Page 1 海洋科学技術センター試験研究報告 JAMSTECTR4 (1980) 5

海洋科学技術 センター試験研究報告JAMSTECTR
5 .
徳永
三伍 4 (1980)
潜 水 調 査 船 の 模 型 水 槽 試 験
高川
真一 岡田
光豊 封馬
克 己 清水
徹
2,000 m 深 海 潜 水調 査船は, 水中で の調査観測 を重 視した配置,船 型で,通 常の船 とは
異 なり,特 異 な形状 と なってい る。 また推進操縦 シ ステムは, 船尾 に首振り 可能 な主推 進
器,船体中央部の左右両舷 に一 対の補助推 進 器を装備 し, 舵は装備してい ない。
本模型 水槽試験は, このよ うな船型 の推進操縦性能 の把握, また推 進操縦 シ ステ ムの設
計デ ータを得 るため, 水中 における抵 抗一 白航試験, プロペ ラ単 独試験,回頭モ ーメ ント
計測試験および船体回 わりの流場 観察 を実施 した。
抵抗一自航試験の 結果,要求性能で ある最大速 力3ノット の達 成が難しい と判 明 さ れ,
一部船 型を改良して再試験し,要求性能達 成の見通し を得 た。以後, 改良 船型 をもと に,
試験 を実施し,操縦性能を把握す ること がで きた。 なお, 流場 観察 の結 果,複 雑な船 型の
割 には安定 した流場 であ ること が確 認 された。
Model Basin Test for a 2,000 m Deep Submergence Research Vehicle
Sango Tokunaga*3, ShinichiTakagawa*3, Mitsutoyo Okada*3,
Katsumi Tsushima*3, Tohru Shimizu*4
The form of the DSV-2K
because its mission is to move
is very different from an ordinary surface ship
below the surface of the water and research the
sea bottom. Because of this,it has one horizontally rotatable main propeller
at the stern and one pair of auxiliary propellers at p/s midship. However,
it
does not have the rudder of an ordinary ship.
The model
maneuvering
basin test was
performance
dynamic/maneuvering
carried out to observe its hydrodynamic/
and to obtain data for the design of a hydro-
system.
The various tests included hydrodynamic
tests, propeller open test, turning moment
resistance and self-propulsion
measuring
test,and the observa-
tion of itsflow-field.
From
the results of the hydrodynamic
tests,it became
clear that the achievement
resistance and self-propulsion
of the required maximum
(3 kt) was difficult.Hence, minor changes were made
testing was carried out. It latter became
the required maximum
speed
on the hull form and re-
clear that the altered form achieved
speed.
*1 深 海開発 技術 部
*2 三 菱重工業株式 会社 神戸造 船 所
Deep Sea Technology Department
Kobe Shipyard & Engine Works, MitsubishiHeavy Industries,Ltd.
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Next, using the changed model submersible, the hy
drodynamic/
maneu-
vering performance was observed.
It was also determined by the observation of the flow-field around it that
the flow-field was very stable despite the non-streamlined form.
1。 ま え が き
2,000m 深海潜水調査船 は ,水中での調査観測
表 1 主 要 目
Main particulars
を重視した配置,船型となっており,通常の船と
は異なり,特異な形状となっている。また推進操
縦 システ ムとして,首振り 可能な主推進プロペ ラ
および船体中央 部の左右両舷に1基装 備した補助
プロペ ラからなり,舵は装備していない。
本模型水槽試験は,本船型の水中における推進
性能および操縦性能の把握,また推進操縦 システ
ムの詳細設計デ ータを得る目的で ,水中の抵抗お
よび自航試験 ,主推進および補助推進プロペ ラ単
独試験 ,回頭 モーメント計測試験等を実施した。
なお ,当初計画した船型の抵抗および自航試験
結果,主推進および補助推進プ ロペ ラを併用した
ときの最大速力は約 3ノットを達成することが難
かしいことが判明したため,一部船型改良を行い ,
再試験を実施した。その結果,大幅に抵抗を減ず る
表 2 模 型 主 要 寸 法
Main dimension of model
ことができ ,最大速力約3ノットを達成できる見
込みを得,以後の試験はこの改良 船型で実施した。
試験 は三菱重工業株式会社長崎研 究所 ,船型試
験場で実施した。
なお,本試験にあたり ,深海潜水調査船開発研
究会委員各位からの適 切なご助言,ご指導を いた
だき,深く謝意を 表する次第であ る。
2. 供試模型および試験の種類
本船の主要目を 表1,模型の主要寸 法を表2,
表3 模 型 試 験 の 種 類
Kind of model tests
模型船の形状を写真 1に示す。
模型船は計測装置の容量や計測精 度を 考慮し ,
縮尺は%とし た。
自航 試験には,主推進プ ロペ ラとして代用プロ
,
ペラを 用いたが 補助プロペラは縮尺 の模型は
あまりにも小 さく,プロペラの駆動,推力および
トルクの計測が困難であることから,補助プロペ
ラのケーシングのみ製作し ,副部として取付ける
ことにした。補助プロペ ラの特性は,別に縮尺
2 3 0/2 40 の模型プ ロペ ラを製作し,単独試験
を実施して求めることにした。
試験は表3に示す種類につき実施した。
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3。 水中抵抗自航試験
3 .1 計測装置
3 .1 .1 抵抗試験装置
抵抗は没水体用抵抗計測装置を使用し,船体
抵抗を コイルバネで受け ,その変位量を ギ ャッ
プセンサ ー( MODEL AEC 2525 PU
20 )で検出した。
ギャップセンサ ーの検定は試験装置に組込ま
れた状態で荷重範囲O ∼28kg, 水温7 ∼20℃で
写 真 1 模 型 船
Hull form ( mode1)
行い ,その直線性を確認した。
没水深度は自由表 面の影響を取除くため,静
水面から模型船プロペ ラ中心まで2.0m
図 1は水中抵抗試験配置図を示す。
3.1.2 自航試験装置
とした。
自航動力計で推力 ,トルクを検出し た。検出
用ゲ ージは板ゲ ージを使用した。
検定範囲は ,推力 が最大14 k&,トルクが最大
0.3k9 −mである。
没水深度は計測治具の関係で0.6m とした。
図2には水中自航 試験配置図を示す。
3 .2 試験状態
図 1 抵 抗 試 験 配 置 図
Arrangement of resistance test
本船は船外に突出した種 々の副部があるため,
模型試験では抵抗に大 きく寄与すると思 われる
副部を取付けた状態で実施した。
模型試験で考慮した副部を表4に示 す。 マニ
ピュレ ータ,テレビ カメ ラ等の複雑な形状をし
た副部は,模型に適し た形状に修正した。また
計測装置を 模型内に収納する必要があり,模型
は水密構造としているため ,船体の開口は考慮
できない。
自航試験ではプロペ ラ位置を原位置に対して
実船寸 法で150㎜ および 300㎜ 後方へ移動
させ ,プロペ ラ位置の 自航要素に対する影響を
調査した。
3 .3 原船型による試験結果
水中の前進抵抗の計測結果を図3の破線で示
した。計測結果 は抵抗 係数の形で示し たが ,浸
水面積を レファレンス・エ リアとし ,レイノル
ズ数ベ ースにプロ ットした。
水中におけ る自航試験は前述のように ,プ ロ
ペ ラ位置を変更,自航要素のプロペ ラ位置によ
る影響を調査した。表5はこの結果を示す。
水中抵抗および自航試験結果をみると,抵抗
値は当初計画よりも悪く,自航要素結果を基 に
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表 5 原 船 型 自 航 要 素
Self-propulsion factors of original hull form
図 3 抵 抗 試 験 結 果
Results of resistance test
馬力推定を実施 し たが,主推進 およ び補助推進
4。 プ ロペラ単独試験
プロ ペ ラを 併 用した場 合の最 大速力約 3 ノット
4 .1 主推進プロペラ
を達成 するこ とが難 かしいことがわ かり ,急拠
船型 改良を 実施 す ることにし た。
3 .4 船型 改良
図 4は原型 からの 改良 点を示 す。 改良 点 は船
首部のRの増 大 ,船 体 ナックルラインの消滅, 船
尾上 部およ び下部にRをつけ て船 尾をや せ させ ,
船尾を 実船 寸法で150㎜後方 へ延長し た。
その結 果 は図 3の抵抗 試験結 果中に実線で示
したが ,原型 と比較 すると船型 改良 によ って25
∼30%抵抗 は減少 してい る。 改良 は同時に行 っ
たため ,どの 部分の改良 が抵抗減少に大 きく寄
与し たか明確で はない 。
同 図 中 に は, 6, 0 0 0 f t の 深 海 調 査 船
* ALVIN
”の 結果も合 わせて示 した。 その結
果に 比較して若干 抵抗 係数は大きい もののバ ラ
ツキは小さい。
自航試験 の結果を表6に示す。自航 要素は原 型
と同 程度 の性能 が得 られ 主推 進および補助プロ
ペ ラを併 用した場 合の最大速 力約 3ノットが達
成 できる見込 みを 得た。
なお ,本船 の推進 システ ムは主推進プ ロ ペ ラ
による前進およ び主推進プロペ ラと補助推進プ
ロペ ラによ るモ ードがあり ,両者で はプ ロ ペ ラ
荷重 度が異 なる 。
プ ロペ ラ荷 重度を変 化させたときの自航要 素
の変 化およ びレイ ノルズ数に対す る変化を 図 5
およ び図6に示 す 。
この図か らわか るように ,荷重度の変化に対
ロペラ特性は推力 係数 KT,トルク係数 K。と
もに, NAU
チャートから推定したものよりも
若干大きいものの ,単独効率 ηl,は同程 度であ
った。
4 .2 補助推進プ ロペ ラ
補助推進プ ロペ ラは,左右舷 プロペラを正逆
転することによって,本船の回頭運動,上下に
首振りを行い上下またはホバリング運動,かつ
主推進プロペラと併用時には前進運動を行う。
したが って,正逆転時 の推力 差が小さく,か
つ所要推力が得られるものを 選定 する必要があ
り,本船のプロペ ラはノズルプロペ ラを採用し ,
ノズルは後進性能に対し てもすぐれたNSMB
-Na 37ノズルを採用している。
表8には補助推進プロペ ラの要目を示す。
補助推進プ ロペ ラは両舷の船外に突 出したモ
ーター部,ノズル付プ ロペ ラおよび支柱からな
る。し たがってモーター部までを 主船体と考え ,
プロペ ラ単独特性からその推進性能を求めるよ
りも,モーター部および支柱をも含めた補助推
進プロペ ラを一つの推進器として取扱う方が簡
単であり ,かつ精度よく推進性能を求めること
ができると思われ,単独試験もこれに従 った。
図8には単独試験結果を示 す。
4 .3 到達速力
し て自航 要素 は一定 とみなす ことができ ,また
本船の速力は,主推進プロペ ラと補助推進プ
ロペ ラを併用したとき,最大約 3ノットを要望
自航要 素の縮率 影響 について も,模型船 一実船
されている。
の縮尺 が%であ ることを 考え合 わせ ると ,無視
改良船型による水中抵抗自航試験結果および
プロペ ラ単独試験結果から本船の到達速力を求
でき るものと考え られ る。
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本船の主推 進プ ロペ ラの要目を表7に示 す。
また図 7にはプロペラ単独試験結果を示す。プ
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めた。本船 の抵抗係数としては図3に示した高
レイノルズ数域の抵抗係数,
として扱うことにした。
計算結果を図9に示す。最大約3ノットを達
成することがで きた。
5. 回頭モーメント計測試験
5 .1 計測装置
の値に対し,前述のように,模型水槽試験では
主推進プロペラと主船体を分離したビハ イン
考慮できない船体外皮の開口影響,模型では考
慮しなかった付加物の影響等を考慮し,10%抵
ドテスト方式によって,プロペ ラの首振り角度
を左舷15 度から右舷55 度まで変化できる装置を
抗を増加させ,
製作した。なお,実船の首振り角は最大60度で
Ct 実船=
0.0 2 6 7 ………………(2)
あ るが,本試験では試験装置の関係で最大55 度
までとした。
図 5 自 航 要 素 と プ ロ ペ ラ 荷 重 度
Self-propulsion factor vs propeller load factor
図4 船型改良
Modification of hull form
表 6 自
航
要
素
Self-propulsion factor
図 6 自航 要素とレ イノル ズ数
Self-propulsion factor vs Reynolds number
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本装置は ,主船体が昇降筒を貫通し た支柱に
よ って曳引車に固定 され,支柱は船体内でL字
型となり ,船体とは前後2箇所の検カ ゲージで
表 7 主 推 進 プ ロ ペ ラ 要 目
Particulars of main propeller
連結してい る。このゲージによ って船体に働く
抵抗および横力を検出した。
図10は 計測装置の配置図を示す。
試験時の没水深度は0.6m
とした。
上記のビハ インド方式による計測結果の チェ
ックを兼ね,主船体と主プ ロペ ラを一体とした
内蔵方式で も試験を行った。このときの主推進
プロペ ラの首振り角度は左舷15 度のみである。
5 .2 試験状態
試験 は。ビハインド・ テスト方式で は首振り
角を左舷15 度から右舷55 度まで15度ピッチで変
化させた。 また内蔵方式では前記の通り,左舷
15 度のみである。
曳船速度とプロペラ回転数との関係は,実船
船速1.0 y ットに相当するプロペラ荷重度とし ,
模型船速1.2 m/s
, 回転数11.1 8 rps とし
た。
5 .3 試験結果
首振り角に対する横力および回頭モーメント
の変化を 図11 ,横力および回頭 モ ーメントは図
12に示す。力およびモーメントの関係から ,ビ
パ イント方式および内蔵方式の横力 および回頭
モーメントは表9で示 す式で表わすことができ
る。
ビハインド方式と内蔵方式の結果は割合良 く
一致してい る。
5 .4 運動性能
本船の回頭 モーメント計測結果を もとに ,主
推 進プ ロペ ラの首振りによる施回運動のシミュ
レ ーショ ン計算結 果の一 例を図13に示す。
6. 船体まわり流場観察
6 .1 タフトテスト
主推進 プロペ ラの首振角度を種 々変化させた
とき,船尾付近の流れの様子を タフト法によっ
Characteristic curves of main propeller
て可視 化し, 16mm 写真 フィルムによる水中撮影
一方 ,船首上面左舷側の流向流速計取付け位
置の流れは, CTFM
ソーナの後流の ため,流
を実施した。
図14には タフト取付位置を示した。
れが乱れていることがわかった。この ため,C
TFM ソーナを右舷側に寄せ,流向流速計を前
タフトテスト結果 ,船尾付近の流れは割合安
定しており ,渦等の発生や剥離等の異常は見ら
れなかった。船型改良 による効果もあ ったもの
と思われる。
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図 7 主 推 進 プ ロ ペ ラ特 性 曲 線
方へ移動させることにした。
タフトテストの状況を 写真2に示す。
6 .2 流向流速計測
本試験は ,実船における流向流速計 の読みの
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表 8 補 助 推 進 プ ロ ペ ラ 要 目
Particulars of auxiliary propeller
図9 推進性能曲線
Power curve
表 9 回 頭 モ ー メ ン ト計 算 式
Calculation formula of turning force and moment
図8 補助推進プロペラ特性曲線
Characteristic curves of au xiliary propeller
図10 回頭 モーメ ント計測装置配置図
Arrangement of turning moment ゛s measurement
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図11 回頭 モーメ ント計測結果
Results of turning moment's measurement
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表 10 流 向 流 速 計 測 結 果
Result of flow direction and speed
図 12 横力お よびモ ーメ ントの 関係
Relation between side force and moment
図 13 旋 回 圏 の 推 定
Estimation of turning circle
プロペラ首振角 右舷55 °
Urn = 1. 2 m/s
(1) 船首部上面
りm ― 0. 5 m/s
(2) 船尾部上面
写真 2 タフトテスト
Tuft test
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傾向および公試速力試験時の速 度計設置位置の
検討資料を得る目的で実施した。
計測は51孔 ピトー管を 用い ,流向流速計位置
およびペイロ ードラック前方の流向流速を計測
した。図14に計測位置を示 した。
計測結果を 表10に示 す。
7。 あ と が き
2,0 0 0 m 深海潜水調査船の推進性能および操
縦性能を把握する目的で ,模型水槽試験を実施し,
その性能を把握するとともに,推進操縦 システ ム
に対する設計デ ータを 得ることができた。
今後 ,本船の公試 または就航後,推進性能およ
び操縦性能に関して ,フォロ ーレ実船との対応を
調査 ,確認する必要があろ う。
文 献
1) Maror
Jr.,J.W., et al., “Alvin, 6,000 ft
Submergence Research Vehicle
”, SNAME
Trans. Vol. 74(1966)
図 14 タフト取付位置およ び流速計 測位置
Position of tuft and flow measurement
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