上級価格理論II 第9回 2011年後期 中村さやか 今日やること 3. 不完備情報の静学ゲーム • 3.3 顕示原理 (revelation principle) 4. 不完備情報の動学ゲーム • 4.1 完全ベイジアン均衡への入門 オークションの売り手の収入最大化 • 売り手の利益が最大化するにはどういう方法でオークション を行えばよいか? オークションにはありとあらゆる方法がある • 例) – 入札者が入札への参加料を払う? – 落札できなかった場合も自分や他の人たちの入札額に 応じて何らかの支払いをする? – 最低入札価格を決めておく? • これら全てについて一つ一つ検討しないといけない? ⇒ 顕示原理によってこの問題をはるかに単純化できる オークションの場合の自己申告メカニズム (direct mechanism) 実は売り手は以下のクラスのゲームにだけ着目すればよい 1. 入札者は同時に自分のタイプ(留保価格)を申告する。ウソ をついてもかまわない。つまり、入札者 i は自分の真のタイ プ ti に関係なく、i のタイプの集合 Ti に属する要素からどの タイプ τi でも選び、それが自分のタイプだと申告できる。 2. 入札者たちが申告したタイプに応じて入札者 i は xi(τ1 ,…, τn) を払い、財を確率 qi(τ1 ,…, τn) で受け取る。 どのような自己申告のタイプの組み合わせ (τ1 ,…, τn) に対 しても確率の和 Σi qi(τ1 ,…, τn) は1以下。 • 真実の表明(=正しいタイプを申告すること)がベイジアン・ ナッシュ均衡になるような直接メカニズムを誘因両立的 (incentive compatible)という 顕示原理 (revelation principle) • いかなるベイジアン・ゲームのいかなるベイジアン・ナッシュ 均衡も、誘因両立的な自己申告メカニズムによって表現で きる(=プレーヤーのタイプがどんな組み合わせであっても 均衡における行動と利得が等しくなる) ⇔ ベイジアン・ゲームのベイジアン・ナッシュ均衡として達成で きる配分は、すべて自己申告メカニズムの正直なベイジア ン・ナッシュ均衡(全員が正しいタイプを申告)として実現で きる ⇒ オークションの場合には、各入札者の均衡戦略が Ti に属 するそれぞれの ti に対して τi(ti)=ti となるような支払いの ルール xi(τ1 ,…, τn) と 分配確率のルール qi(τ1 ,…, τn) だけ に着目すればよい 顕示原理の応用:オークション • 入札者の評価が互いに独立で、他の入札者の評価を知っ ても自分の評価が変わらないオークション(3.2.B)で、売り手 の期待利得を最大化するオークション方法とベイジアン・ ナッシュ均衡をもとめる • 正直な均衡をもつ自己申告メカニズムの中で売り手の期待 利得を最大化するものを見つければ、売り手は最大でどれ だけの期待利得が得られるかがわかる ⇒ この売り手の期待利得の最大値をもたらすモデルと均衡を 探せばよい • 3.2.Bのオークション・モデルの対称的なベイジアン・ナッ シュ均衡は売り手に最大の期待利得をもたらす • 売り手に最大の期待利得をもたらすモデルと均衡は他にも いろいろある 顕示原理の応用:ダブル・オークション① • 3.2.Cのダブル・オークションのルール: – 売り手は販売希望価格 ps を、買い手は購入希望価格 pb を同時に提示 – もし pb ≧ ps なら (pb + ps)/2 の価格で取引成立 – もし pb < ps なら取引不成立 • このルールの下では、取引した方が効率的なのに取引が行 われないことがある • ルールを変更したらもっとうまくいく? 例 – 取引が成立しなくても買い手から売り手へ、または売り 手から買い手へ支払いが行われるようにする? – 取引成立の条件を変える? 顕示原理の応用:ダブル・オークション② • ダブル・オークションの自己申告メカニズム: – 買い手と売り手が同時にそれぞれのタイプ τb, τs を表明 – 買い手が売り手に正または負の値を取る x(τb, τs) を支 払い、買い手は財を確率 p(τb, τs) で受け取る • 自己申告メカニズムの中で正直な均衡を持つものを探し、 その中で参加条件(売り手と買い手それぞれの均衡での期 待利得がゲームに参加しないときの利得以上)が満たされ るものを特定 • ↑の中で取引が効率的であるとき、かつそのときに限って取 引が行われるようなベイジアン・ナッシュ均衡は存在しない ⇒ 売り手と買い手が自発的に参加する交渉ゲームで、取引が 効率的であるとき、かつそのときに限って取引が行われるよ うなベイジアン・ナッシュ均衡は存在しない ベイジアン・ナッシュ均衡の定義 (復習) 定義 静学ベイジアン・ゲーム G=(A1, …, An; T1, …, Tn; p1, …, pn; u1, …, un) において戦略 s*=(s*1, …, s*n) が(純粋戦略) ベイジアン・ナッシュ均衡であるとは、各プレーヤー i と Ti に 属する i の各 ti に対して s*i(ti) が max ai Ai * * * * u ( s ( t ),..., s ( t ), a , s ( t ),..., s i 1 i 1 i 1 i 1 n (t n ); ti ) pi (t i | ti ) i 1 1 i t i Ti の解になっていることである ⇒ 他のプレーヤーの戦略を所与とすると、どのプレーヤーも戦 略を変更する誘因をもたない 顕示原理の証明 ① 顕示原理: いかなるベイジアン・ゲームのいかなるベイジアン・ナッシュ 均衡も、誘因両立的な自己申告メカニズムによって表現で きる(=タイプのどんな組み合わせに対しても均衡における 行動と利得が等しくなる) 証明のアウトライン • 静学ベイジアン・ゲーム G=(A1, …, An; T1, …, Tn; p1, …, pn; u1, …, un) において戦略 s*=(s*1, …, s*n) がベイジア ン・ナッシュ均衡であるとする ⇒ 正直なベイジアン・ナッシュ均衡において s*=(s*1, …, s*n) が行われるような自己申告メカニズムを構成する 顕示原理の証明 ② 元のゲーム: G=(A1, …, An; T1, …, Tn; p1, …, pn; u1, …, un) • 戦略 s*=(s*1, …, s*n) がベイジアン・ナッシュ均衡 自己申告メカニズム: • タイプ空間 (T1, …, Tn) と信念 (p1, …, pn) はGと同じ • 行動空間はタイプ空間 (T1, …, Tn) と同じ (各プレーヤー i が各自の可能なタイプ Ti の中から1つ選 んで自分のタイプを申告) • 各プレーヤーにとって正しいタイプを申告することが最適反 応になるように利得関数を構成する 顕示原理の証明 ③ 元のゲーム: • プレーヤー i は、他のプレーヤーの戦略 (s*1 (t1), …, s*i-1(ti-1), s*i+1(ti+1), …, s*n(tn)) を所与として、 可能な行動 Ai の中から最適反応となる s*i(ti) を選択 自己申告メカニズム: • 申告したタイプ τi によって、そのタイプのもとでの最適戦略 s*i(τi) が自動的にプレーされる ⇒ 他の全員が正直に申告するならば (s*1 (t1), …, s*i-1(ti-1), s*i+1(ti+1), …, s*n(tn)) がプレーされるので、自分も s*i(ti) が プレーされるように正直に申告するのが最適反応 他のタイプのふりをしても得をしない 顕示原理の証明 ④ 元のゲーム: G = (A1, …, An; T1, …, Tn; p1, …, pn; u1, …, un) • 戦略 s* = (s*1, …, s*n) がベイジアン・ナッシュ均衡 自己申告メカニズム: G = (T1, …, Tn; T1, …, Tn; p1, …, pn; v1, …, vn) vi(τ, t) = ui[s*(τ), t] t = (t1, …, tn), τ = (τ1, …, τn) • 戦略 τ*= t がベイジアン・ナッシュ均衡 証明終わり 4章 不完備情報の動学ゲーム 1章: 完備情報の静学ゲーム: • ナッシュ均衡の均衡概念で十分 2章: 完備情報の動学ゲーム: • ナッシュ均衡の均衡概念では変な均衡が排除できないので より強い概念のサブゲーム完全なナッシュ均衡を適用 3章: 不完備情報の静学ゲーム: • ナッシュ均衡の均衡概念では十分な分析ができないので、 より強い概念であるベイジアン・ナッシュ均衡を適用 4章: 不完備情報の動学ゲーム: • ベイジアン・ナッシュ均衡の均衡概念やサブゲーム完全な ナッシュ均衡の均衡概念では十分な分析ができず、変な均 衡が排除できないので、これらより強い概念である完全ベイ ジアン均衡を適用 均衡概念の間の関係 完全ベイジアン均衡は • 不完備情報の静学ゲームではベイジアン・ナッシュ均衡と 等しく • 完備情報の動学ゲームではサブゲーム完全なナッシュ均衡 と等しく • 完備情報の静学ゲームではナッシュ均衡と等しい ⇒ 完全ベイジアン均衡はこれら3つの均衡の部分集合 完全ベイジアン均衡と サブゲーム完全なナッシュ均衡 サブゲーム完全: • ナッシュ均衡のうち、どのサブゲームにおいてもナッシュ均 衡となっているもの 完全ベイジアン均衡: • ベイジアン・ナッシュ均衡のうち、どの完全な情報集合から 始まる継続ゲーム(continuous game)においてもベイジア ン・ナッシュ均衡になっているもの (正式な定義は後で示す) 情報集合の定義 (復習) • プレーヤーの情報集合(information set)とは、次の2条件を 満たす決定節の集まりである i. プレーヤーは情報集合に含まれるどの節でも自分の手番 になっている ii. 情報集合に含まれる1つの節にゲームのプレーが到達した とき、プレーヤーはその情報集合に含まれる節のうちどこ に自分がいるのか区別できない ※ 同一の情報集合に属する各節では、プレーヤーの取りうる 行動の集合(行動空間)が同じでなければならない (そうでなければ行動空間を見れば自分がどの節にいるか 推測できる) ※ どの節もどれか1つの情報集合に入っている (含まれる節が1つだけの情報集合もある) 情報集合の例 (復習) 囚人1 黙秘 自白 囚人2 黙秘 自白 3 1 1 2 黙秘 2 1 自白 0 0 プレーヤー1の利得 プレーヤー2の利得 • 情報集合に含まれている節を○で囲んでその横にプレー ヤーの名前を書く • 囚人2は2つの節のうちどちらに自分がいるのかわからない サブゲームの厳密な定義(復習) 定義: 展開型ゲームのサブゲームとは、 a. それ自体が1節のみを含む情報集合になっている決定節n (ただしゲームの最初の決定節は除く)から始まり b. ゲームの木のnより後に続くすべての決定節および終節を 含み(かつnの後に来ない節は1つも含まず)、 c. どの情報集合をも切断しないもの である 注:ここでは全体のゲームをサブゲームとはみなさないが、みな す人もいる (議論の本質には全く関係なし) サブゲームの例 (復習) 1 2 L R 2 L’ R’ L’ R’ 3 1 1 2 2 1 0 0 サブゲームは2つ プレーヤー1の利得 プレーヤー2の利得 サブゲームが存在しない例 (復習) 囚人1 黙秘 自白 囚人2 黙秘 自白 3 1 1 2 黙秘 2 1 自白 0 0 プレーヤー1の利得 プレーヤー2の利得 • サブゲームは情報集合を切断できないので、ここではサブ ゲームは存在しない 完備不完全情報の動学ゲームの例 R 1 L M 1 3 2 L’ 2 1 R’ L’ 0 0 0 2 R’ 0 1 プレーヤー1の利得 プレーヤー2の利得 プレーヤー1が L, M, R の中から1つを選ぶ もしRが選ばれればそこでゲームは終了 もしLかMが選ばれれば、プレーヤー2はRが選ばれなかっ たことを知り(LとMのどちらが選ばれたかは知らずに)、L’ と R’ からどちらかを選ぶ ゲームの標準形の表現 プレーヤー2 L’ プレーヤー1 R’ L 2, 1 0, 0 M 0, 2 0, 1 R 1, 3 1, 3 • 純粋戦略のナッシュ均衡: (L, L’) (R, R’) • これらはサブゲーム完全? サブゲーム完全なナッシュ均衡 R 1 L M 1 3 2 L’ 2 1 R’ L’ 0 0 0 2 R’ 0 1 純粋戦略のナッシュ均衡: (L, L’) (R, R’) このゲームにはサブゲームがないので、ナッシュ均衡であれば サブゲーム完全なナッシュ均衡になる ⇒ サブゲーム完全なナッシュ均衡: (L, L’) (R, R’) しかし (R, R’) は信憑性のない脅しに依存
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