岡野八段コメント(テキスト)

『柔道に学ぶ』について
岡野脩平
1)本発行の経緯
2014 年、マックス・トロンビーニが書いた自叙伝が映画化され、全伯に放映
された。柔道を題材にした映画化は、ブラジル映画史上初めてであり、多くの
人々に感動を与え、特に柔道に携わる我々は、その映画の内容、特に柔道の練
習及び試合、そして、その目的を正しくとらえて、柔道による人間形成の素晴
らしさを表現した映画であった。
時の在サンパウロ日本国総領事も、その映画を絶賛し、ブラジル講道館も、
2015 年日伯修好 120 周年記念として、日本で放映することが、ブラジルに於け
る日本文化がいかに正しく理解され、支持されているか、日本の人々に理解し
てもらえる機会であると考え、その折衝に当たったが、放映権を取得するため
には、大変な費用が掛かるため中止となった。
マックス君、馬欠場君は、2015 年秋、私の自宅を訪ね、映画は断念したが、
マックス君の書いた本は、彼が著作権があり、柔道を通じて一少年が立派な社
会人になってゆくことを、何としてもリオ・オリンピック前に日本語に翻訳し
て、日本の皆様に知らせてほしいと、涙ながらに私に協力を求めてきました。
両君の柔道に対する真意な気持ちと、この機会に、日本の皆様にブラジルの
柔道がこれほど正しく普及されていることを、お知らせすることが大切と考え、
多くの人々に支援を求め、6 月 20 日に完成となりました。
日伯両国語がわかる人々から、原文のポ語より日本語の方が格調が高くなっ
ているというお褒めの言葉をいただきました。
これはひとえに、編集者宮川信之氏、翻訳者中田みちよ氏の絶妙のコンビー
ネーションから生まれたものと、感謝しております。
2)
「柔道に学ぶ」の内容
「柔道に学ぶ」は、ブラジル人柔道家マックス・トロンビーニ氏(47 才)の半生
を描いた自叙伝である。
貧しい家庭に育った少年時代、学校を退学させられそうになるほど暴れん坊
だった時に、柔道に出会い、柔道の修練の中で、それまでの心の葛藤を克服し
た実話に基づいている。
トロンビーニ氏はサンパウロ州ウバツーバ市で生まれ、母子家庭で育ったこ
となどから、幼少のころからケンカを繰り返し、学校では退学処分まで言い渡
された。
そうした時に、ブラジル人柔道家のジョジーニョ氏から柔道を学ぶことにな
った。しかし家政婦の母親の給料は、ほぼ全額柔道の月謝に消えてしまい、柔
道着も買えない状況だった。そのため、母親が道着を手作りするなどして支え
ながら、マックス氏は「強くなりたい」との思いを持ちながら、さらに自分を
捨てた実父への心の葛藤との中で、柔道を続けてきたという。
大きな転機として、19 才の時にサンパウロ州バストスに在住する馬欠場卯一
郎氏(70 才柔道七段)が主催する柔道の「寒げいこ」に参加。マックス氏は厳し
い修練を乗り越え、その後、ブラジルの五輪代表選手を目指すが、選考試合の
決勝戦で敗退し、代表の座を逃してしまった。
当初は落ち込んだが「表彰台に上がることだけが柔道ではない」と、人間形
成の大切さを知り、柔道の本質を見極めていく。
そして今、自分があるのは多くの人々の支援のたまものであり、その協力な
くしては生きてこられなかったことを訴えている。
これは正に、柔道の始祖嘉納師範が唱えた「精力善用・自他共栄」の精神を
実践してきた人生であるとも言える。
この本は彼の人生の中で出会った人々に、愛と感謝を伝え、特に彼の祖父ベ
ネジット・マキシミリアノへの敬意と感謝に満ち溢れている内容になっている。