日銀の次回追加緩和は短期・奇襲戦から持久戦へ

リサーチ TODAY
2016 年 4 月 26 日
日銀の次回追加緩和は短期・奇襲戦から持久戦への第一歩に
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
4月27~28日の日銀の政策決定会合では、追加緩和決定の可能性が高いと展望する。その理由として
は次の4点があげられる。第1は、日銀がターゲットとするコアCPIの3月の数字が決定会合の開かれる28日
の朝に発表されるが、下記の図表のように▲0.2%と再びマイナス基調になる可能性が高い。当社の予想
では、年央にかけ▲0.6%まで低下する見通しである。その結果、展望レポートでも物価見通しを下げざる
をえない。第2は、4月1日発表の日銀短観で業況判断が下振れたことだ。第3は、円高と株価下落により
先行きマインドの低下がみられること。第4が、熊本地震によるマインド低下に対処するためである。これら
のような状況下、日銀として追加緩和の姿勢で対応せざるを得ないと展望する。ただし、今後は過去3年の
短期・奇襲作戦から、2020年程度までを展望した持久戦の対応に舵を切ると展望する。具体的な緩和策は、
マイナス金利の強化ではなく、REIT、ETFの拡大、金融機関向け支援のためのマイナス金利貸出や外貨
支援、さらに物価目標の一辺倒から総合判断にシフトし政府の対策との一体化を強めることなどになろう。
■図表:消費者物価の推移と月次予測
(前年比、%)
2.0
見通し
1.5
1.0
0.5
0.0
米国基準コア
-0.5
エネルギー
-1.0
食料(生鮮食品・酒類を除く)
(年/月)
生鮮食品を除く総合
-1.5
14/01
14/07
15/01
15/07
16/01
16/07
17/01
2016年1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
2017年1月
2月
3月
0.0
0.0
▲ 0.2
▲ 0.4
▲ 0.5
▲ 0.6
▲ 0.5
▲ 0.4
▲ 0.3
▲ 0.2
▲ 0.1
0.0
0.2
0.3
0.4
見通し
(注) 内訳は消費税を除くベース。米国基準コアCPIは、食料(酒類を除く)
・エネルギーを除く総合消費者物価指数。
(資料) 総務省「消費者物価指数」よりみずほ総合研究所作成
ところで、筆者が為替について長らくストーリーラインとしてきたのは、「達磨さんが転んだ」という子供の遊
びに例えて、円ドル相場の中期的なトレンドの転換は「鬼」である米国サイドで決まるというものだ。1月に日
銀が行ったマイナス金利政策は基本的に円安を意図したものであったとすれば、「鬼」であるアメリカが円
安を好まない以上、日本がいくらマイナス金利幅を拡大させても円安にはなりにくい。マイナス金利の強化
は引き続き有効な選択肢ではあるが、現局面で効果を発揮しにくいのであれば、日銀は今回敢えてマイナ
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2016 年 4 月 26 日
ス幅の拡大を行わないと展望する。下記の図表は円ドル相場と想定為替レートの推移である。年初来、米
国が為替を10円程度ドル安に調整したことで、2012年10月以来、つまりアベノミクス始まって以来、初めて
想定レートよりも円高という局面になった。アベノミクスによる3年余の改善は、常に想定レート以上の円安
→株高の好循環によりもたらされた。この間は、米国がドル高・円安を黙認していた局面であり、米国サイド
の順風に後押しされた猶予期間のなか、日銀は「短期戦」、サプライズを伴う「奇襲戦」で日本のマインドを
一気に好転させようとした。しかし、米国が一極集中のドル高に耐え切れず、円安黙認から「達磨さんが転
んだ」で円安牽制へ舵を切った以上、日銀には短期戦の構えから作戦を変更して、長期戦を覚悟した新た
な次元の緩和を想定することが必要になった。
■図表:ドル円相場と想定為替レート推移
(円/ドル)
想定為替レートより円高水準に
130
120
110
100
90
ドル円相場
80
想定為替レート
70
05/4
06/4
07/4
08/4
09/4
10/4
11/4
12/4
13/4
14/4
15/4 (年/月)
(注)想定為替レートは日銀短観の全産業、全企業ベース。上期は 6 月調査、下期は 12 月調査の想定レートを参照。
(資料) 日本銀行、Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
日銀の政策決定会合についての展望は、今月初にTODAYで議論した趣旨と変わりない1。今回、購入
する債券の地方債への拡大、社債の範囲拡大は有力な選択肢だ。日銀が金融機関向けにマイナス金利
で貸出を実行することも選択肢になる。こうした対応はECBでもすでに行われている。日本の金融機関や
企業の外貨調達には制約があるため、米ドル特則を活用した外貨での支援も重要な選択肢になるだろう。
政府による外貨調達支援等としては、外為特会のドル資金を活用したJBICの海外展開支援の拡大も考え
られる。「質」の次元では、ETFやREITの拡大等が有力視される。さらに、過去3年の短期戦から、持久戦の
体制に向かう新たなレジームとして目標設定のあり方も再考するのではないか。これまでの日銀の姿勢は、
敢えてインフレ率2%という高めのハードルを掲げ、マインドの改善を一気に行う戦略だった。3年が経過し、
米国側のサポートが薄れている局面にあるなか、日銀には目標を修正しつつ持久戦の中で変化を後戻り
させない守りの対応も必要になる。この場合、物価目標に加え、賃金目標や名目成長率目標を掲げ、政府
との一体感を改めて演出することも選択肢になる。5月のサミットを展望すると、日銀の行う金融政策に加え
て、政府の財政政策や成長戦略も含めた総力戦、持続的効果をもつ緩和策など、改めて長期にわたる時
間軸を設定すること等も考えられる。今回の日銀の政策決定会合は政府との一体性も考慮するなど重要な
ものになると展望する。
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「黒田日銀 3 年、米国風向き転換で我慢の局面、新たな次元の模索に」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』
2016 年 4 月 6 日)
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