物理システム工学科3年次 物性工学概論 第3回講義2004.4.27 火曜1限0023教室 大学院ナノ未来科学研究拠点 量子機能工学分野 佐藤勝昭 第2回の演習問題 問1: Naは原子1個につき1個のs電子を結晶に供給する。Na の結晶構造は体心立方(bcc)で、格子定数はa=0.43nm である。Naの電子密度を求めよ。 [ヒント] 1つの単位胞(unit cell)に原子はいくつあるか。8 つのコーナーに1/8個ずつ、体心に1個。計2個。これを 単位胞の体積で割れば、電子密度が得られる。 [解答] n=2/(0.43nm)3 =25.15×1027m3=2.515×1022cm-3 単位はm-3 またはcm-3 です。 第2回の演習問題 問2: 金属は、展性をもち叩いて箔(はく)状に延ばすことができ るが、シリコンなどの半導体単結晶に衝撃を加えると、 劈開(へきかい)して破壊される。この違いを、原子結合 の違いから説明せよ。 [解答] 金属においては、原子同士が接近していて、外殻 のs電子は互いに重なり合い、分子軌道を形成する。電 子は、それらの分子軌道を自由に行き来し、もとの電子 軌道から離れて結晶全体に広がり非局在電子となる。金 属の場合、叩いて塑性変形しても非局在電子の海に正 の原子核が浮かんでいる状態を保つことができるので、 箔に引き延ばすことができる。一方、半導体結晶では、 価電子は共有結合を作って原子間の結合分子軌道に局 在しているので、結合は明確な方向性をもち、変形する と結合が保てなくなって、結晶面どうしがスリップしてず れ、破壊が起きる。 講義内容 金属の色:金、銀、銅、鉄、白金 3原色:加法混色と減法混色/CIE色度図 ヒトが色を認識する仕組み 自由電子のプラズマ運動 誘電率と屈折率・消光係数 負の誘電率の意味するところ 金属の色:金、銀、銅、鉄、白金 銀 銅 しろがね あかがね 金 こがね 白金 くろがね 鉄 三原色 光の3原色(加法混色 ) 各色の強さを変えて混ぜ合わ せると,いろいろな色の光にな る。赤い光,緑の光,青い光を 同じ強さで混ぜ合わせると, 白 い光になる。 赤(red) 緑(green) 青(blue) 色の3原色 (減法混色) 各色を混ぜ合わせると,いろ いろな色ができる。マゼンタ・ シアン・イエローを同じ割合で 混ぜると 黒になる。 マゼンタ(red) シアン(blue) イエロー(yellow) http://www.shokabo.co.jp/sp_opt/spectrum/color3/color3.htm CIE色度図 色を表す(表色)ためには, 一般に ある温度で光っている(熱放射・ 3つの数値が必要であるが,明るさ 黒体輻射している)物体の色を の情報を犠牲にして2つの数値で色 測定して,温度と色の関係を色 を表し,2次元の図に表現したもの を, 色度図という. 度図上に描くことができます.こ の曲線は黒体輻射の色軌跡と 実際には感覚的な3原色RGBだけ 呼びます.なお,一般の光源は では表せない色もあるので、機械に 黒体輻射をしているわけではな よる測色、表色、目の波長感度特性 いので,色軌跡の上のある色で を詳しく調べて数値化した “表色上 の3原色”である3刺激値XYZを使う。 光っている光源の温度が,その その3刺激値XYZにもとづいて,上 点に対応する温度になっている 記のような考え方にしたがい,2つ とは限りません.そのため,色 の数値 (x , y ) を使ってxy 座標空間 で色を表したものを, xy 色度図と から決まる温度を色温度といい 呼ぶ。 ます http://www.shokabo.co.jp/sp_opt/spectrum/color3/color3.htm ヒトはどのように色を認識するか 色を感じる 光を感じる なぜ3原色で表せるか。それは人間の色を 感じる細胞が3種類あるからである。これら の細胞は錐体(すいたい)と呼ばれ,三種 の錐体の送り出す信号の強さの違いにより さまざまな色を感じることができる。 RGB感度曲線とXYZ等色曲線 RGB感度曲線 人間の眼やRGB感度曲線は,あくまで も特徴的な波長(赤緑青)で一つのピー クをもつ曲線になります.人間の眼では, 主に感度領域の中央(緑色の光)で明る さを捉え,感度領域の両端(青や赤)で 色合いを決めているのです XYZ等色曲線 一方,XYZ表色系はRGBでは再現でき ない色をも表現するシステムなので, XYZ表色系などにおける3色の“感度” 曲線は,たとえば赤が2山のピークをも つなど少し変わった形になっています. http://www.shokabo.co.jp/sp_opt/spectrum/color3/color3.htm XYZ等色曲線と金属の色 3刺激値 金銀銅の分光反射率 http://www.hk.airnet.ne.jp/shung/periodic_table_s.htm 金銀銅の反射スペクトル 波長表示 hJ scm s 6.626 10 E eV E J hJ s s -1 エネルギー表示 hJ sc m s -1 m -1 meC 佐藤勝昭:金色の石に魅せられて 34 2.998 10 8 1240 nm 10 9 1.602 10 19 nm 貴金属の選択反射の原因 光は電磁波の一種である。つまりテレビやラジオの電波 と同じように電界と磁界が振動しながら伝わっていく。 金属中に光がはいると金属中に振動電界ができる。この 電界を受けて自由電子が加速され集団的に動く。 電子はマイナスの電荷を持っているので、電位の高い方 に引き寄せられる。その結果電位の高い方にマイナスの 電荷がたまり、電位の低い側にプラスの電荷がたまって、 電気分極が起きる。 外から金属に光の電界が進入しようとすると、逆向きの 電気分極が生じて電界を遮蔽してしまって光は金属中に 入れないことを示す。光が入れないということは、いいか えれば、光が全部反射されてしまうということを意味する。 電気分極 電気双極子列 電気双極子 単純化した電気双極子列 金属の電気誘導 誘電体の電気分極 http://www.ce-mag.com/archive/2000/julyaugust/mrstatic.html 電子分極の古典電子論 (1) 自由電子 電子の位置をu、有効質量をm*、散乱の緩和時間をτと すると、自由電子に対する運動方程式は、 d 2u m * du m* 2 qE dt dt ここで、E、uにe-iωtの形を仮定し、代入すると im 2 m u 0 exp it qE0 exp it 電子分極の古典電子論つづき1 これより変位uはEの関数として次のように表される im q 1 2 u 0 qE0 / m E0 m i / 自由電子による分極Pf=-Nfquの式に代入し 2 Nq 1 P Nqu E m i / 電子分極の古典電子論つづき2 、D=ε0εrE=ε0E+Pの式を使うことにより、 Nq 2 1 D 0E P 0E E r 0 E m i / これより 2 2p 2 Nq 2p m * 0 である。これをドルーデの式 という。 Nq 1 r 1 1 m * 0 i / i / ここに ①減衰項のない場合 とすると 2 p r 1 2 の形に書ける この式より、=pのときゼロを横切る。 <pのとき比誘電率r<0である。 負の誘電率は、電界と電束密度が逆向きで、電 界が物質内に入り込めないことを意味する。 自由電子による電子分極 P - + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + - + E D=ε0E+P 電界の印加により電子と核の 相対位置が変化し、逆向きの分極を生じる ②減衰項のある場合 比誘電率rは複素数で表され、実数部を‘r、虚数 部を”rとすると、 r= ’r+i ”r 実数部、虚数部に分けて書くと下記のようになる。 r 1 r 2p 2 1 2 2p 2 1 2 p Nq 2 m 0 は、プラズマ角振動数である。 ②減衰項のある場合 つづき グラフにすると図のようになる。 誘電率の実数部は 2 p 1 2 において0を横切る。 負の誘電率をもつと、光は中に入り込めず、強い反射が 起きる。 負の誘電率と反射率 電磁気学によれば、反射率Rは 2 nˆ 1 R nˆ 1 r 1 r 1 で表される。もし、比誘電率rが負の実数ならば、 aを正の数として、 r=-aと表されるから、上の式 に代入して R r 1 r 1 2 a 1 2 i a 1 2 a 1 1 a 1 a 1 i a 1 すなわち100%反射する。 参考:マクスウェル方程式 rotH=D/t rotE=-B/t ここに,E,Hは,それぞれ,電界[V/m],磁界[A/m]を表 すベクトル量である.また,D,Bは,それぞれ,電束密度 [C/m2],磁束密度[T(テスラ)],]を表す。 媒質が等方的であり,磁界や電界などがなければ,Dと Eの関係,BとHの関係は,スカラーの比誘電率r,比透 磁率r を用いて D=r0E B=r0H (10) と書き表される。0,0は真空の誘電率および透磁率であ る.ここに,00=1/c2であることに注意しておこう。 負の誘電率と反射率 空気中から複素屈折率Nの媒体への垂直に入射 した光の電界に対する振幅反射率は r=(N-1)/ (N+1)で与えられる。 もし、比誘電率rが負の実数であったとし、 r=-a(aは正の数)とすると、N=r1/2=ia1/2 であるか ら、r= ( ia1/2-1)/( ia1/2+1)である。 光強度の反射率Rは電界の絶対値の2乗に比例 するのでR=|r|2=(a+1)/(a+1)=1、即ち100%となる。 貴金属の誘電率スペクトル 復習してほしいこと 自由電子に対する運動方程式を解いて、電界Eを加えた ときの電子変位uを求め、P=nquを使って分極Pを計算し、 D=0P+E、D= r0Eからrに対する式(Drudeの式)を求 めよ。 Maxwellの方程式を解いてr=N2を導け。 ただし、 rot rot E=-2E+(・E)Eおよび ・E=0を考慮せよ。 予習の勧め シリコンのバンド構造について 量子物性工学配付資料2001,5.25 に基づいて (http://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/r010525p.pdf) 原子の寄り集まりと電子のバンドの項を読んでおいて ください。 k空間の考え方を修得してください。 第3回の問題 問1:さまざまな色が3原色によって表される理由 を述べよ。 問2:金が金色である原因と、半導体であるゲル マニウムや黄鉄鉱(FeS2)が金色を示す原因は異 なっている。何が違うのかを関与する電子状態を 考えて説明せよ。
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