複言語・複文化アイデンティティ構築過程における日本語習得の影響

口頭発表
複言語・複文化アイデンティティ構築過程における日本語習得の影響
―フランスの大学の日本語学習者を対象に―
小間井 麗
INALCO (フランス国立東洋言語文化大学)
要旨
本研究ではフランスの大学で日本語を学んでいる学習者の動機、習得の過程に着目し、それぞれ
の環境や経験と結びついた日本語の学習動機、学習方法、習得の変遷についてインタビューを行っ
た。その分析から、社会的な対話を通してなされる自己省察が言語習得やアイデンティティ形成に
影響があることを示し、教室実践への示唆を導いた。
【キーワード】 複言語・複文化アイデンティティ、学習動機、対話、ナラティブ研究
1 研究の背景
国際交流基金の調査によるとフランスの日本語学習者数は欧州第 1 位で、高等教育機関
における学習者が大半を占める。INALCO の日本学部では 1000 名程の学生が登録してお
り、多くの学生が日本語・日本文化を専門に学んでいる。そこで学生たちは実際にそれぞ
れ何を目指しているのだろうか。本研究は INALCO の学生プロフィール調査の一環として
行ったものである。
表 1 【日本語教育機関調査 2012-13 年, 国際交流基金】
フランスの日本語教育機関で日本語を学ぶ学習者数
初等教育
中等教育
高等教育
学校教育以外
合計
253
4,499
9,137
5,430
19,319
1.3%
23.3%
47.3%
28.1%
100%
フランスの学生は EU の言語教育政策により、小、中学校のころからすでに複数の外国
語を学んできている。さらに日本語を学ぶことに決め、学び続ける動機はどのようなもの
か。日本語の習得も、学生たち一人一人の複言語・複文化アイデンティティ構築に関わっ
ていると考えられる。そのアイデンティティ構築に影響を及ぼしている日本語、そしてそ
の学習や習得とはどのようなものだろうか。学生たちの日本語習得の現実に近づけるよう
インタビュー調査を行った。
2 先行研究
Norton の研究やヨーロッパでの CEFR 導入以降、言語習得とアイデンティティの問題
を考える研究が注目されてきている。
それ以前に第 2 言語習得の分野で研究されてきた統合的動機と道具的動機(Gardner& Lambert)
の観点から見ると、フランスにいる日本語学習者は、アイデンティティの観点からも日本
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社会への帰属、統合的動機が強いとは考えにくい。また、道具的動機から学習する学習者
がいても、大学の単位取得、資格試験合格、仕事のためばかりが第一とも言えないだろう。
一方、Norton は学習動機という概念の代わりに、ブルデューの概念に基づき投資という
概念を導入した。しかし、フランスの学習者が、EU 言語でない日本語の学習に対してす
べてを投資しているとも、文化・社会資本の獲得だけを目標にしているとも考えにくい。
また、単に日本語学習を消費1しているとも言えないだろう。何らかの能力を身につけるた
めの投資として学習することもあれば、余暇活動として消費していることもあり得る。
むしろ学習者の動機は1つだけではなく、時間軸、環境共に動的に変化していくもので
あり、様々な要因が複雑に絡み合って影響を及ぼしあうものだと想定される。このような
立場で本研究を行った。
また、Norton は、言語学習の動機づけを、自らが獲得を試みるアイデンティティへの投
資であるとした。Norton によれば「アイデンティティとは、常に他者との交渉の中で構成
される、多元的、かつ多様で動態的な自己についての認識」であり(三代 2011)、すなわち、
アイデンティティは社会における言説実践で構築されていくものと考えられる。
上記の問題提起をふまえて、本研究ではインタビューの分析にあたり、以下の観点に関
する部分を引用し考察を加えた。
① 対話を通した自己省察が及ぼす言語習得・アイデンティティ形成への影響とその相
互作用における自身の位置付け
② アイデンティティ構築に影響のある対話において使用した日本語
③ 学習者にとっての大学の授業の意味、授業と言語習得との関係
3 研究方法と調査の概要
Norton などの言語学習をアイデンティティ交渉と結びつけて捉えようという研究が注
目されるようになってから、アイデンティティという主観的なものにアプローチする方法
として有効なライフストーリー研究法が用いられてきている。本研究でも質的なナラティ
ブ研究をおこなった。
本研究のインタビュー対象者は、INALCO 日本学部の日本語学習歴 3 年以上の学習者 17
名で、2015 年 6 月から 7 月にかけてインタビューを行った。長さは1人 1~2 時間、使用
言語は日本語とフランス語で、学生に自由に使ってもらった。本研究ではとりわけ意識的
に自己の日本語習得について考えていた2名の学習者の語りを取り上げ考察の対象とする。
以下、二人を学生 A、B と呼ぶ。
(インタビュー当時、二人は学士課程を終えた頃だった。
)
• 学生 A:高校から日本語を選択し、当時の第1外国語は英語、第2はドイツ語、第3は日本語。ドイツ語はドイツに
住むいとこと話せたらと選択。また、スリランカ出身の両親は家庭でスリランカ語を使い(外ではフランス語を使って
いる)、A はフランス生まれだがスリランカ語で両親に答えることができる。2つの大学に並行して通っている。
• 学生 B:第1外国語はドイツ語、第2外国語は英語。父親はドイツ人で母親はフランス人。家庭言語はフランス語だ
った。日本人の妻と結婚後、日本語を使うようになってきたが子供とはフランス語。社会人学生。
4 学生の語りと考察
学生 A 、B の語りから、日本語習得への動機がどのような環境や経験から得られたもの
で、また、それが日本語の学習にどのような影響を及ぼし、実際にどのような学習方法を
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選択し実践したか、ひいては、それぞれのアイデンティティ形成にどのような影響を及ぼ
してきたかを見ていく。(本稿は紙幅の関係上、語りのデータの多くは割愛させていただいた。なお、フランス
語の語りの部分は筆者が日本語訳をし、日本語の語りの部分はイタリック体になっている。)
4.1 A の語りの考察
A の語りを聞くと、日本の人と実際に対話をする経験を通して、日本語習得の動機2が強
くなってきていることがわかる。またそれがアイデンティティの構築にも影響している。
4.1.1 【日本で知り合った人達との対話をかなえたいという動機】
(語り①)A は高校三年生のときに3週間、交換留学で日本の高校に留学した。留学先
の高校生とうまく会話ができなかったことにより、日本語をしっかり勉強したい気持ちが
強まった。実際の体験とその時にうまくいかなかった残念な気持ちが大きなばねとなり、
友だちと話したいというポジティブな目標ができて、大学で日本語を専攻するという選択
に繋がったと言う。(語り②)さらに友だちとのメールや Facebook を使った対話への興
味が、日本語習得への動機につながっている。(語り③)また、昨年の夏休みに日本で農
業ボランティアに1か月参加し、現地の人たちとの対話を楽しんできた。大学の講義で学
んだことが現実のものとして理解できたと語っている。
4.1.2 【両親の文化と似ているところがある日本文化への興味】
(語り④)A は日本のドラマを見て、人々の考え方が、自分の複文化の一つである両親
のスリランカの文化と似ていることから、日本文化に親しみを持ったと言う。
4.1.3 【アイデンティティ構築につながる対話を通した自分の専門探し】
(語り⑤)留学経験を経て、日本語が自分にとって大事なアイデンティティの一部にな
ってきていて、やめたくなかった思いを語っている。一方、これまで家族が住む国など各
国を旅行してきたAは国際的な仕事がしてみたいという思いもあり、
法律の大学も選んだ。
(語り⑥)その後、大学で知り合った日本の法律の先生との対話を通して、さらに法学へ
の興味も深め、日本の大学で法学を勉強したいという具体的な目標を持つようになった。
(語り⑦)日本語ができることが A のアイデンティティになっている一方、法学にも興味
があり、その 2 つの専門を学ぶことで自分自身のバランスを取っていると言う。また、現
実に日本と関わる将来のことを見通して日本語を学んでいる点で、動機が意識化できてい
る。「どうして日本語勉強したいか、とか、勉強しているかっていう、質問が大事と思う。」
4.1.4 【対話の機会を持つ心がけ】
(語り⑧)対話には意志も必要だが、A が構えず日本語を自然に話せる裏には、文法を
間違えてもメッセージが伝わればという思いがあった。そして、留学経験もふまえ、実際
の場面に遭遇し、話す経験をしてみることの大切さを語っている。
(インタビューは日本語で回答。)
4.2 B の語りの考察
B の複言語・複文化アイデンティティにとって、ドイツ語はもちろん、日本語も重要な
位置を占めるようになってきた。また、B にとって、家族の言葉を使うというのが複言語
習得の始まりだったが、それが自分自身のために変わっていく様子も語られた。
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4.2.1 【外国語に切り替えるために必要な複文化と対話】
(語り①)B は、ドイツの友達に会って話すと、自分はドイツ人だと実感すると言う。
また、語り②によると、言語を使うにはそれに伴う文化も必要なことがわかる。それは一
般的な文化ではなく、B 本人が興味を持って築いてきた B の世界だと言う。
②
「妻に出会って、日本語を勉強するようになってから、私のドイツ語は引き出しの中にしまわれています。頭の中の
遠いところに。 ですから、頭の中を探して、取り出し、ほこりを払わなければなりませんでした。そうして別の(ド
イツ語の)仮面を再び取り戻すのです!それは可能です。このようにして少しドイツ人に戻ることができます…それ
は私にとって本当に仮面のようなものです。それはもう「タモリが好きな私」ではなく「ドイツ人の私」です。頭に
ある(日本に関する)すべてのものを追いやります。私が日本語を話すときは、私に小さな日本の世界があります。
好きなビデオや音楽などが一緒です。そうして少し「日本人の私」になれるんです。後で(頭の中に)ドイツ語の世
界を持ってくると、変わります。それはまた別の世界で、別の音楽や料理やスタイルがあります。これは大事なこと
だと思います。でなければ、切り替えることができません。」/「(幼少期に作った「私のドイツの世界」は)残っ
ています。過去の幼少期(の記憶)に戻って探しに行かなければなりませんが。そうして、私は(ドイツの)料理や音
楽、景色や服装など、すべての分野に関わることについて話せるんです。これは大事なことだと思います。」
4.2.2 【日本語学習動機の変化:国際結婚、言語への興味、余暇活動】
(語り③)B が日本語を学びはじめた理由は、当時婚約者だった妻ともっと話をしたい
ということだったが、その後日本語学校に通い、日本語への興味そのものが大きくなって
いった。言語そのものに魅かれ、また、一種オリジナルな言語を勉強することが楽しく、
周囲に対して自慢だったとも言う。(語り④)そして、日本語学校へ通うことが知的好奇
心を満足させる娯楽活動になっていったことを語っている。
4.2.3 【職場での対話の機会と道具としての日本語】
(語り⑤)ドイツ語もできる B は職場で外国の人を案内することが多いが、日本語の習
得により日本語が道具となり、さらに活躍でき、誇らしい気持ちがもてたと言う。そうし
た実際の対話の経験があって大学に通うと、よりモチベーションが上がると話している。
(語り⑥)また、日本語を使う機会に恵まれている B は、学習したことを実生活に還元し
ながら、日本語力や知識を自分のものにしてきていることがうかがえる。(語り⑦)大学
で学んだ文化知識を、人間関係を築くための対話のきっかけに利用し、生かしている様子
や、語り⑩の学んだ敬語を挑戦的かつ楽しみながら使用している様子からもわかるように、
B は実際の対話を通して日本語を習得してきている。そして何より、B は人との関わりを
楽しみ、大切にし、日本語はそのための道具であり宝物だと言う。
⑩
「始めは、日本人も日本語学習者に対して寛容なので、三言発すれば、「すごいですね!」と言われます。一文話せ
たら「えらい人」になります。私にはそれは面白いことです。(…)私は職場で 3 つの表現を使いました。"はい、
日本語をちょっと話せます.." "実は今、日本語を勉強していますけど.." "お客様はどちらのご出身ですか ?" 」/
「実際、日本人の対話相手の目には、関係、イメージが変わってきます。はじめは普通の外人で、次に少しずつ「あ
あ、敬語を知っているな」となるともう同じ対応ではなくなります。そのあと、彼らはもっと早く日本語を話し、も
っと自然に話すようになります。そうなると、面白くなってきます。具体的な話に入っていきますから。」/「様々
な人が来るので 、職場は私の(ことばの)遊び場です。」(敬語は人間関係の言葉ですから。)「(敬語の実践を
教室で学ぶのは)難しいですよ、でも、(…)(日本から来た)人と言葉遊びをすることが面白くなってきました。
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(…)(使いながら敬語を身につける)私はそのチャンスが職場にあります。(日本語で)戯れること、試すことが
できます。 (…)自分の文を試してみて、うまく行ったら、頭の中で OK とチェック印をつけます。」(楽しみな
がら、勉強できるといいですけどね。)「はい、時々うれしい驚きがありますね。学生が知っていることや好きなこ
とを使うのは。そうしたことが使えるのは大事だと思います。」
4.2.4 【人生の中での日本語学習のバランス -日本語を学ぶ理由はこれだとは言いにく
いもの 】
⑧
「(どうして日本語を学ぶのか、その理由を聞かれても)答えられません、あるいは複数あるといいますか。様々な
要因が混ざったものです。「どうして日本語を学びますか?」の答えが学位を取得するため、大学に入って3年で学
士号を取りたいというのはもちろん当然のことです。」/「自分は年上で仕事もしているから以前よりかはまだはっ
きりとしたビジョンが持てるようになってきたけど(…)たとえはっきりした目標を持っていたとしても、すでに(実
現するのは)難しいですから。でも大変なときはその目標を見つめて「がんばろう!」と言えるでしょう。
(…)
「(学
費もほとんどかからず)大学への登録が簡単なフランスでは、「マンガが好きだし、INALCO に行こう…」このよう
にして登録する学生も多いです。反射的に。それは利点でもあれば、難点でもある。それは、「(ケーキのように)
日本語を味見してみる」機会を皆に与えてくれます。一つのチャンスです。(…)ちょっとした見通しや計画、夢を
持って日本語を学ぶのは、理想的だと思います。けれども、それはまれだと思います…。」
語り⑧で、大学では学位の取得を目指すのも当然だと述べている B には道具的動機づけ、
達成動機づけもある。(語り⑨)学年が進むと、日本語を専攻する動機が確固としたもの
となり、長期的に投資したいという意志が出てきて、自律的に学習するようになったと言
う。しかし B は実際、興味や関心、内発的動機づけ3から、日本語を学んできている部分が
大きい。また、大学の勉強は仕事の後の気晴らしであり、余暇活動だとも言う。
(語り⑪)B の動機はそれだけではない。B は INALCO に入った年に父親を亡くしたが、
こう語っている。「心を整理するために、授業の課題や宿題に打ち込み、ポジティブなエネルギ
ーに変わりました。」「(授業で出会う人達の存在という)拠り所、支えがなかったら、いろいろ
なことを考えすぎてしまい、常に悲しみに暮れていたでしょう。」Bは語りの中で、精神的なも
ののバランスをとるための大学と日本語学習を「薬」と呼んだ。新しいものに打ち込む充
実感があり、様々な人との関係の中で元気になれるような日本語学習を続けることが、そ
の時期の B にとっては必要なことだったのである。
こうしてみると、B の日本語習得は B の人生の流れに密接に関わり、様々な理由、動機
から学習を続けてきていることがわかる。また、状況によりそれが変化してきている様子
もわかった。それと同時に、B にとっての日本語学習は、
「気晴らし・楽しみとしての日本
語学習」、「職場で使う道具としての日本語学習」、「精神的バランスをとるための薬と
しての役割を持つ日本語学習」など、さまざまな面を持ちあわせていた。
4.3 結論:分析結果と考察のまとめ
ここで二人の語りを分析の観点から振り返る。
① 日本の人たちとの対話を通した自己に関する省察が、二人の言語習得・アイデンテ
ィティ形成へ影響を及ぼしてきていた。また、よりよく日本語で対話ができる自分
を目指しながら、A は進路を考え、B は職場で自己の位置取りをしてきている。
② 二人とも対話で使用した日本語を振り返りながら、自分のこれからの日本語学習・
習得について考えている。
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③ 大学で学んだことを実生活で生きたものとしてきていた。A は大学で学んだ知識を
対話を通して現実に照らし合わせ理解しようとしていた。B は授業で学んだことを
実際の社会生活での対話で用いながら、日本語の習得につなげてきている。
状況的学習論(Lave& Wenger)によれば、社会の言説(ディスコース)の中で言語習得が行われ
る。二人の語りを通して、学習者と学習者を取り巻く社会との相互作用による日本語習得
の様子がうかがえた。
また、家族やそれまで自分の中に築いてきた複言語・複文化の影響も受けながら、大学
での学習、日本滞在の経験や日本の人との関わりなど、様々なかたちでの日本との繋がり
によって、その時々の日本語習得に対する意識や学習動機を持ってきていた。そして日本
語の習得も、
本人たちのアイデンティティ構築過程に影響を及ぼしている様子がわかった。
5 教育実践への示唆
以上の調査結果から、教育の場でも現実の対話の環境を持ち込み、支援することで、言
語習得を促すことが考えられる。
① 言語教育を社会的な実践として見る。本物の場面を教室活動に取り入れ、対話が成
り立つ環境を設定する。
② 教師と学生、学生間など活動参加者の間に双方向の対話が成り立つよう心掛ける。
習得プロセスも評価に取り入れる。普段の活動を評価対象に入れるとモチベーショ
ンも上げられる。
授業の時間や空間枠にとらわれないで、日本人や日本語と接する機会、対話の機会
を設ける。
ポートフォリオを用いて自律学習支援を行う。自己の学びを意識してもらうために
言語日誌をつけてもらい、それをもとに教師と対話を行っていく。
教室内に限らず教育の場に対話環境を用意するだけでなく、学習者の自律的な学習能力
を伸ばしていくという観点からの支援も課題として挙げられる。
6 今後の展望と課題
本研究では今回のインタビュー調査に協力してくれたすべての学生の語りを取り上げて
いない。今後新入生も含めて研究対象にしていく。そして量的アンケート調査と質的追跡
調査を合わせて継続的にプロフィール調査を続ける予定である。質的調査では、言語ポー
トフォリオをもとに、学習者それぞれの文脈で行われている日本語習得についてフィール
ドワーク的調査を行う。そして、学習者の生活、ひいては人生の中における日本語習得の
意味や関わり方を参考に、教室実践についても考えていきたい。
1
学習者が余暇における満足感、楽しみ、喜びのために語学学習を行い、語学の授業を余暇サービスの商品として消費する
ことを「余暇活動と消費としての外国語学習」と呼び、興味(好き)、好奇心、自信回復、自己満足、自分探しなど情緒的要
因に根ざした外国語学習の存在が指摘されている (久保田他 2012)。海外の日本語教育現場においては、日本語を使うという
実利的なニーズや目標がなく、好き、おもしろそうといった感情から学習している学習者も無視できない (米本他 2013)。
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2
A の日本語学習動機には、心理的欲求(自己実現、達成、自尊)、感情(興味、不安、喜び、ポジティブな感情、ネガテ
ィブな感情)、認知(当人の意識や信念)、環境(他者との関わり、達成すべき課題)と様々な要因が影響を与えていた。
3
やること自体が目標、面白いから、楽しいからやるという内発的動機づけは、興味、自律性、自己目的性が特徴で、習得
を高めることが教育心理学の見地からも言える。大学の授業のように外発的動機づけのものであっても、自己決定性(自立)
の程度によって内発的動機に近くなる。自己決定理論 (Deci & Ryan) によると、有能さや自律性、他者との関係性などの
欲求を満たすことで自己決定性の程度を上げることが可能になる。
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,
CAJLE
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