経済分析レポート 2016 年 8 月 26 日 全 8 頁 Indicators Update 2016 年 7 月全国消費者物価 コア CPI は 5 ヶ月連続のマイナス。基準改定の影響は軽微 エコノミック・インテリジェンス・チーム シニアエコノミスト 長内 智 エコノミスト 前田 和馬 エコノミスト 小林 俊介 [要約] 2016 年 7 月の全国コア CPI(除く生鮮食品、以下コア CPI)は前年比▲0.5%となり、 市場コンセンサス(同▲0.4%)を小幅に下回った。コア CPI は 5 ヶ月連続の前年比マ イナスと弱い動きが続いており、日本銀行の 2%のインフレ目標や政府の目指す「デフ レ脱却」には程遠い状況にある。 2016 年 8 月の東京都区部コア CPI(中旬速報値)は、前年比▲0.4%(7 月:同▲0.4%) と 6 ヶ月連続のマイナスとなった。前月からの寄与度の変化を確認すると、「耐久消費 財」と「サービス」が押し下げに寄与した一方、 「半耐久消費財」と「コア非耐久消費 財(除く生鮮食品) 」が押し上げに寄与した。 先行きのコア CPI の前年比は、引き続き円高(物価押し下げ要因)と 2 月半ば以降の原 油高(物価押し上げ要因)という逆方向の影響がせめぎ合う中で、マイナス圏での推移 がしばらく続くと想定している。また、足下で、2015 年末以降の円高の影響が顕在化 し始めている点に注意したい。当社は、コア CPI が明確にプラス転換する時期は年末以 降になるとみている。 図表1:消費者物価指数の概況(前年比、%) 2015年 12月 2016年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 全国コアCPI コンセンサス DIR予想 0.1 ▲ 0.1 0.0 ▲ 0.3 ▲ 0.4 ▲ 0.4 ▲ 0.4 ▲ 0.5 ▲ 0.4 ▲ 0.4 全国コアコアCPI 東京都区部コアCPI コアコアCPI 0.8 0.1 0.6 0.6 ▲ 0.1 0.4 0.6 0.0 0.6 0.6 ▲ 0.1 0.6 0.5 ▲ 0.3 0.6 0.5 ▲ 0.4 0.5 0.5 ▲ 0.3 0.4 0.3 ▲ 0.4 0.2 8月 ▲ 0.4 0.1 (注1)コンセンサスはBloomberg。 (注2)コアCPIは生鮮食品を除く総合、コアコアCPIは食料(除く酒類)及びエネルギーを除く総合。 (出所)総務省統計より大和総研作成 株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和 証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。 2/8 全国コア CPI は 5 ヶ月連続のマイナス。東京都区部コア CPI は 6 ヶ月連続のマイナス 2016 年 7 月の全国コア CPI(除く生鮮食品、以下コア CPI)は前年比▲0.5%となり、市場コ ンセンサス(同▲0.4%)を小幅に下回った。財・サービス別(4 分類)の寄与度の変化を見る と、「耐久消費財」「サービス」が小幅ながらも押し下げに寄与し、「半耐久消費財」は横ばい、 「コア非耐久消費財(除く生鮮食品) 」は押し上げ寄与となった。コア CPI は 5 ヶ月連続の前年 比マイナスと弱い動きが続いており、日本銀行の 2%のインフレ目標や政府の目指す「デフレ脱 却」には程遠い状況にある。他方、季節調整値によって指数の基調的な動きを確認すると、コ ア CPI とコアコア CPI(食料(除く酒類)及びエネルギーを除く総合)はいずれも横ばい圏で推 移していると評価できる。なお、当月分から公式系列が 2015 年基準(前月までは 2010 年基準) に改定されたものの、当社の事前の試算結果通りに改定幅が小幅なものに留まったことから、 その物価の基調判断に対する影響は軽微だと考えている。 2016 年 8 月の東京都区部コア CPI(中旬速報値)は、前年比▲0.4%(7 月:同▲0.4%)と 6 ヶ月連続のマイナスとなった。前月からの寄与度の変化を確認すると、 「耐久消費財」と「サー ビス」が押し下げに寄与した一方、「半耐久消費財」と「コア非耐久消費財(除く生鮮食品)」 が押し上げに寄与した。エネルギーに関しては、前年比マイナス幅縮小の動きが続いている。8 月の東京都区部コア CPI の結果を踏まえると、8 月のコア CPI は前年比▲0.5%と見込まれる。 図表2:全国 CPI の水準(季節調整値) 103 (2015年=100) 102 101 100 コアコアCPI 99 98 97 96 95 コアCPI 94 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 2005 06 07 08 09 2010 11 12 13 14 15 16 (月/年) (注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合、コアコアCPIは食料(除く酒類)及びエネルギーを除く総合。 (注2)シャドーは政府の「月例経済報告」において「デフレ」の文言があった時期。 (出所)総務省、内閣府資料、日本銀行資料より大和総研作成 3/8 耐久消費財が 14 ヶ月ぶりの前年比マイナス 7 月コア CPI を財・サービス別の前年比で見ると、耐久消費財(6 月:前年比+0.0%→7 月: 同▲1.0%)は 14 ヶ月ぶりのマイナスとなった。この背景としては、円高及び素材・部材価格 の下落が指摘できる。品目別に前月からの変化を見ると、昨年の値下げの裏の影響で「ルーム エアコン」が押し上げに寄与する一方、「電子レンジ」「電気洗濯機(全自動洗濯機)」「携帯電 話機」が押し下げに寄与した。 半耐久消費財(6 月:前年比+1.8%→7 月:同+1.8%)は、前月から伸び率が横ばいとなっ た。品目別には、 「カーナビ」の価格低下が若干目立つものの、その他については、特に大きく 目立った動きは見られない。 コア非耐久消費財(除く生鮮食品) (6 月:前年比▲2.1%→7 月:同▲2.1%)は 19 ヶ月連続 のマイナス(消費税の影響を除くベース)、マイナス幅は前月から横ばいとなった。エネルギー 価格は前月から値下げされた品目が多かったものの、昨年の価格下落の裏の影響で前年比マイ ナス幅は縮小した。 サービス(6 月:前年比+0.4%→7 月:同+0.3%)は、35 ヶ月連続のプラスとなり、伸び率 は前月から小幅ながら縮小した。品目別には、「持家の帰属家賃」「宿泊料」「外国パック旅行」 が押し下げに寄与した。 図表3:全国コア CPI の内訳(消費税除く) 4 (前年比、%) (前年比、%) 3 2 図表4:全国コア CPI の前年比と寄与度 8 3.5 6 3.0 4 2.5 2 2.0 1 0 1.5 0 -2 1.0 -1 -4 0.5 -6 0.0 -8 -0.5 -10 -1.0 -12 -1.5 -2 -3 -4 12 13 14 15 16 コアCPI 半耐久消費財 コア非耐久消費財 サービス 耐久消費財(右軸) (年) (前年比、%、%pt) 12 13 消費税の影響 エネルギー 半耐久消費財 コアCPI 14 15 16 (年) サービス コアコア非耐久消費財 耐久消費財 (注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合、コア非耐久消費財は生鮮食品を除く非耐久消費財、コアコア非耐久 消費財は生鮮食品及びエネルギーを除く非耐久消費財。 (注2)2014年4月~2015年4月における消費税の影響は大和総研による試算値。 (出所)総務省統計より大和総研作成 4/8 全国コア CPI の前年比は、引き続き円高と原油高がせめぎ合う展開 先行きのコア CPI の前年比は、引き続き円高(物価押し下げ要因)と 2 月半ば以降の原油高 (物価押し上げ要因)という逆方向の影響がせめぎ合う中で、マイナス圏での推移がしばらく続 くと想定している。ここで輸入価格指数の前年比を寄与度分解すると、円高進行に伴う為替要 因のマイナス寄与拡大ペースが、エネルギー価格要因のマイナス寄与縮小ペースを上回ってい ることが確認できる。この結果、輸入を通じた消費者物価の下押し圧力は、ラグを伴って拡大 する見込みである。当社は、コア CPI が明確にプラス転換する時期は年末以降になるとみてい る。 今後の消費者物価の押し下げ要因としては、昨年の食料品、日用品、耐久消費財の値上げの 影響が剥落する効果や円高に伴う値下げの動きに加え、家計と企業の期待インフレ率が低下傾 向にあることが挙げられる。他方、押し上げ要因と想定される原油価格についても、世界的な 原油の需給バランスの軟化、過剰な米国原油在庫や石油リグ(掘削装置)稼働数の増加などを 背景に、冴えない推移が続いている点に留意したい。なお、「電気代」の先行きに関して、8 月 は電力大手 7 社、9 月は 6 社が値下げする予定となっており、2 月半ば以降の原油高などを背景 に値下げをする企業が減っている。 以上のようなコア CPI の動向に加え、日本銀行の参考系列である「生鮮食品とエネルギーを 除く CPI」の弱さを勘案すると、日本銀行のインフレ目標が実現する想定時期(現在、2017 年 度中)には無理があるとみている。また、内閣府の参考系列にも頭打ち感が出ており、政府は 8 月の月例経済報告において、消費者物価の基調判断を「横ばいとなっている」として、7 月の「こ のところ上昇テンポが鈍化している」から修正した。すでに当社はコア CPI の基調を「横ばい 圏」と判断していたことから、今回の修正は想定内の結果だと捉えている。問題は、「横ばい」 という政府の判断が「デフレ脱却」からの後退を示唆するということだ。政府と日本銀行に対 しては、わが国が再びデフレに後戻りしないような万全の対策が期待される。 5/8 図表5:輸入価格指数(前年比)の要因分解 30 (%、%pt) 図表6:コア指標の推移 2.0 (前年比、%) 1.5 20 1.0 10 0.5 0 0.0 -0.5 -10 -1.0 -20 -1.5 -2.0 -30 11 12 13 14 エ ネルギ ー価格 要因 そ の他価 格要因 15 11 16 (年) 為 替要因 輸 入価格 (前 年比 ) 12 13 14 15 16 (年) コ アCPI コ アコア CPI 日 本銀行 の参考 系列 内 閣府の 参考系 列 (注1)日本銀行の参考系列は、生鮮食品とエネルギーを (注1)エネルギー価格要因は、鉱物性燃料の寄与度。 除く総合、直近は大和総研による試算値。 (注2)計算上の誤差により、寄与度の合計は輸入価格指数の (注2)内閣府の参考系列は、コアCPIから石油製品、電気代、 前年比に一致しない。 都市ガス代およびその他特殊要因を除く総合。 (出所)財務省統計より大和総研作成 (注3)2014年4月~2015年4月は、消費税の影響を除くベース (大和総研による試算値)。 (出所)総務省、内閣府、日本銀行統計より大和総研作成 図表7:家計の期待インフレ率(1 年先)● 6 (%) 図表8:全国 CPI のエネルギーの寄与度 1.0 5 (%pt) 0.5 4 0.0 3 -0.5 2 -1.0 1 -1.5 0 10 11 12 内閣府(旧) 13 14 15 内閣府(新) 16 13 (年) 電気代 灯油 エネルギーの寄与度 日本銀行 (注1)内閣府の期待インフレ率は消費税の影響を含む、 日本銀行は含まない。 (注2)内閣府と日本銀行の期待インフレ率のいずれに おいても上方バイアスがあるため、方向や 相対的な水準で評価する必要がある。 (出所)内閣府、日本銀行統計より大和総研作成 14 15 ガス代 ガソリン (注)寄与度は、対コアCPI。 (出所)総務省統計より大和総研作成 16 ( 年) 6/8 図表9:GDP ギャップと全国コア CPI 6 (前年比、%) (%) 4 4 3 2 2 0 1 -2 0 -4 -1 -6 -2 -8 -3 -10 -4 85 90 95 00 GDPギャップ(2四半期先行) 05 10 15 全国コアCPI(右軸) (注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合、2014年4月~2015年4月における消費税の影響は 日銀の試算値を用いて調整。 (注2)GDPギャップの予想値は大和総研による。 (出所)総務省、内閣府統計、日本銀行資料より大和総研作成 (年) 7/8 財・サービス別にみたコアCPIの動き 全国コアCPIの財・サービス別寄与度分解 3.5 耐久消費財 (前年比、%、%pt) 0.4 3.0 0.3 2.5 0.2 2.0 0.1 (コアCPIへの寄与度、%pt) 0.0 1.5 -0.1 1.0 -0.2 0.5 -0.3 0.0 -0.4 -0.5 -0.5 -1.0 -0.6 -1.5 12 13 14 耐久消費財 コアコア非耐久消費財 サービス コアCPI 15 -0.7 16 12 13 (年) 半耐久消費財 エネルギー 消費税の影響 携帯電話 冷暖房用器具 耐久消費財 14 15 教養娯楽 その他 16 家事用耐久財 (年) 消費税の影響 (注)2014年4月~2015年4月における消費税の影響は大和総研による試算値、コアCPIは生鮮食品を除く総合、コアコア非耐久消費財は生鮮食品及び エネルギーを除く非耐久消費財。 (出所)総務省統計より大和総研作成 半耐久消費財 0.4 非耐久消費財(生鮮食品、エネルギーを除く) (コアCPIへの寄与度、%pt) 1.2 (コアCPIへの寄与度、%pt) 1.0 0.3 0.8 0.2 0.6 0.4 0.1 0.2 0.0 0.0 -0.1 -0.2 12 13 14 15 家具・家事用品 被服及び履物 教養娯楽 自動車関連 身の回り品 その他 消費税の影響 半耐久消費財 16 13 12 (年) 14 15 16 食料 家事用消耗品 保健医療 教養娯楽 たばこ その他 消費税の影響 非耐久消費財 (年) (注)2014年4月~2015年4月における消費税の影響は大和総研による試算値。 (出所)総務省統計より大和総研作成 一般サービス 0.8 公共サービス (コアCPIへの寄与度、%pt) 0.5 0.6 0.4 0.4 0.3 0.2 0.2 0.0 0.1 -0.2 0.0 (コアCPIへの寄与度、%pt) -0.1 -0.4 12 13 14 外食 家事関連 通信・教養娯楽等 消費税の影響 15 家賃 教育関連 その他 一般サービス 12 16 (年) (注)2014年4月~2015年4月における消費税の影響は大和総研による試算値。 (出所)総務省統計より大和総研作成 13 家賃 医療・福祉関連 教育関連 消費税の影響 14 15 保険料等 運輸・通信関連 教養娯楽関連 公共サービス 16 (年) 8/8 他の関連指標の動向 名目実効為替と原油価格 輸入物価と企業向け価格 (前年比、%) (前年比、%) 4 20 3 15 2 10 1 5 0 0 -1 -5 -2 -10 -3 -15 -4 -20 140 (ドル/バレル) (2010=100) 120 -5 -25 10 11 12 13 14 企業物価 15 16 60 ↑ 円安 70 80 100 90 80 100 60 110 40 120 円高 ↓ 20 130 10 (年) 11 12 13 14 WTI原油先物価格 企業向けサービス価格 15 16 (年) ドバイ原油スポット価格 名目実効為替(右軸、逆目盛) 輸入物価(円ベース、右軸) (注)企業物価、企業向けサービス価格は消費税を除くベース。 (出所)日本銀行統計、各種資料より大和総研作成 企業物価(最終財:うち耐久消費財) 25 企業物価(最終財:うち非耐久消費財) (前年比、%) 20 20 (前年比、%) 15 15 10 10 5 5 0 0 -5 -5 -10 -10 -15 -15 -20 10 11 12 耐久消費財 13 14 うち国内品 15 うち輸入品 10 16 11 12 13 非耐久消費財 (年) 14 15 うち国内品 16 (年) うち輸入品 (注)企業物価は消費税を除くベース。 (出所)日本銀行統計より大和総研作成 家計の期待インフレ率(1年先) 6 ガソリン価格と灯油価格 (%) 180 (円/リットル) (円/18リットル) 1,900 170 5 2,000 1,800 160 4 1,700 1,600 150 1,500 3 140 2 1,400 1,300 130 1,200 1 120 1,100 110 0 10 11 12 内閣府(旧) 13 14 内閣府(新) 15 日本銀行 16 (年) 1,000 12 13 14 レギュラー・ガソリン店頭価格 15 16 (年) 灯油店頭価格(右軸) (注1)内閣府の期待インフレ率は消費税の影響を含む、日本銀行は含まない。 (注2)内閣府と日本銀行の期待インフレ率のいずれにおいても上方バイアスがあるため、方向や相対的な水準で評価する必要がある。 (出所)左図は内閣府、日本銀行、右図は資源エネルギー庁統計より大和総研作成
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