細菌の遺伝学

微生物学1
細菌の遺伝学
DNA複製
半保存的複製・・・二本鎖のそれぞれが鋳型になり,相補鎖が合成される
3'
5'
5'
3'
リーディング鎖
ラギング鎖
岡崎フラグメント
5'
3'
3'
5'
ヘリカーゼ
DNAポリメラーゼⅢ
プライマーゼ
DNAポリメラーゼⅠ
RNA
プライマー
DNAポリメラーゼⅢ
DNAリガーゼ
ヘリカーゼ
プライマーゼ
DNAジャイレースによるスーパーコイルの形成
DNAジャイレース
2本鎖切断
DNAジャイレース
トポイソメラーゼⅣ
スーパーコイル
遺伝子発現
転写
DNA依存性RNAポリメラーゼ
ホロ酵素
σ因子
DNA -35
コア酵素
aabb'w
転写(mRNA合成)
パリンドローム配列による
ヘアピン構造 → 転写終了
構造遺伝子
-10 +1 Shine-Dalgarno(SD)配列
転写開始点
リボソーム結合領域
TTGACA TATAAT
Pribnowボックス(TATAボックス)
プロモーター
ターミネーター
翻訳の開始
NH2
N
-
O
アミノアシルtRNA
合成酵素
P
O
O
N
O
O
NH2
N
H2N CH COOH + ATP + tRNA
-
R
O
P
O
O
N
O
tRNA 3'-末端
H2N CH CO O
OH
R
H2N CH COO
CH2
CH2
S
CH3
tRNAfMet
N
OH O
ホルミラーゼ
10-ホルミル
テトラヒドロ葉酸
HCO NH CH COO
CH2
CH2
S
CH3
tRNAfMet
N
代謝調節
ラクトースオペロンにおける転写調節
ラクトースオペロン
プロモーター
lacI
Pi
オペレーター
lacZ
Plac
O1
mRNA
O2
lacY
lacA
mRNA
結合
リプレッサー
RNAポリメラーゼの
オペレーターへの
結合を阻害
β-ガラクトシダーゼ
ガラクトシド
パーミアーゼ
誘導因子
(IPTGなど)
ガラクトシド
アセチルトランスフェラーゼ
染色体とプラスミド
レプリコン
自律複製できるDNA分子・・・染色体,プラスミド
プラスミド
細胞内において染色体とは独立に自律複製され,
細菌の生存にとって必須でないDNA分子
環状二本鎖,線状二本鎖,環状一本鎖
プラスミドの不和合性
2種類以上のプラスミドが組合せによって共存できず,
一方が排除される性質
コリシンE1
アンピシリン耐性
テトラサイクリン耐性
AmpR
TcR
ori
6.6 kb
複製開始点
4.4 kb
ori
pBR322プラスミド
ColE1プラスミド
大腸菌ゲノム: 4.6 Mb
プラスミド
F因子(Fプラスミド)
大腸菌の接合とDNA組換えに関与する
コレラ菌:P因子,緑膿菌:PF因子
R因子(Rプラスミド)
薬剤耐性遺伝子を有する
接合伝達能をもつ(狭義のR因子)
コリシン産生因子
大腸菌の抗菌性毒素タンパク質遺伝子を有する
抗菌性毒素タンパク質(バクテリオシン)
病原性プラスミド
Entプラスミド(腸管毒素原性大腸菌ETECの毒素遺伝子を含む)
Hlyプラスミド(溶血毒ヘモリシン遺伝子を含む)
薬剤耐性遺伝子群
組換え領域
IS3
IS1
tra
IS3
100 kb
100 kb
IS2
oriT
IS1
ori
oriV
tra
Fプラスミド
oriT
Rプラスミド
DNA組換え(recombination)
二つの異なるDNA分子が会合し、交差が起こることにより新しいDNAの
組み合わせが生じること
相同的組換え(homologous recombination)
DNAの相同領域間でおこる(細菌における普遍的組換え)
非相同的組換え(nonhomologous recombination)
DNAの非相同領域間でおこる
細菌では稀,哺乳動物では一般的
転移因子による組換え
DNA組換え
細菌の突然変異
DNA塩基の変化
塩基の置換(点突然変異 point mutation)
Transition(転位)
プリン→プリン,ピリミジン→ピリミジン
A→G,G→A,T→C,C→T
Transversion(転換)
プリン→ピリミジン,ピリミジン→プリン
A→T,A→C,G→T,G→C
T→A,T→G,C→A,C→G
塩基の欠失(deletion)
塩基の挿入(insertion)
突然変異の型
ミスセンス変異 point mutation → アミノ酸残基の変化
TAC (Tyr) → TCC (Ser)
ナンセンス変異 point mutation → コードが終止コドンに
TAC (Tyr) → TAA (stop)
遺伝子のみの変異 → アミノ酸残基は変化しない
TAC (Tyr) → TAT (Tyr)
復帰変異・・・変異した表現形質がもとの表現型に戻ること
真性復帰変異・・・変異した遺伝子が正常な状態に戻る
サプレッサー変異・・・別の遺伝子が変異 → 変異形質の抑制
フレームシフト変異
deletion,insertionにより読み取り枠がずれる
deletion
ACC
Thr
CGT
Arg
GGT
Gly
ATC
Ile
TTC
Phe
ATA
Ile
ACC
Thr
ACC
Thr
CGT
Arg
GTA
Val
TCT
Ser
TCA
Ser
TAA
Stop
CCG
G
細菌の主な変異現象
形態の変化
鞭毛,線毛,莢膜の消失 → 抗原性,病原性変化
集落の変化
S → R変異(平滑正円形 → 粗面不規則辺縁)
グラム陰性菌 リポ多糖変異
R → S変異
炭疽菌,結核菌
H → O変異(クモリ形成 → 孤立集落形成)
プロテウス属 鞭毛消失
H抗原(鞭毛抗原),O抗原(菌体表面抗原)
抗原性の変化
H抗原相変異 サルモネラ属
Vi → W変異 強毒サルモネラ(virulence抗原)
細菌の主な変異現象
毒力,病原性の変化
弱毒株 attenuated strain
無毒株 avirulent strain
人工培地で継代培養 → 病原性低下
耐性,抵抗性の変化
薬剤耐性化
ファージ,放射線,温度に対する感受性の変化
生化学的性状の変化
autotroph(原株)→auxotroph(栄養要求変異株)
変異原と変異原検出法
自然突然変異・・・細胞分裂1回につき10ー7~10ー11
誘発突然変異 ← 化学物質,放射線
変異原・・・突然変異を誘発する因子
物理的変異原
放射線(X線,γ線)
DNA鎖切断 → 再構成 → 巨大損傷
紫外線
同一DNA鎖上のピリミジン残基の二量体化
O
O
CH3 CH3
HN
O
NH
N
N
dR
dR
チミン二量体
O
化学的変異原
塩基類似体
2-アミノプリン
N
N
H2N
Cl
インターカレーター
ICR-191
NH
OCH3
Cl
アルキル化剤
ニトロソグアニジン
N
H
N
N
H
二本鎖DNAに挿入
フレームシフト変異
N
NH
H3 C
N
N
H
NO
その他のDNA修飾剤
ヒドロキシルアミン
DNAへ取り込まれ
トランジション変異
NH2OH
NO2
プリンをアルキル化
トランジション
トランスバージョン
フレームシフト変異
シトシンをヒドロキシル化
トランジション変異
N
N
2-アミノプリン
N
H
N
NH2
H
N
N
N
H
N
dR
O
H
CH3
N
N
N
O
N
dR
N
A
O
N
H
N
N
N
dR
N
H
O
H
T
O
N
N
dR
H
H
互変異性
H
N
G
N
dR
N
N
H
H
O
C
H
N
N
N
dR
T
H
N
CH3
dR
N
H
N
N
N
N
N
H
O
dR
C
DNA損傷の修復
光回復
紫外線により生じるピリミジンダイマーの
青色光とデオキシリボピリミジンフォトリアーゼによる修復
ヌクレオチド除去修復
エンドヌクレアーゼとヘリカーゼによる損傷部分の切り出し
DNAポリメラーゼとDNAリガーゼによる修復
組換え修復
損傷DNAの複製時に生じたギャップを相同DNA鎖で埋める
SOS修復
DNA損傷 → recA遺伝子発現 → lexA遺伝子産物分解
→ DNA修復遺伝子の転写活性化
SOS修復
SOS遺伝子群
recA
lexA
LexA蛋白
RecA蛋白
リプレッサー
SOS遺伝子群
recA
変異原など
lexA
DNA修復酵素等の発現
活性化
RecA蛋白
プロテアーゼ
DNA損傷の検出
Recアッセイ
枯草菌(Bacillus subtilis)のrec-株(DNA損傷高感受性)を利用して
化学物質のDNA損傷性を検出
Amesテスト
ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)のヒスチジン要求株
を利用して変異原の復帰変異(his- → his+)活性を検出
rya変異・・・・膜透過性が亢進する細胞膜変異
uvrB変異・・・除去修復能の欠失変異
プラスミド上の複製エラーを起こしやすいhisG遺伝子
遺伝子の伝達
細菌遺伝子の伝達
接合
交配過程において,Fプラスミドの働きにより,プラスミドまたは
染色体遺伝子が別の菌に伝達されること
形質転換
外来のDNAが導入されたことによって細菌の形質が変化する現象
形質導入
ファージ粒子によって宿主細胞のDNAが別の菌に運ばれ,
その菌の染色体と組換えを起こすこと
転移因子
ゲノム上のある部位から別の部位へと移動するDNA配列である
転移因子(挿入配列とトランスポゾン)による遺伝子伝達
接合
LederbergとTatumによる大腸菌の接合の発見(1947年)
接合(conjugation)
交配(mating)過程において,Fプラスミドの働きにより
プラスミドまたは染色体遺伝子が別の菌に伝達される
Fプラスミド
大環状プラスミド(100 kb)
プラスミド移行に関わるtra遺伝子群(32 kb)を有する
2種類の複製過程
oriVにより遊離のプラスミド(1コピー)が複製
染色体に挿入され,染色体oriCにより複製
Fプラスミド
伝達に必要な遺伝子群
(~60遺伝子)
oriT
(origin of transfer)
伝達時の複製開始点
tra遺伝子群
32 kb
IS(挿入配列)因子群
(転移に必要な配列)
100 kb
プラスミド複製の開始点
oriV
相同組換えまたは転移によって稀に染色体に挿入される
Fプラスミドの大腸菌染色体への挿入
E. coli染色体
挿入後,Fプラスミドはホストレプリコンの
一部として複製されoriV は抑制される
Fプラスミド
IS因子
挿入Fプラスミド
oriV
oriC
Hfr菌
F+菌
挿入Fプラスミドを持つ
遊離Fプラスミドを持つ
Frederick Griffithの実験(1928)
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)の形質転換
注射
注射
S型菌
(病原性)
加熱
注射
混合
R型菌
(病原性なし)
注射
発病
発病せず
発病せず
発病
Oswald Averyの実験(1944)
Griffithの形質転換因子がDNAであることを証明
マ
ウ
ス
か
ら
回
収
さ
れ
る
菌
形質転換(transformation)
外来のDNAが導入されたことによって細菌の形質が変化する現象
DNAが細胞に導入されて遺伝形質が変化すること
コンピテント(competent) DNAを取り込みやすい状態
コンピテント細胞(適格細胞)
肺炎球菌 対数増殖期に自然にコンピテントになる
インフルエンザ菌 特殊な富栄養培地中でコンピテントになる
大腸菌 低温で塩化カルシウム処理するとコンピテントになる
溶原性バクテリオファージの生活環
外被 ウイルス染色
ウイルス
体の侵入
染色体
ウイルス粒子
の放出
溶菌の環
(15~60分)
外被タンパク質の
合成とパッケージング
ウイルス染色体
の増殖
溶原化
プロファージ
形質導入とファージ変換
形質導入(transduction)
ファージ粒子によって宿主細胞のDNAが別の菌に運ばれ,
その菌の染色体と組換えを起こすこと
ファージ変換(phage conversion)
ファージ遺伝子そのものの形質発現によって,細菌の
形質が変化すること。ファージ遺伝子は宿主染色体に
組み込まれている必要はない。
ファージDNA
完全ファージ粒子
供与染菌色体DNA片
細菌染色体
不完全ファージ粒子
供与菌DNA
溶原化
プロファージ
完全ファージ粒子
溶原菌
転移因子(transposable element)
ゲノム上のある部位から別の部位へ 移動するDNA配列
挿入配列(insertion sequence,IS)
1 kb前後の小さな因子で,転移酵素トランスポゼースをはさんで
両末端に逆向きの反復配列(inverted repeat sequence,IR)をもつ
トランスポゾン(transposon)
抗生物質耐性遺伝子などをはさむように両末端に挿入配列をもつ
非複製的(cut & paste)転移
TE
TE
+
+
Donor
Recipient
複製的転移
解離
融合
TE
TE
+
+
TE
Replicon A
TE
TE
Relicon B
TE: 転移因子
Cointegrate
インテグロン
インテグロン・・・抵抗性遺伝子などを集積する遺伝子構造ユニット
インテグロンはインテグラーゼ遺伝子(int)と組換え部位(attI )を有している。
インテグラーゼは標的配列(In2の59 bpエレメントなど)を有する遺伝子を
attI 部位に組み込む。
インテグロンのattI 部位には次々と組み込みによる遺伝子集積が起こる。
細菌のゲノム構造
多様なゲノム
ゲノム・・・一つの生物に含まれるすべての遺伝子の総体
読み枠(ORF)・・・転写・翻訳によりタンパク質に読み込まれる塩基配列
開始コドン~終止コドン アミノ酸数 × 3 + 3の塩基数
真核生物ではエキソン(遺伝子部分)とイントロン(介在配列)がある
偽遺伝子
正しくタンパク質に転写・翻訳されないORF様配列
細菌のゲノムサイズ
ゲノムサイズ(Mb)
Homo sapiens(ヒト)
Saccharomyces cerevisiae (出芽酵母)
Bacillus subtilis (枯草菌)
Borrelia burgdorferi B31(ライム病の病原スピロヘータ)
Escherichia coli K12 MG1655(大腸菌)
Haemophilus influenzae Rd(インフルエンザ菌)
Helicobacter pylori 26695(ピロリ菌)
Lactococcus lactis(乳酸菌)
Mycobacterium tuberculosis H37Rv (結核菌)
Mycoplasma genitalium (マイコプラズマ)
Myxococcus xanthus(粘液細菌)
Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)
Streptomyces coelicolor(放線菌)
Synecocystis sp.PCC6803 (ラン藻類)
Treponema pallidum (梅毒トレポネーマ)
Vibrio cholerae(コレラ菌)
3300
12
4.21
0.91
4.64
1.83
1.67
2.4
4.41
0.58
9.5
6.3
8.67
3.57
1.14
4
遺伝子数
20000~25000
6286
4100
850
4289
1709
1566
2266
3918
484
10000
5565
7825
3169
1031
3827
遺伝子の水平伝達
水平伝達・・・親から子孫への遺伝とは異なる,同世代間での遺伝子伝達
形質転換,形質導入,トランスポゾン,インテグロン
病原性遺伝子塊(PAI)
大腸菌の病原性関連遺伝子は染色体上の特定に位置に集中して存在する
溶血性毒素遺伝子,線毛形成遺伝子 ← 外来性
病原遺伝子の解析
病原性・・・微生物が宿主に感染して発病させる能力
侵入性・・・組織や細胞内への侵入
定着性・・・宿主の抵抗性に打ち勝って増殖
毒素産生性・・・宿主に有害な毒素(菌体外毒素)を生産
コレラ毒素,ボツリヌス毒素
腸管出血性大腸菌(Escherichia coli O157:H7) 病原遺伝子153個
肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae J138) 病原遺伝子38個