金属錯体を発光プローブとする生体内酸素 イメージング技術の開発 群馬大学大学院理工学府分子科学部門 教授 飛田成史 1 生体内に適用可能な酸素測定法(従来技術) 1) 電気化学的方法 酸素電極を挿入(侵襲的) 測定中に酸素を消費 2) EPR オキシメトリー プローブ(常磁性試薬)を投与 EPR 信号の線幅から算出 3) 細胞内還元反応を利用する方法 Nitroimidazole系薬剤、他 4) BOLD MRI Blood oxygenation level dependent (BOLD) MRI 電気化学的方法は、侵襲性が高いという欠点があり、その他の方法も 細胞レベルの酸素化状態を画像化することは難しい。 2 新たな酸素測定法 5) 光学的方法(酸素によるりん光消光を利用) プローブ(りん光性試薬) 利点: 低侵襲的 空間分解能が高く、リアルタイム計測が可能 細胞レベル、in vivoレベルでの酸素イメージングに適用可能 欠点: 組織深部の測定は限定される 腫瘍 HeLa細胞内の発光 腫瘍組織内の発光 3 これまでに報告されている代表的な発光性酸素プローブ R R ルテニウム錯体 O O HN O O O NH O R R HN NH 2H2O O N 2Cl- O N Pd N N O O HN N H R R O HN O O O NH O O R R ポルフィリン金属錯体 O R1 R1 HN O NH R= O O H N HN O NH R1 = HN O O O HN O n Me n = 21-22 R1 O R1 これまでのプローブは細胞内に入りずらい 4 イリジウム錯体の特徴 1.配位子の構造を変えることで、細胞親和性や細胞内局在を制御できる → 細胞内で働く酸素プローブ 2.配位子の構造を変えることで、吸収・発光波長を制御できる → 発光波長を近赤外化し、組織への透過性を高めることが可能 3.Ru錯体に比べてりん光量子収率が大きく、りん光寿命が長い → 適度な酸素感受性 lmax = 615 nm tp = 6.3 ms Fp = 0.31 BTP 5 光学的酸素濃度測定法の原理 分子の発するりん光が酸素分子との衝突によって 消光される現象を利用 りん光性分子としてイリジウム錯体を利用 6 イリジウム錯体のりん光消光 BTPの構造式 酸素存在下でりん光強度、りん光寿命が減少 りん光強度、りん光寿命変化に基づいて酸素濃度計測 7 酸素濃度の定量法(溶液) Stern-Volmerの式 10 DMPC 1mM BTP 10mM 0 p 35 oC 1 k / p 15 0 0 0 p O2 p p 15 5 0 q p oC Fp : りん光量子収率 酸素の分圧 tp : りん光寿命 0.1 pO2 / atm 0.2 kq : 消光速度定数 酸素分圧に対してりん光寿命の比をプロットし 消光速度定数(kq)を求めておけば、りん光寿命(tp) から酸素分圧(酸素濃度)が求まる。 8 酸素濃度の定量法(細胞) A 1000 Counts 培養器内の酸素分圧を基準にして 細胞内のりん光寿命のcalibrationを行う 0 mmHg 19 38 76 160 500 培養器 0 0 酸素分圧:pO2 10 Time ( s) 20 1 O2 < P> [O2] −1 6 −1 (10 s ) B O2 0.5 0 0 発光寿命測定 50 100 150 pO2 (mmHg) 9 9 イリジウム錯体を用いた細胞内の酸素計測 イリジウム錯体は、配位子の構造を 変えると、細胞膜透過性や細胞内局在 が変化する BTP-Mito BTP-Mitoは細胞内のミトコンドリアに 集積して発光(りん光)を与える ミトコンドリア内の酸素分圧に依存して 発光強度が変化する(酸素応答性) T. Murase et al., Chem. Lett., 2012, 41, 262. 10 プローブの改良 吸収・発光特性 細胞特性 BTP p電子系の拡張 カチオン化 N Ir S O O 2 BTPDM1 細胞内移行性の向上 O OH BTPHSA 長波長化(近赤外化) + N Ir N N PF6 - N S S 2 長波長化(近赤外化) 長波長化(近赤外化), 長寿命化 11 組織への光の透過 532 nm 1 532 nm 652 nm 652 nm 0 400 600 波長 (nm) 深部組織を観るには 近赤外光が必要 800 イリジウム錯体の細胞内局在 リソソーム 小胞体 細 胞 BTP BTPDM1 核 ミトコンドリア + S N N PF6 Ir S (ppy)2Ir(tpphz) N N NR2 R : H, CH3, CH2CH3 (btq)2Ir(phen-NR2) S. Tobita and T. Yoshihara, Curr. Opinion Chem. Biol., 2016, 33, 39. BTP-Mito 13 測定例(培養細胞内の酸素濃度勾配) T. Yoshihara et al., Anal. Chem. 2015, 87, 2710. プローブ bottom glass cover slip BTPDM1 O2 O2 Counts 1000 500 b 200 mm 0 SCC-7細胞の エッジ付近の明視野像 同じ領域の りん光顕微画像 0 a 内側 (6.9 mmHg) b 外側 (166 mmHg) a 10 Time ( s) 20 BTPDM1のりん光減衰曲線 カバーガラスの内側の細胞は低酸素状態になっている 14 測定例(正常組織と腫瘍組織の酸素化状態) N HN O S Ir N りん光 寿命計 O O 2 励起光 BTPDM1 パルス レーザー 25 nmol, 1% DMSO/saline 1000 Counts 腫瘍のりん光寿命は 正常組織に比べて長い 腫瘍は低酸素状態 に陥っている 腫瘍(6.1 mmHg) 500 0 0 正常組織(50 mmHg) 10 Time ( s) 20 15 吸収・発光波長の長波長化 吸収スペクトル 4 りん光スペクトル BTP 1 BTP Near IR 2 0 4 x 20 BTQ BTQ 1 0 4 BTPH Intensity / arb. unit −1 cm −1 x 20 4 3 / 10 dm mol BTIQ 2 2 Fp = 0.40 0 BTIQ 1 Fp = 0.14 tp = 1.4 ms 0 BTPH 1 Fp = 0.32 tp = 2.1 ms x 20 0 BTBQ BTBQ 1 x 20 400 500 600 700 Wavelength / nm Fp = 0.08 tp = 0.9 ms 2 0 300 tp = 5.9 ms tp = 3.3 ms x 20 0 4 Fp = 0.33 0 2 0 4 溶媒:ジクロロエタン 0 600 700 800 900 Wavelength / nm 16 測定例(長波長化プローブによる深部組織の観測) 肝臓の裏に腫瘍を固定したマウスの尾静脈からBTPまたはBTPHSAを投与し、 in vivoイメージング装置(Maestro FL500)を用いて発光画像を観測 BTP S. Zhang et al., Cancer. Res. 2010, 70, 4490. BTPHSA BTPHSAでは皮膚から 6 – 7 mmの深さの 腫瘍をイメージング可能 17 新技術の特徴・従来技術との比較 • 酸素電極を挿入する電気化学的方法に比べて、低侵 襲的に酸素計測が可能 • 細胞や組織のような微小領域の酸素濃度測定が可能。 • 寿命計測を行うことにより、細胞や組織中の酸素分布 をイメージングできる • 目的に合わせてプローブをカスタマイズできる 18 想定される用途 • 酸素濃度測定試薬 • 低酸素腫瘍診断試薬 • 溶存酸素センサー • 顕微鏡下でりん光寿命測定を行うことにより,細胞や 組織の酸素濃度を高分解能で画像化することが可能 となることも期待される 19 実用化に向けた課題 • プローブの投与量を抑え、計測時間を短縮するために、 プローブの吸収・発光効率をさらに向上させることが 望ましい • プローブの酸素に対する感受性をさらに高める • 細胞や組織の酸素化状態を定量するには、発光寿命の キャリブレーション法を確立することが求められる • プローブの生体に対する影響をできるだけ軽減する 20 企業への期待 • 細胞や組織の酸素化状態をイメージングするシステ ムの開発に興味を持つ企業との共同研究を希望。 • 酸素濃度測定試薬,低酸素組織検出試薬、光学式 酸素センサーを開発中の企業,もしくは創薬,環境分 野への展開を考えている企業には,本技術の導入が 有効と思われる。 21 本技術に関する知的財産権 •発明の名称 :酸素濃度測定試薬および酸素濃度測定方法 •出願番号 :特願2007-126518 特開2008-281467 •出願人 :国立大学法人群馬大学 •発明者 :飛田成史,吉原利忠,竹内利行,穂坂正博 •発明の名称 :細胞・組織内酸素濃度測定のための高感度近赤外 りん光イリジウム錯体 •出願番号 :特願2013-244120 特開2015-101567 •出願人 :国立大学法人群馬大学 •発明者 :吉原利忠,小野寺研一,菊池俊毅,飛田成史 •発明の名称 :新規化合物およびそれを利用した酸素濃度測定試薬 •出願番号 :特願2013-244186 特開2015-101570 •出願人 :国立大学法人群馬大学 •発明者 :吉原利忠,村山沙織,飛田成史 22 お問い合わせ先(必須) 群馬大学 産学連携・知的財産活用センター TEL 0277-30 - 1171~1175 FAX 0277-30 - 1178 e-mail tlo@ml.gunma-u.ac.jp 23
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