線形代数学Ⅱ 参考資料 2 2016 年度後期 工学部・未来科学部 1 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ■n 次行列式の定義と基本性質 ※ テキスト [新井他] p. 94 定義 4.20 とは異なる定義を採用*1 しています!! 定義 (n 次行列式) n 次正方行列 a11 a12 a21 a22 A = a31 a32 .. .. . . a13 a23 a33 .. . ··· ··· ··· .. . an1 an3 ··· an2 a1n a2n ( a3n = a1 .. . ann a1j a2j ) an , aj = a3j .. . anj a2 a3 ... (1 ≤ j ≤ n) に対して、以下の 3 つの規則を用いて計算出来る値を A の 行列式 determinant と呼び、det A, |A| などと表す。 1◦ . (多重線形性) “1 つの列ベクトルに注目すると 線形性 が成り立つ” 任意の 1 ≤ j ≤ n に対して ( det a1 ( det a1 2◦ . (歪対称性) ... ) aj + a′j . . . an ( = det a1 . . . aj ... k aj ... ... ) ( an + det a1 ) ( an = k det a1 ... aj ... a′j ... an ) ... ) an , (k は実数) “どこか 2 箇所を入れ替えると (−1) 倍” 任意の 1 ≤ i < j ≤ n に対して y det(a1 ... ai y ... aj . . . an ) = − det(a1 3◦ . (単位行列の行列式は 1) ( det e1 e2 ... 1 0 .. ) en = det . . .. 0 0 1 .. . .. . 0 . . . aj ··· ··· .. . ··· ··· .. . .. .. . ··· . ··· . . . ai . . . an ) 0 0 .. . =1 .. . 1 babababababababababababababababababab 2 次、3 次行列式は 基本 3 性質 1◦ , 2◦ , 3◦ のみ を用いて 計算出来たことを逆手に取って n 次行列式を定義していることに注目しよう!! (これが 一般化・抽象化 と呼ばれる工程) *1 テキストの定義との関係も後程「発展篇」として扱いますので、ご心配なく。 系 ([新井他] p. 100 系 4.39) 異なる 2 つの 列 (例えば第 i 列 と第 j 列) が等しい行列の行列式は 0 となる。 【証明】 歪対称性 2◦ . を第 i 列 と第 j 列 に対して用いれば良い (詳細は講義で扱った通り; 各自自 □ 分で導き出せるようにしておくこと!!)。 命題 (列 基本変形と行列式, [新井他] p.p. 98–99, 定理 4.33, 定理 4.35, 定理 4.37) ( n 次正方行列 A = a1 a2 ) an に 列 基本変形 (C1), (C2), (C3) を施すと以下が成 ... り立つ; (C1) (列 の入れ替え) 任意の 1 ≤ i < j ≤ n に対し y y ( ( ) det a1 . . . ai . . . aj . . . an = − det a1 ... aj . . . ai . . . an ) (C2) (0 でないスカラー倍) 任意の 1 ≤ j ≤ n および c ̸= 0 に対して × ( det a1 ... 1 c c aj ... an ) ( = c det a1 ... aj ... an ) ※ 第 j 列 の 共通因子 の c を “括り出す” イメージ (C3) (或る列のスカラー倍を他の 列 に加える) 任意の 1 ≤ i, j ≤ n, i ̸= j および実数 c に対し ×c y + ( det a1 ... ai ... aj ... an ) ( = det a1 . . . ai + c aj . . . aj ... an ) 【証明】 (C1) 歪対称性 2◦ そのもの。 (C2) 多重線形性 1◦ (のスカラー倍に関する部分) そのもの。 ) ( (C3) det a1 . . . ai + c aj . . . aj . . . an ( ( (((() ( ( ) ( 1◦ ( ( . a ( . . . aj . . . an = det a1 . . . ai . . . aj . . . an + c det a1 . . ( ( (j( (((( (上記の系より) □ !! 警告 !! 4 次以上の行列式に対して 「サラスの公式」 (襷掛けの公式) は 全く 成り立たない ので注意!! ■n 次行列式の計算法Ⅰ: 行列の三角化 定義 (対角行列) 対角成分 aii (1 ≤ i ≤ n) 以外の成分が全て 0 であるような n 次正方行列 A = (aij )1≤i,j≤n を 対角行列 diagonal matrix と呼ぶ。 命題 (対角行列の行列式) 対角行列 A の行列式は、その対角成分の積に等しい; a11 0 det A = det 0 .. . 0 0 a22 0 .. . 0 0 a33 .. . ··· ··· ··· .. . 0 0 0 .. . 0 0 ··· ann = a11 a22 a33 · · · ann 【証明】 命題の (C2) (または多重線形性 1◦ .) を各列に対して繰り返し すべての対角成分が 0 でない場合 3◦ (C2) 用いることで det A = a11 a22 · · · ann det In = a11 a22 · · · ann を得る。 対角成分のどこかが 0 である場合*2 例えば aii = 0 であったとすると、第 i 列は成分が全て 0 と 1◦ なるので、第 i 列に対して多重線形性 1◦ を用いると det A = 0 · det A = 0 を得る。一方で a11 a22 · · · ann = 0 であるから、結局 det A = 0 = a11 a22 · · · ann が成り立つ。 □ 定義 (三角行列, [新井他] p. 96 定義 4.27) 対角成分より左下の成分が全て 0 である正方行列を 上三角行列 upper triangular matrix と呼 ぶ。 対角成分より右上の成分が全て 0 である正方行列を 下三角行列 lower triangular matrix と呼ぶ。上三角行列と下三角行列を合わせて 三角行列 triangular matrix と呼ぶ。 a11 0 0 . .. 0 a12 a13 ··· a22 a23 ··· 0 .. . a33 .. . ··· .. . 0 0 ··· a1n 0 0 ··· a22 0 ··· a32 .. . a33 .. . ··· .. . an2 an3 ··· a11 a2n a3n .. . ann a21 a31 . .. an1 上三角行列 0 0 0 .. . ann 下三角行列 命題 (三角行列の行列式, [新井他] p. 97 例題 4.28, 問 4.30) 三角行列 A の行列式は、その対角成分の積に等しい; a11 0 det 0 .. . 0 *2 a12 a22 0 .. . a13 a23 a33 .. . ··· ··· ··· .. . a1n a11 a2n a21 a3n = det a31 .. .. . . 0 a22 a32 .. . 0 0 a33 .. . ··· ··· ··· .. . 0 0 0 .. . 0 0 ··· ann an2 an3 ··· ann an1 細かい点なので、取り敢えず読み飛ばしてしまって構いません。 = a11 a22 a33 · · · ann 【証明】 すべての対角成分が 0 でない場合 命題の (C3) を用いて対角成分以外の成分を「掃き出す」こと により、結局対角行列の行列式に帰着する。 対角成分のどこかが 0 である場合*3 下三角行列の場合に示す。対角成分が 0 である列のうち最も 右にある列を第 i 列とする。このとき、ai+1,i+1 , ai+2,i+2 , . . . , ann はすべて 0 ではないので、 命題の (C3) を用いて第 i + 1 行から第 n の対角成分以外の成分を「掃き出す」と、第 i 列の 成分は全て 0 となるため、第 i 列に多重線形性 1◦ を用いて det A = 0 が得られる。一方で a11 a22 · · · ann = 0 であるから、結局 det A = 0 = a11 a22 · · · ann が成り立つ。 □ 列基本変形を用いて行列を 三角化 triangulation する ことによって行列式を計算出来る!! (具体例は講義で) ここまでで覚えておくべき行列式の性質 − 行列式の基本 3 性質 1◦ , 2◦ , 3◦ . − 列基本変形に対する行列式の振る舞い (C1), (C2), (C3) − 対角行列、三角行列の行列式は対角成分の積 この後も少しずつ増えていくので、毎回しっかりと復習して 1 つずつ確実に身に着けること!! ※ 上にあるものほど重要度大 babababababababababababababababababab 注 このプリントで扱われた性質 (基本 3 性質, 等しい 列 が存在する行列の行列式は 0, 列 基本変形に対する行列式の振る舞い) はすべて 列 ベクトルを 行 ベクトルに、列 基本変形を 行 基本変形に そっくり取り替えても成り立つ。したがって、行列式を計算する際には 列 基本変形を用い ても 行 基本変形を用いても構わない!! 『線形代数学Ⅰ』でも扱われた 行 基本変形の方 が慣れている人が圧倒的に多いと思われるので (テキストも 行 基本変形主体で書かれてい ますし)、以降 列 基本変形 (C1), (C2), (C3) が扱いにくいと感じた人は、行 基本変形 (R1), (R2), (R3) を用いて行列式を計算してみよう。但し 行 基本変形 (R1), (R2) を施 した際に − や c を付け忘れないように注意すること!! (毎年非常に多く見られるミスです) 尚、「 列 ベクトル,列 基本変形を 行 ベクトル, 行 基本変形に 取り替えても同じ性質 が成り立つ」ことは、転置行列が行列式は元の行列の行列式と等しい という行列式の非常 に重要な性質 det tA = det A から従う。唯、(基本 3 性質から直ちに従う) 他の性質と比 較するとかなり高尚な性質であるので、時期を改めて「発展篇」として扱うことにしよう。 *3 細かい点なので、取り敢えず読み飛ばしてしまって構いません。
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