VivaC team TSUCHIYA 第7戦レポート

VivaC team TSUCHIYA
レースレポート
2016SUPER GT Rd.7 Chang インターナショナル サーキット
■日時
2016 年 10 月 8-9 日
■車両名
VivaC 86 MC
■場所
タイ/ Chang インターナショナル サーキット
■ゼッケン
25
■監督
土屋春雄
■ドライバー
土屋武士/松井孝允
■チーム
VivaC team TSUCHIYA
■リザルト
予選 1位/決勝 1位
チャンピオンシップへの権利をつなぐには、
タイラウンドで大量ポイントを稼ぐが絶対条件だった
前戦鈴鹿をノーポイントで終えて、チャンピオンシップ獲得のためには、ここ、タイラウンドで大量ポイントを
獲得する必要がありました。震災によって延期になった第 3 戦が最終ラウンド茂木の土曜日に行われることにな
り、日曜日の最終戦と合わせてダブルヘッダー。我々のマザーシャシー(MC)にとっては、茂木のようなスト
ップ&ゴーの低速コーナーとストレートが多いサーキットはもっとも苦手とする場所で、その茂木でラスト 2 戦
があるので、このタイでランキングトップになることがチャンピオンを獲得するための条件でした。
ただこのレースを前に、JAF-GT車両とMC車両に対して、最低地上高を更に5mm上げることが決定しま
した。前戦の鈴鹿でJAF-GTとMCが予選上位を独占したことでの措置です。菅生と鈴鹿とオートポリスは
JAF-GTとMCの車両が得意な高速コーナーが多数あるサーキットで、過去のレースを見てもJAF-GT
車両が上位を走っています。逆に富士や茂木はFIA-GT3の車両が相対的に強い場所です。そしてこのタイ
のサーキットは昨年我々の#25がポールポジションを獲りましたが、過去 2 年連続で#3 GT-Rが優勝して
います。サーキット前半はFIA-GT3が得意で、後半はJAF-GT&MCが得意というレイアウト。また
ランキング上位はみなハンディウエイトも重くなってきているので、僅差の争いになることが予想されました。
絶好調のタカミツ
即決でQ2ドライバーを決定
天候の急変が心配されるタイの空をうかがいながら、フリー走行が開始されました。まず私、土屋武士が乗り込
んでセットアップの確認です。最低地上高が5mm上げられましたが、開幕前のテストで得たアイデアがあり、
それを少々入れ込んだアライメントで走行を開始すると、ほとんど何も弄らないでいいくらいのバランスだった
ので、セットアップはせずにすぐにタカミツにドライバー交代。先にサーキットに慣れてもらい、その後、路面
コンディションが良くなってきてから私がタイヤのコンパウンドチェックと、セットの微調整をしようと思った
のですが……タカミツのタイムが何だかものすごく速い⁉
タカミツからの無線でも「車が良すぎて何も弄るところありません」と。傍目から見てもものすごく乗れている
感があったので、タカミツでQ2を行くことを決断。正直、昨年私がポールを獲っているし私自身、残り少ない
スーパーGTのレースを思いっきり走りたいという気持ちがあったのですが、圧倒的なタイム差があったので「タ
カミツで行く!」と即決です。そしてタイヤのチェックも終えて、再び私が中古タイヤでセットアップをするた
めに走行。路面コンディションに合わせて、少々高速コーナーのU/Sを補正するだけでマシンバランスは今ま
で以上に乗りやすくなり、また最後の走行ではタカミツが中古タイヤにもかかわらずベストタイムを更新。
1’32.895 のタイムで 2 位をコンマ 5 秒離しトップタイムです。
そして予選。Q1は予定通り私が乗り込みます。最初のアタックで 1’33.5 のタイムをマークし、もう一度アタ
ックをかけますが同じタイムしか出ません。少々内圧が合わなかったのですが、なんだか乗れていない。それで
もQ1を4位で通過。いつも 1 周でアタックをやめているのは、自分の中でどれくらいマージンがあるか分かっ
ているから。でも今回はそんな余裕はありませんでした。これまで走りで悩んだことがほぼないので、自分の中
ではこのことは一大事こと……。
まぁ、ひとまず、それは横に置いておいて、Q2です。
タカミツの調子の良さとマシンの乗り易さを考えれば、トラフィックにかからなければポールは間違いないとい
う確信がある中、期待通りにいきなりトップタイム! その時点で 2 番手にコンマ 6 秒引き離すタイムです。更
にアタックは続き、次の周には 1’32.102 のタイムを記録。2 番手に約コンマ 7 秒差をつけるスーパーなアタック
でポールポジション確定!
正直、鈴鹿戦以降「チャンピオンが遠のいたなぁ」と感じていたのですが、タカミツは気合入りまくりでした。
菅生のポールもすごいアタックでしたが、ここタイでのポールは、落ちかけていたチームみんなの士気を上げる
素晴らしいアタックでした。そしてそれを最も刺激を受けたのは私だったと思います。
「今、やるべきことは何なのか?」
今を真剣に考え、最高の選択をする
その選択の継続が、次なる高みに行く手段。
実はここに来る前に、来シーズン、私はレギュラーでは乗らず、若手二人を中心に参戦する意向を発表させてい
ただきました。タカミツの成長と健太の出現でそのタイミングがきたな、と。そのことを決断したのは今年 6 月
の菅生GTテストの時なのですが、本当に、自然にそう思えた流れの中での決断でした。引退というわけではな
く、レギュラーを譲るだけなので、テストや第 3 ドライバーとしては乗りますし、もしかして2人とも500ク
ラスに呼ばれて、乗せたいと思える若手がいなければまた自分が乗ることがあるかもしれません。
ただ、今の自分はエンジニアとして急成長している段階で、もっとその先の領域に踏み込んでいきたいという気
持ちがあり、またチームオーナーとして、チームを継続していくというプライベーターとしての最難関のミッシ
ョンがあります。それらが今の私の周りにある環境であり、自分の立ち位置。おかげで今は「自分のやりたいこ
と」が幸せな環境の中でできている。本当に支えていただいている皆さんには感謝の気持ちしかありません。こ
んな環境でやれているからこそ、プライベーターとして最大限で挑戦していかなければならないという想いでい
ます。だからこそ「今、自分のやるべきことはなんなのか」ということを常に自問自答しています。
話がちょっとそれましたが、タカミツの走りは私の目を覚まさせるのに充分でした。譲ると決めたことで安堵か
らなのか、変化に対応するまでの心の緩みなのか、それも多少走りに影響したということもあると思いますが、
実はそれ以上に他の要因で精神的に落ちていたことが、いつもの走りへもっていくことができなかった原因でし
た。内容は非常に難しい問題ですので簡単にはまとめられませんが、無視できる内容ではなく、レース界全体の
問題ですのでしっかりと受け止めていかなくてはならない、と。そんなことも重なり、自身の走りに影響したこ
とは否めません……。情けないですね。仲間に、応援してくれているみんなに、本当に申し訳ないと情けない気
持ちいっぱいでした。
予選後はタカミツのデータと車載映像をみてとにかく研究しました。そしてタカミツの“勝ちたい”という気持
ちの強さによって、自然と私も走ることだけに集中できてきていることを感じながら決勝日を迎えました。
賭けも祈りも通じて、
1.189 秒差で優勝!
決勝日の朝のフリー走行では決勝の準備が主ですが、タイラウンドに限っては私の走りを元に戻すことがメイン
テーマです(笑)昨晩の研究と気持ちの切り替えのおかげで、タカミツとの体重差+コンマ 1 秒くらいにタイム
差を縮めることができました。セットアップも決勝に向けては何もせず、予選と全く同じで変更なし! それほ
どまでにセットが決まっていました。戦略に関してもトップからスタートなので、一番幅が取れます。ただ、#
3 GT-Rが最大のライバルで、少しでも我々にミスがあれば敵わない……というのが決勝前の分析結果でした。
そして迎えた決勝は私がスタート。#3 GT-Rにはヤン・マーデンボロー選手というバカッ速いドライバーが
第 2 スティントに控えています。前にも話したように、今の300にはタカミツとヤン選手はスピードで抜けて
いると感じています。他にも蒲生選手、ミスがなければ山内選手が匹敵するスピードがあるように感じています
が、今のタカミツとヤン選手はその中でも抜けているように思います。
そしてこのコースは、長いストレートが 2 本。バトルになったら防御するのは難しいサーキットです。グリッド
後方はストレートの速いGT-Rが 2 台。昨年タイと全く同じグリッドだったので抜かれることを想定しつつ、
ルーティーンのピットまで、いかに差をつけられずにタイヤと燃料をセーブできるかというミッションがスター
トドライバーの私に課せられます。MCはタイムは速いものの、バトルで追い抜きができるマシンではありませ
ん。集団の中で走ると抜かれるだけのマシン。まずは無駄なバトルをせず、自分も相手も遅くなるような意地を
はることだけはしないように心掛けてスタートをきりました。
1 コーナーは無難にトップで、長いストレート後の3コーナーは何とか抑えることができましたが、続く裏のスト
レートの最後で#3 GT-Rに抜かれてしまいました。ここまでは予想通り。続いて#0 GT-Rが後方に。
昨年は2周目に抜かれたのですが、抜かれず粘ることができ、トップにも離されません。逆にトップの#3のペ
ースが鈍った7周目に前に詰まった関係で、#0 GT-Rにパスされて3番手にポジションダウン。その後、後
ろの#18 MCにインを刺される場面があったりしましたが、問題なく対処してペースを狂わせることなく3番
手をキープしながらトップからは3~5秒の差で序盤を推移します。ペースはほぼ同等。そうなってくると我々
のタイヤ無交換の作戦も活きてきます。後半はタイヤを交換したヤン選手が猛烈な勢いで追い上げてくる展開を
予想していたので、タイヤ交換分の約16秒のマージンは確保できる計算。できるだけ燃料もセーブすることを
心掛けて、予定していた周回を少し超えた26周を走ってピットインしました。
ピットワークは問題なく、燃料補給のみでピットアウト。最大のライバル#3 GT-Rはピットロードでエンジ
ンがストップするというアクシデントがあって、7秒ほどのロスをした模様。ピットアウトした時の#3 GT-
Rは17秒後方。間にタイヤ無交換の#18 MCが入ることになり、ここも我々に有利な展開になりました。
全車ピットを終えたあとは#25がトップ、2番手#18、3番手#3という順位。ここからはこの貯金をゴー
ルまで使い切らずにいけるかどうか、という勝負です。後方から予想通りヤン選手が追い上げてきます。ただ#
18 MCの中山選手が素晴らしい走りで2番手を死守しながらバトルをしてくれているおかげで、5秒差からは
縮まりません。逆にバトルの影響で差が広がる場面も。
その矢先の52周目に#18と500クラスのマシンが接触し、#18はピットへ。ここから残り9周、33秒
台という驚異的なペースでヤン選手が追い上げてきます。ここで我々にトラブル発生!
燃料が息つくという無
線がタカミツから入りました。残りは6周。燃料補給のガソリンは入っているはずでしたが、この週末、メータ
ーの燃料消費の数値に一度だけ異常値があり、それが正しかったとしたらここでのガス欠もありえる……。矢継
ぎ早に色々なことが頭をよぎり、ピットに戻すかどうするかを悩んでいましたが、タカミツから「行かせてくだ
さい!」という無線が。チャンピオンシップを考えた時、ここでピットに入ったら残りの茂木は劣勢で、チャン
ピオンの可能性は低くなる。ならば、フューエルポンプがトラブったことに賭けて、ゴールまでフルプッシュで
逃げようと決断しました。リザーブのポンプに切り替えエンジンMAPもフルリッチを指示。賭けも祈りも通じ
て、1.189 秒差でトップのチェッカーを受けることができました。
チームを支え、リードしたタカミツの成長
強い想いが“勝利”を導いた
レース後、振り返ってみると、すごく濃厚な 2 日間だったと思います。私の精神的なアップダウンもありますが、
タカミツがチームを引っ張るドライバーに成長してくれたことや、たくさんの仲間が#25を勝たせようと協力
してくれて、マシンはこれまで以上に完璧な状況でした。
グリッドについて一人になった時に思ったことは、こんなにスタート直前に不安がないのは初めてだなというこ
とでした。準備もやり切った感があったし、タカミツは頼もしいし、たくさんの人の後押しが心強く、あんなに
不安定だった自分が嘘のように、決勝は自分の力を出し切る走りができました。
ライバルにミスがなく順調であったら、もしかしたら負けていた可能性は否めません。しかし、レースで勝った
のは我々の#25です。時として、このような展開で結果がでることは長くレースしていると何度か経験があり
ます。今回はたくさんの仲間の気持ちが集い、このような状況を引き寄せてくれたんだと感じます。チームをや
っていて辛いことや苦しいことは数多くありますが、このような瞬間を感じることができ本当に幸せですし、ま
た頑張ろうって思えます。
いよいよ最終ラウンド・茂木、2 連戦を残すのみとなりました。シリーズランキングは 2 位に 5 ポイント差のトッ
プですが、苦手な茂木ということを考えるとこの差では劣勢です。でも今の我々は非常に強いと思います。今回
のタイ戦を経て、また人間力がパワーアップしました(笑) いつも通りできるだけの準備をして、悔いの残ら
ないように戦いに挑みたいと思います。
応援してくださった皆さま、有難うございました!
次戦、最終茂木ラウンドも応援よろしくお願いいたします!!
【松井 孝允 コメント】
タイラウンドは、昨年のポールポジションということから相性がいいことはわかっていました。あとは重いウエ
イトでどこまで戦えるかが要であり、チャンピオンシップを考えるうえでも大事な 1 戦になると思っていました。
今回は海外戦ということもありいつもより余裕のあるレースウィークでした。そのおかげでコースウォークを行
うことが出来、入念にチェックすることができました。そのチェックが後々に有利に働いたと思います。
フリー走行では早い段階でラップタイムも速く走れたので、普段走らないサーキットでもすぐに対応することが
できました。車の状態は完璧で本当に申し分なくセッションもスムーズに進めることができ、予選に向けての準
備は上々でした。
予選では Q1 を武士さんが突破してくれたので、僕のアタックではタイヤに集中しアタックに入りました。その中
でポールという結果には満足していますし決勝に向けても自信につながりました。ただ予選でマシンに心配箇所
が見つかり、その原因追及のためにメカニックの皆さんには大変な作業をお願いすることになってしまいました。
夜遅くまで追求していただき、次の日には完璧なマシンになっていたので本当に安心して決勝日も走ることがで
きました。
決勝のスタートは武士さんがスタート。後ろがストレートの速い GT-R で抜かれてしまいましたがこれは予想通り
の展開。僕らはタイヤ無交換という作戦をたて、ピットで再び前に行く作戦だったので抜かれても心配はしてい
ませんでした。そして作戦通りピットでトップに立つことができ、あとは後ろとのギャップを見ながらのレース。
途中、周回遅れにかなり抑え込まれ、ギャップを詰められてしまったことで余裕はなくなり、とにかくプッシュ
して引き離すことに集中しました。
後ろの 3 号車のペースが速く、最後まで気が抜けないレースでした。終盤には燃料系のトラブルもありチェッカ
ーを受けるまで本当に勝てるか分かりませんでした。その中で勝てたのでめちゃくちゃうれしかったです!!
最終戦に向けてランキングトップで迎えられるので最後まで集中して戦いたいと思います。
今回もタイという遠い中、応援有難うございました。
次回は 2016 年最後のラウンド、チャンピオン目指します! 引き続き応援よろしくお願いいたします。
つちやエンジニアリング合同会社
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