AL-7 シアリダーゼ活性の可視化と臨床への応用 Imaging of sialidase activity and its clinical application 鈴木 隆(Takashi SUZUKI) 静岡県立大薬(School of Pharmaceutical Sciences, University of Shizuoka) シアリダーゼは糖鎖末端からシアル酸残基を遊離する加水分解酵素である。哺乳動物のシアリダー ゼには、細胞の局在性や基質特異性などが異なる 4 種類のアイソザイムが存在し、細胞の分化、増殖 などに関与することが報告されている。また大腸がん等において一部のシアリダーゼアイソザイムの 発現が異常に亢進することが判明している。一方、インフルエンザウイルス、ヒトパラインフルエン ザウイルス、ムンプスウイルス等のウイルスやコレラ菌、肺炎レンサ球菌等の細菌類もシアリダーゼ 活性を有しており、ウイルスの細胞内への侵入過程や子孫ウイルスの遊離過程でシアリダーゼが機能 することが知られている。このため、シアリダーゼの活性を高感度に可視化することができれば、細 胞や組織におけるシアリダーゼの機能解明だけでなく、大腸がんなどの検査、インフルエンザウイ ルス等の検出や分離に貢献できるものと期待される。本講演では、固体状態で強い蛍光性を有する 2-benzothiazol-2-yl-phenol(BTP)誘導体にシアル酸を付加した新規蛍光基質(BTP-Neu5Ac)の特 徴と BTP-Neu5Ac を利用してこれまで行ってきた研究と最近取組んでいる研究成果の一端を紹介した い。 シアリダーゼの基質としては、これまでに呈色基質である 4- ニトロフェニル誘導体(PNP- Neu5Ac)や 5- ブロモ -4- クロロ -3- ヒドロキシインドール誘導体(X-Neu5Ac)、蛍光基質である 4メチルウンベリフェロン誘導体(4MU-Neu5Ac)、化学発光基質である 1,2- ジオキセタン誘導体(NAStar®) が知られている。しかしながら、X-Neu5Ac 以外の合成基質は反応生成物が水溶性であるため に、組織等のシアリダーゼ活性を可視化するための基質としては利用できない。また X-Neu5Ac から 遊離する X は不溶性のインジゴ色素を呈するが、感度が低いため、細胞や組織のシアリダーゼ活性を 可視化することは困難である。そこで、X-Neu5Ac にジアゾニウム化合物であるファーストレッドバ イオレット LB を加えることで、ジアゾカップリングによる蛍光性アゾ色素を生成する方法が考案さ れた。しかし、この反応は pH による影響を受け易く、二段階の反応を要するために特異性や感度に 問題がある。一方、BTP 誘導体は水に難溶であり、固体状態で蛍光性を示す。また低い pH 条件でも 強い蛍光を示し、ストークシフトが 150 nm 以上と大きく、励起光の影響を受けにくいために高い感 度と特異生を示す。BTP-Neu5Ac を用いることで、ラット脳組織におけるシアリダーゼの可視化やラッ トの胎児のシアリダーゼ活性を全身蛍光イメージングすることに初めて成功した。また、大腸がんモ デルマウスを作製し、BTP-Neu5Ac で染色したところ、がん部位を簡便に可視化できることが明らか になった。さらに、外科的手術によって摘出されたヒト大腸がん組織を用いた検討から、大腸がん部 位を BTP-Neu5Ac により明瞭に検出できることを明らかにした。一方、インフルエンザウイルス感染 細胞や NA 遺伝子発現細胞を BTP-Neu5Ac を用いて可視化した結果、ウイルスの亜型等に関係無く、 検討したすべてのウイルス株 NA の検出が可能であった。さらに、ヒトパラインフルエンザウイルス、 ムンプスウイルス感染細胞等の検出にも応用できることを明らかにした。このように本蛍光プローブ は、細胞変性作用が弱くプラーク形成が困難なウイルスや増殖性が低いウイルスの検出にも有用であ る。また NA 阻害剤と BTP3-Neu5Ac を併用することで、薬剤耐性ウイルスやその感染細胞を選択的 に検出可能であることも判明した。最後に、BTP3-Neu5Ac を用いて現在取り組んでいる記憶形成に おけるシアリダーゼの研究成果についても紹介したい。 【謝辞】本研究は、静岡県立大学薬学部生化学分野のスタッフや学生諸君、さらに広島国際大学薬学部 有機合成化学研究室(池田 潔教授)の皆様をはじめとして、多くの共同研究者と共に行ったもので あります。この場をお借りして謹んで感謝いたします。
© Copyright 2024 ExpyDoc