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基礎商法2
第12回
2016/1/6
1
本日の内容
手形債権と原因関係(原因債権)の関係
手形抗弁
(狭義の)人的抗弁
人的抗弁の切断と悪意の抗弁
手形行為独立の原則
手形と原因関係
原因関係と手形債権の関係
 原因関係に基づいて手形を振り出す場合、2つ
の債権債務関係が生じうる
売買契約=原因関係
手形契約
買主
振出人
売主
受取人
売買代金請求権
手形金請求権
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1. 原因債権(=原因関係に基づく債権)と手形債権
の関係は、振出の趣旨に依る
① 「支払に代えて」振出 ・・・原因債権は消滅し、手形債
権だけが残る(代物弁済)。
② 「支払のために」振出 ・・・原因債権と手形債権は併存
する。ただし受取人は手形債権を先に行使しなければ
ならない。
③ 「担保のために」振出 ・・・原因関係と手形債権は併存
する。受取人は原因債権と手形債権を任意の順序で行
使できる。ただし受取人が原因債権を先に行使した場
合、振出人は手形の返還との同時履行を主張できる。
※当然ながら、原因債権と手形債権の二重取りはできない。
※手形金請求訴訟により原因債権の時効も中断する
5
2. 当事者の意思が明確でないとき
i.
「支払いに代えて」かそれ以外か不明な場合
 原則として「支払いのために」あるいは「担保のために」振り出さ
れたと推定される
ii. 「支払いのために」か「担保のために」か不明な場合
①
通常は「支払いのために」振り出されたと推定
②
手形債務者が振出人のみであり、かつ自宅払いの手形につい
ては「担保のために」振り出されたと推定
原因関係消滅と手形の帰趨
I. 無因論
※当事者・悪意者には
人的抗弁を対抗可
(交付契約説他)
振出人
裏書人
受取人
振出
原因関係
所持人
裏書
原因関係
約束手形
人的抗弁
原因関係が消滅しても
手形債権には影響がない
そのまま裏書譲渡可
II. 権利移転行為有因論
振出人
(二段階創造説)
裏書人
受取人
振出
原因関係
所持人
裏書
原因関係
約束手形
無権利者
債務負担行為は無因
無権利者からの譲渡
権利移転行為は有因
⇒善意取得の処理
手形抗弁総論
手形抗弁
手形抗弁
・・・手形の支払を拒みうる事情の総称
※手形上の権利者であることを認めつつ支払を拒絶する
手形抗弁の分類
物的抗弁
手形抗弁
無権利の抗弁
(広義の)人的抗弁
(狭義の)
人的抗弁
I. 物的抗弁
1. 意義
 誰に対してでも主張できる抗弁
 流通の安全を害するので、抗弁事由は手形上明ら
かなもの以外はきわめて限定
抗弁事由
2.
i.
手形債務不成立の抗弁
①
②
③
④
⑤
記載の不備(手形要件欠缺、白地未補充、法人署名等)
交付欠缺 ⇒権利外観理論で保護
制限能力による取消、意思無能力による無効
無権代理・偽造 ⇒表見規定で第三者保護(追認可)
利益相反取引規制違反 ⇒相対的無効(事後承認可)
※意思表示の瑕疵について判例・多数説は適用否定説に立ち
人的抗弁と解するが、有力説は同条以下の適用があり物的
抗弁になると解する
ii. 手形上の有効な記載による抗弁
① 満期未到来、支払地違い、一部支払済み
iii. 手形債務の消滅・手形と権利の切離し
① 手形金供託
② 時効完成
③ 除権決定
II. (広義の)人的抗弁
1. 意義
特定の債権者に対してだけ主張できる抗弁
2. 人的抗弁の種類
① 無権利の抗弁
・・・所持人が無権利者であることを主張して支払を拒絶
② 手形外の事情による抗弁(=狭義の人的抗弁)
III. (狭義の)人的抗弁
1. 意義

手形金の支払を拒むことが可能な手形外の事由
 手形外の実質的関係に基づく抗弁で、基本的には実質
関係の当事者間でのみ主張が可能
 一方の当事者が手形を第三者に譲渡した場合、原則と
して抗弁は引き継がれない(人的抗弁の切断)が、第三
取得者が債務者を害することを知って取得した場合に
は抗弁が引き継がれる(悪意の抗弁)
※狭義の人的抗弁の主張
=手形債務の成立も、所持人の権利も否定できない状態
2. 人的抗弁の種類
i.
原因関係に関する抗弁
 原因関係の無効、取消、解除、弁済、時効消滅、原因関係上の
同時履行の抗弁等の存在
ii. 意思表示の瑕疵の抗弁
※民法適用説に立つと物的抗弁
iii. 相殺の抗弁
iv. 当事者の特別な合意による抗弁
① 融通手形の抗弁
② 隠れた取立委任の抗弁
v. 人的抗弁の切断を否定する抗弁
① 悪意の抗弁
② 二重無権の抗弁(=人的抗弁の切断を否定する抗弁)
vi. 権利濫用の抗弁

後者の抗弁
人的抗弁の切断
人的抗弁の切断と悪意の抗弁
I. 人的抗弁の切断(手17本文)
1. 概要
請求
振出人
請求
裏書人
振出
原因関係
人的抗弁
人的抗弁(原因関係消
滅の抗弁)を対抗可
所持人
裏書
約束手形
原因関係
人的抗弁
人的抗弁は切断されて対
抗不可(手17) ⇔民468
2. 趣旨
手17 手形債務者は、所持人の前者に対する人的抗弁を
所持人に対抗できない。ただし所持人が債務者を害す
ることを知って手形を取得した場合はこの限りではない
⇒ 善意の所持人を手形外の事情による支払拒絶から保護
3. 「切断」の意味
善意
悪意
原因関係
①
②
③
切断説
対抗可
不対抗説
対抗可
属人性説
対抗可
対抗不可
対抗不可
対抗不可
対抗可
切断
対抗不可
対抗可
II. 悪意の抗弁(手17但)
請求
振出人
債務者を害するこ
とを知って取得
請求
裏書人
振出
原因関係
人的抗弁
人的抗弁(原因関係消
滅の抗弁)を対抗可
所持人
裏書
約束手形
原因関係
人的抗弁
人的抗弁は切断され
ない(手17但)
1. 意義
 独立した抗弁ではなく、人的抗弁の切断が適用されず
に前者に対する抗弁が対抗されることを、「悪意の抗弁
」と通称
1. 「悪意」(=債務者を害することを知りて)の意味
 手形取得の時点で、
①手形の満期において、
②債務者が所持人の直接の前者に対して支払いを拒む
ことが確実であるような事情を認識して、手形を取得す
ること(河本フォーミュラ)
※直接の前者とは実際の手形の流通経路における前者であり、手
形面上の前者ではない
※過失の有無が問われることは絶対にない(手形外の抗弁事由の
存否についての調査義務は一切ない)
 原因関係消滅後の取得者は、取得時点で原因関係の
消滅を知っていれば「悪意」
 原因関係消滅前の取得者は、取得時点で、行使時には
原因関係が消滅して抗弁が対抗されることが確実であ
ることを認識していれば「悪意」
A)
原因関係消滅→裏書き
振出人
裏書人
受取人
振出
原因関係
所持人
裏書
原因関係
約束手形
人的抗弁
裏書前に原因関係消滅
取得時に抗弁あり
所持人は振出人・裏書人間の原因関係消滅を
知っていれば「悪意」
B)
裏書き→原因関係消滅
振出人
裏書人
受取人
振出
原因関係
所持人
裏書
原因関係
約束手形
人的抗弁
裏書後に原因関係消滅
取得時には抗弁なし
所持人は、行使時には振出人・裏書人間の原
因関係が消滅していることが確実であることを
認識していれば「悪意」
III. 人的抗弁の切断後の悪意者
1. 原則
人的抗弁が切断された後に(手17但の意味での)悪意者が
手形を取得した場合の扱い
① 切断説 ・・・抗弁は承継されていないのでたとえ悪意者
であっても人的抗弁は対抗できない
② 不対抗説 ・・・抗弁は承継されている(善意者の下では
対抗できないだけ)ので、悪意で取得したものには抗弁
を対抗できる
③ 属人性説 ・・・人的抗弁は悪意者には対抗できる
2. 例外
i.
戻裏書の場合
悪意者が善意者を介在させることで人的抗弁の切断の恩恵を受け
ることは不当なので、抗弁の対抗を認める
※ただし理論構成には様々な難点がある(詳細は次回)
ii. 二重無権の抗弁
請求
振出人Y
請求
裏書人A
所持人X
振出
約束手形
原因関係
人的抗弁
裏書
原因関係
人的抗弁
最判S45.7.16民集24-7-1077百-36 所持人Xは固有の経
済的利益はないので人的抗弁の切断を主張する利益
を有しない。
返品
二段階創造説によればX
は無権利者
IV. 特殊な人的抗弁
1. 相殺の抗弁
振出人Y
請求
Y→Aの債権の存在
を知って手形取得
裏書人A
振出
原因関係
所持人X
裏書
原因関係
債権
相殺の抗弁
悪意の抗弁?
 単に所持人Xが相殺の抗弁の存在を知っていただけでは不足で、取得
の時点で債務者Yが相殺の抗弁を対抗することが確実である事情の認
識(手形債務者の意図を知っている、相殺をしなければ債権が満足され
ない事情を知っている)がなければ「悪意」とはいえない
2. 融通手形の抗弁
i.
融通手形
資金融通の依頼
振出
割引
ii. 交換手形
振出
割引
振出
割引
iii. 融通手形の抗弁
融通手形だと
知って取得
振出人Y
資金融通の依頼
振出
裏書人A
所持人X
割引
人的抗弁
悪意の抗弁
融通手形の振出人Yは、融通手形であることを理
由に受取人Aからの請求を拒絶可(最判S46.2.23)
融通手形の振出人Yは、裏書による手形取得者Xに対しては(融通手形と知っ
て取得した場合でも)融通手形の抗弁を対抗できない(最判S34.7.14百27)
ただし、振出人Yに責任を負わせないなどの合意の存在を取得者
Xが知っていたなどの特段の事情があれば別(上掲最判S34)
学説による理論構成
a. 融通手形の抗弁は第三者に承継されない生来的な(特
殊な)人的抗弁
b. 融通手形の抗弁も普通の人的抗弁だが、「悪意」は融
通手形であることの認識ではなく、融通契約(振出人-
受取人間で、受取人が手形満期までに決済資金を提供
するか、または銀行から手形を買い戻すとの手形外の
契約)が履行されないことが確実であることの認識
3. 後者の抗弁
請求
請求
振出人Y
裏書人A
振出
約束手形
所持人X
裏書
原因関係
原因関係
人的抗弁
人的抗弁
弁済
後者の抗弁
最判S37.12.25民集22-13-3548百-37 Xは裏書の原因関係
が消滅したときは、特段の事情のない限り手形を保持
すべき何らの正当な権限を有しておらず、手形金請求
は権利の濫用
二段階創造説によればX
は無権利者
手形行為独立の原則
手形行為独立の原則
I. 総論
A
B
振出
C
裏書
制限能力取消
約束手形
ある手形行為が実質的理由(制限能力、無権代理、偽造等)によっ
て無効であっても、それによって他の署名者の債務は無効とならな
い(手7) ⇒Aの手形行為が無効でもBの遡及義務は有効
手7の根拠については、取得者保護のための政策的な規定であ
る(政策説)、手形署名者の意思表示の効果である(当然説)と
の見解が対立
II. 裏書と手形行為独立の原則
A
B
振出
C
盗取
(連続するよう偽装)
D
裏書
無権利者
善意・無重過失
善意取得
約束手形
手形債権を
原始取得
Cの裏書は本来無効だが(手形債権者でないのに手形債
権を移転することはできない)、手7が適用され、DはCに対
する遡求権を取得する(学説の総意)
Cの裏書の効果で
遡求権を取得
A
B
振出
C
盗取
(連続するよう偽装)
D
裏書
無権利者
悪意・重過失
善意取得せず
約束手形
学説は、悪意の取得者に盗取者への遡求を認めな
い点では一致するが理由付けが異なる
政策説:手7は善意者保護の政策的規定だから悪意者に
は適用なし
当然説:Cは理論的には遡求義務を負うが、Dは手形をB
に返還すべきだから遡求権を取得できない
Cの裏書の効果で
遡求権を取得?