ソフトな使用法が最多の文末詞

テレビドラマにおける
女性文末詞の変遷
サンフランシスコ州立大学
大学院 澤田美佳
先行文献
現代の現実社会の女性文末詞使用に関する研究
• 水本(2005) 「の」以外の女性文末詞は皆無に近い
• 水本•福盛•福田•高田(2006)
「の」「のね」以外の女性文末詞の使用率は2.5%
• 陳(2010) 平均使用率は0.8%と大変低い
• 小川(1997) ほとんど使用されていない
現実社会の20代女性の女性文末詞使用率は大変低い
先行文献
現代のテレビドラマの女性文末詞使用に関する文献
• 水本(2005)
テレビドラマの女性たちはいまだ頻繁に使用している
• 水本•福盛•福田•高田(2006)
20代女性だけの平均女性文末詞使用率は35%とし
現実社会と大きく差がある
テレビドラマでは現実社会に比べ多用されている
目的
過去と現代のテレビドラマを比較し、
20代女性登場人物が使用する女性文末詞の
使用率、使用方法、使用種類などに変化があ
るか調査すること
方法
「過去のドラマ」
1987年から89年放送のドラマ5本10話
「現代のドラマ」
2009年から14年のドラマ5本10話
若者の日常を描いたリアリティ性が高いもの
平日21時から23時までの放送 (朝昼ドラ)
小説、漫画ベースのものは対象外
過去のドラマ
方法
「君の瞳に恋してる!」 脚本:伴和彦
出演:中山美穂•菊池桃子•大鶴義丹•石田純一など
「愛しあってるかい!」 脚本:野島伸司
出演:陣内孝則•小泉今日子など
「君が嘘をついた」 脚本:野島伸司
出演:三上博史•麻生祐未、鈴木保奈美、布施博など
「抱きしめたい!」 脚本:松原敏春
浅野温子•浅野ゆう子など
「男女七人秋物語」 脚本:鎌田敏夫
明石家さんま•大竹しのぶ•岩崎宏美など
現代のドラマ
方法
「私が恋愛できない理由」 脚本:坂口理子/山崎宇子
出演:香里奈、吉高由里子、大島優子、萩原聖人など
「サマーヌード」 脚本:金子茂樹
出演:山下智久、香里奈、戸田恵梨香など
「ブザービート」 脚本:大森美香
出演:山下智久•北川景子、相武紗季、伊藤英明など
「ミス•パイロット」 脚本:櫻井剛
堀北真希、相武紗季、斉藤工、菜々緒など
「僕のいた時間」 脚本:橋部敦子
三浦春馬•多部美華子•斉藤工•風間俊介など
対象にした女性文末詞
女性文末詞
名詞+よ
例
25年よ
女性文末詞
わよ
例
違うわよ
疑問詞+よ 何よ
な形容詞+よ 最低よ
わよね
の(下降調)
いいわよね
な形容詞+
ね
名詞+ね/よ
ね
かしら(ね)
きれいね
のね
言ったことある
の
単純なのね
そうでもないっ
て顔ね
行こうかしら
のよ
そうなのよ
仕方ないのよね
わ(上昇調)
嫌だわ
のよね
もの
わね
いいわね
なさいよ/ね
わかんないんだ
もの
いい加減にしな
さいよ
結果
1.女性文末詞の使用率
平均使用率 使用回数 総発話数
過去20代 21%
女性17人
599
2847
現代20代 4%
女性14人
107
2694
結果
1.女性文末詞の使用率
平均使用率 使用回数 総発話数
過去20代 21%
女性17人
599
2847
現代20代 4%
107
2694
女性14人 21%→4%へと大きく減少
(χ2=362.687、 df=1、 p<.001 )
結果
2. 種類数
女性文末詞の平均種類数
平均8.7 種類から平均2.5種類へ減少
「過去のドラマ」では少なくとも最低一人4種類
は使用していたが「現代のドラマ」では、一番少
ない登場人物の使用は1種類であった。
結果
3. 種類
• 「の」「のよ」は現代、過去ともに1位と2位で
過去では「のよ」が1位、現代では「の」が1位。
• 「わ」「な形容詞+ね」「わよね」「かしら(ね)」「もの」
の5種類は「現代のドラマ」では不使用になっていた。
• 「のね」(14位→7位)と「なさいよ」(9位→4位)は
大きく順位をあげた。
過去
使用回数
1位「のよ」
144
2位「の」
現代
結果
使用回数
1位「の」
53
128
2位「のよ」
29
3位「わよ」
76
3位「名詞よ」
5
4位「名詞+よ」
65
4位 「なさいよ」
4
5位「わ」
28
4位「疑問詞+よ」
4
6位「名詞+ね(よね)」
22
4位「名詞ね」
4
7位「疑問詞よ」
21
7位「わね」
2
8位「のよね」
19
7位「わよ」
2
9位「なさいよ/ね」
17
7位「のね」
2
10位「な形容詞よ」
16
8位「のよね」
1
10位「わね」
16
8位「な形容詞よ」
1
11位「な形容詞ね」
15
12位「わよね」
10
13位「かしら(ね)」
8
14位「もの」
7
14位「のね」
7
結果
4.女性文末詞の使用方法
主張、嫌味、攻撃など→ネガティブ
優しさ、可愛らしさなど→ソフト
ただの断定などどちらでもないもの→ニュートラル
結果
ネガティブの例
A:手塚はって聞いてくれないの?将来の夢
B:あんたの夢なんか興味ないわよ。朝って忙しいの。
ニュートラルの例
C:身長とまっちゃったからね。
D:そっか。
C:まあね、小学校の時の夢なんてかなう人そうそういないのよ。
ソフトの例
E: あれはねかつみさんがかいたのよ。
F: 素敵だわ
結果
4.女性文末詞の使用方法
ネガティ
ブ
過去のドラマ 44%
(261回)
現代のドラマ 65%
(69回)
ニュートラル ソフト
33%
(197回)
28%
(30回)
23%
(141回)
7%
(8回)
結果
4.女性文末詞の使用方法
ネガティ ニュートラル ソフト
ブ
過去のドラマ 44%
33%
23%
(261回)
(197回)
(141回)
現代のドラマ 65%
28%
7%
(69回)
(30回)
(8回)
ネガティブな使用法の増加、ソフトな使用法の減少
結果
5.女性文末詞別の使用法
「過去のドラマ」
ネガティブな使用法が最多の文末詞
:「名詞+よ」「疑問詞+よ」「わよ」「のよ」
「なさいよ」
ソフトな使用法が最多の文末詞
:「な形容詞+ね」「かしらね」「わ」「わね」「の」
「のね」「もの」の計7種類
結果
5.女性文末詞別の使用法
「現代のドラマ」
ネガティブな使用法が最多の文末詞
:「な形容詞+よ」「名詞+ね」「わね」「わよ」
「のよ」 「なさいよ」
ソフトな使用法が最多の文末詞
:なし
結果
5.女性文末詞別の使用法
「現代のドラマ」において不使用の女性文末詞
5種類のうち4種類→ソフトな使用法が最多
(「な形容詞+ね」「かしら(ね)」「わ」「もの」)
→ソフトな使用方法が減少
結果
6.主人公と非主人公別にみる変化
過去のドラマの主人公5人•非主人公12人
現代のドラマの主人公5人•非主人公9人
女性文末詞使用率
主人公 非主人公 主人公と
非主人公の差
過去のドラマ 20.8%
21.1%
0.3%
現代のドラマ 1.6%
6.9%
5.3%
結果
6.主人公と非主人公別にみる変化
現代のドラマにおける主人公と非主人公の
使用率の差は4倍以上
主人公 非主人公 主人公と
非主人公の差
過去のドラマ 20.8%
21.1%
0.3%
現代のドラマ 1.6%
6.9%
5.3%
結果
6.主人公と非主人公別にみる変化
女性文末詞の平均使用種類数
主人公
非主人公
過去のドラマ 平均12種類 平均7.4種類
現代のドラマ 平均1.6種類 平均3種類
結果
6.主人公と非主人公別にみる変化
女性文末詞の平均使用種類数
主人公
非主人公
過去のドラマ 平均12種類 平均7.4種類
現代のドラマ 平均1.6種類 平均3種類
過去では主人公の使用種類が、
現代では非主人公の使用種類が多い
結果
6.主人公と非主人公別にみる変化
女性文末詞使用方法
過去
主人公
ネガティブ
58%
ニュートラル 25%
ソフト
17%
過去
非主人公
31%
39%
30%
現代
主人公
46%
29%
25%
現代
非主人公
61%
36%
3%
過去:非主人公が主人公よりソフトを非常に多く使用
現代:非主人公がネガティブを主人公より多く使用
ソフトな使用法はわずか
結果
主人公と非主人公別の女性文末詞使用方法
過去
主人公
ネガティブ
58%
ニュートラル 25%
ソフト
17%
過去
非主人公
31%
39%
30%
現代
主人公
46%
29%
25%
現代
非主人公
61%
36%
3%
「過去のドラマ」では非主人公の方がソフトに、
「現代のドラマ」では非主人公の方がネガティブに描写
考察
1. 女性文末詞の平均使用率の減少
2. 使用法の変化:ネガティブな使用法の増加
:ソフトな使用法の減少
3. 主人公と非主人公の使用率の差の拡大
考察
1. 女性文末詞の平均使用率の減少
女性の社会進出に伴う
スピーチアコモデーションの影響
南(2009):男女の性差が縮まる社会をスピーチ
アコモデーション(Giles & Powesland, 1997)で説
明できる
考察
1. 女性文末詞の平均使用率の減少
スピーチアコモデーションが起きるには
①ある特定のスピーチグループの一員のように自らが
聞こえたいという願望
②語彙、音韻的な様相を含めて自らの話し方を捨てた
いという強い動機がある
③新しい発音や語彙を習得する機会が十分にあると
いうような要因が必要である(南2009)
考察
1. 女性文末詞の平均使用率の減少
男女平等を促進する社会制度
例:女子差別撤廃条約(1985)、男女雇用機会均
等法(1986)、育児休業法(1992)、男女共同参画
社 会基本法(1999)など
男性中心社会に参加する中で女性を象徴する
女性文末詞を使うことはメリットがなくなり、
スピーチアコモデーションが起きた
考察
2. ネガティブな使用法の増加とソフトな使用法
の減少
→社会の性的役割分業に関する意識の変化に
よる女性の新しいイメージの構築
考察
2. ネガティブな使用法が増え、ソフトな使用法
が減少した。
• 97’年には共働き世帯が片働き世帯を上回る
(国土交通省2013)
• 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきか」に
賛成45.2% 反対48.9% (内閣府男女共同参画
局2005)
男性に依存しない/自立した女性像
考察
2. ネガティブな使用法の増加、ソフトな使用法
の減少
→若い世代の教育現場での性差に対する取り
扱いの変化
• 男女混合名簿
• 男女呼称の統一(男子、女子共に「さん」)
考察
2. ネガティブな使用法の増加、ソフトな使用法
の減少
• 03’年の高校生対象のアンケートで「はっきり
主張する」が「女らしい」とする意見が「男らし
い」とする意見を上回る。(日本青少年研究所
2003)
考察
2. ネガティブな使用法の増加、ソフトな使用法
の減少
男性に依存しない/自立した女性像
「はっきり主張する」
新しい女性のイメージの構築による影響
テレビドラマという架空の世界で誇張
考察
3. 主人公と非主人公の女性文末詞の使用率
の差の拡大
→「標準語」(規範)から非標準語(規範)へ変
化
女性文末詞のステレオタイプ(役割語)化
考察
3. 主人公と非主人公の女性文末詞の使用率
の差の拡大
→「標準語」(規範)から非標準語(規範)へ変
化
金水(2003)
主人公は常に標準語を話さなければならない
脇役はステレオタイプに従った人物描写で十分
考察
3. 主人公と非主人公の女性文末詞の使用率の差
の拡大
→「標準語」(規範)から非標準語(規範)へ変化
「過去のドラマ」
主人公•非主人公使用率差ほぼなし→標準語
「現代のドラマ」
非主人公の使用率が高い→非標準語(役割語)に
近い
まとめ/今後の課題
• ドラマにおける女性文末詞の使用率や使用方法の
変化は社会の変化と密接な関係にある
• 海外で日本語を教える場合には日本語に対する知
識を常にアップデートしておかなければならない
• 教材使用の場合にはリアリティ性の高いもの
• データ数を増やす
• ドラマのカテゴリーや、年代、時間帯などを詳細に分
けてデータを分類する
終
ありがとうございました