景気循環研究所レポート 訪日客数の伸び鈍化が物価の下押し圧力に 2016 年 6 月 16 日 訪日客数は 20 ヵ月ぶり の低い伸びにとどまる 訪日外国人数の増勢が鈍化している。政府観光局が 15 日に発表した 5 月の訪日外客数・出国日本人数によると、同月の訪日外客数(訪日客数) は 189.4 万人と引き続き高水準だったが、前年同月と比較した増加数は、 14 年 9 月以来 20 ヵ月振りの低い伸び(25.2 万人)にとどまった(図 1)。 一方、出国日本人数は年明け以降、増加基調で推移していたが、5 月は小 幅ながら 5 ヵ月振りに減少した(前年比 1.2 万人減)。昨年 5 月の大型連 休は 5 連休だったが、今年は 3 連休にとどまったことが響いた模様だ。 純入国者数と円レートの 13 年 2 月以降、訪日客数の増勢が出国日本人数を上回る状況が続いて いるが、その差は徐々に縮まりつつある。訪日客数から出国日本人数を差 関係 し引いた純入国者数は、為替レートの円高トレンドへの転換に足並みを揃 えるかたちで、増加ペースが鈍化している(図 2)。円高が、外国人の訪 日コストを押し上げると同時に、日本人の海外旅行コストを引き下げた結 果、純入国者数が伸び悩んだとみられる。 日銀版コアコア CPI の下 押し圧力に 純入国者数の伸び悩みは、日本銀行の金融政策運営に少なからず影響を 及ぼす可能性がある。日銀は現在、 「物価の基調」の判断材料として、日 嶋中 雄二 景気循環研究所長 銀版コアコア CPI(生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数)を重視 している。一方、当研究所が訪日客数の購入率上位 4 品目(宿泊料、一般 外食、鉄道運賃、菓子類)を加重平均して作成した物価指数(インバウン 鹿野 達史 景気循環研究所副所長 シニアエコノミスト 宮嵜 浩 ド CPI)の前年比上昇率は、日銀版コアコア CPI の同上昇率に概ね連動し ている(図 3)。純入国者数の伸び悩みに伴う国内旅行支出の鈍化が、日 銀版コアコア CPI を下押しした可能性がある。純入国者数の日銀版コアコ ア CPI に対する半年程度の先行性から判断する限り、日銀は今後、「物価 シニアエコノミスト 03-6627-5132 の基調」の判断を下方修正する可能性が高い(図 4)。 miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp 福田 圭亮 シニアエコノミスト 03-6627-5133 fukuda-keisuke@sc.mufg.jp 本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。 景気循環研究所 東京都千代田区大手町 1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ 80 70 60 50 40 30 20 10 0 -10 -20 -30 (前年差、万人) 図 1. 訪日客数の増勢鈍化が続く 訪日外客数 出国日本人数 13 14 15 16 (年、月次) (資料)日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所作成 1 2016 年 6 月 16 日 図 2. 円高が純入国者数の鈍化を招いた 60 (前年差、万人) (前年比、%) 50 75 訪日外客数-出国日本人数 (右目盛) 40 100 30 50 20 25 10 0 0 -10 -20 -25 ドル・円レート(左目盛) -30 07 08 09 10 11 12 13 14 -50 16(年、月次) 15 (資料)日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」、Bloombergをもとに 三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成 図 3. インバウンド関連の価格上昇が頭打ちに (前年比、%) 4 3 インバウンドCPI 2 1 0 -1 -2 日銀版コアコアCPI -3 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (注1)消費税率引上げの直接的な影響を除く。 (年、月次) (注2)日銀版コアコアCPIは消費者物価指数(生鮮食品・エネルギーを除く総合)、但し10年以前は 05年基準、11年以降は10年基準。インバウンドCPI(10年基準)は訪日外国人の購入率が 相対的に高い4品目(宿泊料、一般外食、鉄道運賃、菓子類)の価格の加重平均値。 消費税率引上げの直接的な影響を除く。 (資料)総務省「消費者物価指数」、日本銀行「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」、 観光庁「訪日外客数・出国日本人数」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気 循環研究所作成 図 4. 純入国者数の増勢鈍化が物価の下押し圧力に 3.6 3.0 2.4 1.8 1.2 0.6 0.0 -0.6 -1.2 -1.8 -2.4 (前年比、%) (前年差、万人) 訪日外客数-出国日本人数(右目盛) 日銀版コアコアCPI(左目盛) 07 08 09 10 11 12 13 14 15 120 100 80 60 40 20 0 -20 -40 -60 -80 16 (年、月次) (注)日銀版コアコアCPIは消費者物価指数(生鮮食品・エネルギーを除く総合)。 消費税率引上げの直接的な影響を除く。 (資料)日本銀行「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」、日本政府観光局「訪日外客 数・出国日本人数」をもとに三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成 (以 上) みやざき ひろし (16.6.16 宮嵜 浩) 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際してはお客様 ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 2 2016 年 6 月 16 日 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。本 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 資料で直接あるいは間接に採り上げられている有価証券は、価格の変動や、発行者の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価 の変化、金利・為替の変動などにより投資元本を割り込むリスクがあります。ここに示したすべての内容は、当社の現時点での判断を示している に過ぎません。本資料は、お客様への情報提供のみを目的としたものであり、特定の有価証券の売買あるいは特定の証券取引の勧誘を目的と したものではありません。本資料にて言及されている投資やサービスはお客様に適切なものであるとは限りません。また、投資等に関するアドバ イスを含んでおりません。当社は、本資料の論旨と一致しない他のレポートを発行している、或いは今後発行する場合があります。本資料でイン ターネットのアドレス等を記載している場合がありますが、当社自身のアドレスが記載されている場合を除き、ウェッブサイト等の内容について当 社は一切責任を負いません。本資料の利用に際してはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。 当社および関係会社の役職員は、本資料に記載された証券について、ポジションを保有している場合があります。当社および関係会社は、 本資料に記載された証券、同証券に基づくオプション、先物その他の金融派生商品について、買いまたは売りのポジションを有している場合が あり、今後自己勘定で売買を行うことがあります。また、当社および関係会社は、本資料に記載された会社に対して、引受等の投資銀行業務、 その他サービスを提供し、かつ同サービスの勧誘を行う場合があります。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の役員(会社法に規定する取締役、執行役、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が、以下の会社の役員 を兼任しております:三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱倉庫。 債券取引には別途手数料はかかりません。手数料相当額はお客様にご提示申し上げる価格に含まれております。 本資料は当社の著作物であり、著作権法により保護されております。当社の事前の承諾なく、本資料の全部もしくは一部を引用または複製、 転送等により使用することを禁じます。 c 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd. All rights reserved. Copyright ◯ 〒100-8127 東京都千代田区大手町 1-9-2 大手町フィナンシャルシティグランキューブ 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社 景気循 環研究所 (商号) 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 2336 号 (加入協会) 日本証券業協会・一般社団法人金融先物取引業協会・一般社団法人日本投資顧問業協会・一般社団法人第二種金融商品取 引業協会 本資料は、英国において同国the Prudential Regulation Authorityとthe Financial Conduct Authorityの監督下にあるMitsubishi UFJ Securities International plcが配布致します。また、米国においては、Mitsubishi UFJ Securities (USA),Inc.が配布致します。 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際してはお客様 ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 3
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