国際開発学会「障害と開発」研究部会 日本福祉大学アジア福祉社会開発研究センター 国際開発学会東海支部 2012年度:公開研究会 2012年8月4日(土) 13:00~16:00 日本福祉大学 名古屋キャンパス 1 障害者運動=障害者が起こした社会運動。この運動によって、障害の概念、障害者に対する政策 や法律、福祉サービス等が変わってきた。 障害の社会モデル:障害の問題とはまず障害者が経験する社会的不利のことなのでありその原因 は社会にある。(中略)従来の個人モデルにおいて、障害の身体的・知的・精神的機能不全の位 相がことさら取り出され、その克服が障害者の個人に帰責されて来たことに対する、当事者からの 問い直し(Oliver 1990, 長瀬1999, 倉本2002、星加2007)。 「1960年代から1970年代にかけて、障害者運動は、世界各国においてほぼ同時期に活性化する」 (田中2005) 国際社会の動向 1981年 国際障害者年 1982年 障害者に関する世界行動計画 1983〜92年 国際障害者の10年 1993〜02年 アジア太平洋障害者の10年 1999〜09年 アフリカ障害者の10年 2003〜12年 アラブ障害者の10年 2003〜12年 アジア太平洋障害者の10年 (第二次) 2006年12月 国連障害者の権利条約採択 2012年1月 条約批准109カ国、署名153カ 国 タイの動向 1981年 1982年 会設立 1983年 1991年 2007年 2008年 DPI世界会議に参加 身体障害者協会、盲人協会、ろう協 タイ障害者協会(DPIタイ) リハビリテーション法の成立 エンパワメント法の成立 障害者の権利条約批准 2 論文の目的と方法 目的:タイ障害者運動の 展開と政策への関与な ど、その発展過程を明ら かにする。 「障害の社会モデル」が、 タイの社会と文化の中 でどのように理解され、 また実践されているのか に注目する。 分析の枠組み:先進国の障害者運動の展 開における独自性と共通性 ①既存の福祉制度に 対する反発 ①施設管理 差別に対する抵抗 ③95年差別禁止法 *政府の抵抗 ②障害者自身が求める社会 や福祉サービスの供給(自立 生活センターなど) ③障害者による政 策や立法への関与 ①公民権運動 平等な権利を主張 ②障害学生支援 ③73年リハ法 90年差別禁止法 *政府の抵抗 ②施設から地域移行 管理から自主決定へ ①優生思想や 施設に対する抵抗 ③11年基本法 差別禁止法なし 3 研究の結果 北側諸国の運動の展開 タイ障害者運動分析の視点 タイ障害者運動の特質 • ① 既存の福祉制度に対す る反発 ① 運動の始まりときっかけ ② 自立生活運動の始まり ② 障害者自身が求める社 会や福祉サービスの供 給(自立生活センターな ど) ③ 障害者による政策や立 法への関与 • ③ 障害者の政策関与と法律の 制定 ④ 北側先進諸国との類似点と 相違点 • • ⑤ 障害の社会モデルに対する 理解 • 提言 • • • • • 自立生活センターの普及 適切な医療ケアについての 検討 仏教と「障害の社会モデル」 の共存 障害学導入の検討 • • 1970年代まで、政府による障害者支援 策はなく、障害者の自助団体も少なかっ た。 タイ障害者運動は、1981年のDPI世界 会議(設立会議)の後、活性化された。 既存福祉サービスに対する反発ではな く、世界会議に参加したタイ障害者の権 利意識の芽生えが大きく作用した。 障害者運動の目的は最初から法律の制 定であった。 自立生活センターは、日本のOADを通 して開設された。 両法案(91年リハ法、07年エンパワメン ト法)は、クーデター後の暫定議会で成 立していた。 仏教の教えとして、「障害は前世の罪」と 教えていない。ただし、誤った社会通念 として存在する。 一方で、「仏教の教えが障害者のエンパ ワメントに役立つ」と考える障害者がい た。彼らによれば、「自分の障害を前世 の罪と捉えることで、今後の人生をより よくすることができる」。 「障害の社会モデル」に対する理解は基 本的なものだった。 2012/2/11 4 タイの障害者観 「障害は前世の罪なのか?」 障害者A:子供の頃、親戚 や近所の人から中傷を受 けた。 障害者B:近所の寺に障 害を罪とする絵があった。 「障害は前世の罪」 障害者の受入れは? 障害を前世の罪として受け入れている。 理由:現世で正しい行い(他の障害者を 助ける)をするため。 仏教は心と体を分ける。 障害を罪として受入、人生と取り戻す。 障害者のエンパワメント 自立生活運動のエンパワメント(自立)に 通じる。 僧侶A+B:仏教で重要なこと は「現世」の行い。前世の罪 を責めることはない。 悪行に対する酬いとして自 分にも同じことが起こる 多くのタイ人は誤解している。 障害を例え話にする僧侶が いる。 <補足> 僧侶A:誤解によって障害者 が苦しんでいることを知らな かった。(障害者も参加する 日曜学校を開催)。 タイのお寺では障害者を含 む困窮者に食事を提供して いる。 障害者は僧侶になれないと いう決まりがある。 5 • • • • • • • 1970年代まで、政府の福祉制度はほとんどなく、障害者団体の活 動も限定されていたため、タイ障害者運動は、1980年代前半に、 国際社会の障害者運動の影響によって、活性化された。 障害者運動の目的は最初から法律の制定であった。 自立生活センターは、日本のOADを通して開設された。 北側先進諸国とは異なる経緯で障害者運動が展開されていた。 障害者リーダーは、リハビリテーション法(1991年)とエンパワメン ト法(2007年)の法案作成に戦略的に関与している。両法案は国 会に提出されているが、通常国会では承認を得られず、クーデター 後の暫定国会で承認を受けている。 仏教の教えとして、「障害は前世の罪」と教えていない。ただし、 誤った社会通念として存在する。一方で、「仏教の教えが障害者の エンパワメントに役立つ」と考える障害者がいる。仏教の教えは、 障害の社会モデルにおいて、単純に否定できるものではなく、逆に、 タイでは生かされるべき考えかもしれない。 「障害の社会モデル」に対する理解は基本的なものだった。 6
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