種村汐里 - 愛知学院大学 薬学部 医療薬学科

平成28年度 卒業論文「Adult T-cell leukemia/lymphoma の
キヌレニン経路を標的とした免疫学的治療法」
愛知学院大学薬学部医療薬学科
生体有機化学講座
11A095 種村 汐里
ATL(Adult T-cell leukemia/lymphoma)は HTLV-1 ウイルスに T 細胞が感染すること
で引き起こされる白血病/悪性リンパ腫である。日本は先進国の中で、唯一の HTLV-1
浸淫国であり毎年多くの ATL 患者が死亡し問題となっている。現在の日本ではガイド
ラインに沿った治療が行われているが、化学療法の感受性は非常に低く、ATL の有効
な治療法はいまだ確立されていないのが現状である。そのため新薬の開発や治療法の確
立が急がれている。そこで ATL 治療法のひとつとして現在注目を集めはじめている免
疫学的治療法について調査を行った。
免疫学的治療法とは本来ヒトがもつ免疫力を高めて治療する治療法であり、副作用の
面においての安全性は高く治療効果も期待されている。IDO(インドール 2, 3-ジオキシ
ゲナーゼ)阻害に焦点を当てた免疫学的治療法は現在多くの癌でも注目をされ、研究が
進められている。IDO は腫瘍細胞の免疫回避に重要で、腫瘍細胞に多く発現している
キヌレニン経路の律速酵素である。キヌレニン経路はトリプトファン(Trp)代謝経路
のひとつで、亢進すると Trp の枯渇および代謝産物(キヌレニン:Kyn)の蓄積によっ
て誘導される制御性 T 細胞(Treg)を介して腫瘍細胞は宿主免疫を逃れる。この免疫回
避のメカニズムは多くの腫瘍細胞で発見され、
ATL にも同様のメカニズムが成り立つ。
IDO を阻害するとされる物質 1-MT(1-methyl-tryptophan)、セレコキシブ、ニメスリ
ドの 3 剤について IDO 阻害による Treg 誘導抑制を介した抗腫瘍効果を比較することで、
ATL 治療法の実用化への有無について精査した。セレコキシブは胃腸障害の少ない
NSAIDS として世界でも多く用いられている鎮痛剤であるが、IDO 阻害効果も有するこ
とがわかり、それによる抗腫瘍効果もみられるため癌免疫療法薬としての臨床適応の拡
大が期待されている。一方で、直接的 IDO 阻害剤である 1-MT は COX-2 阻害剤(セレ
コキシブ、ニメスリド)よりも IDO 阻害率、Treg 誘導抑制率がともに高値であり、優
れた抗腫瘍効果がみられることが推測できた。またその化学構造から、非常に安価に製
造でき、必須アミノ酸と類似していることからも体内に取り込まれやすく効果を発揮し
やすいと考えられた。1-MT は海外ではすでに臨床試験段階であるため、ATL 治療の癌
免疫療法薬としての実用化に期待が高まる。