十王町山部 菖蒲沢の馬頭観音道標

ふるさと散歩
№49
H28.8.8
日立市郷土博物館
《道標シリーズ36
訪ね歩いてみませんか?ひたちの道標》
「十王町山部
菖蒲沢の馬頭観音道標」
■ 十王町山部の山中の T 字路にも道標
十王町山部地区は多賀山地の縁に当たり、名前のごとく“山のへり”
の丘陵地帯に位置しています。丘陵上には田畑が広がっていて、江戸
時代末には那珂湊の反射炉用の石炭の採掘が行われたところでもあり
ます。また、文久元年(1861)からミカン栽培も行われ始め、現在で
もミカン園が 1 園営業をしています。山部地区の西側には、山地から
流れ出す沢がいくつもあり、そのうちの一つに“菖蒲沢”があります。
高速道路の下から約 1.7km 入った地点にはT字路があり、ここには馬
右の小道を行けば、中戸川へ・・
頭観世音が 2 基あります。そのうちの文字塔が併用道標です。
★「菖蒲沢の馬頭観世音文字塔の道標」…馬頭
観世音碑に道標が銘記されています。高さ 71cm、
幅 29cm の石灰岩製の碑には、
中央に「馬頭観世音」の文字、その左右に「文化十五年/寅二月吉日」の建
立年月日、年号の下には方向を示す「右なかと川/左入四けん」の文字、そ
して、建立者名「藤田勝衛門」と刻まれています。
右に道をとると、鈴平集落まで約 3km、さらに田代集落を経て中戸川集落に
約 4km、計 7km で行くことができます。このルートは、明治 40 年の地図に、
また平成の地図にも明記されています。鈴平-田代-中戸川間は、現在、県北
馬頭観世音道標
東部広域農道となった道や市道で、車の通行ができますが、ここから鈴平まで
の道は山道です。
左に道をとり、標高 320mほどの尾根に登れば、十王川沿いの大原、
古田、横川の各集落に行くことができます。
現在はどちらに道をとるにしても、山仕事関係の人以外には通る人
のいない道です。
岩城相馬街道と棚倉街道を結ぶ道として、十王川沿いに西に進んで
峠を越える道がありますが、これを本道とすれば、この菖蒲沢を通る
道は脇道と位置付けられます。入四間を目指す場合はあまりこの道は
選ばれなかったのではないでしょうか。なぜならば、この道を使って
も近道になるわけではなく、本道と言える十王川沿いの道の方が険し
くなく通行が容易であったと考えられます。
★黒前防空監視哨跡…本道標の南西1km ほどの日向
倉山頂(標高 385m)には、黒前防空監視哨がありました。戦時中の昭
和 18 年 3 月に、石組みで屋根付きの聴音壕、休憩室などのある小屋
などが建てられ、現在も聴音壕跡、防空壕跡と思われる人工的なくぼ
地が残されています。この黒前防空監視哨で上空監視の任務について
いたのは、黒前村の各小学校高等科を卒業し、兵隊に行くまで在村し
ていた青年たちでした。
市内には、ここ以外にも防空監視哨跡が残っていますので、機会が
あれば紹介したいと思います。
参考文献:『十王町史
石灰岩に刻まれた道標。
(下半
部は土中に埋もれていたため
地誌編』(2008)
あまり風化していません)
『十王町民俗資料館紀要』3(1994)
お問い合わせ先:
日立市郷土博物館
℡(23)3231
Fax(23)3230
歴史資料調査員
綿引 逸雄