患者ケアについて 2

「平成 28 年度インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」
(10 月 13・14 日開催)
Q&A 受信会場での質問と回答
患者ケアについて 2
Q1 : 手術を予定している認知症者の行動・心理症状への対応方法や絶食中の投薬(ドネペジル塩
酸塩:アリセプト○)の方法等についてアドバイスをお願いします。
R
都道府県
質問内容
認知症の方で手術に対する理解が得られない場合の対応について苦慮しています。術前訪問で
説明しても、入室までには忘れてしまわれる様です。入室後、手術用ベッドに移動し、バイタ
ル測定などを始めるとみるみる表情が険しくなり、大声をあげ起き上がろうとする方もいます。
「○○を治す為に手術室に来たんですよ」や「今から血圧を測るので腕がしまってきますよ」
和歌山県
など声かけはしていますが、なかなか患者さまが納得される迄ゆっくり対応というのは出来て
いません。又、脊椎麻酔を受け手術される方には鎮静を行います(薬剤:プレセデックス)。医師
より「声をかけると起きてしまう薬だから眠るまで話かけないで」と言われます。その間 10~
15 分くらい視界に入らないようひたすら転落しない様にしています。患者さまが「助けてー」
や「これは何してるんや」の声が聞こえる中、ひたすらじっとしているしかなく、本当にこれ
は正しいのかと思いながら対応しています。何か出来る事や行うべき事はないでしょうか。
認知症患者様への術前オリエンテーションの実際の方法について教えていただきたいです。勤
和歌山県
務する病棟でも認知症患者の方が多く CV 留置や苦痛・侵襲を伴う処置のオリエンテーション
の方法について教えて頂きたいです。
リアリティオリエンテーションについて
スライド 47 の「実際の例」の中に、赤字に示されている部分「手術をしてまだ○日」、
「手術を
山口県
した足はどっち」
、
「一緒に見て確認」、
「軽く触れる」
「NS コールを見せながら」以外に、文中
の「まだあまり動かしてはいけないので」という部分はふくまれないのか。リアリティオリエ
ンテーションとは、
「あまり動かしてはいけない」という事を理解するための手段方法として(上
記赤字に示された部分を)認識することをさす、ということか。
京都府南部
会場(京都
大学)
整形外科で勤務しています。術後ドレーンのある方は、ご家族に説明をして手袋(抑制)をし
ていますが、そうすることでせん妄が悪化するケースが有ります。どのように術後管理を行う
事が良いのでしょうか。そしてせん妄の初期に適応薬剤は何が望ましいのでしょうか。当院で
はリスペリドン、セレネース、アタラックス P 等の使用をしています。
p47 の認知機能障害と BPSD のところで、破局反応についてですが、私の病棟で現在夜間や日
北海道・
中に大声で歌を歌ったり数を数えるという患者様がおり、以前、精神科にかかり薬を内服して
札幌
いる時は症状は少し落ち着いていましたが、現在薬は服用しておらず、このような患者様に薬
以外で何かできることがあるか教えて頂きたいです。
「攻撃性のある認知症患者さん」
術後、創部感染で発熱、食欲不振で入院しましたが、全ての治療(抗生剤の点滴・補液)を拒
否し、点滴も自己抜針しそうになるので、体幹ベルト・ミトン・上肢抑制をしました。それで
岩手県
も抵抗が続き、治療半ばで施設に帰りました。本人の嫌がることをしない。本人の行動を中断
させない。が基本だと思っても、危険行動はやめさせる必要がありました。どのように対応す
べきだったでしょうか。
(施設の方に付いて頂き、リアリティ・オリエンテーションは行ってい
ましたが、最後まで拒否したままでした)
療養中の認知症患者に長谷川式認知症スケールを使用しているが大声で奇声を発する、チュー
東京都
ブ類を自己抜去するなど意思疎通ができない為、本スケールを使用するのは適当でないと感じ
ている。他のスケールでよいものがあれば教えて欲しい。
1
「平成 28 年度インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」
(10 月 13・14 日開催)
Q&A 受信会場での質問と回答
新潟県
患者が急性疾患で絶食となり、内服中止となった場合、今まで内服していた薬(アリセプト)
などの内服はパッチに変更してもらった方がいいのか。数日ならば不要か。
手術を受ける認知症者は、その状況が理解できないことが推測されます。認知症者への対応
方法は、患者ケア・家族支援の回答(10 月 21 日更新)で詳細に述べていますので、そちらを
ご参照ください。また、認知症者は治療を受ける状況の理解が困難だけではなく、家や仕事の
こと、お金がなくて食事や寝床があるのか等といった気がかりがあると治療に専念できないこ
ともあります。そのため、どのようなことが気がかりなのかを言動や周囲の人からの情報等か
ら推察して、安心して治療に専念できるような対応を模索する必要があります。
R
アリセプト○は口腔内崩壊錠がよく知られていますが、認知症者に嚥下障害がある場合、内
服ゼリーやドライシロップという剤形を選択することがあります。常に薬剤の持つ効果が最大
限発揮できるよう、剤形選択という工夫によって服薬継続が期待できます。また、絶食等によ
って経口投与が難しい場合には、イクセロンパッチ○(パッチ剤)に切り替えることもありま
R
す。イクセロンパッチ○等は薬剤が肌から穏やかに入っていきますので、急激に血中濃度が高
R
回答欄
くなることを防ぐ効果があり、嘔吐や悪心といった消化器症状の予防につながります。しかし、
R
アリセプト○とイクセロンパッチ○の薬理作用は同じですが、薬効が異なるため、医師や薬剤師
R
を含め検討し、認知症者個々に適切な方法を選択してはいかがでしょうか。ちなみにアリセプ
R
ト○は血漿中濃度半減期(89 時間)が長いので 1 回分飲み忘れても比較的影響の少ない薬剤で
R
す。ただし、アリセプト○を途中で中止した場合、6 週間で服用をしていない場合と同じ認知機
能の状態になってしまうことがあるため注意が必要です。
認知症者の見当識障害の非薬物治療の一つとして、リアリティ・オリエンテーション(現実
見当識訓練)に関する内容が講義でも述べられていました。手術の対応や検査対応なども含め、
日頃から現実感を持たせるよう病棟スタッフ一丸となって根気強く対応していくことから始ま
るのではないかとも考えます。
下記に認知症者への対応方法に参考となる文献を参考資料に列挙しています。ご参照くださ
い。
参考資料
1. 認知症ケアガイドブック
編集 公益社団法人日本看護協会
株式会社照林社
第Ⅵ部 多様なケアの場に
おける認知症ケアマネジメント 2 一般病院におけるケアマネジメント:②手術 近藤由里子 P.180~183
2. 認知症ケアガイドブック 資料 認知症ケアに役立つアセスメントツールp304-320
3. 加藤滋代(2012)周術期
状況別:やるべきこと・やってはいけないこと⑩ 特集 一般病棟の認知症患者
日常生活と療養を支える Nursing Today 日本看護協会出版会 p48
4. 前掲書3 服薬・点滴 状況別:やるべきこと・やってはいけないこと⑧
5. 鈴木みずえ(2013)パーソン・センタードな視点から進める急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケ
ア入院時から退院後の地域連携まで 日本看護協会出版会
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「平成 28 年度インターネット配信研修[リアルタイム]認知症高齢者の看護実践に必要な知識」
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Q&A 受信会場での質問と回答
Q2
:認知症者がせん妄を発症する、もしくは発症しそうな場合、どのように対応したら良いで
しょうか。薬剤の使用を含め対応の仕方を教えてください。
都道府県
質問内容
せん妄の原因となる薬剤が多くあると思うのですが、薬の調整はどのようにすればよいので
しょうか?
Ex,90 歳代 男性 大腿頚部骨折 手術目的で入院
認知症状なし 既往症は貧血くらいで
あった。入院前よりブロチゾラムで夜間の睡眠は確保できていた。術前 3 日間は、ブロチゾ
ラム服用で、良眠できた。手術日当日(入院4日目)は、鎮痛剤コントロール良好 夜間良
眠であった。術後1日目の夜は、ブロチゾラム服用後 50 分後に禁忌動作出現。
「帰らなきゃ」
鹿児島県
とスタッフの話しを理解できない様子あり。一晩中眠れずに過ごした。術後 2 日目の夜、ク
エチアピンに変更され、せん妄なし。その後、リハビリも順調にすすんでいる。入院当日に、
せん妄リスクのあるブロチゾラムを変更してもらうべきだったのか、術後 1 日目に変更して
もらうべきだったのか、疑問を持ちました。せん妄の原因とされる薬剤が多く、内服開始初
期だけ注意すべきなのか、内服中はずっと注意すべきなのかも迷っています。
京都府南部会場
(京都大学)
せん妄になりそうな方への睡眠薬は逆効果なのでしょうか。
「せん妄発症時は早めに向精神薬を使用する」とのことだが、患者本人より内服拒否がある
山口県
場合には、どのような対応をしたらよいか。高齢者の中には、
「薬を飲む」という事に抵抗の
ある人も多いと思うが、BPSD やせん妄を発症している患者が素直に内服に応じられない場
合もあるかもしれない。
大分県
内服はとても重要と思いますが、どの時期まで内服が必要でしょうか。終末期近くになって
からの中止の時期について何らかの基準があれば教えていただきたい。
せん妄の発症因子は、直接因子、準備因子、誘発因子に分けられます。認知症者は、準備因
子がすでに存在し、脳機能が脆弱な状態にあります。そのため、中枢神経系疾患、内科的疾患、
依存性薬物からの離脱、中枢神経系に作用する薬物の使用などの直接因子や、入院による環境
の変化、ICU、CCU などにおける過剰刺激、睡眠妨害要因(騒音、不適切な照明 等)
、心理的
ストレス(不安)
、身体的ストレス(痛み、かゆみ、頻尿 等)、感覚遮断(眼科手術後 等)
、拘
禁状況などの誘発因子の影響を受けると、急性脳機能不全となって、せん妄を発症しやすくな
ります。大事なことは、認知症者が、いったい、どのような直接因子、誘発因子を受けている
かをアセスメントし、それらに対する予防的対応をすることです。以下にせん妄に推奨される
介入方法を示します。
回答欄
関連する要因
介入
低酸素
低酸素の評価と O2 投与
感染
•感染徴候の検索と治療
•感染対策・カテーテル使用の最少化
認知機能障害
•適切な照明と わかりやすい標識
•見当識を促す(例:話しかけ、時計とカレンダーの
設置)
•認知を刺激する活動の導入(例:回想法)
•家族・友人の定期的な面会
脱水
飲水励行、脱水補正
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Q&A 受信会場での質問と回答
便秘
排便の確認、排便コントロール
安静
•動くよう促す (早期離床、歩行器の用意)
•自発的な ROM 運動
疼痛
•疼痛の評価:特に非言語的な疼痛症状を評価
•適切な疼痛マネージメント
感覚遮断
•治療可能な感覚障害の改善(例:耳垢の除去など)
•視覚・聴覚補助器具
睡眠障害
•睡眠時間中のケア・処置を極力避ける
•睡眠の妨げになる配薬スケジュールの見直し
•騒音の低減
多剤併用
薬剤のレビュー(種類と剤数の両方を検討)
栄養障害
•適切な栄養管理
•義歯の確認
(National Institute for Health and Clinical Excellence. Delirium - Quick reference guide,
2010)
なお、せん妄の薬物療法としては抗精神病薬や気分安定剤が使用されます。日本総合病院精
神医学会により以下の通りせん妄の治療指針が作成されています。
 薬物療法(下記の薬剤量は症状によって適宜増減)
:
1)夜間の睡眠確保と興奮抑制:
-経口摂取が可能な場合:
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① セロクエル錠○:25-100mg
R
② リスパダール錠○:0.5-2mg(内用液も可)
*糖尿病患者には禁忌
R
R
*興奮が伴わない場合は、レスリン・デジレル○ (25-100mg)
、テトラミド○ (10-30mg)
-経口摂取が不可能な場合:
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① セレネース注○:1-3A/500ml/4-6hrs.DIV(1A:5mg)
R
② セレネース注○:1-3A/100ml saline/15-30min.DIV
R
セレネース注○ : 1/2 - 2A, iv or im
*上記でも不穏の場合
-上記で症状改善がみられない場合は精神科または神経内科へコンサルト
2)注意点:
循環器(心伝導系、不整脈)
、呼吸器系の評価と管理に注意.
悪性症候群(CK の測定)
、錐体外路症状に注意
R
(アキネトン○1/2-1A,im)
*アキネトンの事前投与および静注は、せん妄悪化のおそれがあるため注意.
3)BZ 系の睡眠薬や抗不安薬は、せん妄の増悪や脱抑制をきたすことがあるので、少量から
R
開始(例:マイスリー○5mg など)するなど、最小限度の使用にとどめる.
やむをえない場合には、抗精神病薬との併用を心がける.
このように、抗精神病薬(主に非定型抗精神病薬)や、抗精神病薬と気分安定剤の併用が選
択され、拒薬で内服が困難な場合には液剤が試みられますが、これらの薬剤は適応外使用であ
り、本人・家族に十分に説明して有害事象に留意しながら使用することが重要です。
参考資料
①認知症ケアガイドブック
編集
公益社団法人日本看護協会
4
株式会社照林社
第Ⅰ部
認知症疾患と治
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(10 月 13・14 日開催)
Q&A 受信会場での質問と回答
療
5 せん妄の特徴 小川朝生 P.32~35.
②鈴木みずえ(2016)認知症のある高齢者に起こりやすいせん妄について理解できる 看護実践習熟段階に沿った
急性期病院でのステップアップ認知症看護
日本看護協会出版会
p109-116.
③小山真輝(2016)認知症 うつ、せん妄の鑑別 第一章認知症高齢者の基礎知識一般病棟における認知症高
齢者へのケア 編集 田中久美 看護技術 62(5)メヂカルフレンド社 P19-23.
④柴田明日香 第 2 章 入院中の認知症高齢者への対応 前掲書③ p83-94.
⑤
前掲書④p145-148.
⑥「エンド・オブ・ライフを見据えた“高齢者看護のキホン”100
看護管理者と創る超高齢社会に求められ
る看護とは」 編集者:岡本充子、桑田美代子、吉岡佐知子、西山みどり、山下由香、戸谷幸佳 ㈱日本看
護協会出版会 2015.
⑦「看護技術」一般病棟における認知症・せん妄・うつ病 患者へのケア 編集 小川朝生・寺田千幸
59(5)2013.
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