Brexit 後の英国経済を分析、 利下げの可能性を示唆!

【2016年7月20日公開】
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~丸わかり! ロンドン発★欧州経済事情~
「松崎美子」が注目テーマを一刀両断!
『Brexit 後の英国経済を分析、
利下げの可能性を示唆!』
執筆者:(ロンドン在住/元為替ディーラー)
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英国の国民投票、イタリア系銀行の不良債権問題、ドイツ銀行問題など、6 月下旬からヨーロッ
パで次々と問題が浮上した。しかし先週からは日本のヘリコプター・マネーや永久国債に関する
議論により、一気に円安が加速。そして先週末にはフランス革命記念日(パリ祭)を狙ってテロが
起き、週末にはトルコでクーデターが起きた。
このようにマーケットを動かす材料が次から次へと形を変えるため、ひとつのポジションを温存し
づらい非常に難しい相場展開に直面している。
そのような中、どこに的を絞ろうか非常に悩んだが、今回のコラムでは Brexit 後の英国経済にス
ポットライトを当ててみようと思う。
●大きく落ち込んだ個人消費
BRC (British Retail Consortium 英国小売協会)が 6 月の小売モニター調査結果を先週発表し
た。タイトルは、「TOO EARLY TO ASSESS ANY BREXIT IMPACT ON RETAIL SALES、Brexit 効
果が小売売上高を逼迫させていると判断するには、時期尚早」となっているが、内容をみるとパッ
としない数字が並んでいた。
(参照:http://www.brc.org.uk/brc_news_detail.asp?id=2993)
・小売売上高:前年比+0.2%
・3 カ月平均の小売売上高:+0.5%
・消費者数:前年比-2.8% (2014 年 2 月以来の低さ)
・大手小売店での消費者数:前年比-3.7%
消費が低迷している理由として、国民投票だけでなく、雨が多かったこと、サッカーの Euro2016 や
ウィンブルドン・テニスなど、スポーツ・イベントが多かったことも挙げている。この調査結果のタイ
トルにあるように、まだ悲観的になるには早すぎるのかもしれないが、あまり楽観的になれないの
も事実である。
●企業の投資や新規雇用は大きく冷え込み
コンサルタント大手:Deloitte(デロイト)は、国民投票が終了した 6 月 28 日(火)から 7 月 11 日
(月)にかけて、FTSE350(ロンドン証券取引所上場企業のうち、時価総額上位 350 社の銘柄)上
場企業を対象に四半期に一度の調査を行った。その結果は悲惨な現実を映し出すことになった。
・ 82%の企業が、来年は新規投資をカットする予定。この数字は、同社が調査を開始して以来、
最も高い数字であり、第 1 四半期に行った同様の調査では 34%であった。
・ 83%の企業が新規雇用を控える方向で調整に入った。
・ 66%の企業が、Brexit は長期にわたり英国経済に打撃を与えると信じている。
・ 73%の企業は、ここからの経営見通しについて、悲観的になったと答えた。
・ 58%の企業が、今後 3 年間の新規投資には消極的にならざるをえないと答えた。
この調査結果を見る限り、Brexit により企業マインドが大きく冷え込んだことが確認される形となっ
た。
●購買担当者景気指数(PMI)と GDP
私は英国に限らず、全ての主要国の景気動向を占ううえで、Markit 社が発表している購買担当
者景気指数(PMI)を必ずチェックしている。この数字は、GDP と非常に相関性が高く、金融政策の
見通しですら予想することが可能な便利なツールだ。
チャート:Markit 社ホームページ (2016 年 5 月 25 日)
http://www.markit.com/Commentary/Get/05052016-Economics-UK-economy-near-stalli
ng-as-PMI-signals-slowest-growth-for-over-three-years
最初は、PMI と GDP との関係を見てみよう。このチャートの青線は PMI、水色の棒グラフが GDP
である。かなり相関性が高いことが分かる。
次は 1998 年から現在までの、PMI と金融政策との関連性だ。少し見づらいが、青い実線が PMI、
水色の細い棒グラフが英中銀政策金利の変更幅となっている。最近の政策金利は 2009 年以来
ずっと 0.5%であるため、変更幅はゼロとなっている。
このチャートを見る限り、利上げにせよ利下げにせよ、政策金利が変更されるのは、PMI が(50 で
はなく)55 を少しだけ上/下廻ったタイミングで実施されてきたことが分かる。
右側に黄緑の点線で丸をつけたが、今年に入り英国の PMI は 55 を抜け、下がり続けている。歴
史が繰り返されるのであれば、とっくに利下げに動いてもおかしくない状況と言えるだろう。
チャート:Markit 社ホームページ (2016 年 5 月 25 日)
http://www.markit.com/Commentary/Get/05052016-Economics-UK-economy-near-stalli
ng-as-PMI-signals-slowest-growth-for-over-three-years
●ソフトバンクによる英企業の買収
捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったもので、Brexit で企業マインドが冷えこんでいたが、今
週月曜日にソフトバンクが英テクノロジー大手:ARM を買収すると発表した。金額は 243 億ポンド、
円換算で 3 兆 4000 億円となり、買収時の ARM の時価総額:167 億ポンドに対して、45%のプレミ
アム付きの買収となった。この会社は米 Apple や韓国の Samsung、中国の華為技術(Huawei)な
どにもスマートフォン技術を提供している。
ソフトバンク側の発表によると、買収後は ARM の従業員を 2 倍に増やす計画があるそうなので、
Brexit で悲観一色であった英国にとって、はじめての明るいニュースとなった。
為替をやっている身としては、この多額の買収金額分の為替手当てが済んでいるのか非常に気
になるところだ。ソフトバンクは 2012 年秋に米携帯電話大手:スプリントを約 1 兆 8000 億円で買収
しているが、発表時点で為替手当てはほぼ終了していたようだ。それを考えると、今回も既に英ポ
ンド/円の買い手当ては完了していると考えたほうがよさそうである。
●ここからの「英ポンド」
ソフトバンクの英ポンド買い/円売りの玉がほとんど出ているというという前提で考えると、ここ
からの英ポンドの買い材料は「ショート・カバー」がメインになってくる。最新の 7 月 12 日付けの
IMM(シカゴ通貨先物非商業)ポジションを見ると、英ポンドのショートが増え 60,067 コントラクト(1
コントラクト=62,500 ポンド)となっていて、今年 6 月 7 日付けの 66,299 コントラクトに迫ってきた。
新政権も誕生したし、政治的にはすぐに何か問題が起きるとは思えない。今後経済指標が急激に
悪化したり、8 月 4 日の Super Thursday で予想以上の緩和策が発表されない限り、目先は「英ポ
ンド/米ドル」で 1.30-1.35 ドルレンジでの推移と予想している。
-------------------------------------------------------------------------------【執筆者:松崎美子氏(ロンドン在住/元為替ディーラー)プロフィール】
東京でスイス系銀行 Dealing Room で見習いトレイダーとしてスタート。18 カ月後に渡英決
定。1989 年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店 Dealing Room に就職。1991
年に出産。1997 年シティーにある米系投資銀行に転職。
その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、
証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。
-------------------------------------------------------------------------------【本レポートの趣旨】
本レポートは松崎美子氏より発行されているレポートであり、情報提供のみを目的として
おります。
本レポート中のコメントは独自の見解に基づいたものであり、松崎美子氏、およびワイジ
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