たまねぎのシート育苗法について

たまねぎのシート育苗法について
加工業務用たまねぎは、販売単価が契約価格で安定している反面、市場価格に比較する
と安価であるため収益性を確保するには栽培面積の拡大が求められる。近年では農業法人
の取組も増加し、2 ha の大規模栽培も見られるようになってきている。
面積拡大には、揃った苗を大量かつ効率的に育苗する技術が必要である。特に、全自動
定植体系では根鉢形成の良否が植付け作業能率と精度に大きく影響する。
1
育苗方法の種類と特徴
育苗場所については露地とハウスがあるが、強風(飛砂)、夕立(強雨)等により育
苗が安定しないためハウス利用が望ましい。
(1)直置き育苗
ハウス床面を施肥耕耘しセルトレイを直接設置する方法。セル底穴から根が地面に
挿すため、かん水管理が容易で太苗が育苗できる。一方、根鉢形成は弱いため定植に
際しては根鉢の凝固剤(TB-1)処理が必須となる(表1)。また、接地面に凹凸がある
と苗質にバラツキが生じ、定植時に根を切るため活着不良となりやすい(図1)。
床面に直置き
根鉢形成は不良
(根切りネット使用)
凝固剤(TB-1)処理
コストと労力がかかる
(2)ベンチ育苗
ハウス内に架台を組みセルトレイを空中に設置する方法。エアープルーニング効果
で根がセル内にとどまり根鉢形成は良好である。しかし、培土が乾きやすくかん水管
理が煩雑となり、やや細苗に仕上がる傾向がある。剪葉機の使用は基本的に難しいの
で大量育苗には適さない。
水稲育苗箱と
根鉢形成
垂木を利用し
は良好
たベンチ育苗
-1-
(3)シート育苗
ハウス床面に防草シート等を敷き、その上にセルトレイを並べる方法。直置き育苗
とベンチ育苗の折衷的な方法。セル底穴から根は出るがシートに遮断されるため根鉢
形成は良好で、根鉢の凝固剤(TB-1)処理は必要ない(表1)。また、剪葉機の使用が
可能なため剪葉作業が省力化される。ハウス床面を耕耘しないため水稲プール育苗を
行う農業法人に適した大量育苗法である。
防草シート
パオパオ根
利用
切りシート
(平床)
利用
(畦立て)
表1
定植苗の苗質(H27.10)
本葉数
(枚)
地区名
育苗様式
新発田
新潟
シート育苗
シート育苗
シート育苗
直置き育苗
柏崎
葉鞘径
(mm)
葉長(cm)
3.3
3.2
3.0
3.8
20.2
24.0
21.8
22.3
4.3
3.0
3.6
3.2
*
セル重(g) 根鉢崩壊度
5.3
4.7
2.4
1.9
葉重(g)
3.0
2.8
2.8
1.0
2.0
1.8
根重(g)
0.6
0.3
0.3
0.1
*根鉢崩壊度:地上 30cm の高さから落下させ、根鉢の崩れを指数評価
1:完全崩壊
0.0
0.5
1.0
1.5
2:半分崩壊
2.0
3:崩壊無し
2.5
根重(g)
直置き
育苗
1.8
葉重(g)
0.1
シート育
苗
0.3
2.0
根鉢形成は良好(シート育苗)
図1 苗重(根重+葉重:g)
2
シート育苗の手順
(1)必要資材
①セルトレイ
448穴セルトレイ
50枚/10a
②培
ソリッド培土(50 ㍑、18kg)
3袋程度/10a
土
ねぎ培土よりピートモス含量が多く、定植時の根鉢崩れが少ない。
③グランド
シート
防草シート
透水性が確保されれば仕様はこだわらない。ただ、編み込みが粗
い場合は根が挿すことがあるので注意する。
-2-
パオパオ根切りシート 50
黒色の不織布。透水性があり根切り機能がある。軽く扱いやすく
防草シートに比べて安価である。
④かん水装置
水稲育苗用のかん水管理を利用できれば経費がかからず望ましいが、
園芸用のかん水チューブで代替することも可能である。但し、育苗面
積が大きくなると水圧の低下で均一にかん水できないことがあるので
注意する。その場合、適宜分岐するなど適性圧の確保に努める。
かん水開始時刻、かん水時間を制御可能なタイマーを設置すると自
動かん水となり、かん水労力の省力化が実現する。
【使用例】間口 6.3m のパイプハウス
ミストエース S54(住化)で両サイドに設置しかん水
タイマー DoValve(T&D)でかん水時刻、回数、時間を制御
かん水チュー
ブの設置状況
タイマー DoValve
(2)育苗管理
日数
苗ステージ・作業
育苗準備
留意点
【グランドシート敷き】
・ハウス床面を均平にならす。床面に凸凹があると、そこ
に水がたまり過湿となりやすい。
・平床でも畦立てでもどちらも可能。平床の場合は降雨時
の通し水防止のためハウス側面に明渠を掘る。
0
は種(段積み)
【は
種】
・全自動は種機 OSE-11A は2
度詰めで培土量多い。は種精
度も高く、能力は 250 枚/h 程
度。
【段積み催芽】
・は種時期の8月中下旬は、発芽
適温を超えているため日の当た
らない風通しのよい屋内で段積
み催芽を行う。
・10 段程度で段積み後乾燥しない
ようにブルーシート等で覆う。期間は 3 ~ 4 日間。
3~
4
ハウスへ搬入
【セルトレイ並べ・遮光】
・発芽始めを確認したら直ちにハウスに並べる。遅れると
胚軸が伸びて倒れやすくなる。
-3-
・剪葉機の刃幅が 103cm であるため縦 3 列(約 95cm)に配
置する。畦立ての場合も畦面幅 100cm を確保する。
10
発芽揃い
・発芽揃いまでは高温・乾燥に弱いのでハウス外掛けの遮
苗
立
15
1 葉出始め
光を行うが、長期間の被覆は徒長軟弱で苗質不良となる。
【剪葉(剪葉機利用)】
枯
・剪葉は発根を抑制するため剪葉機を使用してこまめに行
病
い、ショックを最小限に抑える。初回は倒れる直前(お
危
おむね 25 日 25cm 程度)に 18cm まで剪葉し、その後は
険
倒れないように適宜行う。最終剪葉は定植 5 ~ 7 日前に
行い、定植時には 20cm 程度を確保する。
【追
肥】
・剪葉毎に液肥 300 倍を 500ml/トレイ程度かん注する。
25
2 葉出始め
あるいは初回剪葉時にマイクロロングトータル(40 日タ
1 回目剪葉
イプ)20 ~ 30g/トレイを上から施用する。
・亜りん酸粒状 1 号 15 ~ 20 g/トレイを施用すると発根
促進と根鉢形成向上効果が認められる。
【防
除】
・苗立枯病防除のため発芽揃い時に殺菌剤を散布する。
・剪葉後、細菌による切り口からの葉枯れ症状が発生する
苗
ため剪葉前に抗生物質剤かオキソリニック剤を散布す
仕
る。
上
・剪葉後は刃の消毒を必ず行う。
げ
50
55
最終剪葉
<目標の苗姿>
定植
・葉鞘径
3~3.5ミリ
・生葉数
3~3.5枚
・根鉢形成
根鉢崩壊度
3
(3)かん水管理
シート育苗は、ベンチ育苗と同様に根挿しがないため萎れやすくかん水管理が難し
い。一方、現地では過湿による苗立枯病の発生が見られる。そのため、ステージ毎の
メリハリのあるかん水管理が必要となる。
①かん水時間の把握:事前に培土を詰めたセルトレイにかん水を行い、セル底穴から
(1 回のかん水量)
水が染み出てくるまでの時間を測定しておく。
②発芽揃いまで:遮光してあるため朝 1 回。午後に表面が乾くようであれば葉水程度
の短時間のかん水を行う。
-4-
③葉鞘期:葉鞘は細く弱いので苗立枯病にかかりやすい。苗立枯病は発生すると急速
に拡大し薬剤防除だけでは食い止められない。かん水管理に細心の注意が
必要となる。かん水は朝 1 回で午後のかん水は行わず、夕方には完全に地
際部が乾いているようにする。降雨等で培土の水分が残っている場合は、
朝のかん水時間も短くするか行わないようにする。苗立枯病が発生した場
合は、1 ~ 2 日程度かん水を休止し培土の水分の精算を図り薬剤防除を実
施する。
苗立枯病は急速に拡大する
セルトレイが全滅、残ったと
しても欠株で機械定植は不可
④ 1 葉期以降:1 葉期以降は苗立枯病の危険も少なくなるため朝、昼の 2 回のかん水
を行う。特に、2 葉期以降は発根に伴って吸水量も増加し、苗の仕上
げの段階になるためかん水回数を増やして対応する。
3
定植時の注意
(1)培土の水分
全自動定植機の苗の取り出し方法は、セル底穴を棒で押し上げターンテ-ブルに並
べる方式である。十分な根鉢形成を確保したとしても、55 ~ 60 日程度の育苗期間で
は培土の上半分は根が回っていない状態である。そのため、ターンテ-ブルに落下す
る時に培土が崩れ詰まりの原因となることがある。
ソリッド培土はピートモスが多く、適正な水分含量においては亀裂は入るものの崩
れはしない。定植に際しては、かん水して 2 時間程度経過し葉水が切れた状態で定植
作業を実施する。天候によっては午後作業分はお昼前にかん水が必要な場合がある。
(2)セル底からの発根処理
グランドシートは多少なりとも水分を保持するため、
かん水量が多いとシート上にセル底からの発根が見られ
る。特に、織り目の細かいパオパオ根切りシートは多く
発生する傾向がある。
少々の発根は苗の取り出しに影響はない。グランドシ
ートの上に根切りネットを敷いてセルトレイを並べる
と、仮に発根が長くなったとしても最終剪葉時に根切り
パオパオ根切りシートの発根
をすれば剪葉後の液肥でショックを回復させることが可能である。
【経営普及課 農業革新支援担当 増田
-5-
浩吉】