自然免疫応答を増強する

Cytokine (70) 2014 July
LOW MOLECULAR WEIGHT HYALURONAN MEDIATED
CD44 DEPENDENT INDUCTION OF IL-6 AND
CHEMOKINES IN HUMAN DERMAL FIBROBLASTS
POTENTIATES INNATE IMMUNE RESPONSE
LUCIE VISTEJNOVAA,B,C, BARBORA SAFRANKOVAA,B,
KRISTINA NESPOROVAA,B, RASTISLAV SLAVKOVSKYA,
MARTINA HERMANNOVAA, PETR HOSEKC, VLADIMIR
VELEBNYA, LUKAS KUBALA
低分子ヒアルロン酸は、ヒト真皮の線維芽細胞におけるIL-6
及びケモカインのCD44依存的誘導を介在し、自然免疫応答
を増強する
2014/11/10
柴田 真衣
真皮の構成成分としてのヒアルロン酸について
真皮の重要な構成成分の一つにヒアルロン酸(HA)がある
・真皮において、通常HAは大半が分子量100万程度の
高分子として存在する
・炎症によって発生するROSやHYALs(ヒアルロン酸分解酵素)によってHAは低分子(オリゴ糖レ
ベル)に分解される
・低分子HAはケラチノサイトなどの上皮細胞の増殖および内皮細胞の血管新生行動の活性化
などを含む、炎症、創傷治癒プロセスを促進する
・高分子HAはマスト細胞の脱顆粒を抑制するなど、炎症を抑制し、真皮の恒常性を保つ役割
を持つ
このように、HAは分子量によって異なる炎症を制御する役割を持つことが分かっている。
D. Jiang, J. Liang, P.W. Noble, Annu Rev Cell Dev Biol, 23 (2007), pp. 435–461・
線維芽細胞と免疫応答について
線維芽細胞は、結合組織に存在する細胞の
一つで、ヒアルロン酸、コラーゲンなどの結合
組織の成分を産生し、組織の構造を維持す
る役割を持つ。皮膚では真皮に存在する。
近年、線維芽細胞は組織の構成維持だけで
はなく、炎症や免疫応答のプロセスを担う役
割があることが分かってきた。
・ヒト線維芽細胞は、T細胞と共培養すると活
性化され、炎症性サイトカインを産生する
(K.M. Muller, M. Bickel et al, Cytokine, 12
(2000), pp. 1755–1762)
・in vitroでヒト線維芽細胞にUVAを照射する
と、2時間後にIL-6.8のmRNAレベルが上昇す
る。(Claire Marionnet et al. PLOS ONE 2014
volume 9)
http://www.geocities.jp/study_nasubi/r/r6.html
背景と目的
線維芽細胞は、様々なストレス刺激に応答して炎症性サイトカインおよびケモカインを生産し、協
働して免疫応答と、炎症反応の調節に関与する。
しかし、線維芽細胞の機能を調節する因子が何か、また、どのようなメカニズムで作用するのか
は、明らかになっていない。
「HAの分解産物は、慢性創傷の部位で蓄積される」(W.Y. Chen, G. AbatangeloWound Repair
Regen, 7 (1999), pp. 79–89)という報告から、筆者らは低分子HAが線維芽細胞の機能調節に寄与
している可能性があると考えた。
→ヒト線維芽細胞におけるサイトカイン及びケモカインの産生の活性化に対する低分
子HAと高分子HAの作用を比較した。また、線維芽細胞がHAを認識する受容体につ
いて考察した。
NHDFのサイトカイン、ケモカイン産生に対するHAの影響の評価
NHDFについて
NHDF・・・Normal Human Dermal Fibroblast(ヒト線維芽細胞)
健康なドナーから採取し、10%FBSを含むDMEMで培養した。
継代数が2~4の物を実験に用いた。
ディッシュに播いた後、24h経過したものを実験に用いた(細胞の接着のため)
HAについて
HMWHA・・高分子HA(分子量100kDa程度)
一般的に体内に存在するHAの分子量
LMWHA・・低分子HA(分子量4.3kDa程度)
NHDFのサイトカイン、ケモカイン産生に対するHAの影響の評価
•
h
点線・・Control
(HA添加なし)
白・・LMWHA
黒・・HMWHA
①NHDFを、LMWHA又はHMWHA(100µg/mL)含有DMEMで24時間培養
②細胞を回収し、リアルタイムqRT-PCR
→各種サイトカイン、ケモカインmRNA量は、LMWHA添加によっ
て有意に増加し、HMWHA添加によって有意に減少した。
NHDFのサイトカイン、ケモカイン産生に対するHAの影響の評価
mRNAレベルでの検討の後に、タンパク質レベルでの定量を行った。
IL-6
IL-8
①NHDFを、LMWHA又はHMWHA(100µg/mL)含有DMEMで24時間培養
②上清を回収し、ELIZAで細胞外のサイトカイン量を定量
→HMWHAの添加ではIL-6,8の分泌量の有意な変化は認められ
なかったが、LMWHAでは有意な増加が認められた。
LMWHAがNHDFを介して白血球に与える作用の評価
?
LMWHAに由来するNHDFのサイトカイン産生量の増加が、免疫応答のメカニ
ズムに対して有意な影響を及ぼすかどうかを、白血球を含むヒト血液を用いて
検討した。
ヒト血液サンプル・・健康なドナーから採取後、抗凝固剤(ヘパリン)を加えた血液を同量の
RPMIで希釈したもの
LMWHAがNHDFを介して白血球に与える作用の評価
IL-6
IL-8
①NHDFを、LMWHA又はHMWHA(100µg/mL)含有DMEMで24時間培養
②細胞上清をヒト血液サンプルと1:1で混合し、6h培養
③細胞上清を回収しELIZA
→LMWHA,HMWHAともに、白血球に直接作用してサイトカイン量
を変化させる現象は認められなかった。
NHDFにLMWHAを添加し培養した細胞上清は、ヒト白血球のIL6,TNF-α分泌量を有意に増加させた。
CD44ノックダウンNHDFの作成
CD44はHAの最も一般的なレセプターであり、線維芽細胞を含む多くの細胞表面に発現
している。
CD44がLMWHAのNHDFに対する作用に関与しているかどうかを検討した。
CD44のノックダウン
CD44siRNAをトランスフェクトしてNHDFの
CD44のノックダウンが正常に行われる
ことを確認した。
①NHDFにCD44siRNA又はscrambled
siRNAをトランスフェクトして72h培養
②細胞を回収し、リアルタイムqRT-PCR
→CD44のノックダウンが正常に行われていることが確認された。
CD44の、LMWHAのNHDFに対する作用との関連性の検討
①NHDFにCD44siRNA又はscrambled
siRNAをトランスフェクトして72h培養
②NHDFを、LMWHA又はHMWHA
(100µg/mL)含有DMEMで24h培養
③細胞上清を回収してリアルタイム
qRT-PCR
→LMWHAの添加によりNHDFのIL-6
,8の発現量が有意に上昇するが、
CD44のノックダウンにより
その作用が認められなくなった。
CD44の、LMWHAのNHDFに対する作用との関連性の検討
→LMWHAの添加により、NHDFのCXCL1,2,6,CCL2の発現量が有
意に上昇するが、CD44のノックダウンによりその作用が認められ
なくなった。CCL8については有意差が認められなかった。
CD44の、LMWHAのNHDFに対する作用との関連性の検討
IL-6
IL-8
①NHDFにCD44siRNA又はscrambledsiRNAをトランスフェクトして72h培養
②NHDFを、LMWHA又はHMWHA(100µg/mL)含有DMEMで24h培養
③細胞上清を回収してELISA
→LMWHAの添加によりNHDFのIL-6,8の分泌量が有意に上昇す
るが、CD44のノックダウンによりその作用が認められなくなった。
総括
・LMWHAは、NHDFに直接作用して、炎症性サイトカインやケモカインのmRNA発現量と、分
泌量をそれぞれ増加させる。HMWHAではこの作用は認められない。
・LMWHAによって誘導された炎症性サイトカインやケモカインが、白血球に作用し、白血球
の炎症性サイトカイン産生量を増加させる。
・LMWHAのNHDFに対する作用はCD44依存的である。
炎症によって蓄積する低分子HAが、線維芽細胞を介して炎症や免疫応答を制御すること
が明らかになった。