み へび 巳(蛇)にまつわる昔話 たのきゅう(日本) むかしむかし、あるところに、たのきゅうと いう旅の役者がいました。お母さんが病気だ という手紙がきたので、大急ぎで戻る途中で す。 ところが、ある山のふもとまで来ると、日が 暮れてしまいました。すると茶店のおばあさ んが、たのきゅうに言いました。 1 たのきゅう(日本) 「およしなさい。この山には大きなヘビがいる から、夜は危ないよ」 でもたのきゅうは病気のお母さんが心配な ので、山へ登っていきました。 そして峠(とうげ)でひと休みしていると、白 髪(しらが)のおじいさんが出てきて言いまし た。 「お前さんは、だれだ?」 「わしは、たのきゅうと言う者じゃ」 だけどおじいさんは『たのきゅう』と たのきゅう(日本) 2 『たぬき』を聞き間違えました。 「たぬきか。たぬきなら、化けるのが上手い だろう。さあ、化けてみろ。わしは大ヘビだ。 わしも化けているんだ」 大ヘビと聞いて、たのきゅうはびっくり。 「さあ、はやく化けてみろ。それとも、化ける のが下手なのか?」 怖さのあまりブルブルとふるえていたたの きゅうですが、大ヘビに下手と言われて、役 者魂(やくしゃだましい)に火がつきました。 3 たのきゅう(日本) 「下手? このわしが下手だと? よし、待っ ていろ。いま、人間の女に化けてやる」 たのきゅうは荷物の中から取り出した女の かつらと着物を着て、色っぽく踊って見せま した。 「ほほう、思ったより上手じゃ」 と、おじいさんは、感心しました。 そして、 「ときに、お前のきらいな物は、なんじゃ?」 4 たのきゅう(日本) と、聞きました。 「わしのきらいなのは、お金だ。あんたのきら いな物は、何だね?」 「わしか? わしのきらいな物は、タバコのヤ ニと柿(かき)のシブだ。これを体につけられ たら、しびれてしまうからな。さて、お前はた ぬきだから助けてやるが、この事は決して人 間に言ってはならんぞ。じゃ、今夜はこれで 別れよう」 そう言ったかと思うと、おじいさんの姿は見 えなくなってしまいました。 5 たのきゅう(日本) 「やれやれ、助かった」 たのきゅうはホッとして山を下り、ふもとに 着いたのはちょうど夜明けでした。 たのきゅうは村人たちに、大ヘビから聞い た話をしました。 「と、言うわけだから、タバコのヤニと柿のシ ブを集めて、大ヘビのほら穴に投げ込むと いい。そうすれば大ヘビを退治(たいじ)出来 て、安心して暮らせるというもんじゃ」 6 たのきゅう(日本) それを聞いて、村人たちは大喜びです。 さっそくタバコのヤニと柿のシブを出来るだ けたくさん集めて、大ヘビのほら穴に投げ込 みました。 「うひゃーあ、こりゃあ、たまらねえ!」 大ヘビは死にものぐるいで隣(となり)の山 に逃げ出して、なんとか命だけは助かりまし た。 「きっと、あのたぬきのやつが、わしのきらい な物を人間どもにしゃベったにち 7 たのきゅう(日本) がいない。おのれ、たぬきめ! どうするか 覚えてろ!」 大ヘビは、カンカンになって怒りました。 そしてたのきゅうが一番きらいな物は、お 金だという事を思い出しました。 そこで大ヘビはたくさんのお金を用意する と、たのきゅうの家を探して歩きました。 そしてやっとたのきゅうの家を探し当てた のですが、家の戸がぴったりと閉 8 たのきゅう(日本) まっていて中には入れません。 「さて、どうやって入ろうか? ・・・うん?」 そのとき大ヘビは、屋根にあるけむり出し 口を見つけました。 「それっ、たぬきめ、思い知れっ!」 大ヘビは、けむり出し口からお金を投げ込 んでいきました。 おかげでたのきゅうは大金を手に入れて、 そのお金で良い薬を買うことが出来たので、 お母さんの病気はすっかり治っ 9 たのきゅう(日本) たと言うことです。 おしまい 福娘童話集許可転載<http://hukumusume.com/douwa/> 10 たのきゅう(日本)
© Copyright 2024 ExpyDoc