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講義概要 (数理科学続論 B ・ 数理科学特別講義 XI)
担当: 大槻 知忠
・講義題目: 結び目と 3 次元多様体の量子不変量
・授業の目標: 結び目と 3 次元多様体の量子不変量について、基礎から解説する。量子
トポロジーと双曲幾何を関連づける「体積予想」について紹介することをめざす。
・講義概要: 円周 S 1 を 3 次元ユークリッド空間 R3 に滑らかに埋め込んだものを結び目
という。自己交叉をしないように変形してうつりあう結び目は同じ結び目とみなす。1980
年代に、数理物理的手法がトポロジーに導入され、3 次元のトポロジーにおいては、結び
目と 3 次元多様体の多数の不変量が発見された。これらの不変量を研究する研究領域を量
子トポロジーという。
量子トポロジーの端緒は、結び目の不変量である Jones 多項式の発見であった。Jones
多項式は組みひも群の表現を用いて構成することができるが、さらに、Yang–Baxter 方程
式の解である R 行列を与えるごとに同様の方法で結び目の不変量が構成される。当時、統
計力学で知られていた多数の R 行列を用いて、多数の結び目不変量が構成された。これ
らの多数の R 行列を整理して理解する手法として量子群が登場し、それらの結び目不変
量は量子不変量として整理して理解されるようになった。一般に、単純リー環 g とその表
現 V が与えられるごとに量子 (g, V ) 不変量が構成されるので、膨大な数の結び目不変量
が得られたことになる。これらの膨大な結び目不変量を統一する不変量が Kontsevich 不
変量である。Kontsevich 不変量は、共形場理論に由来する KZ 方程式を用いて構成され、
Jacobi 図の空間 A(S 1 ) にその値をもつ。A(S 1 ) は、その次数 d の部分ベクトル空間の次元
の決定も一般の d に対しては未解決であるような巨大なベクトル空間である。Kontsevich
不変量は、任意に与えられた結び目に対してその値を求めることは現状では困難であるな
ど依然として未知の部分が多いが、結び目を分類していることが期待される非常に強力な
不変量である。
一方、1970 年代以来に Thurston によって開発された幾何構造による 3 次元多様体の分
類プログラム(幾何化予想)は 2000 年代に Perelman によって解決された。すなわち、3
次元多様体の分類問題は、「ある種のリー群の離散部分群の分類」に帰着されるという意
味では、解決された。しかし、たとえば、3 次元完備双曲多様体(双曲結び目の補空間な
ど)は、PSL2 C の離散部分群 Γ を用いて H3 /Γ の形に表わされるが、そのような Γ を実
際に分類することは依然として困難である。体積予想は、量子不変量のある種の極限に双
曲体積が現われることを主張する予想であり、量子トポロジーと双曲幾何を関連づけ、双
方の分類プログラムの理解を深める観点からも重要であるとおもわれる。この講義の目標
の 1 つとして、体積予想を紹介することをめざす。
・成績評価方法: レポート提出による。