リサーチ TODAY 2016 年 9 月 1 日 今年は想定外、9月は下期に向け計画下方修正の季節 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 例年、お盆を過ぎると「back to school」(新学期準備)ということで、各企業・投資家が下期に向け計画修 正を行う時期となる。毎年、想定外のことが生じるので、企業や投資家には下期に向けて計画を修正するこ とがつきものだ。しかし、今年の場合、例年以上に大きな修正が必要なのではないか。数年かけて作成して きた中期経営計画そのものの前提が大きく変わってしまったケースも多いのではないか。そもそも、年初に 2016年全体を展望して英国のEU離脱(Brexit)を予想した人はどのくらいいただろうか。米国の大統領選で トランプ氏が共和党の大統領候補になると予想できただろうか。日本では、東京都知事選があることなど誰 も予想していなかったし、消費増税の先送りも予想していなかった。 下記の図表は過去10年余りのドル円相場と想定為替の推移だが、アベノミクスの大前提であり、2012年 後半以降3年続いた「円安・株高」の追い風の潮流が、今年は「円高・株安」の逆風となってしまった。この 大きな転換は、日米欧の先進国中心に想定外の減速が生じたことに加え、政治面でも不確実性が高まっ ているために起きている。今月の日銀の「総括的な検証」も、この環境下で事実上の計画変更が迫られたこ とによるものだ。 ■図表: ドル円相場と想定為替 130 (円/ドル) 想定為替レートより円高水準に 120 110 100 90 ドル円相場 想定為替レート 80 70 05/4 06/4 07/4 08/4 09/4 10/4 11/4 12/4 13/4 14/4 15/4 16/4 (年/月) (注)想定為替レートは日銀短観の大企業・製造業ベース。上期は 6 月調査、下期は 12 月調査時点。 (資料)日経 NEEDS、日本銀行よりみずほ総合研究所作成 アベノミクスは三本の矢により為替の円安政策による株高の好循環をもたらしたとされるが、実際には、米 1 リサーチTODAY 2016 年 9 月 1 日 国の為替スタンスが2012年末に、それまでのドル安誘導からドル高容認に転じたから円安が進んだのだ。つ まり、米国サイドからの「助け船」に乗って、その流れを加速し「円安・株高」の好循環を演出することをアベノ ミクス第一の矢である日銀の金融緩和が担ったのである。米国からの追い風が未来永劫続くものではない訳 だが、米国がドル高を許容している猶予期間のなかで日本は「短期戦」を行い、市場にサプライズを与える 「奇襲攻撃」でデフレマインドを払拭しようとした。このトレンドが、2013年~2015年までは続いた。しかし、 2016年になって米国が為替スタンスを転換した以上、従来の「短期戦」の「奇襲攻撃」は続けられない 2016年初のコンセンサス・シナリオを思い出してみよう。2015年は世界をけん引した中国を中心とした新 興国発の経済変調の不安が生じた年だった。日米欧の先進国では、2007年以降にサブプライム問題、リ ーマン・ショックを契機に大恐慌以来最大のバランスシート調整が続いたものの、新興国にけん引されなが ら漸く立ち直る期待が生じていた。2016年は、たとえ新興国は問題を抱えても、先進国がようやく出口を迎 える端境期に入り、新興国から先進国へのバトンタッチの局面という期待が市場に共有されていた。その象 徴的な回復シナリオが米国の利上げで、2015年12月にFRBは利上げを行った。しかし、米国では利上げ があったものの、長期金利は一転して大幅に低下し、さらにドルも大幅に下落した。今後、米国が再び利上 げをしても同様の事態が生じる可能性がある。下記の図表は先進国と新興国の合成PMIの推移である。年 初、新興国は停滞の不安を抱える一方、先進国では回復が期待された。しかし、現実には先進国は停滞し 長期停滞の罠に陥っている。一方、新興国が回復に向かったのには、米国のドル安転換により新興国の 通貨安の不安が後退した面が大きい。世界全体でみると、経済を底上げさせる政策協調が不在で、政治 的にも不確実性を高める要因が山積しているため、停滞の長期化を覚悟する必要がある。当面、日本は想 定外であった円高を覚悟する必要がありそうだ。本日から9月になったが、下期に向けて計画の下方修正 のための会議が必要な組織が多いのではないか。 ■図表:先進国と新興国の合成PMI 58 (Pt) 世界 先進国 新興国 56 減速 拡張 54 ← 景気 52 停滞 50 →縮小 48 2013 14 15 16 (年) (資料)Markit よりみずほ総合研究所作成 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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