第161回現代日本語学研究会発表要旨(2016.07.30) カテゴリーの周辺例を明示する表現に見られるカテゴリー化 ―「ぎりぎりX(である)」を中心に― 閔ソラ(名古屋大学[院] ) 1.はじめに (1)衣桁を製作、お納めしました。 「衣桁」そう、それは着物などを掛けるための家具。いや家具では ない、いえ多分ギリギリ家具。 (家具工房のブログ) 本発表では、例(1)のように「ぎりぎりX(である) 」の形式で、ある物事がカテゴリーX(四角で囲ん だ要素)の周辺例であることを明示する用法の意味を分析し、そこに見られるカテゴリー化の様相につ いて考察する。 2.先行研究 国語辞典では「ぎりぎり」の意味を「許される範囲(限度)いっぱいで、それ以上余地のないこと(さ ま)(『大辞林 第三版』)」と記述しており、(1)の用法に関する言及がない。なお、閔(2014)は「ぎ りぎり(の)X」の意味を記述しているが、(1)の「ぎりぎり」は直接名詞Xを修飾しているとは考えに くい点、「ぎりぎりX」と「ぎりぎり(の)X」の意味に相違点がある点から再考察が必要である。本発 表ではこれらの問題点を踏まえ、「カテゴリー化」(Lakoff 1987、Taylor 2003、籾山 2010a)、「百 科事典的意味」(Langacker 1987、籾山 2010b)、「典型例・理想例」(Langacker 1987、籾山 2014) の概念を援用し、考察を行う。 3.分析 (1)から分かるように「ぎりぎりX(である)」は、話者が話題の対象を、カテゴリーX((1)では「家 具」)の典型例と大きく異なるが、スキーマ的特徴((1)では人がある目的のために家の中に据えて使 用する道具)は共有していることから、Xの境界線に近い内側に周辺例として位置づける表現であると 考えられる。これは「ぎりぎりのX(である)」と比較するとより明白である。(2)から分かるように、 「ぎりぎりのX(である)」は話題の対象をカテゴリーX((2)では「環境」)の成員として位置づけて はいるが、Xの理想例とは違い、話題の対象が好ましくない、不安定で危ない状態にあることを表すと 思われる。 (2)胎盤も石灰化や穴が開いたり機能も悪くなり、羊水もかなり少なくなり、ギリギリの環境のなか、 琉菜もよく頑張って37週0日までお腹にいてくれました。(個人ブログ) 「ぎりぎりX(である)」において、話 者は話題の対象とカテゴリーXの典型例が それぞれ異なってはいるものの、「スキー マ的特徴を共有している」ことに注目して いる。それに基づき、話者はXの典型例・ 理想例から成るXの下位カテゴリーをより 広く拡張させることで、話題の対象を拡張 されたカテゴリーXの成員としてXの境界 線の近い内側に位置づけていると考えら れる(図1参照)。 「家具」の典型例から成る「家具」カテゴリーの 下位カテゴリー テーブル、タンス … 拡張された「家具」 カテゴリー 衣桁、鏡… 図1 「家具」カテゴリーの拡張 4.おわりに 「ぎりぎりX(である)」:<話者が><話題の対象を><カテゴリーXの典型例・理想例と比較し> <それと何らかの点で大きく異なるが><Xの多くの成員に当てはまるスキーマ的特徴を共有してい ることから><Xの典型例・理想例から成るXの下位カテゴリーを拡張させ><その拡張されたXの境 1 界に近い内側に><周辺例として位置づける> 主要参考文献 松村明編(2006)『大辞林 第三版』 、三省堂 閔ソラ(2014)「カテゴリーの周辺例を明示する表現に関する考察」、 『日本語文法学会第十五回大会発表 予稿集』 、pp.111-118、日本語文法学会 籾山洋介(2010a)『認知言語学入門』 、研究社 籾山洋介(2010b)「百科事典的意味観」 、山梨正明他編『認知言語学論考』No.9、pp.1-37、ひつじ書房 籾山洋介(2014)「百科事典的意味における一般性が不完全な意味の重要性」 、 『日本認知言語学会論文集』 第14巻、pp.661-666、日本認知言語学会 Lakoff, G. (1987) Women, Fire, and Dangerous Things. The University of Chicago Press. Langacker, R. W.(1987)Foundations of Cognitive Grammar Vol. 1, Stanford: Stanford University Press. Taylor, J. R. (2003) Linguistic Categorization: Prototypes in Linguistic Theory(Third Edition). Oxford University Press. 2
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