マイクロファイナンスを機能させる条件について 岡山大学 西垣鳴人 本稿の目的は、従来別々に議論されてきたマイクロファイナンス(Microfinance、 以下、MF)に関する理論と経験的懐疑論とを噛み合わせることによって、MF が抱える課題の本質的部分を抽出し、それに照らし日本を含む先進国で MF を 問題なく機能させるための政策的条件を導くことである。 第 2 節では一般的な金融仲介理論に基づいて、MF(特にグループ融資)が非 対称情報問題を解消し金融仲介機能を正常に果たすためには、連帯保証率等の 借り手ペナルティーが金利に対して一定水準以上を確保できることが必要だと いう条件を示した。 第 3 節では前節における議論を土台にして、MF に対する諸批判を①行き過ぎ た商業化、②ローン過剰供給と多重債務、③貧困削減機能に対する懐疑の三つ に類型化し、このうち②過剰供給による市場飽和によって第 2 節で求めた条件 が満たせなくなり MF 金融仲介が機能不全に陥ったこと、それを加速・増幅さ せているものが①商業主義であること、③懐疑論の対象は融資の単独サービス にのみ当てはまることを示した。 第 4 節では以上の考察に基づいて、MF を金融仲介手段として機能させる条件 として、連帯保証率をはじめとした借り手に対する金銭的なペナルティーに対 して、モラルハザード問題に対処可能な(金利に見合った)設定がなされよう に当局による監視と指導が行われるべきであると結論した。また貧困対策機能 について、少なくとも単純な融資サービスではなく、貯蓄や保険といった基礎 的金融サービスをはじめとして、専門家の助言や教育を含んだ総合的な貧困対 策事業としての MF に一定の可能性を見出した。
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