九州大学 経済学部 経済工学科
住谷 浩基
基本的な仮定
→ 賃金と物価は変化しない。変化しないような短期間の分析を行う。
産出量ギャップ
活動水準をどのように測るか?
産出量ギャップ= (実際の産出量- 潜在産出量)/(潜在産出量)
図10-1(B)
産出量ギャップが下落(上昇)するとき、失業率が増加(減少)する。
景気循環:景気の山→景気の底と、景気の変動が繰り返されること。
図10-1(BとCの比較)
アメリカと比較すると、日本の失業率は、産出量ギャップの変動と同じ
ように大きく変動することはなかった。
8章の基本的モデルと10章のモデルの違い
<8章の基本的モデルの仮定>
1.賃金と価格はすぐに調整される。そのため3つの市場で需要と
供給は常に一致している。
2.特に労働市場では失業が存在しない。
3.基本的モデルは失業の研究に使えない。
<10章マクロ経済モデルの仮定>
1.賃金と価格は硬直的である。(あるいは、変化しないような短期間
を想定)そのため、労働市場では失業が解消しない。
2.投資は行われているが、資本ストックの増加は無視できる程
小さい。
3.税率や財政支出、貨幣供給量は全て固定。
<失業が生じる理由はなに?>(図10-4)
実質賃金
→どの実質賃金でも労働需要
が大きく減少したにもかかわ
らず、実質賃金がうまく調整
されていないため。
労働供給曲線
労働市場の
均衡
労働需要が減少+賃金固定
労働需要曲線
雇用される労働はL1からL2へ
L2
失業が発生!
L1
非自発失業
図10-4 労働市場
労働量
<なぜ労働需要が大きくシフトしたのか?>
(図10-5)
どの物価水準でも需要量が大きく減少
+
物価水準が調整されない
完全雇用産出量の減少
労働需要がシフト
<総需要曲線のシフトについて>(図10-6,7,8)
(図10-6)
投資のリスク評価が変化で資金供給曲線が左方にシフト
利子率の上昇
投資の減少
労働需要が減少
<総需要曲線のシフトについて>(図10-6,7,8)
(図10-7)
経済の弱体化
所得の減少
投資家心理が弱気になる
さらに投資の減少へ
(図ではI1からI2へ)
投資の減少
(図ではI0からI1へ)
投資の減少
(図ではI0からI1へ)
<総需要曲線のシフトについて>(図10-6,7,8)
(図10-8)
経済の将来の見通しが悲観的になる(→不況)
消費者が消費を控える
総需要曲線が左方にシフト
産出量の減少(図ではY1からY2へ)
<総需要曲線のシフトについて>(図10-10)
じゃあ政府はどうするの?
政府支出を増加するなどして、総需要を増加させる
生産者が高い利潤を得る
投資の増加、生産が拡大
総需要曲線、総供給曲線が右方にシフト!
総支出曲線
→ 国民所得の関数として(消費+投資+政府支出
+純輸出)の合計金額を表す。物価は固定した
まま、国民所得と支出額の関係を表す。
<総支出曲線の3つの特徴>
1. 右上がり。
2. 傾きは1より小さい。
3. 縦軸の切片は正の値。
4.1国民所得と国民生産の等価(8章の復習)
※
国民総生産GNP=国内総生産GDP
国民所得=国民生産
所得=産出量(Y)
4.2均衡産出量
生産され販売されたものは誰かの所得になる。その
所得から支出する金額が産出量に等しければ均衡。
GDPでもGNPでも産出量は金額表示。
そこで、均衡では、
(総支出AE)=GDP=(国民所得Y)
4.2均衡産出量
所得・支出分析(図10-11)
→所得を総支出に関連させることによって均衡産出
量を決める分析方法
グラフでは総支出曲線と45度線の交点が均衡。※
意図しない在庫
→企業が生産したけれども売れ残ったために生じる在庫※
意図した在庫
→投資と見なされる。在庫投資と呼ばれる。これは総支出曲
線の一部となる。
4.3総支出曲線のシフト
各所得水準において、どの所得水準でも、あるいは所得水準
と関係なく、家計、企業、政府が支出を変化させると、総支出
曲線はシフトする。
(図10-12)
均衡産出量はY0からY1へ増加。また産出量の増加額は、AE
曲線がシフトした支出額の増加よりも大きい。
(図10-13)
総支出曲線の傾きが緩やかなほど、総支出曲線のシフトによ
る増加幅(S)は小さくなる。
4.3総支出曲線のシフト
マクロ経済学の中心的な二つの原理
1.総支出曲線のシフトは経済の均衡産出量を変化させる。
2.変化の大きさは総支出曲線のシフトの幅よりも大きくなる。
かつ総支出曲線の傾きが大きくなるほど、均衡産出量の変
化幅も大きくなる。
不況対策、失業対策に何ができるか?
均衡産出量が少ないとき、労働需要も少ない。均衡産出量を
増やすにはどのようにすべきか。この問題を考えるために支
出を構成する項目についてこれから考える。
消費関数
消費関数:家計の消費と所得の関係を示したもの
総消費関数:経済全体の家計の消費を合計したもの
家計の得る所得の一部は、税金として徴収される。税引き後
の所得を「可処分所得」と呼ぶ。消費は可処分所得の関数と
考えられる。
※議論の簡単化のためにしばらく、税金のことを考えない。す
ると、国民所得がそのまま可処分所得となる。
5.1限界消費性向
限界消費性向(MPC):
可処分所得が1ドル,1円増加したときに消費が増加する量。
(注)MPCは金額表示ではなくて、所得の増加と消費の
増加の比率。
消費関数の傾きは限界
消費性向に等しい。
限界消費性向が小さい
ほど、消費関数の傾き
は緩くなる。
消費
消費関数
限界消費性向
独立消費
所得
5.1限界消費性向
独立消費:消費のうち所得に基づかない部分。
独立消費の増加は消費曲線のシフトとして現れる。
消費関数を式で表すと、
C=a + m Yd
C:消費
a:独立消費
m:限界消費性向
Yd:可処分所得
消費
消費関数
限界消費性向
独立消費
所得
5.2限界貯蓄性向
限界貯蓄性向(MPS)
:所得が1ドル増加するにつれて生ずる貯蓄の比率
以下の式が成り立つ
限界消費性向+限界貯蓄性向=1
※
総支出=消費+投資+(政府支出+純輸出)
※ 消費は所得の関数。
図10-15
投資が変化
総支出曲線がシフト
AE1
総支出
AE0
投資の
増加
Y0
Y1
所得、産出量
6.1乗数
乗数:総支出を構成する1つの要素変化分に対する、それによって
もたらされる国民所得の変化分の比率。
⊿I円の投資増加があったとする
第1段階/企業が資本財購入を⊿I円増加させたことにより生産が
⊿I円増加
第2段階/これが経済のだれかの所得となり、その所得増加⊿I円
のc倍の消費増加となり、それはまた⊿I×cの生産と所得
増加となる。
第3段階/(⊿I×c)×c円の消費増加となり、それと同額の生産と所
得増加となる。
→この過程が繰り返されたときの和をAとすると……→次のページへ
6.1乗数
A=⊿I(1+c+c2+c3+……)
となる。
すなわち、初項が 1 であり、公比が c だから
A=⊿I×1/(1-c)
となる。
よって、政府支出、税金、および純輸出がない単純なモデルでは、
投資の変化分に対する乗数: 1/(1-MPC) = 1/MPS
となる。(乗数の基本公式)
7.1政府の効果
税金の影響
可処分所得 = (総所得 Y ) - (税金 T )
税金をモデルに含めると次のような変化がおこる。
• 課税により可処分所得が低下するので、消費が低下。
• 総支出曲線が下にシフト。
※だだし、平行移動ではなく、傾きは緩くなる。
※傾きは税率によっても決定される。
7.1政府の効果
税率の影響(図10-16)
所得税の税率をt とする。
すると、投資の増加により1ドルだけ所得の増加があると、
そのうち、tドルは税金として徴収されてしまう。可処分所得
は(1- t ) ドルとなる。
この追加的な可処分所得(1- t ) ドルのうち家計はMPC(1-t)
ドルを消費に支出する。
総支出曲線の傾きはMPC( 1- t ) となる。
税金がある場合傾きが緩やかになる。
7.1政府の効果
税率の影響(図10-16)
最初の投資の1ドル分の増加とそれに伴う消費の増加額
の合計は…
1+MPC(1-t)+MPC2(1+t)2+MPC3(1+t)3...
結局、最初の投資の増加額の1/{1-MPC(1-t)}倍となる。
この新しい値は税率のため小さくなった。
その結果、税金のあるなしの場合を比べると、総支出曲
線は下にシフトし、かつ傾きは緩くなる。
7.2国際貿易の影響
貯蓄が大き過ぎると輸出し過ぎる?
国内総生産=総支出を記号で表すと、
Y=C+I+G+X-M 式(3-a)
所得の使途を考えると、
Y= C+Sd+T 式(3-b)
国内総生産と所得は等しいことから、
I+G+X-M=Sd+T
これから次の式が成り立つ。
X - M = Sd- I +( T - G ) 式(3-c)
国の財政が均衡していれば、T-G=0。その場合、
X - M = Sd- I 式(3-d)
が成り立つ。※
7.2国際貿易の影響
輸出と輸入
輸入関数:さまざまな国民所得水準に対応する輸入水準を表す
限界輸入性向:所得増加分のうち輸入品に支出される割合(MPI)
図10-17
M = a + MPI ×(可処分所得)
貿易収支:輸出-輸入のこと→純輸出
物価が上がる
消費者の銀行預金実質価値が下落
消費が減少
総支出曲線が下にシフト(均衡産出量の下落) (図10-19-A)
右下がりの需要曲線となる(図10-19-B)
9.1消費
一時的な減税は個人の生涯所得にほとんど影響しない
→ほとんど意味ない&消費も増えない
9.2投資
<投資を促進させるために政府は何をするか?>
1. 租税政策(減税)
2. 金融政策(中央銀行が民間銀行に資金を豊富に
供給することにより利子率を下げる)
→利子率が下がると投資は増える。
3. 財政政策(投資優遇措置※)
9.3純輸出
純輸出を増加ためには?
→輸入を減少、輸出を増加させる。
関税
輸入を減少させるために輸入品に関税をかける。関税は
輸入品の価格を上昇させるので、需要が国産品にシフト
する効果を持つ。
But…
1930年代、大恐慌後、各国がこの方法を選んだ。
お互い物が売れなくなって景気はさらに悪化。
近隣窮乏化政策を呼ばれる。現在では行われない。
9.3純輸出
為替レート:外国為替の取引における外貨との交換比率
為替市場に政府が介入
外国為替市場で自国通貨が弱くなるような介入を行う。
市場でドルを買って円を売る。
ドル高、円安になる……かも。
9.3純輸出
円安になると……
輸出がしやすくなる。
(円建ての価格がそのままでも、アメリカではドル建ての
価格は低くできる。)
輸出が促進
純輸出額の増加
9.4政府支出
政府による財の購入の増加
批判1.
財政赤字が発生するあるいは悪化する。政府が財政赤
字をまかなうために、借入を増やすと、利子率が上がる。
そのため、民間の投資が減少してしまう。乗数効果は小さ
くなる。
「クラウディング・アウト」政府支出の増加
利子率上昇
投資の減少
9.4政府支出
政府による財の購入の増加
政府はこの対策として利下げ政策を行うことができる。
反論:
乗数効果が小さくても政府支出の増加は重要である。
批判2.
財政赤字は将来世代に不公平な負担を課す。
反論:
景気が回復すれば、その効果は負担の増加以上に得る
ものがあるといえる。
東アジアの経済危機=アジア通貨危機
1997年7 月よりタイを中心に始まった、アジア各国の急激
な通貨下落(減価)現象。
日本
経済恐慌などの危機は発生しなかったが、 深刻な経済的
打撃を受けた。
東アジアの経済危機=アジア通貨危機
タイ
1996年からタイの経済成長は伸び悩み始めた。
そしてこの年、初めて貿易収支が赤字に転じた
タイのバーツの価値が下落
タイ中央銀行は通貨引き下げを阻止するため外貨準備を
切り崩して買い支える
変動相場制に移行
東アジアの経済危機=アジア通貨危機
タイ
変動相場制に移行
為替レートが一気に下がった
信用を失ったバーツの価値がさらに下落
アジア通貨危機へ
東アジアの経済危機=アジア通貨危機
韓国
過剰な借り入れを行っていた企業が存在
少しの景気後退で債務を返済できなくなる
1997年海外の投資家の感情が急変し、融資のロール
オーバー(更新)を行わなくなった
経済危機に発展
東アジアの経済危機=アジア通貨危機
インドネシア
IMF政策によって大量に民間銀行が閉鎖
信用供給が大幅に縮小
IMFが強く主張した緊縮的な金融・財政政策が
大不況をもたらした
東アジアの経済危機=アジア通貨危機
マレーシア
IMFの援助と計画を拒否
一時的に資本流出を規制
(為替レートを気にせず利子率が低下できる)
企業倒産を回避
経済成長が戻ってきた
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ウンロード
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九州大学 経済学部 経済工学科
住谷 浩基