教育講演 集中治療における理学療法士の役割 飯田 有輝 JA 愛知厚生連海南病院 リハビリテーション科 係長 近年、集中治療管理はその発展により重症患者の生存率を劇的に改善してきた。その 半面、集中治療室 (Intensive care unit: ICU) 退室後に全身の特異的な機能障害や筋力 低下、息切れ、抑うつ、不安、ならびに健康関連 QOL の低下が残り、重症患者の長期 的な機能状態を決定づけることが多数報告されている。このうち重症患者に併発する神 経筋機能障害は、ICU-acquired weakness (ICU-AW)として着目され、最近集中治療領 域で意識されるようになった。ICU-AW は、敗血症、多臓器不全、長期人工呼吸管理の いずれかに該当する重症患者のうち約半数に発生するとの報告があり、またその発生に は全身性炎症を背景に様々な医原性リスク因子が関連するとされる。対策として医原性 リスク因子をいかに減らすかが重要であるが、ICU における不活動や合併症発生の予 防に携わる理学療法士の役割は非常に大きいと思われる。 ICU入室患者に対する積極的な運動療法については多くの効果が示されている。人 工呼吸管理中における歩行訓練や、サイクルエルゴメーターなどの機器を用いた運動 療法では、運動機能や日常生活活動、ならびに健康関連QOLの改善が報告されてい る。また介入時期は早い方が成績は良く、気管挿管後平均1.5日の早期介入群では退院 時自立度や最大歩行距離は高く、在宅復帰率が高いという結果であった。特筆すべき は、鎮静方法に違いがないにも関わらず、介入群においてICUせん妄期間が50%減少 したということである。これらより、早期リハビリテーションは身体機能だけでなく QOLにおいても不活動による悪影響を緩和する効果があり、重症ICU患者でも早期リ ハビリテーションは禁忌ではなく、むしろ積極的に行うことを示唆している。 早期リハビリテーションの安全性について、海外からの報告では積極的な運動療法に より数%の割合で酸素飽和度低下と循環変動が認められるが、有害なイベントはほとん どなく安全に行い得ることが示されている。しかし、ICU の患者は重篤な敗血症ショッ クや呼吸循環不全を合併することも多く、病態が極めて不安定であることを考慮しなけ ればならない。早期リハビリテーションを安全に実施するために、適切な患者選択やリ スクの層別化を行い、実際の進行には多職種による多面的なモニタリングが必要である。 理学療法士は多職種と連携し、患者の病態や管理状況から、運動の種類や負荷量を決定 する役割を持つ。 ICU における早期離床は重症患者に対する早期リハビリテーションの一部として定 着している。人工呼吸管理下であってもそれ自体が離床の制限因子とならず、ベッドや 椅子での座位保持、移乗移動動作、立位、ならびに歩行などを行う。しかし ICU で人 工呼吸管理される重症患者では、そもそも呼吸状態が不安定であり、状態によっては動 かすことで人工呼吸器の設定が換気要求に合わないこともある。また呼吸状態あるいは 呼吸器合併症が改善することがないまま、運動負荷をかけることが全身状態を良い方向 に導くという根拠もない。効果的な離床や予後の改善のため、人工呼吸器患者のアセス メントや呼吸器合併症の予防治療について、理学療法士は中心的な役割を担う。 The 34th Congress of JPMCPT
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