森林総合研究所 第 3 期中期計画成果集 天然物系で最高性能のコンクリート化学混和剤を リグニンから開発 バイオマス化学研究領域 髙橋 史帆、山田 竜彦 要 旨 リグニンは、木質バイオマスの約 2 ∼ 3 割を占める主要な化学構成成分のひとつで、陸 上で最も多く存在する天然物系の芳香族化合物※です。私たちは、スギから取り出したリ グニンをポリエチレングリコールという薬剤で改質し、高性能なコンクリート用化学混和 剤を開発しました。開発した新タイプのリグニン系混和剤は、減水剤としての機能が従来 から使用されている市販天然物系の混和剤より 10 倍高く、天然物系では最高性能を示し ました。この成果は、パルプ産業等の副産物であるリグニンの高付加価値利用を可能にし、 林地残材等これまで未利用であった木質バイオマスの新規需要を促進させるものとして期 待できます。 リグニンの高付加価値化 天然物系では最高性能となる減水剤を開発 リグニンは、木質バイオマスの約 2 ∼ 3 割を占める 私たちは、アルカリ処理によってスギ材からパルプを 主要な化学構成成分のひとつで、地上で最も多く存在す 製造する方法でリグニン(スギソーダリグニン)を抽出 る天然物系の芳香族化合物です。リグニンは、主に紙パ し、そこから PEG を用いた両親媒化によりスギを原料 ルプや木質バイオエタノールの製造工程の副産物として とした高性能なリグニン系減水剤の開発を行いました 大量に得られますが、燃焼してエネルギー利用されるこ (図 1) 。その過程で、分子の鎖の長さが長い PEG で改 とが多く、化学製品等のマテリアルとしての利用はわず 質したスギソーダリグニンが、セメントを分散させる力 かなのが現状です。 が大きく、コンクリートの流動性向上に有利であること そこで私たちは、ポリエチレングリコール(PEG)を を発見しました。このスギソーダリグニン系減水剤は、 使ってリグニンを付加価値の高い新しい工業原料にする 市販合成系のナフタレンスルホン酸系減水剤より少量で 技術の開発を目指しました。一般に、リグニンはそのま 高い流動性を与えられるうえ、従来から使用されている までは水に溶けにくいのですが、親水性が高い PEG で 市販天然物系の減水剤であるリグニンスルホン酸系より 改質することで水にも油にも溶ける性質となります(両 10 倍性能が高く、天然物系では最高性能をもつ減水剤 親媒化といいます) 。両親媒化したリグニンは、コンク です(図 2) 。本成果は、パルプ産業等で副産されるリ リート用化学混和剤や活性炭素繊維などに利用すること グニンの高付加価値利用を可能にし、林地残材等これま ができます。 で未利用であった木質バイオマスの新規需要を促進させ るものとして期待できます。 減水剤とは 減水剤は、コンクリート用化学混和剤のひとつで、セ 本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究「地域の メントの粒子を分散させ、コンクリートの流動性を向上 資源を活用した再生可能エネルギーの生産・利用のため させるために添加する薬品です。コンクリートを扱う現 のプロジェクト―木質リグニンからの材料製造技術の開 場ではなくてはならないもので、ほぼすべての現場で使 発―」による成果です。 用されるため、その市場は大きく、国内だけでも年間約 400 ∼ 500 億円の規模があります。 34 FFPRI ༢㞳 ⢭〇 ゎ 䝸䜾䝙䞁䜢 ྲྀ䜚ฟ䛩 ゎᗫᾮ 䠄㯮ᾮ䠅 䝇䜼 3(* 䛷ᨵ㉁ ᗫᾮ୰䛻 ⁐ゎ䛧䛶䛔䜛 䝸䜾䝙䞁 䜢ᅇ䛩䜛 䝇䜼䝋䞊䝎 䝸䜾䝙䞁 ῶỈ 3(* Q䜶䝏䝺䞁䜸䜻䝃 䜲䝗⧞䜚㏉䛧༢ 䛾ᩘ䠄㙐㛗䠅 図 1 スギソーダリグニン系減水剤の製造工程 䝁䞁䜽䝸䞊䝖䝇䝷䞁䝥䝣䝻䞊್ͤPP 䝇䜼䝋䞊䝎䝸䜾䝙䞁⣔ῶỈ 3(*㙐㛗 PRO᭱㧗ᛶ⬟ 3(*㙐㛗 PRO 3(*㙐㛗 PRO ᕷ㈍䝘䝣䝍䝺䞁䝇䝹䝩䞁㓟⣔ῶỈ ᕷ㈍䝸䜾䝙䞁䝇䝹䝩䞁㓟⣔ῶỈ ͤ䝁䞁䜽䝸䞊䝖䝇䝷䞁䝥䝣䝻䞊್䛸䛿䚸 䝁䞁䜽䝸䞊䝖䛾ὶ䜜䜔䛩䛥䛾್䚹 ྠ䛨ὶ䜜䜔䛩䛥䛾䝁䞁䜽䝸䞊䝖䜢స䜛 䛾䛻ῶỈ䛾ῧຍ㔞䛜䠍䠌ศ䛾䠍 э䠍䠌ಸ㧗ᛶ⬟ ᕷ㈍䝸䜾䝙䞁䝇䝹䝩䞁㓟⣔䜘䜚 䠍䠌ಸ㧗ᛶ⬟ ῶỈῧຍ㔞ZWᑐ䝉䝯䞁䝖 図 2 開発したリグニン系減水剤の性能評価(コンクリート流動性試験) 減水剤を添加するとコンクリートが流れやすくなり、添加しないものより高い流動性(フロー値)を示します。 コンクリート流動性試験では、減水剤を添加したときのフロー値を測定し、性能評価を行います。 ※については、巻末の用語解説をご覧ください。 35
© Copyright 2024 ExpyDoc