12章 貨幣量の成長とインフレーション 1.インフレーションの古典派理論 物価水準と貨幣の価値は逆数の関係 インフレーションは、経済全体に関わる現象であ り、交換手段の価値に関わる 一般物価水準と個別の財価格の変動(相対価格 の変化)とを混同してはならない 一般物価水準をPとすると、貨幣の価値はその逆 数1/Pとして表される 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 1 貨幣市場 貨幣市場の均衡 長期においては、貨幣の需要と供給が一致する ように物価水準が調整される 貨幣供給は、中央銀行により行われる(垂直な貨 幣供給曲線) 貨幣需要は、家計が交換手段として流動性の高 い貨幣をどれだけ持ちたいか、により決まる 財・サービスを生産する経済の能力(潜在GDP) は一定とする 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 2 貨幣数量説 一国全体の 金貨の総量 でその国の 総生産の 0.5年分が 購入できる 貨幣価値(1/P) 1 一国全体の金貨の 総量 1.33 0.75 ①新たに金山が発 見されて金貨の総 量が2倍になると 0.5 ②金貨の 価値が半 分になる 物価(P) 1 2 4 0.25 貨幣需要 ③金貨の 価値が半 分になると、 物価水準 は2倍に 0 1 貨幣供給 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 6 11 金貨の総量 3 調整過程 物価一定とすると、貨幣注入(貨幣供給の増加)により人々 は増えた貨幣を財・サービスの購入に使おうとする その一方で、財・サービスを生産する経済の能力は変化しな い その結果、財・サービスの不足が生じ、物価上昇が生じる 物価上昇により交換手段としての貨幣需要は増加し、貨幣 供給と等しくなる新しい点で経済が均衡する 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 4 古典派の二分法、貨幣の中立性 古典派の二分法とは、すべての経済変数を2つの グループ(名目変数と実質変数)に分けるべきとす る考え方をいう 名目変数―貨幣単位で測られた変数 例:名目GDP、名目利子率、インフレ率、貨幣残高 実質変数―物質的な単位で測られた変数 例:実質GDP、実質利子率、失業率 貨幣の中立性命題によると、貨幣供給の変化は名 目変数には影響するが、実質変数には影響を与え ないという 貨幣数量説が成り立つことを前提とする議論 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 5 貨幣の流通速度、貨幣数量方程式 貨幣数量説は、貨幣の流通速度が一定であること を仮定している 貨幣の流通速度―貨幣が一定期間内に何回交換手段と して用いられるかの頻度をいう 数式では、P:GDPデフレーター、Y:実質GDP、M を貨幣量とすると、貨幣の流通速度Vは と定義できる 上記式の両辺にMを掛けると、貨幣数量方程式と なる 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 名目GDP 6 貨幣数量方程式と均衡物価水準 貨幣数量方程式を用いると、貨幣量と均衡物価水準の関係 は以下のようにまとめられる 1. 2. 3. 4. 5. 貨幣の流通速度(V)は、時間を通じて、比較的安定している(図 12-3, 4) 貨幣の流通速度が安定しているので、中央銀行が貨幣量(M)を変 化させると、名目GDP(P×Y)はそれに比例して変化する 経済全体における財・サービスの生産量(Y、実質GDP)は、生産 要素の供給と利用可能な生産技術によりほぼ決定される(長期の 実物経済の仮定)―貨幣量とは無関係 中央銀行が貨幣量(M)をさせても、生産量(Y)は不変なため(貨 幣の中立性命題)、その変化は物価水準(P)のみに反映される したがって、中央銀行が急激に貨幣供給を増やすと、高率のインフ レーションが発生する 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 7 インフレ税 政府・中央銀行が紙幣を大量発行すると、物 価が上昇し、貨幣保有者の購買力が減少す る。この効果をインフレ税という インフレ税は、貨幣を保有するすべての人に課さ れる税金のようなものである インフレ税は平時には大きくないが、戦時に はハイパーインフレーションを通じた多額のイ ンフレ税が生じることがある アメリカ独立戦争、第一次世界大戦後のドイツな ど 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 8 フィッシャー効果 実質利子率の定義式(フィッシャー方程式) 実質利子率=名目利子率-インフレ率 は、 名目利子率=実質利子率+インフレ率 と変形できる もし、貨幣の中立性命題が成り立っているとすると、 貨幣量は実質利子率には影響を与えない したがって、上記方程式により、中央銀行が貨幣量 の成長率を高めると、インフレ率と名目利子率は同 率で上昇する(フィッシャー効果) 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 9 2.インフレーションの費用 インフレーションの誤解―インフレーションは、購買 力を低下させる? たとえ財の値段が上昇したとしても、同じように所得が増 えていれば実質的な購買力は変化しない。つまり、インフ レーションそのものは、人々の実質的な購買力を低下さ せない にもかかわらず、政治家、中央銀行、経済学者など が過度なインフレーションを抑える努力をしてきたの は、以下に挙げるようなインフレーションに伴う費用 があるためである 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 10 インフレーションの費用(1) 靴底(シューレザー)コスト 高率のインフレーションは貨幣の実質価値を急速に低下 させるので、手元の貨幣は最低限とし、交換手段としての 必要に応じて他の資産から頻繁に貨幣に交換することに 伴う手間・コストをいう » 手間・コストを銀行に頻繁に行くことによる「靴底の減り」に例えた表現 メニューコスト 高率のインフレーションの元では、企業は頻繁に価格改 定を行わなければならず、様々なコストが生じる » 食堂のメニューの印刷費用に例えた表現 » メニューコストには、新しい価格を決定する費用、新しい価格表やカタロ グを印刷する費用、販売店や顧客に送付する費用、新しい価格を宣伝 する費用、価格変更に伴う顧客からの苦情処理に伴う費用などが含ま れる 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 11 インフレーションの費用(2) 相対価格の変動と資源配分の誤り インフレーションによって相対価格が歪められると、消費 者の決定も歪められるため、資源を最良の使途に配分す るという市場の機能が低下する インフレーションがもたらす税制の歪み 利子所得税は名目利子率に比例するので、インフレ率が 高いほど、実質的な税率が高まり、貯蓄意欲を減退させ る 混乱と不便 高率のインフレーションの元では、貨幣の計算単位として の機能が低下する » 例えば、異なる時点間での企業の利益が比較しにくくなる 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 12 インフレーションの費用(3) 予想外のインフレーションの特殊な費用:富の恣意 的な再配分 予測不可能なインフレ率の変化が生じた場合、債権者と 債務者の間で意図せぬ富の移動が生じる場合がある » A氏は学費2万ドルを銀行から10年7%の固定金利で借り入れた としよう。10年後の返済額は約4万ドルだが、その返済のしやす さはその間のインフレ率に依存する » もし、返済までの間に高率のインフレーションが発生していると、 10年後のA氏の名目所得は相当大きくなっているため、簡単に 借金を返済できる(債権者から債務者への意図せぬ富の移動) » 一方で、デフレーションが発生すれば、借金の返済は難しくなる 12.貨幣量の成長とインフレーション.pptx 13
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