今月の本誌 - ゆく春俳句会

五
輪
コ ス モ ス や 極 彩 色 の 風 模 様
箱 根 路 に 尾 灯 を 追 ひ し 霧 襖
甲 子 園 五 輪 に 隠 れ 夏 の 果 て
す て て こ の 一 言 居 士 の 罷 り 出 る
乱 読 や ね ぢ れ て 廻 る 扇 風 機
炎 ゆ る も の 夢 裏 返 す 五 輪 か な
蟬 時 雨 よ り 早 起 き や 今 朝 の 贅
武 田 節 舞 ふ 少 年 の 涼 し さ よ
内 山 眠 龍
1
草 笛 集
富士登山回想
山 田 瑛 子
大厄を祓ふ発起や富士登山 燕の子
川 又 曙 光
風鈴の風つよければ吃りけり 子燕ら巣立ちこぼれんばかりなり
燕 の 子 顔 の 八 割 口 に し て 感 嘆 の 声 と 祈 り や 御 来 光
学童の疲れ知らずや富士登山
村 上 博 幸
花水木ひらひらと白驕りおり 異次元の世界にしばし富士登山 リオ五輪
蛤のこえたてひらく焰の青き 岩 永 紫好女
山の日の今日穏やかと祈りけり 南風吹く新郎新婦はエンジニア 祈り
鈍行をホームに待てば端居めく 原爆忌五輪歌遠く聞きながら
原爆忌五分の魂持ち得ずに 今住める土地が故郷送りまぜ 原爆忌地上に色の無かりしと
共同募金天使に付けてもらふ羽根
カサーシャにレモンを絞りリオ五輪 原爆忌何事も無く市電行く 昔居し辺りをさがす今朝の秋
4
草 笛 集
夏帯
髙 橋 純 子
蟬時雨
大 津 浩
蟬 時 雨 大 海 知 ら ぬ 者 同 士
秋立つやきのふとちがふ池の波 夏帯やするりほどいてちりぬるを
夏帯やうなじ仄かに匂ひ立つ
植 村 文 彦
鰯雲ソーラーパネル並ぶ丘 手も足もすべて艶やか風の盆
抜け道は昼間も暗し法師蟬 小指もて後れ毛絡め絽の女 花火果て闇に呆けて戻りけり
はやけふは孫の背抜きし花芙蓉 芸舞妓稽古上がりや白浴衣 秋扇
遠 花 火 夜 空 彩 る 江 戸 の 粋 庇上げ移動図書館片かげり 新 美 久 子
虹消えてにぎりし銭の固さかな ご 講 演 前 の 忙 し き 秋 扇 秋の日や祝ひ太鼓のバチの飛び 貝風鈴
長老のそーれそーれと秋祭 花火果て残りし闇の深ぶかと
貝風鈴掛ければ波の音聞こゆ
高原の風早や秋を運び来る 5
草 笛 集
柳家小満ん師匠の俳句
秋風や
倉 林 潮
滴りや地層に貝の一かけら 遠き船出の
砂浜の下駄に尻置く紺浴衣 望夫石
踊の輪
踊 の 輪 黒 々 囲 む 樹 々 百 鬼 浮 草 の 群 離 れ を り 一 欠 片 井 村 美智子
虫集く仙石原の夜更けかな 稲穂
新 生 姜 齢 相 応 の 夕 厨
螻蛄鳴くや珈琲匂ふホスピス棟 秋めくや兄が土産の大吟醸 炎 昼 や 公 園 静 寂 別 天 地 出揃ひし稲穂の郷を訪ひにけり 小満ん
6
◆この一句(九月号より)
蜘蛛の子の命ひとつを持ちて散る
本 間 辰 也
夕 暮 れ 時、 蜘 蛛 の 囲 作 り は 楽 し い も の
で、 終 わ る ま で じ っ と 見 て い た こ と が あ
り ま す。 蜘 蛛 は 子 供 の 頃 の 遊 び 相 手 で し
リアル句会
九月三日(土)
博幸報
於 TEORIYA
兼題 初秋の季語一切(特に爽やかさを
感じさせるもの:
沙 羅
ゆり子
イリコ
千 鶴
武 博 幸
「流星」
「秋の色」
)
課題として「鰯雲」
発車音振る手をくぐる鰯雲
秋祭太鼓にはねる吾子の帯
流星の降る音すらむ風の嶺
風抜けるコスモス畑どこまでも
台風を逃れ来し雲行列す
こほろぎやアビーロードの奥からも
た。 巣 立 つ 蜘 蛛 の 子 が 巣 袋 か ら 散 り 散 り
当日は急な休日出勤のため三名が欠席。働
き盛りの多い会ゆえのことで、仕方ありませ
ん。 一 方 句 会 で は、「 人 生 の 今 」 で な け れ ば
詠めない、 といったユニークな 題材が多く、
そうした句に点も集まりました。こちらも多
忙なメンバーならでは。この会の最大の特色
は、合評後、更に改作の時間を取るところで
す。すると、独りよがりだった句が、優れて
鑑賞に耐える姿を持ちはじめます。それにし
ても、各自の句柄が、その人なりのカラーを
持ち始めているようで、句会も成長している、
と感じられました。
に出ていく様は見事と言う他ありません。
そ の 散 り 行 く 個 々 が「 命 を 持 っ て 」 と
観 察 さ れ た。 改 め て 生 き る こ と、 命 と い
うものを教えられた様な気がします。
今、 信 州 信 濃 山 国 育 ち の 少 年 時 代 に 帰
り楽しんでいます。有難うございました。
大和尋人 選評
十月号担当 本間辰也
7
春 雷 集
海老名 和泉屋 石 海
炎天を来て井戸水で足洗ふ 肌脱ぎの女にもある小さき文字 横須賀 渡 辺 伊世子
古釘のごとく蚯蚓の打ち置かれ 羅は映えぬパワフル女たち 満 身 の 喜 び 溢 れ 金 の 汗 潮の香や裸足で買物できる店
肩上げの浴衣走れば下駄の鈴 マリーナの波滾らせて日雷 前 橋 金 田 葉 子
雲真白けふ夏山となる赤城 山の日の次は空の日御巣鷹忌
山女魚釣り迫り出す岩を踏まへけり
横 浜 本 間 辰 也
盆ダンスかざす手振りの花もよう
夜開花やしらぬ間に咲きしぼみたり 金雨花や歩道に散りしき金の道 梔子の仄かなる香よ君はいま
マンゴーの味さわやかに舌に消ゆ
ホノルル 川 野 富 美
コロッケの揚がる店先西日どき おしよろ様ほほづき添へて売られたる 金 管 の 唇 熱 き 甲 子 園
岩清水光もろとも掬ひけり 水を打つ桶に重なる光かな 旭 川 福 士 あき子
逝く夏や薄き体の置きどころ
小さき子の大き願ひや星まつり 鰯雲仮設舞台の組み上がる ジャズ祭の準備に間あり昼の虫 紙 鍋 に 点 火 重 陽 旅 行 会 東 京 佐 藤 恵美子
人の世の廻り舞台や走馬灯 夕刊のはや配られて花火の日 踊唄もの哀しさも卑猥さも ほんのりと気色見え初む酔芙蓉 先生のひいきが見えぬ休暇明け 8
若僧の折目涼しき作務衣かな 椅子一つ占領したる夏帽子 啼くときも泣くときもあり蟬時雨 空蟬の夕陽にしがみつくかたち 手のひらに囲う蛍の暖かさ 大杉に倚りて浴びおり蟬時雨
美 深 松 浦 券 月
星 雫 大 河 と な る か 天 の 川 道の駅お化け南瓜の品評会 花野ゆく生きて戻れる所まで 山の秋魚籠一杯に帰りけり 仙 台 内 海 登代子
散水に猫のとび出す青鬼灯 晩夏なり高齢の街音もなく オバマ師の折り鶴添へて原爆忌
原爆忌裂け目残りし大公孫樹
墓 詣 達 成 し こ と 胸 張 っ て
泳ぎ切る意志の強さや天の河
曼珠沙華九転十起の我が人生
幼 子 の 横 一 線 や 茄 子 の 馬
蕨 白 川 喜 彦
紅生姜天ぷら旨き酒のつま ローマより届く祈りや原爆忌
原爆忌手帖持ちたる友のゐて 原爆忌祈る手の皺深きかな 東 京 大 神 柚 津
灯を消して虫の宴に耳をかす
松宵草ひとり雨乞いしてみたり 庭花火子等の帰省のあればこそ 揚げ花火音と瞼の居ながらに
石 井 和 子
秋 田 箱眼鏡サンゴに青きさかな群れ 雨上り蓮の葉揺れて水零れ 夏 の 霧 消 え 蒼 々 と 太 平 山
ちから果てころがる蟬に集る蟻 いつのまに庭木に絡む灸花 大 和 尋 人
厚 木 涼しさや清流あずさ河童橋 深 淵 の 夏 の 星 空 上 高 地 老 鶯 の 朗 々 故 郷 の 渓 深 し
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