1/5 ASIA Indicators 定例経済指標レポート 中国、製造業 PMI は再び 50 超も不透明感残る(Asia Weekly (8/29~9/2)) ~インドネシアのインフレ率は6年半ぶりの水準に一段と低下~ 発表日:2016 年 9 月 2 日(金) 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹(03-5221-4522) ○経済指標の振り返り 発表日 結果 コンセンサス 前回 8/29(月) (香港)7 月小売売上高(前年比/数量ベース) ▲8.5% ▲7.4% ▲9.6% 8/30(火) (タイ)7 月製造業生産(前年比) ▲5.1% +0.3% +1.4% 8/31(水) (韓国)7 月鉱工業生産(前年比) +1.6% +0.4% +0.8% (インド)4-6 月期実質 GDP(前年比) +7.1% +7.6% +7.9% (韓国)8 月消費者物価(前年比) +0.4% +0.7% +0.7% 8 月輸出(前年比) +2.6% ▲0.5% ▲10.3% 8 月輸入(前年比) +0.1% ▲2.2% ▲13.6% 50.4 49.8 49.9 (インドネシア)8 月消費者物価(前年比) +2.79% +3.02% +3.21% (タイ)8 月消費者物価(前年比) +0.29% +0.43% +0.10% (韓国)4-6 月期実質 GDP(前年比/改定値) +3.3% +3.2% +3.2%※ 9/1(木) 指標、イベントなど (中国)8 月製造業 PMI 9/2(金) (注)コンセンサスは Bloomberg 及び THOMSON REUTERS 調査。灰色で囲んでいる指標は本レポートで解説を行っています。※は改定値。 [中国] ~製造業PMIはともに 50 超となるも、先行きに不透明感がくすぶる状況は依然として残る~ 1日に国家統計局と物流購買連合会が発表した8月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は 50.4 となり、 前月(49.9)から+0.5pt 上昇して2ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる 50 を上回る水準となった。足下の 生産動向を示す「生産(52.6) 」は前月比+0.5pt 上昇しているほか、先行きの生産に影響を与える「新規受 注(51.3) 」も同+0.9pt 上昇し、 「輸出向け新規受注(49.7) 」は 50 を下回るものの同+0.7pt 上昇しており、 内外需の底入れが生産拡大を促している様子がうかがえる。受注が回復しているにも拘らず「受注残(45.0)」 は前月比▲0.5pt 低下しているほか、 「完成品在庫(46.6)」も同▲0.2pt 低下しており、先行きの回復が続く かは不透明な状況にある。また、 「雇用(48.4) 」は前月比+0.2pt 上昇しているものの、依然として雇用調整 圧力がくすぶっていることを示唆しており、内需の行方についても不透明感が残るとみられる。なお、生産が 回復した背景には、長江流域で発生した大洪水による悪影響が一巡したことに拠るとの見方はあるものの、こ うした傾向が続くかは上述の通り不透明と判断出来る。 一方、同日に英調査会社の Markit 社が発表した8月の財新製造業PMIは 50.0 と2ヶ月連続で好不況の分 かれ目となる 50 を維持したものの、前月(50.6)から▲0.6pt 低下しており、前月の大幅回復に早くも一服 感が出ている。足下の生産動向を示す「生産(51.6)」は前月比▲0.5pt 低下しているほか、先行きの生産に 影響を与える「新規受注(50.6) 」も同▲0.6pt、 「輸出向け新規受注(49.3) 」も同▲0.2pt 低下しており、政 府統計同様に内需に底堅さがうかがえる。また、 「受注残(52.0) 」は 50 を維持しているものの前月比▲1.1pt 低下している一方、 「完成品在庫(50.3) 」は同±0.0pt と横這いで推移しており、前月の生産拡大にも拘らず 在庫の積み上がりには繋がっていない模様である。 「雇用(47.1) 」は前月比+0.3pt 上昇しているものの、依 然として 50 を大きく下回る水準に留まっており、雇用調整圧力はくすぶっている。 また、同日に国家統計局と物流購買連合会が発表した8月の非製造業PMIは 53.5 と引き続き 50 を上回る 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2/5 推移が続いているものの、前月(53.9)から▲0.4pt 低下している。先行きの動向に影響を与える「新規受注 (49.8) 」は2ヶ月連続で 50 を下回っている上、前月比▲0.1pt 低下しているほか、 「新規輸出(48.8)」は同 +1.3pt と大幅に上昇しているものの、依然として 50 を下回っており、先行きにおける下押し圧力が懸念さ れる。また、 「繰延受注(43.0) 」は依然として 50 を大きく下回るなか、「在庫(45.5) 」も悪化が続くなど厳 しい状況が続く可能性は高い。 「雇用(49.1) 」は前月比+0.6pt 上昇するなど改善の兆候は出ているが、依然 として 50 を下回っており、全体として雇用調整圧力はくすぶっていると捉えられる。 図 1 CN 製造業 PMI の推移 (出所)国家統計局, Markit より第一生命経済研究所作成 図 2 CN 非製造業 PMI の推移 (出所)国家統計局, Markit より第一生命経済研究所作成 [インドネシア] ~食料品を中心に物価上昇圧力が後退しており、インフレ率は6年半ぶりに2%台に~ 1日に発表された8月の消費者物価は前年同月比+2.79%となり、前月(同+3.21%)から一段と減速して 2009 年 12 月以来となる3%を下回る伸びとなった。前月比も▲0.02%と前月(同+0.69%)から4ヶ月ぶり に下落に転じており、エネルギー価格は上昇基調を強める動きが続いている一方、野菜や果物といった生鮮食 料品を中心に物価が下落するなど食料品価格が下落していることが影響している。なお、食料品とエネルギー を除いたコアインフレ率は前年同月比+3.32%と前月(同+3.49%)から減速しているものの、前月比は+ 0.36%と前月(同+0.34%)からわずかながら伸びが加速している。消費財については全般的に落ち着いた推 移が続いている一方、堅調な個人消費を中心とする内需を反映してサービス物価には上昇圧力がくすぶるもの の、そのペースは例年に比べて低水準に留まっている。したがって、先行きについてもインフレ率は落ち着い た推移が続く可能性が高まっていると判断出来る。 図 3 ID インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [タイ] ~製造業を取り巻く環境は内需低迷で厳しいなか、ディスインフレ懸念も依然くすぶる展開へ~ 30 日に発表された7月の製造業生産は前年同月比▲5.1%となり、前月(同+1.4%)から5ヶ月ぶりに前 年を下回る伸びに転じた。前月比も▲3.80%と2ヶ月連続で減少している上、前月(同▲0.91%)からそのペ ースも大幅に加速しており、調整圧力が強まっている様子がうかがえる。世界経済を巡る不透明感を背景に輸 出の鈍化が懸念されるなか、主力の輸出財である自動車関連以外にも、電気機械や機械製品などで軒並み生産 に下押し圧力が掛かっているほか、服飾や木製品といった軽工業関連の生産も鈍化しており、幅広い分野で調 整圧力が強まっている。また、内需の弱さを反映して食料品など日用品関連の生産も鈍化しており、先行きの 景気に対する不透明感に繋がることも懸念される。平均設備稼働率は 62.1%と前月(65.0%)から低下して 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3/5 4年半ぶりの低水準となっており、出荷・在庫バランスも一段と悪化するなど、製造業を取り巻く環境は厳し い状況に直面している。 1日に発表された8月の消費者物価は前年同月比+0.29%となり、前月(同+0.10%)から加速した。ただ し、前月比は▲0.04%と前月(同▲0.35%)からペースこそ鈍化しているものの、2ヶ月連続で下落するなど 物価上昇圧力は後退している。生鮮食料品を中心に食料品物価の下落に歯止めが掛かっている一方、年明け以 降上昇基調が続いてきた原油相場に一服感が出たことでエネルギー価格が下落しており、物価上昇圧力の後退 に繋がっている。なお、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+0.79%と前月(同+0.76%) から加速しており、前月比も+0.07%と前月(同+0.06%)から上昇ペースがわずかに加速している。しかし ながら、エネルギー価格の下落に伴う輸送コストの低下で消費財物価は全般的に落ち着いた推移が続いている 上、サービス物価についても景気の先行き不透明感が重石となる展開が続いており、全般的に物価上昇圧力が 高まりにくい状況に直面している。 図 4 TH 製造業生産と設備稼働率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [韓国] 図 5 TH インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 ~輸出は 20 ヶ月ぶりに前年を上回るも依然不透明さは残り、ディスインフレ懸念もくすぶる展開~ 31 日に発表された7月の鉱工業生産は前年同月比+1.6%となり、前月(同+0.8%)から伸びが加速した。 前月比も+1.4%と前月(同▲0.4%)から2ヶ月ぶりに拡大に転じており、底堅い生産が続いている。年明け 以降における国際商品市況の上昇を受けて鉱業部門で生産拡大の動きが広がっていることに加え、製造業の生 産も拡大に転じるなど底堅い動きをみせている。分野別では、主力の輸出財である電子部品や電気機械のほか、 自動車関連などでも生産拡大の動きがみられる一方、造船や衣料品関連などでは減産圧力が根強く残っており、 跛行色が一段と鮮明になっている。さらに、国内景気を巡る不透明感を反映して食料品や飲料をはじめとする 消費財を中心とする軽工業で生産に一段と下押し圧力が掛かる動きもみられるなど、国内・外の景気に対する 見方が生産活動に影響を与えている。平均設備稼働率は 73.8%と前月(72.2%)から+1.6pt 上昇して4ヶ月 ぶりの水準に回復しているものの、依然として低水準であることには変わりがない状況にある。 1日に発表された8月の消費者物価は前年同月比+0.4%となり、前月(同+0.7%)から減速した。前月比 も▲0.14%と前月(同+0.14%)から5ヶ月ぶりに下落に転じており、野菜をはじめとする生鮮品を中心に食 料品価格に上昇圧力がくすぶる一方、年明け以降上昇基調が続いてきた原油相場が頭打ちしたことでエネルギ ー価格が全般的に下落したことで、物価に下押し圧力が掛かっている。なお、農産品と原油関連を除いたコア インフレ率は前年同月比+1.13%と前月(同+1.61%)から減速しており、前月比も▲0.30%と前月(同+ 0.11%)から 11 ヶ月ぶりに下落に転じている。エネルギー価格の低下に伴う輸送コストの下落により消費財 全般で物価上昇圧力が後退していることに加え、教育や医療といったサービス関連でも物価上昇圧力が後退し ており、景気の先行き不透明感がくすぶっていることがディスインフレ圧力に繋がっている。 また、同日発表された8月の輸出額は前年同月比+2.6%となり、前月(同▲10.3%)から 20 ヶ月ぶりに前 年を上回る伸びに転じた。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比では、前月に大きく減少した反動で 2ヶ月ぶりに拡大に転じたが、そのペースは前月の減少の半分以下に留まり、依然として弱含む展開が続いて 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 4/5 いる。最大の輸出先である中国景気に不透明感がくすぶっていることに加え、様々な分野で中国製品との競合 が激化しており、国際金融市場の落ち着きを受けて通貨ウォン相場が上昇基調を強めていることも輸出の足か せになっているとみられる。一方の輸入額は前年同月比+0.1%となり、前月(同▲13.6%)から 23 ヶ月ぶり に前年を上回る伸びに転じている。前月比も2ヶ月ぶりに拡大に転じている上、そのペースは前月の減少大き く上回っており、一服感が出ていた原油相場が再び上昇基調を強めており、輸入額の押し上げに繋がっている と考えられる。結果、貿易収支は+53.03 億ドルと前月(+75.97 億ドル)から黒字幅が縮小している。 2日に発表された4-6月期の実質GDP成長率(改定値)は前年同期比+3.3%となり、先月発表された速 報値(同+3.2%)から+0.1pt 上方修正された。前期比年率ベースでも+3.2%と速報値(同+2.9%)から +0.3pt 上方修正されており、3四半期ぶりに3%を上回る伸びとなっている。政府消費は下方修正されてい るものの、個人消費や固定資本投資が上方修正されたほか、輸出も上方修正されるなどほとんどの項目で上方 修正の動きがみられた。なお、固定資本投資のうち企業による設備投資が下方修正される一方、建設投資が上 方修正されたことで全体として上振れする格好となっている。また、輸出についても財輸出は下方修正された ものの、観光客の来訪などに伴うサービス輸出の上振れが全体としての輸出の上方修正に繋がっている。先行 きについてはインフレ率の低下と低金利の長期化が内需を下支えする一方、外需を巡る不透明感が景気の重石 となる展開が続く状況は変わりがないと予想される。 図 6 KR 鉱工業生産と設備稼働率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 7 KR インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 8 KR 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [香港] ~中国本土景気の不透明感に加え、反汚職・反腐敗運動は高額消費の足かせになっている模様~ 29 日に発表された7月の小売売上高(数量ベース)は前年同月比▲8.5%と9ヶ月連続で前年を下回る伸び となったものの、前月(同▲9.6%)からマイナス幅は縮小している。前月比も+0.15%と前月(同▲1.55%) から2ヶ月ぶりに拡大に転じているものの、基調としては減少基調に歯止めが掛からない展開が続いており、 中国本土景気を巡る不透明感に加え、現政権による反汚職・反腐敗運動も消費の足かせになっている。食料品 などの生活必需品のほか、衣料などの日用品に対する需要は底堅い推移が続いている一方、宝飾品をはじめと する高額消費のほか、家電などに対する需要は大きく落ち込んでおり、売上全体の足を引っ張っている。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 5/5 図 9 HK 小売売上高(数量ベース)の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 以 上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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