経済対策の需要押し上げ効果 - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式

景気循環研究所
鹿野達史の日本経済の視点
2016 年 8 月 10 日
経済対策の需要押し上げ効果
~16、17 年度の成長率を 0.3%ポイント押し上げ。懸念材料は円高の影響~
●政府は、事業規模 28.1兆円の「未来への投資を実現する経済対策」を決定。
「1 億総活躍社会」
政府は、8 月 2 日の臨時閣議で、「未来への投資を実現する経済対策」
実現に向けた対策
を決定した。具体的な施策をみると、政府が打ち出している「1 億総活躍
やインフラ整備に
社会」の実現加速のための政策が柱の 1 つとなっており、子育て・介護支
重点。
援策、低所得者を対象とした現金給付の拡充(1 人 15000 円へ)などが盛
り込まれている(表 1)。
低所得者への現金
加えて、インフラ整備にも重点が置かれている。「21 世紀型」として、
給付や 21 世紀型イ
「外国人観光 4000 万人時代に向けたインフラ整備」などが掲げられ、大
ンフラ整備などを
型クルーズ船対応の港湾整備、羽田空港の機能強化などに取り組むことが
盛り込む。
示されている。さらに、リニア中央新幹線の大阪延伸の前倒しなども挙げ
られている(同)。
表 1. 「未来への投資を実現する経済対策」の主な項目
嶋中 雄二
景気循環研究所長
鹿野 達史
景気循環研究所副所長
シニアエコノミスト
03-6627-5131
shikano-tatsushi1@
sc.mufg.jp
宮嵜
浩
シニアエコノミスト
03-6627-5132
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
福田
圭亮
シニアエコノミスト
03-6627-5133
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
景気循環研究所
東京都千代田区大手町 1-9-2
大手町フィナンシャルシティ
グランキューブ
○ 1億総活躍社会の実現の加速
・ 保育・介護施設の受け皿整備
・ 保育・介護人材の処遇改善
・ 雇用保険料や国庫負担の時限的な引き下げ
・ 年金受給資格期間の短縮
・ 低所得者への現金支給
○ 21世紀型のイ ンフラ整備
・ 外国人観光客4000万人時代に向けたインフラ整備
(大型クルーズ船対応の港湾整備、羽田空港等の機能強化など)
・ 農林水産物の輸出促進と農林水産業の競争力強化
・ リニア中央新幹線や整備新幹線等の整備加速
(リニア中央新幹線の大阪延伸の前倒しなど)
○ 英国のEU離脱に伴う不安定性などのリスクへの対応並びに中小
企業・小規模事業者及び地方の支援
・ 中小企業などへの資金繰り支援
・ 街おこしに向けた交付金の創設
○熊本地震や東日本大震災からの復興や安全・安心、防災対応の強化
・ 熊本地震被災自治体による復興基金創設の支援
・ 東日本大震災復興のための道路・港湾整備
○成長と分配の好循環を強化するための構造改革等の推進
・ 働き方改革の推進
・ 最低賃金の引き上げ
・ 社会保障・税制などの構造改革
(資料)内閣府資料などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
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2016 年 8 月 10 日
対策の実行で内需
このほかでは、「英国のEU離脱に伴う不安定性などのリスクへの対応
下支えを目指す。
並びに中小企業・小規模事業者及び地方の支援」
、
「熊本地震や東日本大震
災からの復興や安全・安心、 防災対応の強化」
、「成長と分配の好循環を
政府はGDP押し
強化するための構造改革等の推進」なども取り組む施策として盛り込まれ
上げ効果を 1.3%
ており(表 1)、政府は対策の実行で「内需を下支えする」としている。
程度と試算。
対策の「事業規模」は、28.1 兆円程度で、このうち「財政措置」は、
「国・
地方の歳出」
(7.5 兆円程度)と「財政投融資」(6.0 兆円程度)を合わせ
た、13.5 兆円程度となっている(表 2)。また、政府は対策の実行による
需要(実質GDP)押し上げ効果を、
「概ね 1.3%程度」と試算している。
表 2. 経済対策の事業規模、財政措置などの規模
事業規模
(兆円)
財政措置
うち
国・地方の歳出
うち
財政投融資
3.5
3.4
2.5
0.9
10.7
6.2
1.7
4.4
英国のEU離脱に伴う不安定性などのリスク
への対応並びに中小企業・小規模事業者及び
地方の支援
10.9
1.3
0.6
0.7
熊本地震や東日本大震災からの復興や
安全・安心、防災対応の強化
3.0
2.7
2.7
0.0
28.1
13.5
7.5
6.0
1億総活躍社会の実現の加速
21世紀型のインフラ整備
合計
(資料)内閣府資料などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
●追加支出は5.4兆円程度か。需要押し上げ効果は、GDP比で0.9%に。
予算措置について
経済対策による需要押し上げについては、国・地方の歳出によるものが
は、16 年度第 2 次
中心となるが、予算措置をみると、16 年度第 2 次補正予算に加え、17 年
補正、17 年度当初
度当初予算、さらに、それ以降の予算で手当てするかたちとなっている。
予算などで手当て
ただ、17 年度当初予算では、今回対策の施策が計上されるものの、他の
するかたちに。
歳出項目が削減され、全体で増加とならない可能性がある。今回対策のう
ち、17 年度当初予算以降の予算計上分については、追加支出と言いにく
17 年度当初予算以
い面があるといえる。
降の計上分につい
16 年度第 2 次補正予算に基づくものが追加支出の中心となるが、前述
ては、追加支出と
の国・地方の歳出 7.5 兆円のうち、国の歳出は 6.2 兆円で、16 年度の国
言いにくい面も。
の追加支出は 4.5 兆円とされている(表 3)。地方の歳出は 1.3 兆円とな
るが、国と同様に 7 割強を 16 年度追加分とすると、国・地方合わせた 16
年度の追加は 5.4 兆円となる(同)
。公共投資を 4 兆円、その他を 1.4 兆
円として、低所得者への現金給付などについては、3 割程度が支出に向か
うと想定すると、経済対策の需要押し上げ効果は、GDP(15 年度)比
で 0.9%程度となる。
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当確性、完全性を保証するものではなく、利用に際してはお客様ご自身でご
判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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2016 年 8 月 10 日
表 3. 経済対策の国・地方の歳出
(兆円)
歳出規模
うち
16年度追加
国・地方の歳出
7.5
5.4
国の歳出
6.2
4.5
地方の歳出 1.3
0.9 ※
(注)地方の16年度追加については、歳出規模に対する16年度の比率が国と同水準として試算。
(資料)内閣府資料などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
●16、17年度の成長率を0.3%ポイント押し上げ。
16 年度第 2 次補正
経済対策の需要押し上げ効果の表れる時期については、16 年度第 2 次
予算は 10 月上旬に
補正予算の成立後となる。政府は、9 月中旬、または下旬に臨時国会を召
も成立へ。
集し、直ちに予算案を提出し、10 月上旬の成立を目指す方針を示してお
り、16 年度下期以降、効果が期待できることになる。
16 年度下期以降に
ただ、契約までに時間を要することもあり、公共投資の 16 年度中の進
需要押し上げ効果
捗は 3 割強にとどまることが考えられる。また、低所得者への現金給付は、
が表れ、17 年度も
17 年夏となる見通しで、押し上げ効果は 17 年度に入っても続くことが見
続くことに。
込まれる。今回対策により、実質GDP(水準)は、年度ベースでみると、
16 年度に 0.3%、17 年度は 0.6%押し上げられ、成長率の押し上げ効果は、
16、17 年度ともに、0.3%ポイントとなると試算される(表 4)。
表 4. 経済対策、円高の経済への影響
(%、%ポイント)
16年度
17年度
経済対策が実質GDP
(水準)に与える影響
0.3
0.6
経済対策が実質GDP
成長率に与える影響
0.3
0.3
円高(10%)が実質GDP
成長率に与える影響
▲0.1
▲0.4
(注)円高の影響は、16年10~12月期以降、1ドル=102円で推移した場合の111.97円(日銀
短観の企業の想定レート)で推移した場合との比較
(資料)内閣府資料などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
●円高のマイナス効果が経済対策の効果を打ち消す懸念。
円高の影響が懸念
材料。
経済対策の効果が期待できるほか、足元で中国や新興国の製造業PMI
が持ち直すなど、世界経済の減速に歯止めがかかる兆しも出ている。足踏
み状態にある国内景気が、再び上向いてくる素地が整ってきているが、こ
円レートは、企業
の想定以上の円高
水準で推移。
うした中、懸念されるのは円高の影響といえる。
円レートは、日銀短観の企業の想定レート(16 年度:1 ドル=111.97
円、全規模・全産業)に比べ、10%程度の円高水準で推移しており、企業
収益の下振れが懸念される状況に変わりがない。ちなみに、10%の円高(16
年度下期以降)の成長率に与える影響を試算すると、年度ベースでは、16
年度がマイナス 0.1%ポイント、17 年度はマイナス 0.4%ポイントとなり、
経済対策のプラス効果を打ち消す懸念がある(表 4)。
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当確性、完全性を保証するものではなく、利用に際してはお客様ご自身でご
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2016 年 8 月 10 日
望まれる量的金融
緩和の拡大。
7 月 28 日の本欄(「鹿野達史の日本経済の視点:望まれる量的金融緩和
の拡大」16 年 7 月 28 日号)でみた通り、円高進行については、国内のマ
ネーの拡大の勢いが弱まっていることが影響している可能性もある。政府
の経済対策の決定・発動に合わせて、日銀が量的金融緩和の拡大を図るこ
とが望まれる。
(16.8.10
(以 上)
鹿野 達史)
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2016 年 8 月 10 日
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