中国、一時の底入れは安心材料になるか ~底入れを示唆する動きの

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Asia Trends
マクロ経済分析レポート
中国、一時の底入れは安心材料になるか
~底入れを示唆する動きの裏側でリスク要因は増殖中~
発表日:2016年9月13日(火)
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主席エコノミスト 西濵
徹(03-5221-4522)
(要旨)
 中国経済は様々な過剰が問題化するなか、先日のG20ではこの解消が必要との認識で一致した。他方、
7月には南部を中心とする洪水被害の影響で景気に頭打ち感が出ていたが、8月の生産は再び加速するな
どその影響は一巡している。構造改革の取り組みを示唆する動きもみられる一方、過剰が懸念される鉄鋼
や非鉄金属の生産は高止まりするなか、現時点で過剰が認識されていない化学関連の生産も高い伸びが続
く。足下においては依然中国の製造業を取り巻く過剰問題の行方は不透明と判断することが出来よう。
 年明け以降、公共投資や不動産投資の拡大で加速した固定資本投資はここ数ヶ月頭打ちしてきたが、8月
は底打ちを示唆する動きがみられた。低迷が続く民間投資のほか、頭打ちしてきた不動産投資も底打ちす
るなど、全般的に反転する兆しがうかがえる。ただし、好調な景況感が続く民間サービス業の投資が低迷
していることは先行きに対する不透明感を示唆している可能性がある。また、資金調達手段として「シャ
ドーバンキング」の存在も懸念され、不透明要因を抱えながらの底打ちの動きには注意が必要である。
 生産や投資に底打ちの動きが出るなか、個人消費にも底打ちが出ている。インターネットを通じた消費が
旺盛な推移をみせるなか、インフレ圧力の後退で実質購買力が押し上げられているほか、都市部を中心に
消費が多様化していることも底堅い消費に繋がっている。ただし、先行きの雇用・所得環境が好転すると
は見込みにくいなか、政府主導による構造改革の取り組みは雇用環境の悪化に繋がるリスクもある。大都
市と地方との跛行色が一段と鮮明になることで、社会不安が増幅する可能性もくすぶっていると言える。
 一連の8月の経済指標は景気の底入れを示唆する内容となったが、公共投資による押し上げ効果は先行き
の剥落が予想される。一昨年末以降の金融緩和にも拘らず、金融機関による仲介機能が不全状態にあるこ
とは資金の偏在を招いている。銀行部門の不良債権に対する懸念は、中国発の金融不安が国際金融市場を
揺さぶるリスクもある。当局には実体経済と金融市場が抱える課題に適切に取り組むことが求められる。
 足下の中国経済を巡っては、様々な分野で生産能力や在庫などの過剰状態が慢性化するなか、この解消が中長
期的な潜在成長率の向上に不可欠との見方が広がっており、今月初めに同国杭州で開催されたG20において
も過剰生産の解消に向けて国際フォーラムを設置することで合意するなど、事態打開に向けた機運が高まりつ
つある様子がうかがえる。他方、今年6月末以降に長
図 1 鉱工業生産(前年比)の推移
江流域を中心とする南部の大都市において大雨による
洪水被害が発生する事態となり、対象都市などで生産
停止の動きが広がったことが7月の製造業を中心とす
る景況感の悪化のほか、鉱工業生産や固定資本投資の
鈍化を招いたとされる。8月についてはG20開催直
前のタイミングで杭州市周辺を中心に生産停止の動き
がみられたものの、上述の洪水被害からの復興需要が
見込まれるなか、製造業の景況感も堅調さを取り戻し
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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ており、生産や投資などの動向に注目が集まっていた。こうした状況下で発表された8月の鉱工業生産は前年
同月比+6.3%と前月(同+6.0%)から伸びが加速しており、洪水被害の影響が一巡して生産が底打ちしてい
る様子が確認されている。なお、前月比は+0.53%と前月(同+0.52%)からあまり拡大ペースは変わってお
らず、かつてに比べて勢いに乏しい展開となっているものの、底堅く推移しているものと捉えられる。その内
訳をみると、昨年末以降の減税措置の影響により自動車販売が堅調な推移をみせていることを反映して自動車
関連の生産は大幅な伸びが続いているほか、スマートフォンなどの電気機器関連の生産も高い伸びが続くなど、
内需の堅調さを反映する動きがみられる。また、ここ数年の人件費上昇に伴い製造業を中心にロボット化を進
める動きが広がりつつあるなか、産業用ロボットの生産の伸びは大幅に加速するなど、生産性向上に向けた取
り組みが影響する動きも出ている。さらに、共産党及び政府が推し進める「グリーン経済」に向けた取り組み
に伴い太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる発電量が大幅な伸びを続けるなど、政策誘導を素直に
反映する動きも確認されている。その一方、上述のように生産の過剰状態が謳われて久しい鉄鋼や鋼材、非鉄
金属関連の生産の伸びは加速感を強めているほか、関連する工作機械関連の生産の伸びも加速しており、過剰
状態が続く生産設備の縮小に向かっているとは捉えにくい。また、表立って生産設備の過剰が謳われてはいな
いものの、世界的な供給過剰が懸念されている薬物や化学繊維、ゴム・プラスチックをはじめとする化学関連
の生産の伸びも堅調な推移が続いている。これらについては世界的にも国内的にも生産設備動向に対して焦点
が当たっておらず、今後過剰生産の問題が表面化する可能性も懸念されており、この行方に注目が集まること
も予想される。こうしたことから、中国国内の過剰問題は依然先行き不透明の状況にあると言えよう。
 一方、年前半については政府によるインフラを中心とする公共投資の促進に加え、長期に亘る金融緩和の影響
により金融市場は「カネ余り」の状況が続くなかで不動産投資が活発化したことで、固定資本投資が押し上げ
られる動きが続いてきた。しかしながら、ここ数ヶ月は不動産投資に早くも頭打ちの兆候が出ていることに加
え、中央及び地方政府や国有企業など公的部門が投資を拡充する一方、民間部門を中心に投資が一段と絞られ
る動きが強まったことで固定資本投資の伸びは減速基調を強める展開が続いてきた。こうしたなか、1-8月
の固定資本投資は前年同月比+8.1%と前月(同+8.1%)と同じ伸びとなるなど、調整模様が続いてきた投資
の底打ちを示唆する動きをみせている。単月ベースでみた前月比でも+0.58%と前月(同+0.50%)から拡大
ペースが加速しており、5月をピークに減速基調を強
図 2 固定資本投資(前年比/年初来)の推移
めてきた流れに歯止めが掛かりつつある様子がうかが
える。投資主体別では依然として中央政府や地方政府
のほか、国有企業に勢いがある状況は変わっていない
ものの、民間部門による投資が前年比+2.1%と前月
(同+2.1%)と同じ伸びとなるなど、民間企業の投資
が底打ちしていることは先行きにおける反転の兆しも
うかがえる。なお、全体の内訳をみると依然として建
設工事関連の伸びが高く、生産設備などの伸びは弱い
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
ほか、分野別では農業関連のほか、公的部門によるサービス関連の投資も高い伸びが続いており、結果として
投資全体を下支えする構図は変わっていない。また、建設計画の進捗動向をみると、既存プロジェクト以上に
新規プロジェクトの立ち上げの伸びが大きく加速しており、これは公共投資の進捗が進んでいることを示唆し
ていると言える。その一方、民間部門においては依然としてサービス関連で投資を抑制する動きが続いている
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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ほか、建設関連でも大幅に伸びが縮小する展開が続いており、依然として地方を中心に不動産市況の低迷が続
いている上、過剰在庫を抱える業者が多く存在することが投資の手控えに繋がっていると考えられる。こうし
た動きからは、足下のサービス業PMIは政府統計及び民間統計(財新)はともに好不況の分かれ目である
50 を大きく上回るなど、好調を維持しているにも拘ら
図 3 マネーサプライ(前年比)の推移
ずサービス業における設備投資意欲は活発化していない
ことを意味している。双方のサービス業PMIにおいて
は、先行きの業況期待について改善を見込む声が強いも
のの、必ずしもそうした意思が設備投資に直結していな
い様子もうかがえる。他方、過去数ヶ月に亘って頭打ち
感を強めてきた不動産投資は1-8月に前年同月比+
5.4%と前月(同+5.3%)から伸びが加速に転じるなど
底打ちが進んでいる。内訳をみると、オフィス向けの投
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
資は伸び悩んでいるものの、商業用不動産を中心に堅調な伸びが続いているほか、住宅向け投資にも底打ちの
動きが出ており、低金利環境が長期化するなど金融緩和による「カネ余り」が顕著となるなかで余剰資金が再
び不動産市場に流入している可能性が考えられる。固定資産投資全体における資金源をみると、公的部門を中
心に高い伸びが続いていることを反映して国家予算が高い伸びを示す一方、海外からの借入は急速に縮小して
いる動きがみられるものの、銀行融資や自己資金以外での資金調達が依然として高い伸びをみせており、いわ
ゆる「シャドーバンキング」を通じた資金調達が活発な様子もうかがえる。現時点において金融市場を揺るが
す事態には至っていないものの、過剰債務を巡る問題は潜在的なリスクとなり得るなか、投資の動きとその裏
打ちとなる資金動向には引き続き注意が必要になっていると言えよう。
 このように足下では生産や投資の底打ちを示唆する動きがみられるなか、8月の小売売上高は前年同月比+
10.6%と前月(同+10.2%)から伸びが加速しており、個人消費を取り巻く環境も堅調さを取り戻していると
判断出来る。前月比も+0.83%と前月(同+0.79%)から拡大ペースが加速しており、足下ではインフレ率が
鈍化するなどエネルギー価格の低下や景気の先行き不透明感を反映してインフレ圧力が後退するなか、家計部
門の実質購買力が押し上げられ、消費は下支えされて
図 4 小売売上高(前年比)の推移
いる。特に、足下では事業者の増加に加え、サービス
が多様化していることも重なり、インターネットを経
由した売上は小売全体を大きく押し上げるなど、消費
を取り巻く環境は劇的に変化している。なお、依然と
して共産党及び政府による反腐敗・反汚職運動の影響
に伴い、外食関連の消費は低い伸びに留まるほか、宝
飾品などの高額品に対する需要は前年を大きく下回る
など消費の足かせとなる要素は残っている。しかしな
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
がら、上述したように昨年末以降行われている減税措置の効果に伴い自動車販売は旺盛な推移が続いているほ
か、住宅需要の底堅さを受けて建材関連の売上も高い伸びが続くなか、家電や家具をはじめとする家財関連の
耐久消費財に対する需要も底堅く推移している。また、足下においては農村部で消費が伸び悩んでいる一方、
都市部を中心に伸びが加速する動きがみられるなか、医薬品や文化・娯楽関連のサービスに対する需要にも底
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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堅さがみられる。こうした動きは、中国国内における需要がこれまでの高度経済成長期における数量面での拡
大を追い求める段階から、需要そのものが多様化しているほか、質的にも変化するなど新たな成熟期に突入し
つつあることを示唆している可能性が考えられる。先行きの物価については、引き続き食料品をはじめとする
季節要因によって大きく上振れするリスクはくすぶるものの、製造業のみならずサービス業においても雇用が
大きく拡大する見込みは立ちにくく、多くの国民にとって雇用・所得環境の大幅な改善が期待しにくい状況に
ある。さらに、足下では生産設備の過剰が指摘される分野で国有企業を中心に、政府が主導する形で過剰生産
設備の淘汰に向けた取り組みを前進させる姿勢をみせているが、結果として大量の失業者が発生する可能性が
あるほか、適切に労働者の再配分が進まない事態となれば、消費市場の成熟を阻害するとともに、新たなディ
スインフレ圧力を引き起こすことも懸念される。依然として大都市部を中心に個人消費を取り巻く環境は堅調
を維持しているものの、政策の行方によっては都市、ないし地域ごとの跛行色が一段と鮮明になることで新た
な社会不安の一因となる可能性もはらんでいると言えよう。
 一連の8月の経済指標からは、中国経済の底打ちを示唆する動きが広がっている様子が確認されたものの、こ
うした動きはあくまで公共投資を中心とする公的部門の動きに大きく依存しており、先行きについては押し上
げ効果の剥落によって再び減速基調に転じるリスクが残っている。他方、懸念された民間部門による投資につ
いては底打ちを示唆する兆候があるなか、政府内では金融政策の方向性を巡る対立が表面化する動きがみられ、
この動きは先行きの投資に影響を与えると見込まれる。上述のように足下の金融市場は一昨年末以降の断続的
な金融緩和を背景に「カネ余り」の状況が続いているものの、国有銀行を中心とする大規模金融機関は公共投
資をはじめとする公的部門向けの資金融通に動く一方、中小・零細の金融機関は地方部を中心とする不動産市
況の低迷やシャドーバンキングを巡る資金繰りに汲々として適切な金融仲介機能を果たせておらず、結果的に
資金が経済活動に充分に活用されない事態を招いているとされる。本来であれば、資本の論理に基づいて金融
機関の合従連衡が進められることで金融仲介機能の正常化に向けた取り組みが前進することが望まれるものの、
過剰債務が懸念されるなかでは性急な取り組みが金融市場全体を機能不全に陥らせるリスクもある。当局は今
年6月末時点における銀行部門が抱える不良債権が 1.44 兆元で不良債権比率は 1.81%と公表する一方、現時
点においては不良債権化していないものの、今後急速に不良債権化するリスクがある融資が 3.32 兆元あると
している。しかし、一部の試算などでは不良債権が当局による公表値の 10 倍超に達するとの見方も出ており、
この見方の前提に立てば中国市場を基点にした金融不安が発生する可能性が懸念される。足下の中国金融市場
は一部の窓口を通じて国際金融市場との繋がりを広げる動きが出ているものの、依然として閉鎖的な市場であ
ることから直接的に国際金融市場に悪影響を及ぼす事態は想定しにくい。ただし、昨年夏場や年明け直後の国
際金融市場の動揺の基点が中国市場における稚拙な対応であったことを勘案すれば、リスクが表面化した際の
影響は無視し得ない。その意味では、中国当局にとっては実体経済のみならず、金融市場における過剰問題に
も適切に対応することが求められる難しい事態に直面していると判断出来よう。
以
上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判
断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一
生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。