News Release 平成28年9月8日 香川大学教員の研究成果について 脳の「行き過ぎ」を抑えるしくみを発見 〜 自閉症スペクトラム障害(ASD)の病態解明に道 〜 香川大学医学部の山本融教授・徳島文理大学香川薬学部の岸本泰司教授・ブリティッシ ュコロンビア大学医学部(カナダ)の Yu Tian Wang 教授・Ann Marie Craig 教授らの研究グ ループは、神経細胞同士の接続(シナプス)が作られ過ぎないように調節しているしくみ を突き止め、このしくみが働きにくくなると、脳の神経細胞が過度に興奮してしまうよう になるとともに自閉症スペクトラム障害(ASD)とよく似た社会性行動の変化が生じる ことを、マウスを使った実験で明らかにしました。ASDの病態は一様ではなく、様々な 要因で発症に至ると考えられていますが、今回の研究成果はこうしたASDの病態解明と 治療戦略の探索に役立つことが期待されます。なお、この研究結果は9月7日付け(現地 時間)の米科学誌「ニューロン」に掲載されます。 【研究結果の概要】・【研究の背景】・【研究の成果】・【発表論文詳細】を別紙に記載して おりますのでご参照下さい。 お問い合わせ先 〈研究について〉 香川大学医学部医学科分子神経生物学 教授 山本 融 E-mail: [email protected] 〈香川大学・医学部および広報について〉 香川大学医学部総務課 広報・法規担当 小野 Tel: 087-891-2008 FAX: 087-891-2016 E-mail: [email protected] 【研究結果の概要】 神経細胞には他の神経細胞からの接続(シナプス)を介して「やすめ」 神経細胞には他の神経細胞からの接続(シナプス)を介して「やすめ」 「はたらけ」という指令が送 られていて、そのバランスは適正に保たれています。MDGA2はシナプスが作られ過ぎないよう にする役割を果たしており、その働きが鈍くなると興奮性シナプスが過剰になり、脳の神経細胞の 興奮が「行き過ぎ」た状態になってしまいます。そして、そのようなマウスでは社会性行動がうま くできなくなるASDによく似た症状が現れるようになりました。 【研究の背景】 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、成人有病率が1%にもおよぶ「よくある」病 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、成人有病率が1%にもおよぶ「よくある」病気のひとつです。成 人して周囲からの社会的要求が高まるとともに対応 人して周囲からの社会的要求が高まるとともに対応に困難を感じて受診・診断されることもあり、個人への ・診断されることもあり、個人への ストレスが増加傾向にある現代社会において、その病態解明と治療法の探索は重要な課題のひとつです。近 年、神経細胞を興奮させる興奮性入力と、神経細胞の興奮を静める抑制性入力とのバランス(E/I ( バランス) の偏りが原因の一つとして注目されており、ASDでは、脳神経の過興奮によっておこる されており、ASDでは、脳神経の過興奮によっておこる てんかん がしば しば併発することから、脳の神経細胞の興奮の「行き過ぎ」が、その病因の一端にあることが推定されてい 発することから、脳の神経細胞の興奮の「行き過ぎ」が、その病因の一端にあることが推定されてい ます。そのようになってしまう機構の一つとして、興奮性入力をおこなう神経細胞間接続である「興奮性シ ます。そのようになってしまう機構の一つとして、興奮性入力をおこなう神経細胞間接続である「興奮性シ ナプス」が作られ過ぎてしまうことが想定 過ぎてしまうことが想定されますが、私たちの脳の中で、どのようにしてシナプスを作ら されますが、私たちの脳の中で、どのようにしてシナプスを作ら せ過ぎないようにしているのかは、分かっていませんでした。 いるのかは、分かっていませんでした。 【研究の成果】 研究グループは、脳の神経回路網がどのように形づくられていくのかを研究する過程で、MDGA2(エ ムデージーエーツー)という膜タンパク質を見出しました。解析を進めたところ、MDGA2は、シナプス を作る際に重要な役割を果たしているニューロリギンという膜タンパク質と結合してその働きを邪魔する ことにより、シナプスが作られ過ぎないようにしている、ということが分かりました。そこで、MDGA2 の量を通常より減らすように遺伝子改変をおこなったマウスを作製して解析したところ、興奮性シナプスが 過剰に形成されていて、脳内の神経細胞が過度に興奮していることが明らかになりました。さらに、このマ ウスの行動を調べたところ、同じ行動を繰り返し、他のマウスに対してコミュニケーションをとらず関心も 薄い、などのASDに類似した行動変化が認められました。この時、置物などの普通の「モノ」に対する関 心は、むしろ通常のマウス以上に認められたことから、このマウスの「無関心」は社会性行動に選択的であ ることが推測されました。これらのことから、MDGA2は興奮性シナプスがやたらと作られ過ぎないよう にすることにより脳の神経細胞の興奮の「行き過ぎ」を抑えており、その機能がおかしくなると、ASDに おいて見られるような社会性行動の変化が引き起こされることが示されました。 本研究によりASDの分子病態の一端が明らかになるとともに、その治療戦略を探っていく上で役に立つ ツールを手に入れることができました。また、E/I バランスの偏りは、統合失調症などの精神神経疾患でも 確認されており、今後こうした疾患の理解や治療にも役立っていくことが期待されます。 【発表論文詳細】 掲載誌名:ニューロン 9月 7 日付け掲載(Neuron 91, 1052-1068; doi: 10.1016/j.neuron.2016.08.016) 論文題目:Altered Cortical Dynamics and Cognitive Function upon Haploinsufficiency of the Autism Linked Excitatory Synaptic Suppressor MDGA2. 論文著者:Steven A. Connor*, Ina Ammendrup-Johnsen*, Allen W. Chan*, Yasushi Kishimoto*, Chiaki Murayama, Naokazu Kurihara, Atsushi Tada, Yuan Ge, Hong Lu, Ryan Yan, Jeffrey M. LeDue, Hirotaka Matsumoto, Hiroshi Kiyonari, Yutaka Kirino, Fumio Matsuzaki, Toshiharu Suzuki, Timothy H. Murphy, Yu Tian Wang, Tohru Yamamoto, Ann Marie Craig (星印:共同筆頭著者 下線:責任著者) この研究は日本学術振興会科学研究費助成事業および香川大学医学部大学間連携支援事業の助成を受けま した。
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