週次レポート 平成 28 年 7月 4日 英国懸念と円高の一服、持続性を模索

週次レポート
平成 28年 7月 4日
英国懸念と円高の一服、持続性を模索
各国政策と金利低下の行方、米雇用統計など焦点
今週の為替相場は、円高一服の持続性をにらんだ展開が予想されよう。週間予想はドル/円が 1
01.50-
104.30円、ユーロ/
円が 112.
50-11
7.10円。6月 23
-24日の英国における EU離脱を問う国民投票では離脱
支持多数となり、リスク回避の円高が加速されたが、その後は各国の政策期待や、実際の離脱には時間を要
するという冷静判断などでリスク回避が後退している。引き続き政策対応のほか、政策期待や安全逃避で急
低下してきた国内外の長期債金利動向(国債価格は高騰)、米雇用統計などが焦点になる。
米 ISMで仕入れ価格が急上昇、金利低下に歯止め余地も
「英国による EU離脱の選択を受け、トレーダーは米 FRBによる利上げの可能性を過小評価し過ぎている」
――。
世界最大の債券ファンドである米 PI
MCOは 6月 30日、このような分析レポートを取りまとめた。そのうえ
で過度なインフレ低迷と利上げ遅延への楽観見通しが反転する場合に備えて、インフレ連動債の購入を推奨
している。
一般的には英国問題の不透明さや、安全逃避による対円以外でのドル高、米大統領選の不透明感などによ
り、米国経済には減速警戒が高まっている。FRBの金融政策については、利上げの来年以降への遅延のみな
らず、
「利下げや量的緩和(QE)再開も非現実的ではなくなってきた」(米国の大手金融機関幹部)。引き続き
FRBの利上げシナリオ修正が、ドル/円でのドルの戻り売り材料となりやすい。
一方で 7月 1日に公表された米国経済の重要先行指標である ISM製造業景況指数は、最新 6月に 5
3.2と予
想の 51.3を大きく上回る改善となった。まだ英国問題は反映されていないものの、2015年 2月以来の高水
準を回復している。今週の米国では 5日に耐久財受注、8日に雇用統計といった重要指標が続くため、少し
でも底堅さが示されると、過度な利上げ遅延見通しが修正される余地が残されている。
すでに米国債市場では利上げ遅延観測と安全逃避により、米国債金利が大幅な低下となってきた(債券価格
は高騰)。それがドル/円ではドル安圧力となっているが、過熱調整が入ると短期的にドルの反発を促す可能
性をはらむ。
例えば米 30年債金利は 1日、一時 2.1
8%に切り下がり、過去最低を更新する場面があった。その中で過
熱感を示す R
SI指数(相対力指数)は週足ベースで 27
.45%となり、下限の節目である 30%を割り込んでい
る。過去には 2015年 1月に 21
%、ギリシャ債務危機などがあった 2011年 9月に 21
%、リーマン・ショック
直後の 2008年 12月に 18
%へと急低下する場面があった。そろそろ金利低下のスピード面で行き過ぎ過熱が
警戒されつつあり、反動調整には注意を要する。
米国債金利に影響を及ぼすインフレ指標でいえば、最新 6月の ISM製造業景況指数で「仕入れ価格」が 60.
5
となり、前月の 6
3.5に続く 20
14年 1月以来の高水準となった。原油反発などを受けて、昨年 12月から今年
1月の 33.5をボトムに 2倍以上もの急上昇となっている。タイムラグを経て物価指標の押し上げと米債金利
の下げ止まりを支援しやすい。ちなみに前回の 60超えとなった 2014年 1月以降にドル/円は、現在と同じよ
うな 101-104円を中心としたレンジ内でのドル安定化が、同年 8月にかけて維持された。その他の注目ポイ
ントは以下の通り。
<米雇用統計などの経済指標>
今週の米国指標については、まだ英国の EU離脱問題が反映されておらず、あくまで参考データにとどまる。
それでも最新 6月の ISM製造業景況指数は大幅改善となっており、他の指標も金利低下などを受けた底堅さ
が注目されそうだ。5日の耐久財受注は前月までの悪化の反動や、自動車販売の改善傾向、原油反発を受け
た資源エネルギー会社の打撃一服などが支援材料となる。
最大の注目は 8日の 6月雇用統計だ。5月は通信大手の大規模ストライキのほか、1-3月に季節調整で底
上げされた反動や天候要因などで大幅な悪化となっている。その分だけ、反動改善が期待されやすい。先行
指標である週間の新規失業保険申請件数は、米 6月雇用統計のサンプル週である 6月 18日週に 25.9件と、
予想の 27.0万件を下回った(
失業者は減少)。前週の 2
7.7万件から大きく減少し、4月 23日週以来の低水準
に改善している。賃金は構造的な低迷が想定されるが、5月以降は小売関連指標の上振れが目立っており、
最低賃金の引き上げなどを受けた緩やかな修復が注視されそうだ。
<各国の政策動向>
英国の EU離脱問題を受けて、英国や欧州などでは政策期待が高まっている。中銀による流動性供給の強化
や先行き緩和強化の地ならし、銀行安定化、減税などの対応準備が見られており、こうした期待感の賞味期
限が焦点となる。前週には欧州中銀(E
CB)が早期の緩和措置強化を打ち消しており、過度な英国懸念の一服
が、各国政策当局の弛緩・慢心を招くリスクにも注意を要する。
なお、前週までは各国での政策期待や FRBの利上げ遅延観測により、新興国市場や資源相場には資金流入
が見られた。為替相場でも NZドル、カナダ・ドル、南アフリカ・ランドといった資源国通貨や新興国通貨が
自律反発となっており、こうした通貨の戻り反発の度合いも注目されよう。
<豪州の総選挙と中銀会合>
豪州では 2日に上下両院総選挙が行われたが、与野党の大接戦となり、大勢判明は 5日以降に持ち越され
ている。どの党も過半数を取れない「ハングパーラメント(宙づり議会)」が現実味を帯びてきたことで、政
治不安定化が豪ドルの戻り売り要因として警戒される。
また、豪州では 5日に豪中銀の政策委員会が予定されている。英国民投票後、豪州でも市場混乱は一服と
なってきた。その流れから当面の様子見や追加利下げの慎重姿勢が示されると、短期的な豪ドル高材料とな
る可能性がある。
<円高・債券高の過熱警戒>
世界的に金融緩和期待や安全逃避などで長期金利の低下(国債価格は急騰)が加速するなか、日本では債
券高・円高の圧力が持続している。外国人投資家による日本国債投資で判断材料となる「ドルベースでの日
本の債券価格指数」は、過去最高値を一気に上抜ける騰勢となってきた。日本の債券価格指数(ブルームバ
ーグ・EFFAS
=欧州証券アナリスト協会連合会の債券指数、10年以上)は 6月 27日、ドル換算で 4.453ドル
前後となり、前回高値である 20
11年時の 4.22ドル前後を大きく上回っている。
一方で昨年末の 3ドル前後から、+43
%もの急騰となってきたことで、テクニカルでは過熱警戒が高まっ
てきた。2
00日移動平均線 3.55ドルからの上方乖離率は、実に+26%を超える場面が見られている。過去に
は 1995年 4-5月以来という、記録的な上方乖離となってきた。1995年 4月といえばドル/円が 7
9.75円前
後と当時のドル最安値(円は最高値)をつけたあと、ドルが底入れ反発に転じている。現在は当時に比べる
とドル安・円高のクライマックス的な過熱感や、日米間での政策協調の機運は乏しいものの、円高と日本の
国債価格急騰の自律調整的な揺り戻しには注意を要しよう(円安要因)
。
おりしも米国のウォールストリート・ジャーナル紙は、4日付けの社説で「円の急騰と財政の脆弱性が再
び視野に入ってきた日本からは目を離さないほうがいい」と警告を発した。その中では「日本での国債の大
口購入者は今、円高を見込んでいる外国勢であり、日本の銀行や保険会社のように長期的に保有する公算は
小さい。外国勢は円高の期待が外れれば、大量に国債を売るだろう。そうなれば利回りは急伸する。理論的
には、日銀が低い利回りを維持するために国債買い入れを増やすことはあり得る。だが、それは日銀が日本
の公的債務をマネタイズ(貨幣化)しているとの解釈につながりかねず、市場の懸念を強めることになりそ
うだ」と警戒感を示している。
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