魚ウロコの高分子コラーゲンを高い効率で抽出する技術

魚ウロコの高分子コラーゲンを高い効率で抽出する技術
地方独立行政法人 鳥取県産業技術センター
食品開発研究所 応用生物科 高橋 野口
コラーゲンとは?
コラーゲンは自然な状態では3重らせん構造をとっている
3本のタンパク質が規則正しく絡み合った3重らせん構造
①②③
3重らせんコラーゲン同士が集まり、コラーゲン繊維を作り出す
(この繊維は組織にしなやかさ、強さを与える)
熱を加えることで3重らせん構造が壊れるが、冷却することで再結合し、ゲル化する
冷却
加熱
加熱
3重らせん構造
バラバラになった
タンパク質
不規則に再結合
(ゼリー化)
コラーゲンの産業利用
• ゼラチン(変性コラーゲン、ゲル化可能)
• アテロコラーゲン(未変性コラーゲン)
• コラーゲンペプチド(コラーゲンの分解物)
↓
• 一般食品・健康食品
• 化粧品
• バイオテクノロジー(細胞培養、再生医療)
• 写真フィルム等
コラーゲン市場は拡大傾向にある
健康食品産業の市場規模は1990年代後半から年々成長を続けている。
素材別にみると、コラーゲン市場は1999年に70億円だったが、2001
年には200億円を越える成長の著しい分野である。
参考 健食流通新聞(ニューマガジン社:http://www.newmagazine.ne.jp/skodeta-top.htm)
現在もコラーゲンが添加された食品、化粧品が次々に開発されており、
消費者の関心も高い素材であると思われる。
食品や化粧品として利用した場合、美容効果、アンチエイジング効果を期待されているが、
機能性に関する確かな証拠は乏しい。
イメージ先行で消費者に受け入れられている
コラーゲン原料の変化
BSE問題を回避するために、新しい素材として魚類が注
目されている。魚類にはBSEのような病気がないため、
各地で魚類由来コラーゲンについて研究が行われた。
全国でサメの皮やサケの皮からのコラーゲン抽出、有効
利用について研究が行われている
フィッシュコラーゲン
魚のコラーゲン
動物のコラーゲンに比べて
構造の安定化に関わるプロリンという成分が少ない
↓
ゼラチン化温度が低い(動物:30-40℃、魚20-30℃)
ゼラチン化温度が低いという特長を活かし
特に食品分野での利用に適した製品を開発する
鳥取県米子市、境港市
有数の漁港:境港を有する背景
水産加工業が発達し、水産廃棄物の有効利用・高付加価値化のニーズがある
水産物由来コラーゲンの抽出、利用について検討されてきた。
鳥取県産業技術センターでもコラーゲンの抽出方法開発について研究し
コラーゲン抽出方法を開発した。
コラーゲンペプチドの製造方法
テラピア鱗
0.1N-HCl (ミネラル分の除去(脱灰))
0.1N-NaOH (非コラーゲンタンパク質の除去)
アルカリ溶液(5~10%NaHCO3)
加熱、加圧(120℃~140℃)
コラーゲンペプチド
魚鱗のアルカリ・加圧処理によるコラーゲン分解物抽出
ウロコ1.5g 140℃、180℃で1時間処理
140℃
残滓の有無
140℃
180℃
H2O
+
-
0.01N-NaOH
+
5% 重曹
10% 重曹
180℃
色
140℃
180℃
H2O
淡黄
茶
-
0.01N-NaOH
淡黄
茶
-
-
5% 重曹
淡黄
茶
-
-
10% 重曹
淡黄
茶
アルカリを加えたものは加圧処理後、アンモニア臭が発生した。
左から
蒸留水
0.01N-NaOH
5% 重曹
10% 重曹
魚鱗のアルカリ・加圧処理によるコラーゲン分解物抽出
ウロコ1.5g 140℃、180℃で1時間処理
ケルダール法で総窒素定量、タンパク濃度を算出した。
抽出率(%)
140℃
180℃
H2O
72.4
92.9
120.0
0.01N-NaOH
72.4
96.4
5% 重曹
99.9
80.6
100.0
10% 重曹
96.4
78.3
アルカリ加圧 コラーゲン抽出
タンパ ク質 抽 出 率 (% )
140℃
180℃
80.0
60.0
40.0
20.0
0.0
H2O
NaOH
5%重曹
10%重曹
重曹を添加することにより140℃でも100%近い効率での魚鱗の可溶化が可能となった。
180℃でのタンパク量減少はアミノ酸の分解により、アミノ基がアンモニアとして失われ
たものと思われる。
アルカリ加圧産物の電気泳動
140℃
H2O
0.01N 5%
NaOH 重曹
180℃
10%
重曹
0.01N 5%
H2O NaOH 重曹
10%
重曹
21.5
14.4
6.0
3.5
タンパク質のランダムな分解により幅広い領域で染色が見られる。
アルカリ加圧分解産物は蒸留水、NaOHを用いたものよりも分子量の低下が進んでいる
重曹濃度の検討
重曹(%)
タンパク濃度(%)
テラピア鱗 重曹分解物
残滓
タンパク%
0.5
+
9.2
11.5
1
+
9.7
11
2
+
10.9
10.5
3
+
10.5
10
4
-
10.5
9.5
9
8.5
8
0.5
1
2
3
4
重曹濃度(%)
3~4%重曹存在下で加圧処理を行うと魚鱗がほぼ完全に分解されることが分かった
まとめ ①
コラーゲンペプチドの弱アルカリによる抽出
固形分除去
濃縮
従来法
コラーゲン水溶液
固形分が残る
分解前のウロコ
脱塩・乾燥
弱アルカリ分解
100%分解
粉末化コラーゲン
コラーゲンペプチドの製造方法として特許出願
フィッシュコラーゲン抽出技術
魚ウロコからのコラーゲンペプチド収量が向上し、粉末化等の加工もしやすくなった。
分子量も従来製品より低分子化している。
魚臭も低減したために様々な食品に添加できるようになった。
魚ウロコ
コラーゲン入り
健康食品の開発
高分子コラーゲン
テロペプチド
アテロコラーゲン
テロペプチド
高分子型コラーゲン
化粧品としての利用、バイオテクノロジー応用のために3重
らせん構造を保ったまま抽出することが望まれている。
通常は蛋白質分解酵素により両端の非らせん部分である
“テロペプチド”を除き、「アテロコラーゲン」として抽出、販
売されている。
効率的な抽出方法の検討
ウロコの構造
・コラーゲン繊維でできた骨組みにカルシウムを主成分とするミネ
ラルが結合して緻密で強固な構造になっている。
・また、コラーゲン分子は分子内、分子間で強い架橋構造をつくり、
不溶性のコラーゲン繊維を形成している。
効率的なコラーゲン抽出のために
・ウロコ内部の緻密な構造の解消
・コラーゲン分子間の結合を切断
・非コラーゲンタンパク質、コラーゲン分解物の除去
①架橋構造の酸化分解 ②抽出物の精製方法
について検討を行った。
高分子型コラーゲンの製造方法
テラピア鱗
0.1N-HCl (ミネラル分の除去(脱灰))
0.1N-NaOH (非コラーゲンタンパク質の除去)
10~30%H2O2溶液 at 4~10℃
0.2%-Pepsin,
0.1N-HCl 72hr at 4~10℃
0.1N AcOH 72時間 at 4~10℃
Φ10000rpm,20min,4℃
上清
高分子型コラーゲン
Pepsin抽出コラーゲン
(アテロコラーゲン)
沈殿
不溶性物質(廃棄)
酸化処理時間の検討
分子量
(kD)
200→
M
96
72
48
24
牛Ⅰ型
M
116.3→
97.4→
66.3→
55.4→
36.5→
酸化処理を長時間行うことでコラーゲンの分解が進行することを確認した。
過酸化水素濃度の検討
過酸化水素濃度
収率
40%
10%
2.5%
35%
20%
8%
30%
30%
36%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
Pepsin
10%
20%
30%
30%程度の過酸化水素の作用により可溶化率が大幅に向上した。
処理温度の検討
1
2
3
4
5 6
7
8 9 10 11
12
1 :M.W. Marker
2 :H2O2 10℃ 10ul
3 :H2O2 Room Temp 10ul
4 :H2O2 37℃ 10ul
5 :H2O2 24hr → AcOH48hr
6 :H2O2 48hr → AcOH48hr
7 :H2O2 72hr → AcOH48hr
8 :M.W. Marker
9 :H2O2 10℃ 15ul
10:H2O2 Room Temp 15ul
11:H2O2 37℃ 15ul
12:M.W. Marker
酸化処理温度が高くなることで高分子コラーゲンが分解されることが分かった。
酸化処理工程を含む高分子コラーゲンは低温での抽出が必要。
コラーゲン精製の検討
上清
高分子型コラーゲン
20% NaCl 1O/N
Φ10000rpm,20min,4℃
沈殿
塩析精製コラーゲン
上清
非コラーゲンまたはコラーゲン分解物
M
未精製
精製_
上清_
塩析上清
塩析精製
塩析によるコラーゲン精製
洗浄や再沈殿の必要性はあるものの、塩析を行うことで低分子域のタンパクが除
かれることが分かった。精製条件については検討が必要。
まとめ ②
高分子型コラーゲンの酸化工程を伴う抽出
• コラーゲン抽出の際、酸化工程を加えることによ
り高分子型のコラーゲンを効率よく抽出すること
が出来た。
• 分解の少ない条件でコラーゲン抽出を行うために
は酸化処理を10℃以下、24時間以内で行う。
• 高分子型のコラーゲンをさらに精製するために塩
析による精製が必要となる。
■ お問い合わせ先 ■
地方独立行政法人 鳥取県産業技術センター
食品開発研究所 応用生物科
担当 高橋・野口
〒684-0041 鳥取県境港市中野町2032-3
Tel: 0859-44-6121 Fax: 0859-44-0397
E-mail: [email protected]