日銀版コアコア CPI の上昇率が一段と縮小

景気循環研究所レポート
日銀版コアコア CPI の上昇率が一段と縮小
2016 年 8 月 26 日
円高が日銀版コアコア
CPI の下押し圧力に
物価の低迷が続いている。7 月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合
=コア CPI)は前年比 0.5%下落し、6 月(同 0.4%下落)から下落幅が拡
大した。引き続き、ガソリンなどエネルギー関連品目の下落率が大きいが、
エネルギー関連の下落幅は、6 月(マイナス 12.0%)から 7 月(マイナス
11.3%)にかけて縮小している。一方、コア CPI からエネルギー関連を除
いた「日銀版コアコア CPI」の前年比上昇率は、6 月の 0.7%から 7 月に
は 0.5%に縮小した(図 1)。円高による輸入品価格の下落が、エネルギー
以外の幅広い品目に対する価格の下押し圧力となっている模様である。
「宿泊料」の上昇ペース
が大幅に鈍化
輸入品と競合するモノ(財)の価格に比べ、サービス価格は安定的なプ
ラスの前年比上昇率を維持している。しかし、7 月は「宿泊料」の価格上
昇ペースが大幅に鈍化したことなどもあり(6 月 3.7%→7 月 1.0%)、サ
ービス価格全体の上昇率は 0.3%と、6 月の 0.4%から縮小している。
急減速するインバウンド
訪日外国人の急増に伴う宿泊施設不足を背景に、観光ホテルなどの「宿
泊料」は、14 年から 15 年にかけて急騰した。しかし昨年秋頃から、訪日
CPI
外国人数の増勢が鈍化しており、訪日外国人 1 人当たり支出額の低迷も加
わって、訪日外国人による支出、いわゆるインバウンド消費は減少に転じ
嶋中 雄二
景気循環研究所長
ている(図 2)。こうした中、インバウンド関連品目の価格上昇率も頭打
鹿野 達史
景気循環研究所副所長
運賃、菓子類)の価格をもとに当研究所が算出した「インバウンド CPI」
ちとなっており、主要なインバウンド関連品目(宿泊料、一般外食、鉄道
は、日銀版コアコア CPI に足並みを揃えるかたちで急減速している(図 1)。
シニアエコノミスト
宮嵜
図 1. インバウンド関連の価格が急減速
(前年比、%)
浩
シニアエコノミスト
03-6627-5132
4
3
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
2
福田
圭亮
1
シニアエコノミスト
03-6627-5133
0
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
インバウンドCPI
2015年基準
-1
-2
本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ
き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。
景気循環研究所
東京都千代田区大手町 1-9-2
大手町フィナンシャルシティ
グランキューブ
2010年基準
日銀版コアコアCPI
-3
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(年、月次)
(注1) 消費税率引上げの直接的な影響を除く。
(注2) 日銀版コアコアCPIは消費者物価指数(生鮮食品・エネルギーを除く総合)。インバウンドCPIは
訪日外国人の購入率が相対的に高い4品目(宿泊料、一般外食、鉄道運賃、菓子類)
の価格の加重平均値。
(資料)総務省「消費者物価指数」、日本銀行「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」、
観光庁「訪日外客数・出国日本人数」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気
循環研究所作成
1
2016 年 8 月 26 日
インバウンド消費と為替レートの間には、密接な関係がある。過去を見る
為替レートとインバ
と、円安・ドル高が訪日観光客の増加をもたらすケースが多い。当研究所の
ウンド消費の関係
試算によると、10 円の円安・ドル高によって、訪日外国人は 59.2 万人増加
する(図 3)。加えて、円安は、訪日外国人の日本国内における購買力の増
加をもたらす。したがって、現在の円高に歯止めがかからない限り、既に前
年割れしているインバウンド消費およびインバウンド CPI の前年比上昇率は
一段と低下する可能性が大きく、インバウント CPI に連動する日銀版コアコ
ア CPI も、一段の鈍化を余儀なくされよう。
日銀は 9 月に追加の
日銀は、物価の基調判断において、日銀版コアコア CPI の動向を重視して
量的緩和を実施へ
いる。9 月 20~21 日の金融政策決定会合では、円高による物価の基調悪化に
歯止めをかけるべく、日銀は追加の量的金融緩和に踏み切るとみられる。
図 2. 訪日外国人の百貨店売上動向
(前年比、%)
350
300
訪日外国人の百貨店売上高
購買客数
250
1人当たり購買単価
200
150
100
50
0
-50
14
15
16
(年、月次)
(注)百貨店の免税売上高。
(資料)日本百貨店協会「外国人観光客の売上高・来店動向」をもとに三菱UFJモルガン・
スタンレー証券景気循環研究所作成
図 3. ドル・円レートと訪日外国人の関係
40
30
(前年比、%)
(前年比、%)
60
円安・増加
ドル・円レート(左目盛)
40
訪日外国人数(右目盛)
20
20
10
0
0
-10
-20
-30
-40
-20
10円の円安・ドル高(円高・ドル安)で、
2016年の訪日外国人数は59.2万人増加(減少)
-40
円高・減少
-60
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (暦年)
(注1)16年のドル・円レートは年初から直近までの平均値、16年の訪日外客数は1-7月値をもとに試算。
(注2)ドル・円レートの1%上昇に伴う訪日外国人数の増加率は0.36%。訪日外国人の短期的変動を先進国GDPと
ドル・円レートで説明する回帰分析(誤差修正モデル)をもとに算出。
(資料)日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」、日本経済新聞社資料などをもとに
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
(以
上)
みやざき
ひろし
(16.8.26 宮嵜
浩)
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2016 年 8 月 26 日
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