今月の本誌 - ゆく春俳句会

恋
空
敵
居
蟬
る
ら
し
金
魚
鉢
の
乱
愚 痴 ひ と つ 酢 づ け に し た り 心 太
釣 忍 ひ と 揺 れ す れ ば 声 澄 み て
不意打ちの雷鳴あればミスショット
空 蟬 の 幾 日 経 し や 幹 の も の
走 り 根 の か ら み し 岩 の 滴 れ る
一 巻 を 風 に 閉 ぢ さ せ 夕 端 居
真 夏 日 と い ふ 自 堕 落 を 持 て 余 す
内 山 眠 龍
1
草 笛 集
井 村 美智子
白がすり
岩 永 紫好女
贔屓する教師ありけり白絣 星祭
少 年 に 丸 刈 映 り 白 絣 昆布干す砂利につまづき揃へけり
志 す と こ ろ 聞 き た し 白 絣 夕焼やラベンダー丘に愛の鐘
月涼し翅あるものが池に浮き
予科練の碑に満天の星涼し 川 又 曙 光
星祭余生のために願ひごと 短 夜 や 星 占 ひ の 後 引 き て 滝
案の定汗にまみれて部活の子
山 田 瑛 子
磊落の韻き美わし那智の滝 認知症かとおそれる日夏の呆け 滝飛沫目には見えねど頬に来る 夏
年経ても好み変らず藍浴衣 滝落とす地軸の搖れのとどまらず
花石榴しじまへ赤き歯をこぼす 油 照 り 車 の 走 る 街 の 音 トマトの朱おきて真白き皿の黙 こんなにも夏痩せとなる友に泣く
訪ねたる頃は平和や巴里祭 4
草 笛 集
岐阜提灯
村 上 博 幸
古都暮るる夕焼に藍注ぎ足して 三代の男子の似しや岐阜提灯
秋 燈 や 人 に 渡 り し 家 の 門
山車動く屋根に見張りの鳶立てて
秋の雲延長からのゲームなる
しき(夜光虫) 髙 橋 純 子
葭簾掛け誰を遠慮の大欠伸 あどけなき横顔もあり三尺寝
古蚊帳の古さ惜しみて捨てられず
空の星海のしきある浜に酔ふ
忍者てふ日除スタイル見ないふり
打水
た
新 美 久 子
野佛に誰が手向けしか夏の花 打 水 の 先 に 輝 く 未 来 あ り
鈴 木 良 子
走馬灯この世の憂さを廻しをり 花 氷 恋 の 焔 に 溶 け ゆ け り
蜜 豆 や 十 人 家 族 み な 育 つ
青簾
我が影を行くほかは無しサングラス
サングラス見栄も誇りも焼かれたり
サングラス負けぬ女性の厚化粧 読 書 よ り 眠 り に 誘 ふ 青 簾
炎 涼 を 分 か つ 一 枚 青 簾 5
草 笛 集
船涼み
地元の伝統行事
大 津 浩
田の見えぬ街を松明虫送り 船涼みデッキ席より埋りけり
蓮見会写真スポット開放し 鬼 灯 市 美 声 の 女 子 襷 掛 け
植 村 文 彦
浴衣の句作りに巡る百貨店 夕立
石切りの曳きし轍や新樹光 籐椅子のひとつは主の手擦れかな
夏萩や底抜け井戸のいはれなど 夕立や止むの止まぬの軒宿り
青簾遠くシュプレヒコールかな 合歓の花
倉 林 潮
サングラス海老ぞりに発つ飛機を追ふ 夜更けても赤き吐息の夏の月
里山の夕暮空や合歓あかり いつのまに先頭変はる夏の霧
夏のれん鼻から先に店に入る
柳家小満ん師匠の俳句
文月の
二十八宿
よろずよし
小満ん
6
◆この一句(八月号より)
語らうは戦後の暮らし豆の飯
大 和 尋 人
久し振りに戦中戦後の食料難時代を思
い 出 し ま し た。 私 は 大 正 十 四 年 生 れ、 姉
弟 九 名 姉 は 他 界 を し ま し た が、 八 名 は 今
も 健 在、 床 に 就 い て い る 者 も い ま せ ん。
年 に 一 度、 正 月 に 旭 川 の 料 理 屋 で 逢 っ て
画家 谷川 潔さんを悼みて
室積 昭二
表紙絵の阿蘇の山容は谷川潔さんに依る。
いつも池上のお宅に伺うと柔かい光の差込む
部屋のピアノの前で、快活で気さくな姿で接
して頂いた。その谷川さんが六月二十一日に
突如、不帰の客となられた。奥様の「何とか
生かして下さい」の祈りも叶わずに。合掌。
ゆく春通巻千号表紙は徂春の書となった。
徂春
春雨や雉子の巣ぬるる乱れ萱
それが句となって美的な深紅色で飾られた。
此れを喜ばれた。青年期に郷里軽井沢の森
を歩かれた。木漏れ陽の草叢に見た雉子の巣。
い る。 料 理 が 良 け れ ば 昔 の 暮 し の 話 が 飛
び出してきます。
色々な豆飯を食べたが、「手亡」と言う
白色の豆は高級生菓子や羊羹に使用され
み旅立たせよ」とあり涙で従われた。その奥
風呂敷包みに思わぬ遺書があった。それに
「好きな絵のカンバスを切り取り己の体を包
様も治療の予後で発作が怖い。谷川さんは昼
る が、 ご 飯 に い れ る と 実 真 に ま ず い 記 憶
が 今 に 残 っ て い る。 現 実 に 自 分 で 味 わ っ
昭二
夜ウオッチされていた。ご養生を祈る次第。
註 谷川さんのプロフィルは正月号拙稿参照。
池上や君も入寂緑蔭に
た事をこの句で確かめています。
川崎春浪 選評
九月号担当 大和尋人
7
春 雷 集
東 京 佐 藤 恵美子
子螳螂寸にも満たず鎌を研ぐ
蜘蛛の子の命ひとつを持ちて散る
横 浜 本 間 辰 也
若竹の目の撫で上げる節目かな 血縁のいつしかうすれ苧殻焚く 良き男ひとり交へて星祀る 朝にはこときれてゐる蛍かな
たゆたひて海月は永字八法に 引き際の男振りなる大夕立 東 京 山 縣 文
黒南風や浜に魚骨の累々と 畦に這う蛇の目悲し大落暉 小さくとも大空写す泉かな 海の日や夢捨てし学徒思いて
隠し事などありません夏の海
海老名 和泉屋 石 海
梅雨雲や齢の所為と言はるるも 七 夕 や 億 光 年 も 先 の こ と
日焼して溢るる笑みや新選良 花氷小さき手形の三つ四つ 夕焼や海みる顎を掌に乗せて 写生子の視線奪ふや夏の蝶 旭 川 福 士 あき子
雲涼し岩肌を割る小さき花 夏蝶の上下左右のうねりかな 白靴のけして走らず振り向かず 仙 台 及 川 紀 子
駒 草 の 山 気 漂 ふ 紅 少 し な ほ 紅 く 離 農 家 屋 の 立 葵 五感てふ宝持ちゐて夜の秋 祝婚の鐘の流るる青葉の香 少し風重たくなりし茅の輪かな 札 幌 諸 中 一 光
真夏日の十に足らざる溽暑来ぬ 梅雨明を待たで朗報届きけり
煮昆布にさんせう利かす半夏かな 水茎の美しき貼り紙水羊羹 8
炎天のライブの痕跡白けむり 七夕の重き短冊そっと結い ホノルル 森 山 弘 子
英霊の墓地いちめんに曼珠沙華 虫も魔も近づけるなと唐辛子 野外フェス素知らぬ顔で赤蜻蛉 戯れに食みし稲穂や通学路 鉢植えは部屋に寄り添い台風来 今日の秋一息つきし富士の山
川 崎 井 上 武
北 向 き に 横 た ふ 兄 の 白 絣
新藷の蒸せど土の香残しをり 脳 奥 に 兄 の 井 桁 の 白 絣 草 原 に 五 体 預 け て 夏 の 空
夏の山両手広げてゐるやうな
東 京 荒木きんたろう
泣 き 笑 ひ 俳 句 人 生 天 高 し 馬耳東風上下左右に吾亦紅 月 光 に 寝 間 白 々 と 十 三 夜 三界の音入り混じる虫時雨 黴と云ふ格の付いたる古書の棚 さま
磔に架けたる様に 蛸 干 さ る かみ
その上は深窓の歌人紙魚キラー
苦い嘘吐ききて縁の涼みかな
横 浜 高 久 靖 人
たつぷりの空に酔うたり黒揚羽 大仏の座して立たざる大暑かな 肩ひぢを張つて行く奴げんごらう
美しきままに消え去る夏帽子 もう過去の色となり遠花火 札 幌 木 村 洋 平
百日紅ムンクのような樹皮の色 わが町のターシャの門に半夏生 大空に飛び立ちそうなアガパンサス
虹低く横たえている美瑛かな
廃屋と見えて水打つ支度あり
亀 田 浩 代
東 京 草むしり張り裂けそうな袋束
泳げねど潮浴びたくて裾捲る
汗の引く間もなく事務所の電話取る
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