特定のテーマについて,全員による輪講

2011年度法情報学演習
第3回 平成20年度新司法試験
公法系科目[第1問]問題の検討
2011年10月21日(金)
東北大学法学研究科 金谷吉成
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2011年度法情報学演習
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2011年10月21日
今回取り上げるテーマ
平成20年新司法試験
「論文式試験・公法系科目・第1問」
– 試験問題(平成20年新司法試験試験問題)
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/shiken_shinshihou_h2021jisshi.html
– 論文式試験出題の趣旨(平成20年新司法試
験の結果について)
http://www.moj.go.jp/content/000006426.pdf
インターネットにおける表現行為に対して、フィルタ
リング・ソフトを用いた表現内容規制の問題
仮想法令としてのフィルタリング・ソフト法
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現実の制度
 青少年が安全に安心してインターネットを利用で
きる環境の整備等に関する法律(青少年ネット規
制法)(平成20年法律第79号)
– 2008年6月18日公布、2009年4月1日施行
http://law.e-gov.go.jp/announce/H20HO079.html
– 現実の法案は、おそらくできるだけ憲法上の問題がな
いように作ってあって、問題文は憲法上の問題がある
ように作ってあるはず
– 成立の経緯
 1999年以降長期間に渡り「青少年社会環境対策基本法」「青
少年健全育成基本法」の制定に向けた取り組みがなされてき
たが、メディア規制につながるとして各方面から強い反対を受
け、包括的な青少年保護のための法律はなかなか整備され
てこなかった
 各地の地方公共団体では、青少年保護育成条例を制定し
「有害図書」を規制
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インターネットの有害情報
アダルトサイト(ポルノ画像や風俗情報)
出会い系サイト
暴力残虐画像を集めたサイト
他人の悪口や誹謗中傷を載せたサイト
犯罪を助長するようなサイト
毒物や麻薬情報を載せたサイト
– アダルトサイトでは通常、「18歳未満の入場お
ことわり」として入場制限を行っているが、確実
に年齢を確認する手段がないため、誰でも容
易に入場することができるのが現状
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有害ウェブサイトへの対応
 ウェブサイトそのものの規制
– 情報発信者の表現の自由
 フィルタリング
– 情報を受け取る側で有害なウェブページの閲覧を拒否
する
– 有害なウェブページを子どもや見たくない大人に見せ
ないようにするためのソフトウェアが「フィルタリング・ソ
フト」
 パソコンにインストールするもの
 インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)が提供するフィルタ
リング・サービス
 日本語対応フィルタリング(財団法人インターネット協会)
http://www.iajapan.org/rating/nihongo.html
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フィルタリングの仕組み
 レイティング方式
– ウェブページに対して一定基準で格付け(レイティングという)して
おくことにで、情報受信者がそのレイティング結果を利用して、受
信者の価値判断でフィルタリングを行う方式
– 情報発信者が自ら格付けする『セルフレイティング』と、第三者が
格付けする『第三者レイティング』がある
 ブラックリスト方式
– 有害なウェブページのリストを作り、これらのウェブページを見せ
ないようにする方式
 ホワイトリスト方式
– 子どもにとって安全で有益と思われるウェブページのリストを作り、
これらのウェブページ以外のページを見せないようにする方式
 キーワード/フレーズ方式/全文検索方式
– 有害なキーワードやフレーズをあらかじめピックアップしておき、
ウェブページを表示する前にその内容とこれらのキーワードやフ
レーズを照合することで、有害なウェブページを見られないように
する方式
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フィルタリング・ソフトの問題点
フィルタリングは、有害なウェブサイトから
子どもたちを効率的に遠ざけることができ
るが、万能ではない
– フィルタリングの方式によっては、無害なペー
ジや有益なページまで遮断してしまう
– フィルタリング・ソフトによっては、遮断されない
有害ウェブサイトもある
– 新たなサイトの立ち上げとのイタチごっこ
– フィルタリング・ソフトによって、無理に子どもの
行動を制限したくないと考える保護者も(イン
ターネットの利用の幅を狭くするデメリット)
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青少年ネット規制法の内容
 ケータイ事業者
– 保護者が申し出た場合を除き、青少年がネットを利用する際にコ
ンテンツフィルタリングサービスを提供する
 18歳未満の利用者が新規契約する場合、親権者の申し出がなけれ
ばフィルタリング・サービスが適用される
 既存契約者についても、順次意思確認が行われている
 インターネット事業者
– コンテンツフィルタリングサービスの普及、および利用を促進する
ための措置を取る
 サイト管理者
– 青少年にとって有害な情報が発信されていることを知ったときに、
青少年の閲覧を防ぐように努める
 その他
– 青少年の安全なネット利用に関する基本方針を決める「インター
ネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議」を内閣府に設置
 「子ども・若者育成支援推進本部」に統合(2009年)
– フィルタリングの調査、開発、啓発を行なう団体を第三者機関とし
て認定して、国や地方公共団体が支援
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「有害」の判断は誰が下すのか?
 フィルタリング・ソフト法(事例の仮想法令)
– 内閣総理大臣が指定(5条)
 国による情報統制や表現の自由の侵害などが懸念
 青少年ネット規制法
– 有害情報については例示に留め、民間の自主的な対
応を求める
– フィルタリング推進機関
 総務大臣及び経済産業大臣の登録を受ける
 サイト開設者、ISP、国および地方公共団体が協力して対応
 罰則なし
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実効性の問題
青少年ネット規制法に対しては、以下のよ
うなさまざまな問題点が指摘されている
– 法規制により青少年の受ける犯罪被害を防ぐ
効果があるとは言いきれない
– フィルタリングがかかったせいで普通のサイト
まで見られなくなる不便さが生じる
– フィルタリングや有害情報のチェック体制を用
意することで企業の負担が増える
– 「ケータイ小説」など、未成年者が関係している
ケータイ文化を萎縮させないか
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青少年ネット規制法への反発
各方面からの反対
– 楽天、Yahoo!、DeNA、マイクロソフト、ネットス
ターは、青少年ネット規制法に対して反対の立
場を表明
– インターネット先進ユーザーの会(MIAU)、
WIDEプロジェクト、社団法人日本ネットワーク
インフォメーションセンター(JPNIC)、日本新聞
協会、日本民間放送連盟などの団体も、反対
を表明
青少年ネット規制法は、3年以内に見直す
とされた
– 2009年に一部改正された
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問題の検討
 フィルタリング・ソフト法の概要
① 立法目的
② 立法目的を達成する手段
– 「有害ウェブサイト」指定制度
③ 立法事実(①・②の合理性を裏づけ支える一
般事実)
– 国民のおよそ4分の3がインターネットを利用
– 有害情報による子どもへの悪影響の懸念
– フィルタリング・ソフトは有効な対応策ではあるが、
実際の普及率は低い
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問題の検討
Aの起訴にかかわる事実関係
– Aが運営するウェブサイト
– フィルタリング・ソフト法施行による影響
– Aのとった対抗策
– 法令違反による起訴
Aのプログラム提供行為
Aが運営するウェブサイトに掲載されていた画像は、
本法が定める「有害情報」といえるか
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「有害ウェブサイト」指定制度の違憲性の主張適格
Aは「有害ウェブサイト」指定制度の違憲性
を主張し得るか?
– Aは、法16条1項2号にいう「適合ソフトウェアの
使用目的に沿うべき動作をさせないプログラ
ム」を提供した罪で起訴されている
– 「有害ウェブサイト」指定制度(法5条)そのもの
が、Aの表現の自由と衝突しているのではない
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表現の自由に基づく主張について
 フィルタリングは表現の自由の制約となるか
 フィルタリングは「検閲」に該当するか
– LEX/DBインターネット(法学部内限定)
http://www.tkclex.ne.jp/lexbin/ACLogin.aspx
– 札幌関税事件判決:最大判昭和59年12月12日民集38
巻12号1308頁
 「事前抑制」該当性
– 北方ジャーナル事件判決:最大判昭和61年6月11日民
集40巻4号872頁
 「有害情報」の不明確性
 表現内容規制
 適用違憲の主張
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法律の委任の範囲を越える内閣府令
「有害情報」の定義(2条2号)
– 具体的基準について、内閣府令(資料2)に委
任している
– 法が委任しているのは、「著しく性的感情を刺
激し、著しく残虐性を助長し、又は著しく自殺若
しくは犯罪を誘発するもの」の判断基準
– 内閣府令は、法律の定める定義よりも広い行
為を含み得る表現となっている?
単なる描写(1条1号イ、ロ)
一定の見解の表明(2号イ、3号イ)
コンピュータ・ゲームの利用(1号ハ、2号ハ、3号ハ)
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青少年保護のための表現規制の特殊性
 岐阜県青少年保護育成条例事件判決:最判平成
元年9月19日刑集43巻8号785頁
– 伊藤正己裁判官の補足意見
 「ある表現が受け手として青少年にむけられる場合には,成
人に対する表現の規制の場合のように、その制約の憲法適
合性について厳格な基準が適用されないものと解するのが相
当である。」
– 子どもの保護という目的が掲げられれば、表現の自由
制約を審査する際の基準がすべて緩和されるとしてし
まってよいのか?
– 青少年以外の者への影響は「付随的な効果」にとどま
るものといえるか?
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参考文献、Web
1. 木下智史「公法系科目〔第1問〕の解説」新
司法試験の問題と解説2008・別冊法学セミ
ナー30頁(2008年)
2. 矢島基美「検証 第3回新司法試験 公法系
科目(1)〔憲法〕」ロースクール研究11号10
頁(2008年)
3. 斎藤浩,木下智史,石井昇「新司法試験問
題の検討2008 公法系科目試験問題」法学
セミナー644号37頁(2008年)
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おしまい
この資料は、2011年度法情報学演習の
ページからダウンロードすることができます。
http://www.law.tohoku.ac.jp/~kanaya/infosemi2011/
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