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Ⅲ . 肥満 2 型糖尿病の治療とその新展開
5. 薬
物療法
(最近の進歩)
順天堂大学大学院代謝内分泌内科
古川 康彦
糖尿病治療の基本の 1 つは食事・運動療法であり,生活習慣
の改善なしに薬物療法を先行させると短期的には血糖コント
ロールを改善させるが,肥満が進行しインスリン抵抗性を増悪
させ,ひいては心血管リスクの増加につながる恐れがある.近
年臨床の現場で使用できる糖尿病の薬剤は増えているがあくま
でも糖尿病の治療の第一は生活習慣の改善であり,それでも良
好な血糖コントロールを得られないときに薬物加療を選択する
という基本は遵守するのが大切である.DPP-4 阻害薬の登場
により糖尿病治療は進歩したが,2014 年より使用可能となっ
た SGLT2 阻害薬の登場により高血糖を改善させることに加え,
肥満をも改善させられる可能性があり,肥満を伴う 2 型糖尿病
に対するアンメットニーズに応えられる期待がある.
はじめに
国際糖尿病連合(IDF)によれば 2014 年の世界の糖尿病
患者は 3 億 8 ,670 万人に達し,2035 年には 5 億 9 ,190 万人に
まで増加すると推計されている 1).わが国の現在の成人糖
尿病人口は 721 万人で,2013 年の 720 万人から微増し,ラ
ンキングでは 2013 年と同じ世界 10 位となった.診断を受
けていないとされる 389 万人を加えると 1 ,110 万人となり,
2007 年の糖尿病実態調査の 890 万人から 220 万人増加した
ことになる.わが国や中国を含む西太平洋地或で糖尿病発
症が多いのは,東アジア人の軽微な肥満によるインスリン
抵抗性の増加に代償できない脆弱なインスリン分泌能によ
ると考えられている.さらにアジア人種は過食や運動不足
などによる軽度なエネルギー過剰によって皮下脂肪組織を
増加させることができず,内臓脂肪や脂肪肝など異所性脂
肪蓄積をきたしやすいことが判明している 2).
わが国においても肥満合併の糖尿病患者を診る機会が多
いが,合併症の予防のためには良好な血糖管理と肥満解消
の両方が同時に求められる.仮に血糖が厳格に管理されて
も体重が過度に増加していくような薬物療法では網膜症な
どの細小血管障害は予防できたとしても,心筋梗塞や脳梗
塞などの大血管障害の発症を減じることができないことが
肥満□インスリン抵抗性□肥満合併 2 型糖尿病□
DPP-4 阻害薬□ SGLT2 阻害薬
懸念される.
生活習慣の改善なしに薬物療法を先行させると短期的に
The Lipid Vol. 26 No. 2 2015- 4 (169 )77
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