乳 は 大 地 か ら ! 草 作 り こ そ 酪 農 だ !! 耕畜連携で築く土地利用型酪農 福岡県鞍手郡若宮町高野 388-5 森 下 団 蔵 1 出品財 出品区分:飼料生産部門・飼料作物の部 草種・品種:トウモロコシ・ゆめそだち 利用形態:ホールクロップサイレージ 出品圃場面積:212a 2 地域及び経営の概要 若宮町は福岡県の北部、旧産炭地筑豊の西北部に位置し、人口約 1 万人の農山村 地域である。耕地面積は 1,180ha で、水田が 84% を占めており、稲作を中心とした 農業が営まれている。 農業産出額は、町全体で 172 千万円であり、うち畜産は 34 千万円で全体の 19.8 %を占めている。 森下氏は昭和 57 年に酪農経営に従事し、昭和 63 年には弟の哲治氏が経営に参画、 肥育部門を開始した。就農当時は、購入飼料を主体とした経営であったが、団蔵氏 が経営の中心となるにつれ、彼のモットーである「草作りこそ酪農の基本」に基づ き、トウモロコシを中心とした粗飼料の生産に力を入れていった。 飼料の生産では、効率的に機械作業が出来るよう農場周辺に土地の集積を図り、 現在では 8ha の飼料畑を集積している。また、近隣の耕種農家と連携し、スーダン グラス 30ha、飼料イネ 16ha を水田転作作物として栽培・収穫・調製し、自経営で 利用するとともに、他の畜産農家に販売している。 ふん尿処理については、撹拌発酵処理により堆肥化し、飼料畑及び転作田への散 布で全量消費しているが、需要に追いつかない状況である。 このように、地域の耕種農家とも連携しながら、自給飼料生産に力を入れ、良質 の粗飼料を潤沢に給与することにより、ルーメン機能の安定した健康な牛群が誕生 し、高い生産性を発揮するとともに生産コストを大幅に削減することに成功してい る。 経営の概要 (1)経営形態 酪農専業経営 (2)家族と労働の役割分担 区 分 家族等 雇 続 柄 年 齢 労働従事員 備 本人 41 1 酪農部門飼養管理・飼料作物生産 妻 32 0.5 保育管理 弟 38 1 肥育部門飼養管理・飼料作物生産 弟の妻 34 0.5 肥育牛舎等清掃管理 母 74 − 子 7 − 子 5 − 子 3 − 子 0 − 用 家畜飼養管理作業 0.5 (3)経営面積 作 物 名 面 積 トウモロコシⅠ 8 ha トウモロコシⅡ 8 ha スーダングラス 30 ha イタリアンライグラス 5 ha 飼料イネ 16 ha (4)家畜飼養頭数 畜 種 乳用牛 考 経産牛 育成牛 34.6 19.9 子 牛 21.0 計 54.5 3 飼料作物の生産 草種・品種 トウモロコシⅠ トウモロコシⅡ スーダングラス イタリアンライグラス 本年度の飼 料作物作付 面積(ha) 8 8 5 5 5,000 3,500 2,750 3,500 − − 2,750 3,000 け状況及び 飼料作物の 単収 経営全体単収 (生草) (kg/10 a) 近隣平均単収 (生草) 牛舎周辺の圃場風景(トウモロコシ1作目) 4 経営・技術面での改善の取り組み (1)栽培管理技術 ① 播種する品種は、県奨励品種(ゆめそだち等)を積極的に利用し、安定した 収量を確保している。 ② トウモロコシ二期作は、猛暑の中での収穫・播種作業となるので、不耕起栽 培に取り組み、作業の省力化を図っている。 ③ 不耕起栽培では雑草抑制のため、一期作目からの雑草防除を徹底している。 ④ 播種・施肥が同時に出来るように播種機を自分で改造し、作業の省力化を図 っている。 ⑤ プラウによる深耕と堆肥の投入により、地力の増進を図るとともに、土壌分 析に基づいた適正な肥培管理に努めている。 (2)収穫・調製・利用技術 ① 農場周辺に飼料畑を集積し、効率的な機械作業によって短期間での収穫作業 を行っており、適期刈り取りに努めている。 ② 地域の耕種農家との話し合いにより、転作田の団地化を行い、効率的機械作 業により省力化を図っている。 (3)経営及び生産技術面での創意工夫 ① トウモロコシの二期作に取り組むことによって土地生産性を高め、通年給与 量を確実に確保している。 ② トウモロコシサイレージを自給粗飼料のベースとして通年給与することによ り、高い生乳生産性を確保している。 ③ 年間をとおして、最も良質なトウモロコシサイレージは夏季に給与すること により、夏期の採食量減を抑え、乳量の低下を防いでいる。 ④ ブロックサイロにはサイロクレーンを設置し、サイレージ取り出し作業の省 力化を図っている。 ⑤ 自給粗飼料を十分に給与することと併せ、自動給餌機による多回給餌を行う ことによってルーメンの恒常性を保ち、DMI の増大に努めている。 ⑥ 夫婦間(弟夫婦含む)で家族経営協定を結び、経営内での役割分担や就業条 件を明確にし、ゆとりのある経営を目指している。 (4)家畜排泄物の処理と利用 ① ふん尿は肥育部門のふんと混合し、撹拌発酵処理することで良質堆肥となっ ている。 ② 生産された堆肥は、全量を飼料畑及び転作田に還元しているが、自経営の堆 肥だけでは需要に追いつかない状態である。 (5)今後の経営の方向 ① 乳牛に草を食べさせて乳を搾るのが酪農の基本だと考えているので、今後も トウモロコシを中心に良質な自給粗飼料を生産していきたい。 ② 低コストの粗飼料生産を行うために地域と連携し、水田を利用した自給粗飼 料の生産を進めていきたい。 ③ 自分だけが儲かるのではなく、地域と協力しあいながら、お互いにメリット を生み出していくことが、安定した経営につながっていくと考えている。 ④ 地域と協力しあいながら生産した良質自給粗飼料をたっぷりと食べさせ、健 康な乳牛を育て、安全・安心なおいしい牛乳を搾っていきたい。 5 経営改善主要緒元 (1)経産牛1頭当り飼料作物作付け面積:75.1a (26ha / 34.6 頭) (2)飼料の自給率(TDN 自給率) :50.4 % (3)粗飼料の自給率(TDN 自給率 ) :87.0 % (4)飼料作物の単収(kg / 10 a):トウモロコシ 1期作 5,000 2 期作 3,500 スーダングラス 2,750、イタリアンライグラス 3,500 (5)飼料作物のTDN1 kg 当り生産費:28.8 円 (6)飼料作物調製・利用方法:トウモロコシブロックサイロによるサイレージ スーダングラス及びイタリアンライグラスはロールベールサイレージ (7)飼料作物 10 a当り労働時間(平均):2.6 hr (8)経産牛 1 頭当り乳量:8,534kg (9)経産牛 1 頭当り所得:393.9 千円 (10)家族労働 1 人当り所得:7,572 千円 (11)所得率:44 % 牛舎内風景(乾いた牛床でくつろぐ牛たち) 受賞者のことば 乳 は 大 地 か ら ! 草 作 り こ そ 酪 農 だ !! 森 下 団 蔵 1 若宮町の概要 若宮町は福岡県の北部、旧産炭地である筑豊地方の西北部に位置しており、周囲 を標高300m∼600mの山に囲まれた盆地の中にある農山村地域です。 農業は稲作を中心に果樹・花・畜産が営まれており、畜産は農業産出額で、全体 の約20%を占めています。 町内には10戸の畜産農家があり、うち7戸が酪農家で3戸が養鶏農家です。 2 経営の経過 昭和23年に父が現在地に入植し、昭和31年に搾乳牛を1頭導入したのが我が 家の酪農経営の始まりです。 私は、昭和57年に高校を卒業し、栃木県那須研修センターで研修を受けた後就 農しました。 また、昭和63年には、弟が脱サラして経営に参加し、100頭規模の肥育経営 を開始しました。 私が就農した当時の経営規模は経産牛17頭でしたが、平成2年に牛舎を増設し て規模拡大を図り、現在では経産牛35頭になっています。 飼養規模拡大にあわせて飼料畑の拡大も順次行い、農場周辺に集積を行っていき ました。当初3.5haだった飼料畑も現在では8haになりました。 飼料基盤の拡大にともなってサイロの増設も行っていきました。ブロックサイロ の増設や、中古のFRPサイロの購入、圃場でのバンカーサイロ設置など、なるべ く経費がかからないように工夫しながら対応していましたが、調製作業や取り出し 作業の効率性を考えて、平成13年に432 (54 ×8基)の角形コンクリー トサイロとサイロクレーンを設置しました。 平成12年頃より地域の転作作物の栽培や収穫作業を請け負うようになり、現在 ではスーダングラスと飼料イネを合わせて46haを請け負い、自経営内で利用す るとともに、一部は他の畜産農家に販売しています。 3 粗飼料生産及び飼養管理 (1)粗飼料生産 自給粗飼料の生産が酪農経営の基礎と考え、トウモロコシを中心に生産を行っ ています。以前はトウモロコシ・ソルガムの混播を行っていましたが、サイレー ジがソルガムの2番草に切り替わる時点で乳量が低下するので、通年でトウモロ コシサイレージが給与できるよう、トウモロコシ二期作に取り組んでいます。 トウモロコシ二期作では夏季の暑熱時に作業が集中するので、二期作の面積を なかなか増やすことができませんでしたが、不耕起播種機を導入することによっ て作業が簡素化され、栽培面積を増やすことができました。現在ではトウモロコ シ栽培を全て二期作で行うことができるようになりました。 トウモロコシの栽培圃場は牛舎周辺の飼料畑で行っています。飼養規模の拡大 に合わせて牛舎周辺に土地を集積していき、効率的な栽培管理ができるようにし ました。 圃場はプラウによる深耕と堆肥の投入を行い、連作障害を回避するとともに地 力の維持を図っています。 トウモロコシの他にはスーダングラスを栽培していますが、これは地域の耕種 農家と話し合い、水田転作作物として栽培・収穫作業を行っています。圃場の排 水や作業の効率を考え、なるべく団地化できるように話し合いながら行っていま す。 現在30haを栽培しており、うち約5ha分を酪農部門、10ha分を肥育 部門で利用し、残り15ha分は他の畜産農家へ販売しています。 (2)飼養管理 良質の自給粗飼料を十分に給与し、健康な牛を育てることを心がけています。 自動給餌機による多回給餌とトウモロコシサイレージの通年給与によって、牛の 健康状態は良好に保たれています。 スーダングラス等のラップサイレージは 、ピンホールによるカビ等に気をつけ、 変敗したものは給与しないように心がけています。 夏季の暑熱対策として、その年の一番いいサイレージを給与し、食い込み量の 低下を回避するようにしています。 また、換気扇を多数設置し、牛体への風量確保(1.5 m/s以上)等、カウコ ンフォートにも気を配っています。 (3)経営管理 福岡県畜産協会が行う酪農経営診断を毎年受けています。データをまとめるこ とによって自分の経営内容を正確に把握することができ、次に自分が何をしなけ ればならないかが良く分かり、大変助かっています。 (4)家畜排泄物の処理と利用 乳牛のふん尿は、肥育部門のふんと混合し、撹拌発酵機で堆肥化処理していま す。できた堆肥は全量圃場に還元していますが、飼料栽培面積の拡大に伴い、堆 肥供給が需要に追いつかない状況です。 4 今後の方向 自給粗飼料の生産を基本にした酪農をつづけていきたいと思っています。現在、 トウモロコシの生産は飼料畑で行っていますが、転作田での栽培にも積極的に取り 組んでいきたいと考えています。 良質のトウモロコシサイレージの生産量をさらに増やすことにより、自給粗飼料 基盤を一層安定させ、生乳生産量の増加を図りたいと考えています。 そのために今年は、地域の営農集団との話し合いで、麦作の集団栽培の後にトウ モロコシの不耕起栽培を計画しています。 これからの自給率の向上とコスト削減の鍵は、水田の活用をいかに図るかにかか っているのではないでしょうか。 そのためには、地域との連携・協力が不可欠だと思います。今後とも地域と協力 しあい、耕畜連携を図りながら美味しい牛乳を作っていきたいと思っています。
© Copyright 2024 ExpyDoc