大学院物理システム工学専攻2004年度 固体材料物性第2回 佐藤勝昭 ナノ未来科学研究拠点 第2回講義で学ぶこと ► 磁性体の磁化、磁化率について学ぶ ► 磁性体の分類を学ぶ ► 磁性体の交換相互作用を学ぶ 磁化 ► 磁性体に磁界を加え たとき、その表面には 磁極が生じる。 ► この磁性体は一時的 に磁石のようになるが、 そのとき磁性体が磁 化されたという。 (a) (b) (高梨:初等磁気工学講座)より 磁化の定義 ► ミクロの磁気モーメントの単位 体積あたりの総和を磁化という。 ► K番目の原子の1原子あたり の磁気モーメントをkとすると き、磁化Mは式M= kで定義 される。 ► 磁気モーメントの単位はWbm であるから磁化の単位は Wb/m2となる。 (高梨:初等磁気工学講座)より 磁化曲線 ► 磁性体を磁界中に置き、磁界を増加していくと、 磁性体の磁化は増加していき、次第に飽和する。 ► 磁化曲線は磁力計を使って測定する。 VSM:試料振動型磁力計 試料を0.1~0.2mm程度のわずかな振幅で 80Hz程度の低周波で振動させ、試料の磁 化による磁束の時間変化を、電磁石の磁極 付近に置かれたサーチコイルに誘起された 誘導起電力として検出する。誘導起電力は 試料の磁化に比例するので、磁化を測定す ることができる。 スピーカーと同じ振動機構 磁極付近に置いたサーチコイル 電磁石 VSMブロック図 丸善実験物理学講座「磁気測定I」 p.68より ソフト磁性 ► パーマロイ*に磁界を加え ると磁化は急に増大しわ ずか40[A/m](地磁気程 度)の磁界で飽和する。 ► 保磁力が10[A/m]と小さい ので非常に小さな磁界で 磁化反転する。 ► 磁化しやすく、磁界の変化 によく追従する磁性をソフ ト(軟らかい)磁性とよび、こ のような磁性体を軟質磁 性体と称する。 Hc=10A/m=0.126Oe ► 中野パーマロイのHP http://www.nakanopermalloy.co.jp/j_permalloy_pb.ht mlより *permalloy(パーマロイ)とは、Ni:Fe=80:20程度のNi-Fe合金 セミハード磁性 性」で作製している Y2BiFe4GaO12の磁化曲線は、 膜面に垂直な磁界に対し明 瞭なヒステリシスを示す。 ► 1つの向きに強い磁界を加え ていったん飽和磁化Msに達 した後、磁界を取り去っても、 残留磁化Mrが残る。 ► 磁化を反転させるには、保磁 力Hcより大きな磁界を加えな ければならない。 面内 面直 M(emu/cm3) ► 物理システム工学実験「磁 -4000 -2000 Ms 40 Mr 20 0 0 Hc 2000 -20 -40 4000 H(Oe) Hc=200 Oe =15.9 kA/m Y2Bi1Fe4Ga1O12 ガラス基板 650℃焼成 塗布回数10回 測定: 佐藤研M1水澤 ハード磁性:Co66Cr17Pt17 垂直磁気記録になると いわれている。 ► 垂直媒体としては、 CoCrPt系の薄膜が検討 されている。 0.1 0 -0.2 -20 4 -10 0 10 Magnetic Field [kOe] 20 VSM 2 0 -2 -4 -20 佐藤研 寺山(OB)、細羽(OB)、清水(M2)が測定 Kerr回転 -0.1 Magnetization [emu] ×10-4 ► 次世代ハードディスクは Kerr Rotation k [deg.] 0.2 面直 面内 -10 0 10 Magnetic Field [kOe] 20 究極の磁石:原子磁気モーメント +q [Wb] ► さらにどんどん分割して 原子のレベルに達しても 磁極はペアで現れる ► この究極のペアにおける 磁極の大きさと間隔の積 を磁気モーメントとよぶ ► 原子においては、電子の 軌道運動による電流と電 子のスピンよって磁気 モーメントが生じる。 r 磁気モーメント m=qr [Wbm] -q [Wb] 原子磁石 磁気モーメント +q [Wb] r rsin 磁気モーメント qH m=qr [Wbm] -qH -q [Wb] ► 一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは T=qH r sin=mH sin ► 磁気モーメントのもつポテンシャルEは E=Td= mH sin d=1-mHcos E=-mH 単位:E[J]=-m[Wbm] H[A/m]; (高梨:初等磁気工学講座)より 環状電流と磁気モーメント ► 電子の周回運動→環状電流 -e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速 度v[m/s]で周回 →1周の時間は2a/v[s] →電流はi=-ev/2πa[A]。 ► 磁気モーメントは、電流値iに円の面積 S= a2をかけることにより求められ、 =iS=-eav/2となる。 ► 一方、角運動量は=mav であるから、これ を使うと磁気モーメントは =-(e/2m) となる。 r -e N S 軌道角運動量の量子的扱い ► 量子論によると角運動量は を単位と するとびとびの値をとり、電子軌道の 角運動量はl=Lである。Lは整数値 をとる ► =-(e/2m) に代入すると -e 軌道磁気モーメントl=-(e/2m)L=- BL ボーア磁子 B=e/2m =9.2710-24[J/T] 単位:[J/T]=[Wb2/m]/[Wb/m2]=[Wbm] もう一つの角運動量:スピン ► 電子スピン量子数sの大きさは1/2 ► 量子化軸方向の成分szは±1/2の2値をとる。 を単位としてs=sとなる。 ► スピン磁気モーメントはs=-(e/m)sと表される。 ► 従って、s=-(e/m)s=- 2Bs ► 実際には上式の係数は、2より少し大きな値g(自由電子 の場合g=2.0023)をもつので、 s=- gBsと表される。 ► スピン角運動量は スピンとは? ► ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導か れる。 ► スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけると スペクトル線が2本に分裂する。)を説明するためには、 電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して 平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える 必要があったため、導入された量子数である。 ► 電子スピン、核スピン 電子の軌道占有の規則 1. 2. 3. 各軌道には最大2個の電子が入ることができる 電子はエネルギーの低い軌道から順番に入る エネルギーが等しい軌道があれば、まず電子は1個ずつ 入り、その後、2個目が入っていく n=3 M-shell n=2 L-shell n=1 K-shell 3s, 3p, 3d 軌道 最大電子数 2+6+10=18 2s, 2p 軌道 最大電子数2+6 1s 軌道 最大電子数2 主量子数と軌道角運動量量子数 ► 主量子数 n ► 軌道角運動量量子数 l=n-1, .... ,0 n 1 2 3 l 0 0 1 0 1 2 1 2 1 1 m 0 0 0 0 0 0 軌道 縮重度 -1 -1 -1 1s 2s 2p 3s 3p -2 3d 2 2 6 2 6 10 元素の周期表 3d遷移金属 磁性体の分類 磁気秩序を持たない磁性 常磁性 反磁性 磁気秩序をもつ磁性 マクロの自発磁化をもつ系 強磁性 フェリ磁性 自発磁化をもたない系 反強磁性 スパイラル磁性 スピン密度波状態 常磁性 ランジェバン(Langevin)の常磁性 パウリ(Pauli)の常磁性 バンブレック(VanVleck)の常磁性 キュリーの法則 ピエールキュリーは「種々の温度に おける物体の磁気的性質」(1895) で、多くの金属、無機物、気体の磁 性を調べて論じた。 キュリーの法則とは、「物質の磁化 率が絶対温度に反比例する」という 法則である。(これは「常磁性物質」 において磁界が小さい場合に成り 立つ) χ=M/H=C/T キュリーの法則=C/Tの例 CuSO4K2SO46H2O (中村伝:磁性より) ランジェバンの常磁性 (佐藤・越田:応用電子物性工学) ランジェバンの理論 原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち、互いに 相互作用がないとする。 磁界Hの中に置かれると、そのエネルギーは E=- ・Hで与えられるので、平行になろうとトルクが働く が、これを妨げるのが熱運動kTである。両者のせめぎ合 いで原子磁気モーメントの向きが決まる 統計力学によると磁界方向に極軸をとって、θとθ+Δθの 間にベクトルを見出す確率は P( ) 2 exp( H cos / kT )d (cos ) 1 2 1exp( H cos / kT )d (cos ) ランジェバンの理論つづき 従って、磁界方向のの平均値は次式で与えられる。 cos 11cosP( ) 1 1 cos exp( H cos / kT )d (cos ) 1 1 exp( H cos / kT )d (cos ) L( H kT ) ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ、次式で表される 1 x x3 L( x) coth( x) x 3 45 ランジェバン理論により キュリー則を導く x=H/kTが小さいとして、展開の第1項のみをとると、1モ ルの原子数Nとして M=N・(H/3kT)=(N2/3kT)H が得られる。 これを磁化率の定義式χ=M/Hに代入すると、χ=N2/3kT が得られ、キュリーの式 χ=C/Tが得られた。 ここにキュリー定数はC=N2/3kである。 =neffBとおく。ここにneffはボーア磁子を単位にしたとき の原子磁気モーメントの大きさを表し、有効ボーア磁子 数と呼ばれる。 C=(NB2/3k) neff2 量子論による ランジェバンの式 外部磁界のもとで、相互作用-・Hによって、MJ=J-1, J- 2,…-J+1,-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する。温度T でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均 の磁気モーメントを計算する。結果を先に書いておくと、 磁界が小さいとき、近似的に次式で表される。 Ng J J 1 3kT 2 2 B 古典的ランジェバンの式と比 較して、有効ボーア磁子数は 右のように得られる。 neff g J ( J 1) フントの規則 原子が基底状態にあるときのL, Sを決める規則 1. 原子内の同一の状態(n, l, ml, msで指定される状態) には1個の電子しか占有できない。(Pauli排他律) 2. 基底状態では、可能な限り大きなSと、可能な限り大 きなLを作るように、sとlを配置する。(Hundの規則1) 3. 上の条件が満たされないときは、Sの値を大きくする ことを優先する。(Hundの規則2) 4. 基底状態の全角運動量Jは、less than halfでは J=|L-S| 、more than halfではJ=L+Sをとる。 多重項の表現 左肩の数字 2S+1 (スピン多重度) S=0, 1/2, 1, 3/2, 2, 5/2に対応して、1, 2, 3, 4, 5, 6 読み方singlet, doublet, triplet, quartet, quintet, sextet 中心の文字 Lに相当する記号 L=0, 1, 2, 3, 4, 5, 6に対応してS, P, D, F, G, H, I・・・ 右下の数字 Jz 例:Mn2+(3d5) S=5/2 (2S+1=6), L=0 (→記号:S) 6S 5/2 遷移金属イオンの電子配置 -2 -1 0 1 2 3d1 3d2 3d6 3d7 3d3 3d4 3d5 3d9 3d10 -2 -1 0 1 2 3d8 演習コーナー 3価遷移金属イオンのL,S,Jを求め多重項の 表現を記せ イオン 電子配置 L Ti3+ [Ar]3d1 V3+ [Ar]3d2 Cr3+ [Ar]3d3 Mn3+ [Ar]3d4 Fe3+ [Ar]3d5 Co3+ [Ar]3d6 Ni3+ [Ar]3d7 S J 多重項 3d遷移金属イオンの角運動量 3価遷移金属イオンの軌道、スピン、全角運動量 イオン Ti3+ V3+ Cr3+ Mn3+ Fe3+ Co3+ Ni3+ 電子配置 [Ar]3d1 [Ar]3d2 [Ar]3d3 [Ar]3d4 [Ar]3d5 [Ar]3d6 [Ar]3d7 L 2 3 3 2 0 2 3 S 1/2 1 3/2 2 5/2 2 3/2 J 3/2 2 3/2 0 5/2 4 9/2 多重項 2D 3/2 3F 2 4F 3/2 5D 0 6S 5/2 5D 4 4F 9/2
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