≪小論≫異動・昇格、人事の手順

≪小 論 ≫ 異動・昇 格、人事の手順
㈱ シ ー ド ウ ィ ン [email protected]
人事の成功率をあげていくための方法があるはずである。しかし、人事には元々正し
い答えなどはない。あらゆる方法を講じて、最適解を探す。最適解にも、唯一であると
も限らない。
異動、昇格を絞り込んでいく手順ではない。確かな人材を選びだす手順であり、選び
出された彼らが成果をあげるための手順である。成果をあげるのは、選ばれた人材であ
るが、あげられるように仕向けられねばならない。
次の5つが挙げられる。
1. 仕事の中味を検討し、整理しておく。
2 . 一 つ の 仕 事 に つ い て 、複 数 の 候 補 者 を 検 討 で き る よ う に 、3 人 か ら 5 人 を 用 意 す る 。
3. 候補者が強みとするモノを3つ、4つ挙げておく。そして、如何にするかを検討す
る。
4. 候補者を知っている者の数人から、候補者が本当に成し得るかを確認する。
5. 候補者を選びだし、確認が済めば、仕事の中味を理解してもらう。そして如何に行
えば良いかを検討してもらう。
少 な く と も 、課 長 以 上 は 、上 記 手 順 を 踏 ん だ 方 が 良 い 。部 署 の 内 容 を 知 ら ず 、部 署 が 果
たすべき役割を知らずして、配属はできないはずだ。
――職務の内容は変化する。
すべての部署の職務規定がある。職務規定がいつ作られたかは問題ではなく、職務規定
は大きく変化しない。総務、財務、人事、営業、開発、生産等々、5年前、10年前と対
して変化していない。財務は財務の仕事をする。
どの部署も同じてある。しかし、一年前と現在は内容が違う。5年前とでは、大きく違
うはずである。5年前の問題と現在に抱えている問題が同じならば、組織は進歩していな
い。社会は変化する。新技術や新概念が現れる。流通はさらに変化する。使っている言葉
が同じであっても意味が違うものがある。
当社は文章分析(言語分析)を行っているので、言葉の意味変化を時々調べている。
1900 年 代 初 頭 に 発 行 さ れ た「 広 辞 苑 」の 前 身 で あ る「 辞 苑 」、
「 広 辞 苑 第 1 版 」か ら 第 6 版
ま で の 7 冊 で 調 べ る 時 が あ る 。「 辞 苑 」 で は 掲 載 さ れ て い な か っ た 単 語 が 「 広 辞 苑 第 3 版 」
から載っている語がある。第1版と第6版では単語の意味が変化しているものもある。
仕 事 に 関 わ る 単 語 で「 マ ネ ジ メ ン ト 」は 1960 年 頃 と 1980 年 頃 と 意 味 が 異 な る し 、1980
年 と 現 在 と で も 違 っ て い る 。 現 在 、 認 識 さ れ て い る 「 マ ネ ジ メ ン ト 」 の 多 く は 1980 年 頃
の意味である。職種、労働形態、組織形態によってマネジメントの意味が定められている
ようだ。
ブルーカラー、ホワイトカラーは死語になりつつある。ブルーカラーとホワイトカラー
の 境 界 が 無 く な り つ つ あ る の だ 。 日 本 で の 当 初 の ブ ル ー カ ラ ー は 1960 年 頃 ま で の 労 働 形
態を表していた。現在では、ブルーカラーに類別していた職種は、高いレベルの知識、技
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術をもっていなければ務まらない。元々のブルーカラーの領域が小さくなってきている。
ホワイトカラーに属していたサービス業務の多くは、アウトソーシングされつつある。組
織 活 動 を 満 足 さ せ る 機 能 形 態 が 1980 年 頃 と は 異 質 に な り つ つ あ る 。
一組織が一つの組織構造形式では成立しにくい。労働形態、就労形態が5つ、6つ存在
するようになった。当然、異動、昇格が一つのパターンでは出来なくなっている。
言葉の意味が変化する期間は、だんだんと短くなってきている。近代、現代史の範囲で
観察してみると、明治維新後から第一次世界大戦まで、第一次世界大戦から第二次世界大
戦 終 了 後 の 1950 年 頃 ま で 、 1950 年 頃 か ら 1970 年 頃 、 次 の 節 目 が 1995 年 頃 に な っ て い
る 。2000 年 以 降 の 言 葉 の 意 味 変 化 、表 現 構 造 変 化 を 観 察 し て み る と 3 年 か ら 5 年 周 期 に な
っている。3年~5年での変化期間が、おそらく、これ以上に短くはならないだろう。
詳しくは、
【 レ ポ ー ト 】の ≪ 表 現 &思 考 構 造 変 化 を 全 国 紙 社 説 で 追 う ≫ を 見 て 貰 え れ ば よ い 。
言葉の意味変化は、意味が変化するだけではない。
一単語だけが変化するのでもなく、多数の単語が関係しながら変化する。言葉の意味変
化は、価値を変え、行動を変える。仕事の方向を変える。職務規定は同じであっても職務
の内容は変化しているのだ。各部署の業務内容、方向と方法、目的は、1年に1回は最低
確認しておく必要があるはずだ。
業務日報、週報、報告書などの文章を月に一度でも分析しておくのがもっとも良い方法
だろう。必要とされた知識、技術、視点、意図を積み重ねておけば、常に各部署の状況が
把握できる。
――人事部は組織全体を見渡せる位置にいる。
各部署の役割、成果、部署に所属する人材の成果を知りえる立場に人事部はいる。言い
換えれば、本年度末になった時の業績をかなり高い精度を予想できる位置である。MBO
の集計結果を人事が持っているとすれば、業績予測はさらに高くなる。MBOは元々、業
績を確実にするためにあった。
組 織 人 材 の 構 成 比 率 で あ る 「 優 秀 な 人 材 」「 一 般 的 な 人 材 」「 成 果 を 上 げ ら れ な い 人 材 」
が2:6:2であると、人事部は信じているのだろうか。もし、信じていなくても実態が
2:6:2であるとすれば、6と後の2は人事の失敗を示す。人事部が、業績予測をする
責任はないかもしれない。しかし、2:6:2が存在しているならば是正しなければなら
な い 。適 材 適 所 を 信 奉 し て い る の で あ れ ば 、2:6:2 を な く そ う と し て い る は ず で あ る 。
適材適所を行っていると言い切れるのであれば、2:6:2は存在しないはずである。
「優秀な人材」の意味を検討しなければならい。優秀な人材が持っているモノを知覚して
いる必要がある。人材が優秀でありえる条件を挙げておかねばならない。人材が持つ知識
と技術、得意とする方法と方向、目的意識等々を把握しておく。優秀な人材が成果を上げ
続けているとするならば、成果が業績を表しているのも間違いがない。成果が組織内で発
生しているはずがない。もし、組織内で発生しているならば、組織内で利益が上がってい
るはずである。しかし、利益を産み出すのは組織外であり、市場である。
組織業績は、社内で発生しない。常に市場、社会で得られる。ならば、人事部は各部署
の市場及び社会との関わりを把握しているはずである。実感していないとしても、資料と
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して、市場、社会の現況を知りえる位置にある。もっとも市場と社会を知っているのは現
場である。現場からあがってくる報告書、業績等々が市場を表している。報告書の中に市
場変化、市場からの要求があるはずである。要求に対しての有効な人材像が描かれている
はずである。これらを分析すれば、人材と部署との関わりが把握できる。
――候補として挙げられた人材について周辺の人から聞き取りをする。
候補として挙げられている人材が、実際に期待している業務を進められるのかを確認す
る。該当する人材をよく知る者から聞いておくようにしよう。確認しても確実ではないが
可能性の確率は上げておきたい。その人材の価値観、習慣などが確認できれば良い。
・考えてから始めるのか、まず始めてしまうのか。
・一人ですることを好むのか、チームでする方が良いのか。
・自分で調査をするのか、失敗した場合の対策を練っているのか。
・聞く方を好むか、読む方を好むのか。
・時間が十分にある方が良いのか、追い詰められている方が良いのか。等々。
もちろん、業務に関わる知識の程度は確認しなければならない。
360 度 評 価 の 手 法 が あ る 。 参 考 に な ら な い と は 言 わ な い が 適 切 で あ る と も 言 え な い 。 下
手 を す れ ば 人 気 投 票 に な っ て し ま う 。 360 度 評 価 を す る 者 が 、 評 価 の た め の 十 分 な 知 識 を
持っていないとした方が良いだろう。セールスマン・シップの高い者を選んでも仕方がな
い。実際、自身の眼で確かめておく方が良い。
――異動・昇格後に、当人に確認を行う。
人事が行う最後のプロセスである。十分なプロセスと確認を経て異動・昇格しても、前
職と同じように成果をあげているとは限らない。どうしても、前職で成果を上げた方法、
習 慣 で 仕 事 を し よ う と す る 。職 務 が 変 わ れ ば 、求 め ら れ て い る 事 柄 も 変 わ る 。同 じ 考 え 方 、
方法では十分にならない。
異 動 後 、2 ~ 3 ヶ 月 が 過 ぎ た 頃 に 、新 た な 職 務 で 求 め ら れ て い る こ と を 検 討 し て も ら う 。
職位が変われば、当然、役割が変わる。部署が変われば、仕事の性質が変わる。変わった
職場で、求められている事柄を問い直しておく。当人が、仕事の性質が変わっているのだ
と認識出来ればよい。出来れば、面接をした方が良いが、メールまたは電話でもよい。再
異動の検討を含めて、当人から確認をとる。次長では、力を発揮したが、部長では十分で
は な い 場 合 が 起 こ り え る 。こ れ は 、能 力 の 問 題 で は な く 、性 質 と か 習 慣 に よ る 問 題 な の だ 。
――人事部は組織内での重要な役割を果たしている。
経営者チームには、CEO、CHO、CAOの3つの業務がある。人事は、組織内でも重
要な役割を果たしている。人事の成果はそのまま組織成果に直結しやすい。
参考文献
P.F.ド ラ ッ カ ー 著 『 経 営 論 集
人事の原則』
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