サイトカイン遺伝子発現量とタンパク量の マルチプレックス定量解析

遺伝子発現定量解析システム
GenomeLab GeXP
Application Information No.2
サイトカイン遺伝子発現量とタンパク量の
マルチプレックス定量解析
Introduction
ヘルパーT細胞によるサイトカインの産生パターンは、疾病や感染に対する身体の反応を方向付けている。また、ヘル
パーT細胞はサイトカインの種類によってクラス分けされている。Th1 細胞はIFNγ、IL-2、TNFα、TNFβを優位に産生し、
炎症性の細胞性免疫反応を仲介する。また、Th2細胞はIL-4、IL-5、IL-6、IL-10、TNFβを優位に産生し、非炎症性の液
性免疫反応を仲介している。このヘルパーT細胞のプロファイルは、感染や疾病により引き起こされた反応治療方針の
指針を与えると同時に、治療効果に影響を及ぼす可能性がある。例えば、細胞性免疫システムをつかさどるTh1ヘル
パーT細胞を活性化することで薬理作用を期待される薬剤の場合、Th2ヘルパーT細胞が優位に活性化される状況では
予想外の免疫毒性効果であるアレルギー反応を誘発する危険性がある。
近年アメリカFDA(食品医薬品局)は、製薬会社に対して新規医薬品で非臨床免疫毒性試験を推奨するガイドラインを
公表した*。これにより炎症や免疫反応で生じるメディエーターの発現をモニタすることが疾患機序や薬物動態の研究に
おいてさらに重大な役割を果たすようになった。今回、GenomeLab™ GeXP Genetic Analysis System(GeXP)を使い、
サイトカインのRNAレベルでの発現量のモニタを行った。このシステムはマルチプレックスRT-PCR § アッセイを応用し、
10種のサイトカイン(IFNγ、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、TNFα, TNFβ)のmRNA発現プロファイルを同時
に解析することを可能にした。末梢血単核球(PBMC)におけるサイトカイン遺伝子のmRNA発現量がマイトジェン刺激
よってどのように変化するかについて解析を行い、刺激により発現が亢進することが認められた。RNAレベルの発現解
析と同時に細胞上清は、ヒトTh1/Th2 サイトカインキットとフローサイトメータを使用しマルチプレックスでサイトカイン
タンパク量の定量を行い同様の結果が得られた。
*
アメリカ保健社会福祉省、食品医薬品局、医薬品評価センター(CDER)、生物製剤評価センター(CBER) (2006年 4月) 医薬品の免疫毒性試験
に関するガイドラインS8 (http://www.fda.gov/cder/guidance/6748fnl.htm)
§
PCRプロセスは、Roche Molecular SystemsおよびF. Hoffman-La Roche Ltd.が所有する特許により保護されています。
G
テク
GeeX
クノ
ノロ
XP
ロジ
Pテ
ジー
ー::マ
マル
ルチ
チプ
プレ
レッ
ック
クス
スユ
ユニ
ニバ
バー
ーサ
サル
ルプ
プラ
ライ
イミミン
ング
グ
キメラプライマー:
ターゲット遺伝子配列とユニバーサルな配列の
両方を持った混合プライマー
3’
5’
ターゲット遺伝子
配列特異的な部分
ユニバーサル配列部分
mRNA はリバースキメラプライマーの遺伝子特異的な部位を
使い、配列特異的に逆転写され cDNA を合成する。
cDNA はフォワードキメラプライマーの遺伝子特異的な部位に
よって PCR が行われる。
継続的に起こる PCR ではユニバーサルプライマーによって
すべての遺伝子が均一に増幅される。
Figure 1
GeXPで使用するXP-PCRはユニバーサルと遺伝子特異的な配列を持ったキメラプライマーを使い、複数の遺伝子を1つのPCR反応
として反応を行う。この方法は従来のマルチプレックスPCRとは異なり、すべての遺伝子産物を均一に増幅することができ、それぞれ
のPCR産物の相対的な量を維持することができる。
サイトカイ ンパネ ル
Table 1
Th1/Th2 GeXP マルチプレックスアッセイのターゲットにした遺伝子とそのNCBI アクセッションナンバー
IFNγ
TNFα
TNFβ
IL-1β
IL-2
NM_000619
NM_000594
NM_000595
NM_000576
NM_000586
IL-4
IL-5
IL-6
IL-8
IL-10
NM_000589.2
NM_000879
M18403
NM_000584
NM_000572
Cyclophilin
GAPDH
β-actin
BC000689
NM_002045
NM_001101
Figure 2
マルチプレックスXP-PCR産物の泳動結果。すべてのターゲット遺伝子のmRNAを含むトータルRNAをテンプレートとした。反応コン
トロールであるカナマイシン耐性遺伝子(KanR)も同時に増幅している。
Materials & Methods
<実験サンプル>
ヒトPBMCを10%ウシ胎児血清添加 RPMI 1640に細胞数 2×106/mLに調製し、LPS(10 µg/mL)または、PMA(20
ng/mL)とPHA(2 µg/mL)(PMA/PHA)の組み合わせで刺激した。刺激開始0、3、6、18、24、48時間後に細胞を回収し、
-80℃で保存した。抽出されたトータルRNAの濃度は分光光度計で測定され純度は260/280 nmで確認した。
<タンパク定量>
細胞培養上清中のサイトカイン量はSuen and Roby (2007)*に述べられている方法を応用したFlowCytomix
ヒトTh1/Th2 サイトカインキットとCytomics FC500 MPLシステムで定量を行った。刺激後 0、3、6、18、24、48、72時
間後の上清をアッセイに使用し、セットアップにはベックマン・コールター社製 Biomek® FXワークステーションを使用
した。
<GeXP プライマー>
GenomeLab GeXP eXpress Profilerソフトウエアに目的の遺伝子配列をダウンロードし入力した後、専用のプライマー
デザインソフトを用いてのマルチプレックス用のキメラプライマーを設計した。
<データの取得>
GeXPアッセイはGeXP スタートキット (Beckman Coulter, Fullerton, CA)を使用し、キット付属のプロトコルに従って
調製を行った。トータルRNAは5 ng/µLに調製し、25 ngを逆転写反応(RT)に使用した。RT反応で使用するマルチ
プレックスリバースキメラプライマーは遺伝子により100 pMから100 nMの間で適切な濃度に調整された。RT反応産物
の9.3 µLを使い、最終濃度20 nM、フォワードキメラプライマー存在下でPCR を行った。一連の反応はPTC-200 サー
マルサイクラー(BioRad Inc., Waltham, MA)で、GeXPスタートキットで推奨されている反応サイクルに従い行われた。
RT: 48℃ 1分; 37℃ 5分; 42℃ 60分; 95℃ 5分
PCR: 95℃ 10分; (94℃ 30秒; 55℃ 30秒; 68℃ 1分)×35サイクル;
<データ解析>
PCR産物は希釈され、キャピラリー電気泳動でサイズによって分離された。フラグメントデータの結果はGenomeLab
GeXPソフト(Ver.10、アルゴリズムVer.2.2.1)を用いて解析を行った。すべての遺伝子はβアクチンに対しノーマライズ
を行った。ノーマライズにはピークエリアの値を用いた。
* Yu Suen and Keith Roby (2007, April). Bead-based Immune Function Study Using the FlowCytomix Multiplex Human Th1/Th2 10plex Assay on the
Biomek FX Laboratory Automation Workstation.
分子生物学会年会(カナダ、モントリオール)におけるポスター発表。
Results
Figure 3
マイトジェン刺激に対する遺伝子発現レベル(棒グラフ)とタンパク量データ(線グラフ)。
LPS刺激サンプルはオレンジ、PMA/PHA刺激サンプルは青で示した。X軸は刺激時間を示し、Y軸は遺伝子発現量(左側)とサイト
カインタンパク量(pg/mL、右側)を示している。LPS刺激後18時間のサンプルは取得していない。各サイトカインにより表示スケール
は異なる。
Discussion
GeXPで使用されているマルチプレックスXP-PXRアッセイは、10種のTh1/Th2サイトカインのmRNA発現量を同時に
測定することが可能であり、またマイトジェン刺激の時間経過による発現の変動をモニタできることが 確認された。
同様にヒト Th1/Th2サイトカインキットで複数のサイトカインタンパク量の変化を定量できることが示唆された。今回得ら
れた発現量とタンパク量のデータに概ね良好な相関が見られた。発現量の増加はそれぞれの遺伝子産物であるサイト
カインタンパク量の増加と同時もしくはそれに先立って観察された。IL-4はタンパク量が十分でなかったため定量不可能
であったが、他のサイトカインはRNA発現レベルとタンパク質量はPMA/PHAの刺激により増加した。PMA/PHA刺激に
おいてRNA発現レベルは刺激後6時間にピークに達したあと減少したが、タンパク量はそれ以降でピークに達し、タン
パク量はその後も維持された。IFNγ、TNFα、TNFβ、IL-8、IL-2はPMA/PHAによって強く発現誘導された。IL-2を除く
すべてサイトカインの発現レベルはLPS刺激によって上昇したが、IL-2、TNFβ、IFNγのタンパク量はほとんど検出され
なかった。LPS刺激によるRNA発現のピークは刺激後約3時間で、PMA/PHA刺激よりも早く起こった。サイトカインタン
パク量の増加はRNA発現亢進と同時か、それに少し遅れて観察された。IL-6、IL-8、TNFα、IL-10はLPSによって大きく
誘導された。
Conclusion
10のTh1/Th2サイトカイン遺伝子と3つのコントロール遺伝子をターゲットとしたマルチプレックス遺伝子発現定量シス
テムが、GeXPを使用して構築された。この実験系において、GeXPはLPSやPMA/PHAで刺激されたヒト末梢血単核球
でのサイトカイン遺伝子の発現量の変化を測定する有用であることが示唆された。また、細胞培養上清はヒトTh1/Th2
サイトカインキットでサイトカインタンパク量を定量した。RNA発現量とタンパク量の結果には良好な相関関係が見られ
ており(図3)、mRNAとタンパクレベル双方でのin vitro免疫機能解析においてGeXPとFC 500は強力な解析ツールに
なることが示唆された。
Beckman Coulter、Beckman Coulterロゴ、Biomek、およびGenomeLabは、Beckman Coulter, Inc.の商標です。
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