 編集公益社団法人日本看護協会 株式会社照林社 P.216~P.217. 3. 藤崎あかり(2016) . 2 認知症者を支える家族アセスメントの方法 第Ⅶ部 認知症者と家族への支援 前掲書1 P.218~P.221 4. 髙見国生(2016) .5 認知症者と家族を支える団体 第Ⅶ部 認知症者と家族への支援 前掲書 2 P.229 ~P.231. 5
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