DPP-4 阻害薬開発の歴史

1 DPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)阻害薬開発の歴史
特 集 DPP-4 阻害薬を極める 〜有効性と安全性を踏まえた適正使用に向けて〜
A
DPP-4
血中 GLP-1 濃度
Test infusion
B
血中 GIP 濃度
0.9 % NaCl
GLP-1 7-36
GIP
Intravenous glucose
阻害薬開発の歴史
(pmol/l)
200
30
0
−40
GIP
(Dipeptidyl Peptidase-4)
(pmol/l)
60
GLP-1 7-36
1
特 集 DPP-4 阻害薬を極める 〜有効性と安全性を踏まえた適正使用に向けて〜
0
40
Time
80
120
(分)
血中インスリン濃度
(pmol/l)
1000
C
黒瀬 健,清野 裕
関西電力病院,関西電力医学研究所
DPP-4,DPP-8,DPP-9 のほか,2 個の非酵素蛋白質が含まれる.DPP-8 や DPP-9 は細胞質に存在するため,
600
400
200
では DPP-4 阻害薬の効果はほとんどみられない.DPP-4 の酵素活性が GLP-1,GIP の分解に働くことが
証明され,DPP-4 ノックアウトマウスの糖代謝における特性が明らかになり,成長にも問題ないことが明らか
0
−40
にされた.また,GLP-1,GIP 受容体ダブルノックアウトマウスにおける DPP-4 阻害薬の効果により,DPP-4 阻
害薬の糖代謝に及ぼす効果が GLP-1 および GIP 分解の阻害によるものであることが示唆された.これらの研究
結果から DPP-4 阻害薬は臨床的にも有用であることが示唆され,さらにヒトでの DPP-4 阻害薬の臨床応用から
DPP-4 阻害薬の開発は急速に進められることになった.
0
40
Time
80
120
0
40
Time
80
120
(分)
血糖
(mmol/l)
12
Glucose
Insulin
ンであるペプチドから,加水分解により N 末端の 2 個のアミノ酸を取り除く酵素である.DPP-4 族には FAP,
0
−40
D
800
DPP-4 はプロリルオリゴペプチダーゼの DPP-4 族に属し,N 末端から 2 番目のアミノ酸がプロリンとアラニ
100
0
40
Time
80
120
(分)
8
4
0
−40
(分)
図 1 静脈内ブドウ糖負荷を GLP-1 および GIP 静脈内投与中に行った際のインスリン分泌と血糖値
(文献 4)
健常人 5 名
Test infusion 時に GLP-1 7-36 は 0.32 pmol/kg/ 分で,また GIP は 1.05 pmol/kg/ 分で投与された.
癒部位など組織再構築が行われている部位での発現が知
発見された生理活性物質は GIP であり,1969 〜 1971 年
られており,アミノ酸組成で DPP-4 と 48 %の相同性が示
DPP-4 とその関連酵素
されている.FAP は endopeptidase 活性がありゼラチンや
にかけて Brown らがブタの小腸抽出物から 42 個のアミ
はじめに
ノ酸からなる胃酸分泌抑制ホルモン(gastric inhibitory
polypeptide)として発見した
DPP-4 阻害薬の開発の歴史はインクレチンの働きを増強
1, 2)
.一方,第 2 のインクレ
チンは GLP-1(Glucagon like peptide-1)で,1983 年に
Ⅰ型コラーゲンを分解することが知られている.
DPP-4 は DPP-4 族に属する酵素で,プロリルオリゴペプ
一方,DPP-8 は 882 個のアミノ酸からなり,第 15 染色
チダーゼにも属している.DPP-4 族には 4 つの酵素が含ま
7)
体 ,DPP-9 は 863 個と 892 個の 2 種類の相同体が存在
れ
,DPP -4,FAP(fibroblast activation protein),
5)
することが知られ,第 19 染色体上に遺伝子が同定されて
して,血糖値を改善することに成功した歴史である.そも
Bell らにより明らかにされたグルカゴン前駆体の構造の中
DPP-8 および DPP-9,さらに 2 個の非酵素蛋白質が含ま
8)
いる(図 2) .DPP-8 および DPP-9 とも DPP-4 と高いアミ
そもインクレチンの歴史の始まりは 1921 年のインスリン発
に GLP-1 が存在すること,またその後 GLP-1 が血糖依存
れる.DPP-4 族の酵素は蛋白質の N 末端にある X-Pro ま
ノ酸構造の相同性がみられるが,DPP-4 とは異なり膜貫通
見より古く,1902 年の Bayliss と Starling のセクレチン
性にインスリン分泌を促進するインクレチンであることが明
たは X-Ala の構造(X は Pro 以外のいずれのアミノ酸でも
領域の構造がなく,細胞質に存在が限局している.DPP-8
よい)
を認識して 2 個のペプチドを切断し,取り除く.
と DPP-9 の生理的な役割はいまだ十分明らかでないが,
3)
4)
) .このような歴史的背景のなかで,
発見にさかのぼる.また,インクレチン作用の実証は 1960
らかにされた(
年代で,Berson と Yalow がノーベル賞を受賞したイン
本稿では DPP-4 によるインクレチンの分解の発見とその重
FAP は膜型セリンプロテアーゼのセプラーゼとしても知ら
in vitroの実験ではDPP-4の基質となりうるGLP-1,GLP-2,
スリンのラジオイムノアッセイの開発によって,インクレチ
要性の証明,そして阻害薬の開発へと続く歴史をたどっ
れているが,DPP-4 と同じ第 2 染色体上に存在し ,760
neuropeptide Y(NPY)
,peptide YYをも分解することが
ン研究は大きく後押しされた.インクレチンとして初めて
6 ● 月刊糖尿病
2016/12 Vol.8 No.12
てみたい.
図1
6)
5)
個のアミノ酸からなっている (
図2
)
.肝硬変や創傷治
できる.また,DPP- 8 は in vitro で stromal cell - derived
月刊糖尿病 2016/12 Vol.8 No.12 ● 7